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クマさんからの依頼

ラーメン店『カーネル』


 イライナ公国リュハンシク州の州都リュハンシクに店を構える、イライナ発のラーメン店。中国式の拉麺ではなく日本式のラーメンを提供しているのが特徴。食材は93%が国産で、調味料は倭国とジョンファからの輸入で賄っている。

 こってり系のラーメンが多く、味噌や醤油、豚骨といったメジャーなものから、イライナ人の味覚に合わせた”ボルシチラーメン”などの変わったメニューまで幅広い。


 イライナ人からは非常に好評であり、連日のように行列ができるため厨房はいつも大忙し。中には地元の人だけでなく、リュハンシクから正反対の位置にあるヴィリウ州からわざわざやってくる貴族や美食家もいるのだとか。


 なお、ジョンファ人が彼の店を訪れた際、ラーメンと餃子とライスのセットを注文している客を見て脳がフリーズしたらしい。


「ぴえ」


 プゥゥゥン、と甲高い音を立て、ふわりと小型ドローンが飛び上がる。


 コントローラーを両手で抱え、スティックを倒したりしながら操縦しているのは、他の子供たちと比べると内向的で臆病な性格の息子―――アザゼル。


 シェリルとの間に生まれた彼は、いったい誰に似たのかと疑うレベルで臆病な子として知られている。遊ぶ時は基本的に家の中で本を読んだり、他の弟妹達と一緒におままごとをしたりとちょっと変わった子……と思っていたのだが、まあ5年の付き合いにもなればとんでもねえヘタレである事が分かってきた。


 夜は1人でトイレに行けないので常にシェリル(ママ)(パパ)同伴、同様の理由でホラーはダメ。虫が嫌いで廊下などで虫と遭遇すると「ぴえー!!!」と泣き叫び、お風呂では泡が目に入って痛いからとシャンプーハット必須。あと日の光が嫌いらしい……吸血鬼か何か?


 などとまあ、大丈夫かなこの子……と心配になってしまうのだが、しかしそんな彼は早くも才能の片鱗を見せつつあった。


 アザゼルはよく、機械弄りをしている。


 だいぶ前にパヴェルが城を訪れた際、彼の機械の手足に興味を持ったらしい。やっぱりアザゼルも男の娘(※誤字にあらず)、精密なメカが動くのにロマンを感じずにはいられなかったのだろう。それからというもの、俺が拾ってきたスクラップから自分で遊ぶためのおもちゃを作ったりしていたのだが、段々とそれはエスカレートしていき、ついには家電を修復したり電気回路を弄ったりと、エンジニアの卵へ進化していった。


 そしてついに今日、スクラップで造った自作のドローンが初飛行を果たしたというわけである。


「と、飛んだ……! 飛んだよパパ!」


「すっげ……」


 息子を褒めるよりも先に、驚きが前に出た。


 まだ5歳の子供が独学で電気回路や機械工学を学び、スクラップから飛行可能なドローンを自作してしまったのである。小さい頃の経験は大きくなっても色濃く残るので、とりあえず子供が興味を持った事はやらせてみるというのがリガロフ家の教育方針なのだが、このままいけばアザゼルはシャーロットみたいなエンジニアになるかもしれない。


 それか凄腕のドローンオペレーターか。


 何を思ったか、コントローラーのスイッチを捻ってドローンを自律モードに。そしてコントローラーを俺に預けると、アザゼルはドローンの機体下部から伸びるアームに手を伸ばしてそのままぶら下がり始めた。


「見てパパ! ボク飛んでる!」


「あーこらこら、危ないからやめなさい。怪我するよ」


「ぶーん!!」


 自律モードに切り替わったドローンにぶら下がり、はしゃぎながら束の間の空の旅を満喫するアザゼル。楽しそうな我が子の顔を見るのは良いのだが、しかしああやってドローンにぶら下がるのは想定してないだろうし……。


 やめなさい、と止めるも時すでに遅し。バランスを崩したドローンが壁に激突するなりアザゼルも壁に叩きつけられ、そのまま床に尻もちをついた。


 両目をビー玉みたいに丸くしながらこっちを見てるアザゼル。じわ、とその目元に涙が滲み始める。


「ほらぁ、言わんこっちゃない」


「ぴえ……ぴえー!!!」


「あーもう、よしよし。ほら、痛いの痛いの飛んでけー」


「ちょっとあなた、この騒ぎは何?」


 息子の泣きわめく声を聴きつけたのだろう。子供部屋のドアを開けて入ってきたシェリルは、泣き喚きながら俺にしがみついてるアザゼルと、壁に激突して擱座しているドローン(スクラップ製)を見て何となく事情を察したらしい。


 ちょっと呆れたような顔になりながらもこっちにやってきて、ぴえー、と泣いているアザゼルの頭を優しく撫で始めた。


「そう、今度はドローン作ったのね」


「ぴえっ、ぴえっ」


「すごいわアザゼル。大きくなったらシャーロット博士みたいな科学者になれるかもね」


「……にゃぷ」


 褒められてご満悦のアザゼル君。切り替え早いなコイツ。


 もっと褒めて、と言わんばかりにピコピコ動くハクビシンのケモミミ。母親に評価されてやっぱり嬉しいのだろう。


「……ちなみに、何でドローンを作ろうと思ったんだ?」


「ええとね、これがあればボクの代わりに道具とか取ってきてくれるし、お城の外に出なくてもいいかなって思って」


 コイツ引きこもる気だー!!!


