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ブリーフィング シモヴレフ家強盗計画

ラファエル君「牛乳たくさん飲めば身長伸びると聞いたので牛乳飲みます」

ラファエル君の骨「おうwwwカルシウムたくさんやwwwでもお前たぶん150くらいで成長止まるでwww」


血涙ラファエル君「 ど う し て 」


血涙ミカエル君「 や あ 息 子 よ 」


ミカエル君祖父「 わ し の 遺 伝 子 受 け 継 が れ て て 草 」



「いやぁ、まさかあのミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフ公爵が我が屋敷を訪ねてきてくださるとは。身に余る光栄にございます」


 親し気な笑みを浮かべながら、この屋敷の主人たる『ニコライ・アドリアノヴィッチ・シモヴレフ』伯爵は嬉しそうに言った。


 それに対し、こっちもまるで友人と再会したかのような笑みを浮かべつつ「いえいえ、そんな大した者ではございませんよ」と謙遜の言葉を投げ返す。


 シモヴレフ家はノヴォシア系の貴族だ。革命の香りを嗅ぎ取るや当時独立のためアップを開始していたいイライナへ早い段階で移住。イライナ独立を支持し独立派からの信頼を勝ち取った一族であるが、独立派からすれば”新顔”の部類だ。


 まあ、当時は姉上の強力なリーダーシップもあって貴族はまとめ上げられていたし、それは今でも続いていたのだが……崇高な理想に賛同してくれた貴族の1つがこのような事になってしまったのは、とても残念でならない。


「それで、本日はどのようなご用件で?」


「はい。実は近々、義務教育制度を現在の6年から9年に延長する法案の提出を考えておりまして」


「9年、ですか」


「ええ。6年で基礎を、追加の3年でより難しく、専門的な知識を子供たちに身に着けさせようと考えています」


「ふむ……しかしなぜ? 貴族ならばまだしも、平民までそのような事を?」


「伯爵、子供とは国の宝です。我らの次の世代を担う金の卵たち、神からの贈り物なのです。そんな子供たちがより高度な知識を身に着けていれば、彼らが社会に出た時に間違いなく大きな武器になるでしょう。優秀な人材の創出は国家の発展に繋がります。これはそのための”投資”であるとお考えいただきたい」


 相手の目を見て話しつつ、部屋の中を見渡した。


 警備兵の人数はそう多くは無い。さすがに公爵家ほどの資産は無いようで、警備兵の持つ武装も単発式のボルトアクション小銃にリボルバー拳銃、あとは銃剣くらいか。最低限の戦闘は出来るが、あくまでもそれくらいのものなのだろう。


 監視カメラ的なものは無いし、魔力センサーの類も見当たらない。巧妙に隠してある可能性も否定はできないが、この警備状況と資産から推し量るにあまり考えられない、と断じて良いか。一応調べはするが。


 顔には親しげな笑みを浮かべ、それっぽい立派な言葉を並べたてながら、その内心ではどう盗むかを考える……屋敷を出る時は復讐のつもりで始めた強盗だが、それも今やビジネスに、そして相手に経済的ダメージを与えるための”兵器”と化してしまっている。


 まさか反抗期の息子の仕返しがこんな形で実を結ぶとは。人生何があるか分からないものだ。


「いかがでしょう? 出来るのであればぜひとも賛同をお願いしたく」


「なるほど……未来への投資、確かに必要な事でしょうな」


「我が国は常に外敵の脅威に晒されています。備えは必要ですし、リュハンシク州領主としても子供たちにはより良い未来を残してやりたいものですから」


「分かりました。前向きに検討させていただきます」


「はい、是非ともよろしくお願いいたします」


「ご主人様、そろそろお時間が」


「ん」


 傍らに控えていたクラリスに耳打ちされ、腕時計を見た。


 11:00……この後は特に予定など無いのだが、クラリスもまあ随分と演技上手になったものだ。家では、特にギルドの仲間の前ではあんな調子のやべえ女、性欲の化身のような存在ではあるが外ではそんな事を微塵も感じさせない、如何にも”仕事のできるクールビューティー”といった感じの雰囲気を醸し出してるの本当に草生える。


