第二十話 ずっと、貴方を探していた・中編
綾華の名前は出せない。ならばどうするのが正解か。
「……実は俺、お前の家族に探してくれって頼まれたんだぞ」
「……!」
綾華が華蓮を家族と呼ぶのなら、華蓮だって綾華を家族と呼ぶだろう。反応的にも合っていると思いたい、正直これ以上の情報はここで出せないので。
「ここから逃げよう。少なくともお前、ここに囚われてるんだよな?」
「不本意かと問われれば頷くことになりますが……俺がいた場所は知られてるし、逃げられない」
「あ、そこに関しては大丈夫。重戦闘区域の────」
言葉の途中で地面を蹴って更に特性起動、増えた気配の後ろへ回る。護身用のナイフはまだ見せないで、相手の反応を伺うために気配を消した。
はず、だったのだが。
「っ!?」
「……あれ、ちゃんと入れたつもりだったんだけど」
ノールックで勢いよく突き出された棒。咄嗟に手で掴み、そのまま自分で背後へ飛び退くことで直撃は避けたけれどかなり危なかった。……気配はちゃんと消していた、特性が阻害された気配もない。なのにこの相手は俺をピンポイントで見抜き、死角に留まる性質を利用して攻撃を仕掛けてきた。
くすんだ金髪は後ろで束ねられ、くたびれた社会人のような雰囲気を漂わせている。ようやっと俺に向けられた瞳は深い森を閉じ込めたような濃い緑。硝子の向こうで静かに俺を写しているだけで、それ以上の情報は得られない。
「……何者か聞いても?」
「不審者に名乗る必要があるとでも?」
事実!純然たる事実過ぎて涙ちょちょぎれそうだぞ!?あとあんまりにも不審者って言われすぎて自信がなくなってきそう……。
「そっちだって不審者なんだ、ぞ……?」
職業柄、沢山の人を見てきた。元々色んな人を見て覚えることは得意だったし、どんな人がご飯をくれるのか、いじめない人か、だなんてこともある程度は見抜けると自負してる。
最初は分からなかった。気付けなかった。アランさんとかリアムさんだって似たようなものだったし、こんな殺伐とした異常環境下でまともな気配を保っている方が貴重だったから。……それでも、あの二人でさえちゃんと対峙すれば心の形が分かる、のに。
「お前……空っぽ、なのか……?」
何もない、何も感じない。まるで、形を保つための外装すら存在しないとでもいうように。
「……知られたからには、仕方ないな」
するりと手元にツルハシが現れる。……ツルハシ?武器としてはあまりにも異質すぎるそれを認識したことで少しだけ我に返る。異質であるからと言って油断は出来ない。寧ろ、戦闘スタイルが分からないという意味では一番脅威的かもしれないのだから。
「大人しくしててよ。そうしたら痛みも一瞬だ」
「お生憎様、俺は一瞬だって痛いのはゴメンなんだぞ」
疑問は胸に秘めたまま、今は任務の遂行のためにナイフを構えた。
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