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怪談

夏の怪談2

作者: materialism

これで少しでも涼しくなれば

これは夏の頃のお話です。

いや夏の頃からのお話です。


私は旅館の経営者なのですが、とても人に任せてしまえるほどの経営状態ではなく、普段は自らフロントの仕事をしております。ただ好きで始めた仕事ですのでそれなりに充実して、まあ立ち仕事なので足は若干じゃっかんつらいのですが、仕事に打ち込んでおります。


そんなある日、フロントに顔色の悪い男性が立っていました。

直感的に嫌な感じがしたのですが、ご予約のお客様でしたので、断ることはできませんでした。

それでも万が一のトラブルに備え、出来るだけフロントに近い部屋に案内することにしました。


いつものようにあわただしく夕食の時間が終わりまして、お客さまがそれぞれ部屋に落ち着いた頃になりました。男性独りのご宿泊の場合、自殺防止のため私が声掛けを実施するルールになってはいるのですが、今回は気が乗らないというか、なんだか躊躇ためらわれてしまう気がしました。


その時、最近仲居のパートに応募してきてくれた方が目に入りました。


その方は若い頃から仲居をやっていたそうなのですが、勤めていた旅館が倒産したとかで移って来たのでした。ちょうど人手不足の折、経営的にも非常に助かり、また、幸薄そうな笑顔が庇護欲ひごよくにかられる方でもありました。ただつい最近、良縁に恵まれたとかで、すぐに辞める予定になっておりました。


正直に言いますと、資産家の娘で私と結婚してからも遊びほうけている妻よりも、旅館経営の悩みなどを聞いてくれる彼女に、私は鬱屈うっくつした思いを抱いていたのでした。


「お前が声掛けをして来い!」と、私はこれは幸いとばかり、怒鳴りつけました。


彼女は文句も言わず、いつもの幸薄そうな笑顔を浮かべたまま、あの男性の部屋に向かってくれました。


それから間も無くです。少しこもった悲鳴が聞こえてきたのは。私はちょうど接客中でしたので、手の空いている板前さんに様子を見に行くように頼みました。


案の定、彼女はその顔色の悪いお客様に殺されていたそうです。その話を聞いて、私は迷わず警察を呼びました。


その男は、警察の取り調べで、「殺したはずの妻が悪霊として生き返ってきたから、もう一度殺してやった」と供述していたそうです。


殺された仲居とその殺したはずの奥さんとやらが、本当に似ていた可能性もありますが、私は何かの呪いに取り憑かれていたのではないかと思います。


なぜなら、最近、ご宿泊のお客さまの顔がその仲居の顔に見えてしまうのです。あの男の呪いが、取り憑く先を変えて、私に取り憑いたのかもしれません。

私が仲居を殺した訳ではありませんし、呪いなんて妄想だと、頭では分かってはいるのですが、いつか、あの男のようになってしまうのではないかと思うと恐怖で足がすくみます。

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