「それでは伯爵、私はこれで失礼します」


「ええ。また今度、ゆっくりお茶でも飲みに来てください」


「ええ、その時は是非とも」


 では、と言い残し、クラリスと共に応接室を後にした。


 部屋の前を警備していた警備兵たちに敬礼で労いつつ、そのまま2人で通路を進んで人気のない場所へ。


 センサーもなく、見張りの兵士もいない事を確認してから近くの倉庫みたいな部屋の中へ。埃の香りがする部屋の中には清掃用具やら何やらが並んでいて、メイドたちが屋敷の掃除に使う道具を置いておく部屋なんだろうな、とぼんやり考える。


 さて、とクラリスの方を振り向くなり、彼女の身に着けているメイド服のロングスカートを掴んでそっとたくし上げた。


 紺色のメイド服の上から真っ白なエプロンを纏ったそれをたくし上げて露になるのは、むっちりとした健康的な、そして筋肉の詰まったクラリスの足。それが真っ白なタイツに覆われているのはなんともえっちなのだが、いきなり彼女のスカートをめくったのは他人の屋敷でやらかすためなどではない。


 白タイツで覆われたクラリスの太腿。そこにコアラのようにしがみついていた小柄な人物と、ミカエル君の目が合う。


「ぴえ」


 満月みたいに目を丸くしながらこっちを見ているのはもう1人のミカエル君ことルシフェル君。顔も髪型も、服装も何もかもが同じのほぼ同一人物とも言える彼女はクラリスのスカートの中からひょっこり出てくるなり、ケモミミをぴょこんと揺らして頭をかいた。


「お前何食ったらこんな作戦思いつくわけ?」


 そりゃあミニマムサイズなご主人様と色々でっかいメイドさんですし、普段からロングスカートを着用してるのでまあ……仕込めそうだよなって。スカートの中にミカエル君をさ。


 仕込みルシフェル君(迫真)。


「一日三食オークの肝食ってればこんな思考回路にもなるよ」


 試してみてね☆と頭にかぶっていた帽子をルシフェルにかぶせ、そんな同一人物×2のやり取りを今にも鼻血を吹き出しそうな顔で見下ろしているクラリスの顔を見上げ、頷いた。


 手筈通りに―――視線でそう告げ、天井にある通気ダクト目掛けて棚をよじ登っていった。錬金術を発動し金網を砂に物質変換、突入口を確保するなり通気ダクトの中に小柄な身体を滑り込ませる。


 傍から見れば、ミカエル君がクラリスを引き連れて屋敷から出ていったようにしか思えないだろう。しかしそのミカエル君は影武者で、本物はどさくさに紛れて屋敷の中に潜伏、セキュリティ情報やら何やらをごっそり抜き取っていくなど誰が思いつくだろうか。


 さて、偵察開始といきますか。


















「子供たちは?」


「寝たわよ」


 モニカに確認を取り、念のため子供部屋をチラリ。


 すうすうと寝息を立て、ベッドの上で眠る子供たち。


 ハクビシンの本能なのか、それともただ単にお兄ちゃんが大好きなだけなのか、みんなラフィーのベッドに大集合して寄り添い合って眠っている。みんな気持ちよさそうにしている中1人だけ弟妹まみれにされてるラフィーだけ寝苦しそうなのちょっと可哀そう。


