表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

923/981

子供たちの実弾演習

セルゲイ「さて、今日からリガロフ家の執事として頑張るとしましょう」

セルゲイ「部屋のお掃除を……ん?」


ミカエル君スク水ぬるぬるえっち本


セルゲイ「」


ナレーター「その時、セルゲイの中で何かが壊れる音がした」




 カチ、カチ、とマガジンに9×19mm弾や9×18mmマカロフ弾を押し込んでいく音が室内に響く。


 装填を終えるなり、ラフィーとラグエルの2人がマガジンを片手に射撃訓練場のレーンの前に立った。レーンの上にはそれぞれ、以前から操作方法の練習や分解結合を繰り返してきた拳銃が置いてある。


 ラフィーの前にはグロック17L。グロックシリーズの中でも最も長いバレルとスライドを持つ競技用モデルだ。サイズが大きい分やや嵩張る感じはあるが、個人的には当てやすい銃と感じた。グロック系は使用弾薬も豊富で扱いやすく、サードパーティ製のパーツも豊富なので自分に合った形にカスタマイズしやすいのも大きな利点と言えるだろう。


 まあそれでも合わないなら自分に合った銃を使えばいいだろうし、実際に使っていく中でやっぱり自分には合わないなとか、扱いにくいなと思ったら別の銃に乗り換えればいい。選択肢はいくらでもあるのだ。


 一方のラグエルはというと、選択したのはマカロフPM拳銃。ドイツから接収したワルサーなどの拳銃の設計を参考に開発したソ連製の拳銃で、拳銃に必要な機能は最低限揃っているシンプルな代物だ。


 こっちは堅実な選択だな、と思いながらマガジンの装着と初弾装填を指示。2人の子は言われた通りにマガジンをグリップ内へと挿入してコッキング、初弾を装填する。


 安全装置を解除し発砲準備を終えるなり、ラフィーとラグエルの前に人型の的がパタン、と音を立てて起き上がった。


「よし、教えた通りに撃ってみろ」


「はい、父上」


 発砲許可を出すなり、最初に引き金を引いたのはラフィーだった。


 グリップをしっかりと両手で握り、グロック17Lで的を狙う。10m程の距離ではあるがなかなか当たらず、3発目くらいでやっと、カァン、とレーンの奥から金属製の的に弾丸が命中する音が聞こえてくる。


 拳銃の扱いは、一般的に小銃よりも困難であるとされている。


 取り回しを優先、携帯性を重視した懐刀的な運用を想定した武器種であるため、射程距離や命中精度ではどうしても小銃に劣ってしまうのだ。


 あとライフルと違ってストックがないわけだけど、ストックを肩に押し当てて固定できる事のありがたみをよく理解できると思う。やっぱり肩で固定できると銃がブレず狙ったところに弾丸を叩き込みやすくなるのだ。


 個人的には拳銃のそういうところが苦手で、冒険者になったばかりの頃はピストルカービンばかり使って普通の拳銃を使う事は殆どなかった。旅の途中にパヴェルを師とし、兵士のイロハをじっくりと身体に教え込まれてからだ……あ、「身体に教え込まれた」って変な意味じゃないからな? パヴェ×ミカとかそんな腐な意味じゃないから変な想像しないように。


 え、「ミカエル君はメスだから腐女子が好きなカップリングは成立しえない」? ふ ざ け ん な 俺 は オ ス だ 。


 段々と命中精度を上げ始めるラフィー。さすがは一番上のお兄ちゃん、選ぶ銃のセンスも堅実だし射撃の姿勢も教科書通り。とても6歳の子供に慣れさせるために射撃をさせているとは思えない、ちょっとした新兵みたいな感じになっている。


 ラフィーは小さい頃から手のかからない子だった。夜泣きはそれなりにしたけれど、ある程度落ち着いてくると特にやんちゃするわけではなく、本を読んだり弟妹たちの遊び相手をしたりと、やや大人びた感じのある子で兄妹のしっかり者である。


