英雄の真相
ヴィリウ砲撃を報じるメディアの反応
イライナ側
イライナ国営通信(ENA)
見出し『速報:ヴィリウ郊外が砲撃受ける 18名負傷 撃ったのはノヴォシアか?』
本文
15日未明、イライナ西部ヴィリウ郊外にて多数の砲弾が着弾し住民18名が死傷した。イライナ国防省の発表によれば、着弾地点から回収された砲弾はいずれも【ノヴォシア製152㎜榴弾砲の規格に合致】し、ドルツ製砲弾の特徴は見られないという。
また、ドルツ外務省は『当時ドルツ軍砲兵隊はヴィリウを砲撃可能な地点に展開しておらず、砲撃の実行はどう考えても不可能である』と声明を発表。イライナ側にも当時の砲兵隊の展開状況を公表し潔白を表明した。
国防省は声明で『本件はノヴォシアによる露骨な偽旗作戦であり、イライナを対ドルツ戦へ引きずり込むための犯罪的行為』と糾弾した。またキリウ大公ノンナ2世は正午の演説で『イライナは独立国家であり、誰にも支配されない。我が国民を脅かす存在は躊躇なく懲罰する』と力強く宣言した。
ヴィリウ地方紙『ヴィリウ日報』
見出し『農村に砲弾300発落下 復興の街に悲劇再び』
本文
1907年のズメイ襲来からようやく復興を終えたヴィリウが再び炎に包まれた。被害は農村部に集中し、犠牲者18名の中には逃げ遅れた子供3人も含まれていたとされ、遺族はこのノヴォシアによるものと見られる蛮行に怒りを滲ませる。
住民の1人は『ノヴォシアは我らイライナ人を”兄弟民族”だと言う。でも、兄弟に砲弾を撃ち込む奴がとこにいる?』と涙で声を震わせながら語った。
リュハンシク地方紙『リュハンシク日報』
見出し『偽旗作戦の稚拙さに世界が驚愕 ”砲弾が喋った事件”として歴史に残るか?』
本文
ノヴォシア政府はこの事件はドルツの仕業である、と発表しているが、各国軍事関係者は一様に「証拠能力ゼロ」「砲弾の破片が全てノヴォシア規格という時点で話にならない」と失笑しており、専門家の1人は「まるで砲弾そのものが”私を放ったのはノヴォシアです”と喋っているようなもの」と述べた。
ノンナ2世が発動を宣言した【ミカエル・プラン】について、政府情報筋によると『数日以内に重大な動きがある』という。徹底的な報復が行われる事を期待したい。
ノヴォシア側
ノヴォシア・プラウダ(ノヴォシア国営通信)
見出し『ドルツ、イライナ領ヴィリウを砲撃 兄弟民族の平和を脅かす蛮行』
本文
人民委員会は15日、ドルツ軍がイライナ西部ヴィリウを砲撃したと発表した。犠牲となった18名のイライナ国民に対し我々ノヴォシアの同胞は深い哀悼の意を表する。
書記長同志トロツキーは記者団に対し、『ドルツの野蛮な挑発を看破する事は出来ない。ノヴォシアとイライナは文化的ルーツを同じくする兄弟民族であり、我々はイライナを護りドルツに報復する用意がある』と述べた。
また、軍事専門家は『ドルツはイライナの中立姿勢を揺さぶるために我が軍の榴弾砲を鹵獲し砲撃したのではないか』と指摘している。
民兵系紙『戦線の声』
見出し『イライナ政府、真実から逃避か 砲撃はノヴォシアによるものと主張』
本文
イライナ政府は、ドルツ軍によるヴィリウ攻撃を『ノヴォシアによる偽旗作戦である』と主張しているがそれは誤解である。現地の混乱状況と砲撃角度を見れば、これは有り得ない。ドルツ側が我が軍の榴弾砲を鹵獲して砲撃した事は明白であり、イライナは彼らの口車に乗せられてはならない。
軍高官は『イライナはドルツからの報復を恐れ、事実を隠蔽したいのだろう』と語った。
国家放送『ノヴォシア人民放送(NPTV)』
見出し『兄弟民族イライナを護る時は近いか 協力要請に応じるだけで良い』
本文
卑劣なるドルツの帝国主義者による蛮行は、かのズメイ襲来からの復興を果たしつつあったヴィリウに牙を剥いた。イライナ国防相はこの砲撃で子供3名を含む18名が死傷したと発表しており、我々ノヴォシアはこの犠牲者たちに対し深い哀悼の意を表すものである。