 でもまあ……うん、強く生きてほしい。


 子供たちがみんな眠ってしまったのを確認し、スマホで妻たちに招集をかける。


 子供部屋を後にしてエレベーターのボタンを押し待っていると、ぞろぞろとクラリスやイルゼ、リーファにシェリル、それからカーチャまで集まってきた。


 彼女たちと一緒にエレベーターに乗り、リュハンシク城の地下区画へ。さすがに子供たちがトイレに起きてここまで来るとは考えにくい(地下には行っちゃダメと厳命している)のだが、まあ念には念を入れて戦闘人形(オートマタ)のメイドたちには子供たちが地下に行かないよう見張るよう命令しているし、カトレアにもラフィーたちが地下で親たちの裏稼業を覗き見る事が無いよう見張るように、とお願いしている。


 地下区画に到着するなり、地下にあるシャーロットの部屋へと直行した。


「やあやあ、待っていたよ皆」


 部屋の中でパソコンをタイピングしていたシャーロットが、椅子をくるりとこっちに回しながら言った。


 ついて来たまえ、と言うなり、近くの壁に埋め込まれた隠しスイッチを押すシャーロット。せり上がってきたパネルに20ケタくらいの暗証番号を入力すると、壁が音もなくスライドしてその奥に隠し部屋が出現する。


 シャーロットの研究室とは打って変わって、隠し部屋の中は何とも殺風景な場所だった。人数分のパイプ椅子と簡単な空調設備に照明、ホワイトボードにPCくらいしか物品が置かれておらず、一見すると何のための部屋なのかと判断に困るデザインをしている。


 そんな部屋の中でバケツみたいなでっかい缶詰を開封し、スプーンでイクラの塩漬けを頬張るソビエトオオヒグマの後ろ姿が見えれば真っ先に目につくというものだ。


「あれ、パヴェル」


「ん、ひはひふひ(久しぶり)」


 ノヴォシア辺りだとあのバケツみたいなサイズのイクラ缶が日本円でだいたい150円くらいで売ってるの軽くバグなんだよね……遠足のおやつは300円までって言われたらあのイクラ缶2つ持っていくだけで無双できるんだけど(?)。


 そういや今の小学生って遠足のおやついくらまでなんだろ。平成生まれミカエル君が小学生の頃と比較すると絶対物価上がってエグい事になってると思うんだけど。


 まあそれはさておき、だ。


「あれ、範三は?」


「 あ の 野 郎 ウ チ の 娘 と 温 泉 旅 行 行 き や が っ た 」


「Oh……」


 ラブラブですやんけ……え、いつの間にそんな関係進んだんだあの2人は。


 という事は範三は不参加か。まあ、元々あの人強盗には不向きなステータスしてるしなぁ。どっちかというと真っ向からの勝負で強みを発揮するタイプだよね範三は。


「とりあえず、本題に入ってもいいかな?」


 言いながらリモコンを操作するシャーロット。壁面にどこからともなく映像が投影され、そこには俺が彼女に提出したシモヴレフ家の警備状況やら見取り図が表示され始める。


「さて、ウチのらぶりーな旦那の調査の結果、シモヴレフ家の警備状況が明らかになった。警備は手薄、魔力センサーの類も無し。これは後日ボクが飛ばしたドローンのスキャン結果とも合致するねェ」