 おかげで他の癖の強い子たちの面倒を見るのに全力を注ぐことができたわけだが。


 さて、そんな手のかからない模範的なお兄ちゃんに対して弟の方はというと……。


「お、おう……」


 ガンガンガン、と凄まじい勢いでマカロフを発砲。カンカン、と的に弾丸が命中する音が聞こえてくる。単純な命中精度であればラフィー以上なのだが……問題はその撃ち方だ。


 通常、拳銃の正しい射撃姿勢は両手でグリップを保持し、両手を肩の高さまで持ち合上げてアイアンサイトを目線の高さまで持ってくるというものだ。結局のところそれが一番命中精度を高めやすいし、余計な力も入らないし、何より生じる反動(リコイル)を受け流しやすい。永い歴史の中で試行錯誤を繰り返して洗練されてきた戦技の最適解、と言ってもいいだろう。


 しかしラグエルの撃ち方は、その……癖が強すぎた。


 銃を腰だめで構え、発砲の度に肘をサスペンションよろしく曲げて反動(リコイル)を後方へと逃がしているのである。グリップを保持しているのは右腕一本、左手は遊んでるのかというとそうではないようで、西部劇のガンマンよろしくスライドの傍らに左手を添えている……うんやっぱし遊んでるじゃねえか。


「ラグ。ラグ?」


「なあにパパ?」


 マガジンを指差して、言った。


「もう1回今のやり方でやってみろ」


「うん!」


 無邪気な返事と共にマガジンを交換。スライドを引いて同じように腰だめで構え、ガンガン撃ちまくるラグエル。


 俺の後ろでは訓練用のマガジンを使い終えたラフィーが、奇抜な撃ち方をする弟の様子を心配そうに見ていた。へにゃ、と曲がったハクビシンのケモミミが、変な撃ち方をする弟が怪我しないかどうか心配する兄の心中を分かりやすく表現している。


 7発目―――最後の1発で、トラブルが起きた。


 解放された薬室から排出される筈だった空薬莢が、ガギッ、と射撃中に聞きたくない音と共にスライドに噛み込んでしまったのである。


「あー、ほらな」


 貸しなさい、とラグエルからマカロフを取り上げて安全装置(セーフティー)をかけ、マガジンを外して薬莢の噛み込んだスライドを引く。ぽろり、と薬莢が床に落ちて、透き通るような金属音を立てた。


「ラグ、どうした? なんでこんな撃ち方をした?」


「……パヴェルおじちゃんが見せてくれた映画のガンマンがかっこよくて」


 パヴェルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!


 あァんの野郎、とんでもないもの見せやがったな……!


「い、いいかいラグ。この銃はリボルバーじゃなくて自動拳銃(オートマチック)な。撃った時の反動を利用して次の弾を装填する仕組みなんだ。だからさっきみたいに肘で反動を受け流しちゃったらこんな動作不良を招く恐れがある。映画のガンマンに憧れる気持ちは分かるしパパも昔そんな感じだったけど、その撃ち方はどっちかっていうとリボルバー向けだな」


「……ごめんなさい」


「気持ちは分かるが、まずは基本を学びなさい。基礎が出来てないと応用も出来ないよ」


「はい……」


 ぺたん、とケモミミが倒れるラグ。


 こういうの見てると獣人って本当に感情豊かだよな、とつくづく思う。


「……でも早撃ちは見事だった」


「え」


「いいセンスだ」


 ぽん、とラグの肩に手を置いた。


 実際、見事な早撃ちだったと思う。腰だめ撃ちであれだけの精度なのだ。極めていけばラグエルは本当に世界に名を届かせるガンマンになる……かもしれない。


「いい……センス……!?」


「お、おう」


 顔を上げ、目を輝かせながら迫ってくるラグ。なんだろう、何か変に褒めてしまって変なスイッチを入れてしまったのではないか、という嫌な予感がした。


 








 数年後、ラグエルはサイドアームをシングルアクションアーミーに変更し真面目に早撃ちを練習、ダスターコートを身に纏いブーツに歯車を付け馬に跨るガチのガンマンになってしまう事になるのだが、それはまた別の話……であってほしい。


















 AK、と一口に言っても色んな種類がある。


 ソ連本家のAKに中国が製造したAK、東欧に普及していったご当地AKに西側が魔改造した尊厳破壊AK……紛争地域で密造されたAKも含めればそれこそ、銃職人(ガンスミス)の数だけAKがあると言っても過言ではない程の数であろう。