イライナがもしノヴォシアの下で団結すれば、ドルツの脅威はこの中央大陸から消え失せるであろう。この砲撃事件は西欧諸国の本質をイライナに見せた筈だ。今こそ兄弟民族が手を取り合い、この脅威に対抗するべき時ではないだろうか。
「ほー……アンタがイリヤー伝説の」
湖畔に停車していたALFA-Xに乗り込んできたニキーティチの若々しい姿を見るなり、葉巻を咥えていたパヴェルは驚いたように目を丸くした。一応は彼も不老不死の人間がいる、という情報は耳にしているのだろうが、実際にニキーティチが若々しい姿をしている事に驚きを隠せないのだろう。
とはいえ、パヴェルもかの暗殺教団の教祖”ハサン・サッバーフ”を目にしているからなのだろう、思ったよりも落ち着いたリアクションだった。
「初めまして、パヴェル・タクヤノヴィッチ・リキノフ。ミカの奴のマネージャーをやってる」
「よろしく、パヴェル」
差し出したパヴェルの手を握り返すニキーティチは、その掌の感触に目を細めた。
察してくれ、とアイコンタクトを送るパヴェルに小さく頷くなり、ニキーティチは生まれて初めて(というかこっちの世界の人間の大半が生まれて初めてであろう)新幹線の車内へと足を踏み入れる。
随分変わった列車だな、とでも言いたげにまじまじと見渡すニキーティチ。とりあえず彼が窓際の座席に座るのを待ち、俺たちも着席して座席をくるりと旋回、彼と対面する形となる。
そういえば、とふと思い、俺は座席から立ち上がってデッキへと向かった。乗降用のドアのところから外を見ると、やはりそこには列車には乗らずに待っているパックの姿があった。
「……一緒に来ないのか?」
「いや、俺は他にもやる事があるんでな」
彼の”やる事”が何なのか……想像はつかないが、しかし彼にも彼の都合があるのだろう。
元々表舞台で動くよりも、舞台裏で暗躍する方を得意とするパックの事である。みんなで動くよりも1人で動く方がやりやすいのかもしれない。
「……ズメイの件、ノヴォシアやイライナ、ベラシアだけでなくバルカン連邦でもかなりの脅威と見られている」
「そうかい」
バルカン連邦―――イライナの西部に位置する複数の国家群により構成される共同体だ。
中心となっているのはセロの祖国ハンガリアと、ドルツとの統一戦争に敗れた神聖グラントリア。旗振り役となっているその二ヶ国にガルヴィアやポルスキーといった東欧諸国やバルカン半島の国家群が賛同し、列強国の植民地支配に対抗しよう……という発想から生まれたのが”バルカン半島”である、と聞いている。
なんでもそれを提唱し始めたのはセロなんだとか。
まあ、転生者だし悲劇の歴史を知っているからこその予防策なのだろうな、とは思う。こっちもこっちでどさくさに紛れて独立したおかげで共産化はしなくて済んでいるわけだし。
余談だが、似たような動きは極東でも広がりつつある。ノヴォシアの侵略を跳ね除けたジョンファ、倭国、コーリアの極東三国で強固な同盟を組み、ゆくゆくはアジアの植民地を解放して巨大な連邦国家を構成する……そんな構想がある、と実しやかに囁かれているのだ。
もし仮に本当なら、この世界のパワーバランスは俺のよく知る世界とは全く異なるものになるであろう。
運が良ければ、世界大戦という悲劇も回避できるかもしれない。
「ひとまず、俺は関係各所に声をかけて回る。ミカ、お前はベストを尽くせ」
「分かった。気をつけてな」
「ああ。運が良ければ、またいつか」
踵を揃えて敬礼すると、パックも口元に笑みを浮かべながら答礼を返してくれる。
風が強く吹き、降り積もった雪が一気に舞い上がった。煙にも似たそれがパックの姿を包み込み、吹き荒ぶ強風に浚われていった頃には、もう既にパックの姿は影も形も無くなっていた。
正体不明で不気味なところはあるが、しかしだからこそ頼もしい。
いつの日か、また。
姿を消した戦友に届かぬ想いを放ち、踵を返した。
背後でドアが閉まる音がして、デッキから車内に戻ると同時に車内放送が響く。
《乗客の皆様にお知らせします。当列車は特別急行イグルーツク発、リュハンシク行きです。途中停車駅はございませんのでご了承ください》
