第十七話 天使と剣
「……え、研究部門への調査……?」
「はい。壊滅させた方の魔術部門と繋がっていたことが判明したので、何らかの情報を握っているのではないのかという探りをですね」
「っそれ、俺も連れて行ってください、お願いします……!」
「それは、外羽華蓮を探すため……ですか?」
知らない名前が出た。入江の反応から察するに知り合いではあるだろうけど、その知り合いを探すのに研究部門の話が出るのはいまいち良く分からない。東雲の方をちらりと見れば、特段驚きも動揺も見えなかった。
わざわざアランさんが入江に情報を流すと決めた意味。最初は人手不足で呼んだのかと思ったけれど……反応的にそうではないんだろう、多分不意に情報が漏れた時の警戒の方が大きい。
「っどうしてそれを……」
「魔術部門が勝手に増やした地下、その偽装に使われた魔道具に込められていた能力の持ち主。……貴方がかつて酒見事務所へ捜索依頼を出した相手だそうですね?」
捜索依頼、ということは不本意な別れ方をしたとみていいだろう。酒見事務所ということはノエルさんはその外羽なる人物を知っていたということか。
「入江さんが研究部門に顔を出し、その後に外羽さんが行方不明になったとなれば間違いなく関係を疑われるでしょう。そうでなくとも……まぁ、魔道具が完成している以上取引として連れ戻そうとしてくる可能性はありますし。どうせ果たされない、果たされたとしても相手方が一方的に得をする取引ならば無意味でしょう」
能力の抽出が済んでいるのならもう用済みの筈。それなのに未だ手元に置いているのなら相応の理由がある。その理由の中に入江との関係性があったとしたならば……それは、入江にとって何よりも耐え難い事実だ。
「何で……」
「何故、ですか。それは今更呼び戻されることについての疑問ですか?」
「今更……?」
一瞬感じた認識の相違。アランさんもその違和感に気付いたのか、先程までのピンとした気配が緩む。
「??」
「……あの、アランさん……」
「はい」
「恐らくですけど、入江さんは……自身の出自について、何も自覚がないと思います……」
「えっ」
今のは素で動揺したな。東雲の指摘は的確だったらしく、入江もコクコクと頷きを返す。まさかそんなことになっているとは思ってもみなかったのか、アランさんが空を仰いだ。
「――――成程。いえ、青藍達が気付いていないのは分からなくもなかったですが……そもそも、当人すら自覚がなかったんですね」
納得を得たアランさんが穏やかに笑みを形作る。逆に何で東雲はその事実に気付いたんだろうな、アランさんの発言だけで辿り着くのはほぼほぼ不可能に思えるが。
「彼悪、彼導に次ぐ三人目の剣。慈愛の天使を人へと堕とした地上の聖剣。貴方が死ねば慈愛の天使は天へと還るでしょう。逆に言えば、貴方がいる限り彼の天使は人でいられるのです。貴方が人として、その生を手放さない限りは」
「……でも、俺は見ず知らずの天使よりも華蓮を選びます」
「違います。外羽華蓮が慈愛の天使なんです」
「っ!?」
「真意は知りませんが、貴方は楔として研究区画にて作り出された人工的な聖剣。慈愛の天使を縛るための存在。故に、貴方だけは研究部門に気付かれてはいけない。本当に彼の天使を……外羽さんを救いたいのなら、今はまだ、待機してください」
噛み締める様に言葉を反復する入江。きっと何もかもを擲ってでも助けたい相手だろうに、自分が動くことが一番救いにならないというのは、なんという皮肉だろうか。
「…………分かり、ました」
「その代わり……というのは語弊がありますが。入江さんには一つ、やってもらいたいことがあります」
「え?」
「彼剣として……管理人を、止めてください」
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