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第十三話 麻姑廟

 元の時代の事である。

寧海ねいかい県の崑崙こんろん市に石落せきらくという村があった。

その村には劉某という豪商がおり、立派な屋敷を構えていた。

劉は若い頃に百丈の魚を捕まえて、屋敷のはりにしていたことから、その屋敷は「鯉堂こいどう」と呼ばれていた。

鯉堂の軒先には大きなえんじゅの木があって、その影は数畝すうほを多い、世にも稀な物であった。

劉某がある晩寝ていると、夢の中に不思議な人物が現れた。

歳の頃は十八、九の美しい女。

鳥のように長い爪をはやし、頭にはお団子を結っている。

肩からは麻の葉のような被肩をかづき、その下には錦の着物を着ている。

夢の中だというのに、辺り一面が甘い香りに包まれたのも奇妙であった。


「私の名は麻姑まこ。鯉堂のご主人に折り合って頼みたいことがあるの。よろしいかしら」


麻姑というのは天女の名だ。

半信半疑ながら返す。


「はあ、私にできる事であれば」


麻姑は続ける。


「ここから数里先に私を祀ったびょうがあるでしょう」


確かに数里先に麻姑廟だったものがあるが、朽ち果てて参詣さんけいする人も久しくいない。


「あれ、ぼろぼろで通るたびに悲しくなるのよね。そこで閃いたわけよ。お宅には立派な木があるじゃない。あれで建て直してくださらない?」


嫌だ、と劉は思った。

我が家の自慢の木であるし、そんなものを建て直したところで商売になんの利益にもならない。


「いやぁ、あそこは離れていて行くのにも難儀しますし、うちの巨木を運ぶのも中々骨の折れることですから、一朝一夕には……」


麻姑は劉を睨みつけた。


「じゃあ、運ぶのは私がやるわよ」


妙にしわがれた麻姑の声とともに、劉の目は覚めた。


 翌日から大嵐となった。

篠突く雨と唸りをつけた拳のような風が石落村を襲った。

劉もすわ天女の怒りかと震え上がり、鯉堂の奥に家族とともに引っ込んで、嵐の通り過ぎるのを祈るばかりであった。

さらに翌日、台風一過で嘘のような青空が広がっていた。

幸いにも家も家族も無事であった。

無事でなかったのは槐の巨木だけで、これは根本から折れてどこかに吹き飛ばされたようである。


「わしは槐の行き先に心当たりがあるぞ」


劉が家人とともに山を越え、数里先の麻姑廟を訪ねると、槐の巨木が廟の前に転がっていた。

劉がその槐を使って廟を立派に建てなおしたことは言うまでもない。

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