「楽勝じゃない?」


「ところがそうもいかないのだよモニカ君」


 映像が切り替わった。


 イライナ首都キリウの空撮写真。シモヴレフ家の屋敷が見下ろせるくらいの高度に達したかと思うと、屋敷とその近隣の憲兵隊の拠点がハイライト表示される。


「近隣には憲兵隊の駐屯地と派出所が確認されている。通報が入ればすぐに―――」


「ああ、それなら問題ないぞ」


 手を挙げ、パイプ椅子から立ち上がった。


「姉上から憲兵隊各位に根回しがあったらしい。”シモヴレフ家で何が起こっても対応しないように”ってな」


「……権力者が背後に居ると強いねェ」


 まあ、そりゃあウチの長女がイライナ公国の宰相という重要なポストに収まってるからねぇ……背後に国がいる強盗、というのもなかなか類を見ないと思う。


「とはいえノーガードというのも拙い。シャーロットはドローンを飛ばして常時警戒を」


「任せたまえよ」


「んで、潜入するメンバーはどうするんだよミカ?」


「俺は当然行くとして、クラリスとシェリルはマストで欲しい。あの戦闘力の高さは頼りになる」


「「ふんす!」」


「あたしは?」


「モニカも火力が欲しいから確定、あとはリーファとカーチャかな。カーチャはいつも通り狙撃で支援、リーファには破壊工作をお願いしたい。イルゼとパヴェルはサポートを」


「了解ネ。……で、破壊工作って?」


「シャーロット」


「ん」


 彼女に指示して映像を切り替えてもらう。


 俺が撮影した写真とは別に、彼女が後日飛ばしたドローンからの空撮写真が別のウィンドウで開いた。


「空調を管理する部屋が庭の中、この離れにある地下に存在する事が確認された。そこにある送風ファンを使って屋敷の中に新鮮な空気を送り込んでいるらしい」


「それで」


「ここに睡眠ガスを仕込んで屋敷の中に送り込んでほしい。全員眠ってしまっている間に突入チームが屋敷へ侵入、金目の物とノヴォシアとの繋がりの証拠を掴んで離脱する。上手く行けば戦闘無しで終わる仕事だ」


 今までの強盗と比較するとだいぶ難易度が下がる。楽勝と言いたいところだが、何が起こるか分からないし警戒はしておくに越した事はないだろう。


「姉上からは、獲得金額の3割を納めてくれれば残りの7割はこっちで好きにしていいらしい」


「お金ぇ↑!!!」


 普段よりも分け前の割合が多い。これはつまり、奮発してやるから確実に潰してこい、という姉上からのメッセージなのだろう。


 まあいい―――精々盗んでやろうじゃないか。


 裏切者には相応の罰が必要だ。


 分捕った金は、祖国のために有効活用させてもらうさ……。




ミスターX


 1880年代後半から1900年代初頭の約20年間の間にノヴォシア、イライナを震撼させた謎の連続強盗事件の犯人とされている人物。恐ろしく狡猾で、セキュリティの脆弱点を電撃的に突破し、時には音もなく金庫へと忍び込んで金品を盗んでいく事から、貴族や資産家などに特に恐れられた。その正体は100年経った2025年現在も判明しておらず、一種の都市伝説として扱われることも多い。

 基本的には貴族(特に悪徳貴族など)を標的とし、善良な貴族や庶民は決して標的とせず、また強盗に入る際は人質を取る事はあれど決して殺しはしないなどの義賊のような一面も持ち合わせており、一部の民衆からは支持される事すらあったとされている。


 最近の研究では【その正体はかのイライナ救国の大英雄、ミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフ公爵ではないか】とされている。小柄な体格という身体的特徴に加え、先進的な自動小銃を使いこなす技量、紳士的な態度、そしてジャコウネコ科獣人特有の身体能力の高さという点が一致している事、そして活動が本格化したのが1887年のリガロフ家で起こった強盗事件以降(つまりミカエルが”家出した時期と重なる)など、その証拠を裏付ける情報は多いのだが、しかし共産主義化後のノヴォシアで【レーニンとミカエルが会談中にミスターXの犯行が確認された】という情報も確かに記録されており、多くの捜査関係者や歴史研究家を悩ませてる。


 もしミスターXの正体が本当にミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフ公爵なのであれば、彼女がこの世界に2人居る事になるからである。

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― 新着の感想 ―
クラリスを用いたルシフェル君デリバリー。当のルシフェル君からも軽く引かれるあたり本当に手段を選ばない時のミカエル君は柔軟で引き出しが多いですね。警備システムがいい加減なのは周辺の憲兵隊を頼りにしてでし…
本編ももちろん面白いんですが!後書きの兵器とか人物、出来事の紹介のところでミカエルさん女扱いされてんのなんか泣けてくる
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