 コッキングレバーを引いて薬室内に(オイル)を刺し、何度かコッキングレバーを動かして動作が滑らかになる事を確認。手に馴染む感触になったところで銃を一旦作業台の上に置き、額の汗を拭った。


 いつものAK-19ではない。


 作業台の上に乗っているのは、ポーランドが開発したAK―――『wz.1996ベリル』というAKの亜種の1つだ。5.56mmNATO弾を使用する西側仕様のAKと言ってもよく、反動もマイルドで扱いやすい。本家との差異はライフルグレネードの運用能力がある事と、AKの中では珍しく3点バースト機能がある事だろう(多分俺は使わないけど)。


 俺が選択したのはベリルシリーズの中でもピカティニー・レールの増設で汎用性を高めた『wz.1996Cベリル』というモデルになる。ハンドガードの上下左右にピカティニー・レールがあるのでライトやレーザーサイト、フォアグリップなどの装着の幅が広がっている他、嬉しい事にレシーバーカバー上部にあるピカティニー・レールはAK-12のようなレシーバーカバーに直接取り付ける方式ではなく、カバーを前後で跨ぐようなマウント方式なのだ。


 AKのレシーバーカバーは振動が激しくて、その上に直接光学照準器をマウントすると反動のせいでゼロインがだんだんと狂っていったりするという致命的な欠陥があった(だからソ連製の光学照準器はレシーバーカバーの上に直接ではなく、側面から跨ぐ形でマウントされている。暇だったらFPSでAKにサイトを乗せてよく見てみよう)。


 でもベリルのこの方式であれば、その欠点の影響を受けないというわけだ。


 既にパーツは俺好みに弄ってある。


 ハンドガード下部はM-LOKハンドガードに換装しハンドストップを装備。多用しがちなCクランプ・グリップでの射撃に最適化している。


 照準器は今までのものから一新し、ホロサイトのUH-1を新たに採用。その後方にブースターもマウントし、中距離の相手にもちょっかいを出せるようにしてある。


 バレルは純正のバレルからヘビーバレルに換装。複合装薬を用いた弾薬の使用を想定としたものだが、副次的に銃身の振動の抑制により、フリーフロート化された事と相まって命中精度の向上も見込める。


 それとマズルブレーキは純正のものから89式のマズルに換装してあるので、89式同様にライフルグレネードの運用能力もある。M-LOKハンドガードはあまりグレネードランチャーの装着に向いたパーツではないのだが、こうする事によって一応は火力を維持できるという寸法だ。


 やはりAKである。


 そういや最初に手にしたAKはAKMだっけ……AKMとトカレフだけ装備してキリウの下水にゴブリン狩りに出かけたあの日が懐かしい。


 昔の事を思い出しつつ、ガチャガチャとマガジンの交換やコッキングの手順を自分の部屋で一通り終え、満足したので今度からこっち使おうなんて思いつつ室内の武器ロッカーに収めて鍵をかける。


 全部終わったので、さて紅茶でも飲もうかと思い後ろを振り向いたその時だった。


 自室の一角、光の当たらない闇の中。


 そこから満月のように丸い黄金の瞳が2つ、じっとこっちを見つめていたのである。


 なんだ物の怪か、と腰を抜かしそうになったが、よーく見てみると眉間の辺りに不鮮明ではあるが真っ白な前髪があり、俺と同じくハクビシンの獣人である事が分かる。


 もう誰だか俺には分かった。


「……ラム?」


 ててて、と名前を呼ばれた娘―――”ラムエル・ミカエロヴナ・リガロヴァ”はこっちに駆け寄ってくると、銃器の手入れを終えたばかりの俺に抱きついてきた。


 ラムエルはとにかく、ステルス性が高い。


 俺とカーチャの間に生まれた娘なんだけど、なんか俺にもカーチャにも性格が似てないのだ。口数は少なく、表情もほとんど変えないから何を考えているのか分からず、それでいて性格は自由気ままな猫のような存在。よくカーチャのところを離れては城の中を自由に散歩して寝落ちしたり、いつの間にか後ろにいたりするのでちょっとホラーである。