パヴェルのバカ真面目な車内放送を聞きながら着席すると、カトレアが紅茶の乗った手押しワゴンを押してやってきた。クラリスに続くホムンクルス兵を見てニキーティチはぎょっとしたようだったが、しかしテンプル騎士団の兵士たちのような邪悪さは感じなかったのだろう。驚いたのも一瞬で、次の瞬間には紅茶を差し出す彼女に「ああ、ありがとう」と笑顔で礼を述べていた。
ぐんっ、と微かに身体が引っ張られる感覚。窓の外を見てみると景色が左へとスライドを始めていて、ALFA-Xが動き出しているのが分かった。
雪の中だろうとお構いなしに加速していくALFA-X。最初は何とも思わぬ感じの表情で外を眺めていたニキーティチも、速度がだいたい200㎞/hを越え始めたであろう辺りで「ん、なんかコレ速くね?」みたいな表情に変わり始めた。
目測で300㎞/h、かつてズメイと戦った大英雄の顔にも驚きの色が浮かび始める。
そして400㎞/h―――未経験の速度に、ニキーティチはついに座席から立ち上がって窓に張り付くように外をまじまじと見つめ始める。
「!? ……!?!?」
「この列車、最高速度は420㎞/hだそうですよ」
「よ、420!?」
まあ無理もない。
この世界には新幹線……というか、高速鉄道という概念がまだ存在しないのだ。一応在来線の区分の中には特急列車が存在するが、しかしその特級の速度も120~130㎞/hがせいぜいである。それもその速度域に足を踏み入れたのがここ20年くらいの話なので、ニキーティチの知る時代ではもっと遅かったのだろう。
世捨て人同然の生活を送るようになり外界からの情報を遮断するようになった事も手伝い、まさに新幹線との遭遇は彼にとって完全な未知の領域と見えたようだ。
「ここからリュハンシクまで12時間程度で到着します」
「そんな馬鹿な……俺がイリヤーと旅をした時は何週間もかかったんだぞ」
「ええ、ここ20年で鉄道は進化しましたからね。この車両はまだ試験車両ですが、将来的にはイライナ全土でこれが走るんじゃないかと」
「はぇ……」
もふもふの白い尻尾をぶんぶん振りながら窓の向こうの景色をかじりつくように眺めるニキーティチ。獣人は表面上どれだけクールに振舞っていても、尻尾やケモミミに本音が現れるので人間以上に表情豊かである。
やがてトンネルが連続する山間地帯に入るなり、さすがに外が真っ暗になって飽きたのだろう。ニキーティチは座席に着席して息を吐き、背中を座席の背もたれに深く預けた。
「……そういえば、一つ聞きたい事が」
「何だいミカエル君」
「私の祖先、イリヤーの事です」
「うむ」
「祖先の伝説は全て知っていますし、イライナの民の1人としてイリヤー伝説にも親しみながら育ちました。無論、盟友ニキーティチとして活躍を遺したあなたの事にも」
「それで」
「―――どの文献を漁っても、イリヤーの最期についての記述が無いのです。病死だと記した書物もあれば100歳まで生きたという書物、今なお存命中であり復活の時を待っているという書物まで……」
幼少の頃から抱いていた疑問を口にすると、イリヤーはちらりとクラリスの方を見た。
先ほどまでクラリスの姿を見てテンプル騎士団の関係者と見るなり激しい憎悪を見せていた彼だが、しかし今の視線は憎悪のそれではない。まるで「言っていいのか?」と確認を取るような、そんな気遣いにも思えた。
何かテンプル騎士団が絡んでいるとでも言うのだろうか。
「……イリヤーは、テンプル騎士団に殺されたのだ」
息を呑んだ。
イリヤー伝説において、大英雄イリヤーの死は最大の謎とされてきた。
病死したという説や100歳まで生き老衰で死んだという説、挙句の果てには今なお存命中であり、一時的に眠りについているだけで、いつの日か復活しイライナを統治する名君となるであろう……という説まで様々である。
大英雄イリヤーの生涯が事細かに記された書物が多いというのに、その最期に関しては誰も知らない―――幼少の頃からずっと疑問に思っていた事だった。
