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秩序の天秤  作者: 霧科かしわ
序章 幻想を追い、現実を歩む
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認識相違

 時は少し前まで遡る。

「カンベンシテホシイヨナ」

「え、何かいる感じ?」

 ワカバさんが溜め息混じりにぼやけば、ルコンさんも首を傾げて問い掛ける。何かいる、その言葉に少しだけ気配を探れば数人ほど探知に引っ掛かった。

「ゴニンテイドカ?」

「五人かぁ……結構いるね。ワカバくん隠れとく?」

「イマセイランニユズッテル」

「えぇ?不味いじゃん」

「ソウダヨ」

譲る、とは何の話だろうか。ナメクジの挙動で動き回るイデアなる生物をつついている姿に切羽詰まった様子はないが。少し説明をお願いしようかと口を開き掛けたタイミングで乱雑に扉が開く。

「……わぁお」

「メンドウダナ」

 服装的に職員だろうか。ワカバさんは一歩下がり、ルコンさんは逆にわざとらしく前に進み出る。その際に俺と入江に対して片目を閉じてみせたのは何らかの合図だろうか。入江も傍に寄ってきて、ワカバさんはイデアをひきずりつつちょんと隣に立つ。

「これはこれは。どうしたんですかこんなところに?」

「それはこっちのセリフだが?何故新人が二名も特殊訓練室にいるんだ」

「おやぁ?説明はあったと思いますけどねぇ?『彼ら二名は高い実力を見込めるので個人的に引き取ります』って」

「ふざけるな!!一度も戦闘に参加してない相手の実力などどうやって知るというんだ!?」

「おやこれは手厳しい。ですが遣霊を成立させたとなれば話は別でしょう?」

「は??どうせまた偽物だろ?」

「おっと……?」

怒涛のまくし立てを見せる相手にルコンさんはのらりくらりと一定のペースを保ちながら対応している。レンの方は入江の手の中に隠れるように潜り込んでいるが、スミレはというとちょっと不快、程度の表情を浮かべてから寝心地の良いポジションを探してごそごそと動き回る。嘘だろコイツ、この状況下で寝るつもりか?

「ネムネムカ」

「(コクコク)」

「コドモハネルノガシゴトダカラナ」

 良いんだろうかそれで。やがてスミレは丁度いいポジションを見つけたのか大人しく目を閉じ……なんとなく寒かったんだろう、イデアをブランケット代わりにしてすやすやと寝始めた。……良いんだろうかそれで。

「イデアが布状の何かに……」

「ナレタホウガイイゾー」

これに慣れる必要があるのか俺は……この生き物か物質なのかすら怪しい形状のものに?せめてもうちょっと名称の分かる形を経由しろ。

「遣霊は人の形をした精霊だろうが!睡眠も食事もしないってんなら認めてやるよ!」

「……」

 腕の中を見下ろす。確かにコイツ、食事は殆ど取っていないと言ってもいいレベルだが、その代わりいつ起きるんだと言わんばかりに寝続けている。隣のレンに至っては最早サイズが小さすぎるし。……食事と睡眠をとらないというのは精霊の特徴なんだろうか。

「精霊だろうと遣霊だろうと、頻度や程度の差はあれちゃんと行いますがねぇ……?……もしかしてそちらさん、”遣霊には人権がない”とかほざくタイプ?」

ぞわりと背を伝う悪寒に思わず力を込めた。直感的に覚えたのは精神をなぞるような異質さで、今の俺じゃ対処出来ないだろうという確信だ。強制的に引き上げられた五感が痛いほど主張する、肌を刺す空気がどうしようもなく、痛い。

 無音なのは幸いだった。今の俺は普通の声量ですら多分耐えきれない。服を纏っている部分は良い、素肌を見せている部分はずっと針を刺されるような鋭い痛みが襲ってきていて、やけにはっきり見えている視界は情報の取捨選択すらされずに脳に全てを送ってくる。

「……」

少しだけ目を開けたスミレが手を伸ばした。思わず逃げようとした俺の頬をしっかりと挟み、ふにふにと揺らす。小さな手は触れてるのか分からないほど柔らかく、映り込む紫の瞳は何の感情も乗せていないくせして逸らすことを許してくれない。少しずつ緊張が収まってきて、それに伴い五感の鋭敏化も沈静する。二度、努めてゆっくりと深呼吸をして平静を取り戻した。

「ダイジョウブカ」

「はい。すみません」

「アンズルナ。ヨクアル」

 ワカバさんから労りの言葉をかけられ、己の未熟さを痛感する。自己制御なんて出来て然るべきだ、気配に感化されて制御を失うなんて。

「イリエモブジカ?」

「ちょっと充てられましたが……大丈夫です」

「なんなん」

細く息を吐く入江と、平気そうな顔で手の中にいるレン。そろそろとルコンさんの方を見れば、何故か職員達は自我喪失、といった風に棒立ちになっていた。

「あれは……?」

「ヤリスギテルナ」

「ルコンさんの()()……何ですか?」

「アビリティダヨ。ソノナモ"カオス"」

「”混沌(カオス)”……」

 特性(アビリティ)はその人だけの特殊能力だ。何をしたのかは生憎見れていないが、相当強い能力なのだろう。棒立ちの職員を指で弾いて転がしたルコンさんはこちらを向いてにこりと笑う。

「ヤリスギー」

「そんなことナイヨー」

さっきまでの気配はもうない。その後ガチャリと扉が開いて……知らない人とアランさん達が合流した、という訳だが。



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