 容姿はたぶんカーチャに似たのだろう。カーチャは黒猫の獣人なので……ただ前髪に白い部分(ただし他の兄姉たちと比較するとかなり不鮮明)がある事と尻尾の長さ、ケモミミの形状から分類的にはハクビシンの獣人で良いんじゃないかな、という事にはなってる。というか肉球の形状が猫のそれではないのでハクビシン獣人という分類に間違いはない筈だ。


 とりあえずこの毛並みとステルス性なので、暗闇に逃げ込まれたら探すのが難しい。一応匂いを頼りにすれば探せない事はないが……ちなみにラムの体臭はコーヒーの香りである。何だコイツカフェインの擬人化か?


 座ったミカエル君の膝の上によじ登ってくるなり、そのまま身体を丸めて自分の長い尻尾を抱きしめる格好で寝息を立てるラムエル。すうすうと眠る愛娘の頭を撫でると、長い尻尾の先っぽで指先をモフられた。かわいい。


「ねえミカ? ラムこっちに来てな―――あらあら」


 娘を探して俺の部屋を訪れたカーチャにしーっ、とジェスチャーすると、彼女はニコニコしながらこっちにやってきて愛娘の寝顔をスマホで撮影し始めた。


「こういうところ、ミカに似たんじゃない?」


「俺に?」


「だってあなた、気を許した相手の膝の上でこうやってお昼寝するじゃない」


「……心当たりしかないわ確かに」


 じゃあこういう自由気ままなところは俺に似たんだろう……たぶん。


 うーん、子供ってわからんもんだ。




ヴォジャノーイ料理


 イライナとノヴォシアの一部地域に生息する魔物、ヴォジャノーイ。幼体は泥の中を自在に泳ぎ回る獰猛な肉食性で、成体も同じく危険な魔物として知られているが、同時にその脚の肉は珍味として知られており、イライナの郷土料理にも用いられている。


 主に串焼きやスープ料理に用いられる事が多い。味は鶏肉に似ているが牛肉や鴨肉のような旨味もあり、調理方法で味や風味も大きく変わってくる。中にはこの味を求めてわざわざイライナまで足を運ぶ美食家も多く、ヴォジャノーイはその恐ろしさとは裏腹に食材としての人気も非常に高くなっている。


 以下は調理例である。暇な人はイライナまで行って討伐して作ってみましょう。


 ヴォジャノーイスープの作り方


1

ヴォジャノーイを死ぬ気で討伐します(大体沼地とか泥濘に住んでいるので底なし沼に気を付けてください)


2

皮を剥ぎ、血抜きを行います(表皮には保湿のための粘液があり、また細菌などが生息しているので間違っても皮ごと調理しないでください。普通に死にます)


3

下処理を済ませたら包丁で微塵切りにします。クラスの嫌いなアイツとかSNSのクソリプを思い出してひたすら細切れにしてください


4

ミンチにオリーブオイルとイライナハーブを加え、ボウルの中でよくこねてください(駄々をこねる子供くらいの質感が理想です)


5

ねっとりした質感になったら一口サイズに丸めます


6

ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎを一口サイズに切って鍋一杯の水を入れ、沸騰するまで茹でます


7

ここでヴォジャノーイの肉団子を投入。制空権を確保し調子に乗る爆撃機のように思い切り投下してください


8

イライナハーブの葉を3つほど鍋に入れ、弱火にします


9

20分ほど火を通したらまあ大体完成です


10

お皿に盛りつけます。お好みでバターを添えてもいいかもしれません


以上、著者のパヴェルでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
パヴェルが料理本書いたら大体段階の1つ目は「死ぬ気で魔物を討伐or材料を採集」になってそうで怖いんですが あとミカエルさん、あなたアフリカあたりにマザーベース作って段ボール箱に隠れてどっかに潜入した…
まさかラグエル君がオセロットになってしまうなんて…射撃スタイルから一発であれを思い出しました。ミカエル君はビッグボス…ビッグ?いやリトルボスでしょうか(電撃) ポーランドのAKですか、これはまた珍し…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