しかしそれも、ニキーティチの言う事が本当ならば説明はつく。
テンプル騎士団に殺された―――つまり旧人類滅亡の時期と重なるというわけだ。
テンプル騎士団により宗主たる旧人類が全滅し、獣人たちも種族レベルでの記憶操作を受けていたのだとしたら、大英雄イリヤーの死が”喪われた記録”とされる理由も頷ける。
しかし、考えもしなかった。
大英雄イリヤーの死が、そのようなものであったなどと。
「……150年前、私はイリヤーと共にテンプル騎士団と戦った。既に帝都モスコヴァは陥落寸前、街は火の海で戦の勝敗は決したも同然だった。しかしそれでも、ただ座して死を待つわけにはいかない……私とイリヤーは剣を取り、テンプル騎士団に最期の戦いを挑んだのだ」
まさか、とクラリスが小さく呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
彼女もまた、150年前の旧人類滅亡―――テンプル騎士団のいうところの『懲罰作戦』に参加していた兵卒の1人であった。クラリスもモスコヴァ市内へと攻め入り、そこで負傷して意識を失い捕虜となって、キリウの地下に実に120年以上も幽閉されていたのである。
もしかすると、クラリスも当時戦うイリヤーとニキーティチを見ていたのかもしれない。
「しかしそこに現れたのはテンプル騎士団の長―――”タクヤ・ハヤカワ”という女だった」
「タクヤって……」
クラリスに視線を向けると、彼女は静かに頷く。
タクヤ・ハヤカワ―――テンプル騎士団初代団長にして、クラリスやシェリル、シャーロットといったホムンクルス兵たちの始祖。組織内において最も優秀な兵士でもあった彼女は兵員増強のための礎となっており、培養されたその細胞から多くのホムンクルス兵が誕生するに至った。
事実、リュハンシクで新たに生み出されたホムンクルス兵『カトレア』も、シャーロットが持っていたタクヤ・ハヤカワの細胞を培養する形で”製造”されたものだ。
このホムンクルス兵の大量生産によりテンプル騎士団は量と質を兼ね備えた兵士を大量に保有するに至った一方、戦時中の無計画な大量生産により深刻な少子高齢化に直面しているのだそうだ(シャーロットの証言である)。
「手も足も出なかった……イリヤーはあの女に、成す術もなく……」
「……そう、でしたか」
祖先の最期を知り、衝撃を受ける一方でもう過ぎた事だと事実を受け入れ飲み下す冷静な自分もいた。今更否定したところで何になるのか、と。
それもそうだ。実際に彼と共に戦い、そして彼の最期を看取った生き証人が目の前にいるのである。嘘だ、と否定のしようがない。
「……すみませんでした、いきなり辛い事を聞いてしまって」
「いや、良いんだ。彼の子孫の君が、祖先の最期を気にするのは当然の事だろう。むしろ私にはその真実を伝える義務がある」
「……もしよろしければ、他にも教えていただけませんか。あなたが……大英雄ニキーティチが実際に経験した、伝説の数々を」
リュハンシクまでの道のりはまだ長いですから、と続けると、彼は口元に笑みを浮かべた。
「ああ、構わないよ。ではまず何から話そうか」
それからニキーティチは語り始める。
かつて英雄でもなかった、ドブルィニャ・ニキーティチという1人の青年が見た、ありのままのイリヤー伝説を。
1907年 5月5日 21:34
イライナ公国 首都キリウ郊外
闇の中に何かが見えます、と立哨中の警備兵から通報があったのを受け、警備部隊指揮官のイゴール・メリチュニク中尉は淹れたばかりの紅茶を机の上に放置して拳銃入りのホルスターを掴み、執務室を後にした。
既に見張り台からはサーチライトが照射され、西方では照明弾らしきものも打ち上げられている。
「中尉、竜の仔です!」
駆け足でやってきた兵士が敬礼しながら報告するなり、ターン、と銃声が響いた。駐屯地に接近中だった竜の仔を、イライナ軍の狙撃兵が狙撃したのだ。
竜の仔が出現するのは珍しくはない。ズメイが復活してしまった今、イライナ各地に竜の仔が現れては被害を及ぼしているのだ。中には竜の仔に家畜も住民も食い殺されて全滅した村落もあるという。
やったのか、と兵士に問おうとしたその時だった。
西側から吹いてくる夜風に空気の焦げるような臭いが一瞬だけ混じったような気がした。火事でもあったか、と訝しむメリチュニク中尉が視線を巡らせた直後、夜空に火の玉が生じ―――それはまるで隕石のように燃え盛りながら、警備基地の北方へと墜落していった。
見間違いでなければ、哨戒に出ていた複葉機ではないか。
まさか、と息を呑む。
夜空の一角―――星の浮かぶ夜空の中に、禍々しく輝く紅い幾何学模様。
よく見るとそれは、竜のカタチをしていた。
長い尻尾と大きく広げられた悪魔のような翼、そして爛々と輝く双眸で大地を睥睨する2つの長い首。
―――ズメイ。
「……ウィルコフ准尉、首都に緊急通達」
「…………りょ、了解」
息を呑み、脂汗を浮かべながら走り出す副官。
夜空を舞う邪竜を見上げ、メリチュニク中尉は己の死を覚悟した。
1907年 5月5日
ズメイ、イライナ首都キリウ襲撃
ミカエル・プラン発動を報じるイライナメディア
イライナ国営通信(ENA)
見出し『ミカエル・プラン発動か ノヴォシア首脳部を標的とした斬首作戦再び』
本文
3月17日午前、ノンナ2世は臨時閣議後の声明において、ノヴォシアによるヴィリウ砲撃事件は『明確な偽旗作戦であり、イライナ国家及びイライナに住まう全ての国民に対する明確な侵略行為』と断定。国家非常措置法第14条に基づき【ミカエル・プラン】の発動を宣言、専門家によると『国家親衛隊特殊作戦軍による斬首作戦が発令されたのではないか』という。
斬首作戦といえば1916年の第二次イライナ侵攻時、当時のレーニン政権に対して行われた斬首作戦の記憶が新しい。
作戦内容は公表されておらず、今回も首脳部を狙った斬首作戦であるかどうかは定かではないが、声明には『イライナの敵は、イライナが裁く』『我々は決して理不尽な暴力に屈しない』という力強い文言が並んだ。また電報に記されたという『首を洗って待て』という文言は国民の間で大きな反響を呼んでおり、やはり斬首作戦かという見方は強い。
イライナ独立日報(中道左派)
見出し『政府、斬首作戦を容認か ”報復ではなく抑止”と強調』
本文
政府筋によれば、作戦は”国家諜報局第七課(いわゆる”スペツナズ”)によって遂行される見込みで、主目標はノヴォシア政府中枢の「作戦責任者の無力化」とされる。
軍事専門家は、本作戦が大規模戦争への拡大を回避するための『迅速かつ限定的な外科手術のような作戦』であると分析。一方で議会内では『挑発には国際司法手続きで対抗するべき』と慎重論も上がっている。
ヴィリウ地方紙『ヴィリウ日報』
見出し『我らの故郷への砲撃、その報いは必ず ミカエル・プラン発動』
本文
砲撃で家族を失った被災者たちは、ノンナ2世の決断を「当然だ」と歓迎。郊外の追卓所では、斬首作戦と思われる特殊軍事作戦の発令を受け追加献花が続いている他、18本のろうそくに火が灯された。
イライナ民族は、決してヴィリウが泣いた夜を忘れてはならない。我らの正義が遥か北方の闇に届く日がついにやってきたのである。
イライナ・ポスト(保守系メディア)
見出し『英雄の剣が抜かれた 76歳の英雄ミカエル公、最期の戦場へ』
本文
確証は示されていないが、本紙は”信頼できる情報筋”として『斬首作戦にはイライナ国家親衛隊第3連隊と、ミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフ公爵も出撃する』という情報を入手した。ミカエル公と言えば雷獣や串刺し公とも呼ばれ、またかのズメイ討伐を果たし『大英雄イリヤーの再来』とも呼ばれ名高い御仁である。
本紙の取材に対し軍当局は否定も肯定もしなかったが、既に市民の間では『ミカエル公が再び北へ』『76歳の英雄がついに最期の戦場へ』という声が聞かれており、彼女の英雄的行動に注目が集まりつつある。