 え、ちょっ、待っ……え、What?


 息子の口から語られたとんでもない動機に、俺もシェリルも目を丸くしてしまう。


 要するにあれか、最終的にはドローンに身の回りの世話を全部任せ、自分は部屋に引きこもるようなブルジョワレベル9999みたいな生活を堪能したい、と。


 いやあの、それは……ねえ?


 子供の意思は尊重したいけれど、しかし仮にもアザゼルはリガロフ家の子。公爵家に名を連ねている以上、いつかは素敵な女性と結婚しなければならない。いや、本人がどうしても嫌だというのならば某アルティメットド底辺レーズンジジイや某お見合い強制☆レーズンババアみたいに無理矢理お見合いとかさせないけどさ……こう、少し貴族としての自覚も持ってくれたらパパ嬉しいな……って思うんだけども。


「やあやあアザゼル君! 今日はドローンを作ったんだって!?」


 ひょこ、と天井の通気ダクトから逆さまに顔を出すシャーロット博士(本体)。神出鬼没で自由気ままな彼女の振る舞いに目を丸くする俺とシェリルとは逆に、アザゼルは「はかせ!」と目をキラキラ輝かせている。


 とうっ、とダクトから飛び降り着地するシャーロット。駆け寄ってきたアザゼルを優しく撫でると、擱座したドローンを拾い上げてまじまじと眺め始めた。


「どう、どう!?」


「んー、初めて造ったにしてはよくできているねェ。ただ持ってみた感じ、機体の重量にローターの出力が足りてないようにも思える。もっとパワーを上げるか、機体の軽量化を図った方がいい……といっても、正規の部品ではなくスクラップで造ったのであれば十分に合格だよ。キミは技術者の才能があるようだねェ。どう、ボクの助手にならない?」


「なるー!」


「ちょっとシャーロット、いいんですか?」


「こんなにも興味と技術を持っているんだ。伸ばさないのはもったいないだろう?」


「むふー」


 ふんす、と得意気に胸を張るアザゼル。


 シャーロットがこんなにも彼に親身になって接しているのは、まあ……機械の肉体であるが故に子を生めない、という彼女の出自も関係しているからなのだろう。多くの障害を抱えた生身の肉体を捨てて機械の身体を手に入れた、その対価がめぐりにめぐって今を直撃しているのだ。


 シェリルも彼女のそんな背景をよく知っているから、あまり強くは言わない。むしろ、仕事で城を空けている間のアザゼルの世話をシャーロットに任せたりする事も多い。


 何人も妻が居るので、お互いに育児を助け合っているのが実情だ。


「失礼いたします」


 ひょこ、と天井の通気ダクトから顔を出すクラリス。フツーにドアから入ってきなさいドアから。


 何、通気ダクトから入ってくるの流行ってんの? 今年の流行なの? ねえ???


 まさか天井から今度は長身巨乳蒼髪竜人メイドの人妻という性癖の過剰積載みたいな人が降りてくるとは思っていなかったらしく、今度ばかりはアザゼルが泣いた。


「ぴえー!!!」


「あっ、ごめんなさい……」


 アザゼル君、人見知りなのである……。


 本当に、本当の本当に、心を許した相手にしかまともに相手をしない。加えてコミュ力が絶望的なまでに死んでいる……本当に大丈夫かなこの子。パパ心配になってきたよ。


「ごほん。ご主人様、パヴェルさんからお電話が」


「電話?」


 アイツスマホ持ってるだろうに、わざわざ家電(城電?)にかけてくるって随分古風な。


 何か意図でもあるのか、と思いつつこの場をシェリルとシャーロットに任せて、クラリスに導かれるままに書斎にある電話まで。


 書斎では戦闘人形(オートマタ)のメイドが、表情一つ変えずに受話器を手にして待っていた。彼女から受話器を受け取り耳に押し当て、「はいミカエル君だにゃん」とちょっとふざけて応じた。


《……よう、首輪付きィ》


「切るぞ」


《だぁーっ待った待った!》


「いきなりネタをぶっこむな、胸焼けする」


《お前胸焼けってソレ逆流性食道炎を疑った方がいいn》


「切るぞ」


《待ってゴメン、マジで待って俺が悪かった!》


 何だコイツ。


 いや、俺がちょっとふざけて応じたのが悪かったのか。まあいいや、とりあえず本題に入ってくれ。


「で、用件は」


《―――ちょっとお前に仕事を頼みたい》


「……詳しく」


《2人だけで話せるか》


 人払いしろってか。


 ちょっと席を外してくれ、とクラリスに目配せするなり、彼女は俺の意図を読み取って戦闘人形(オートマタ)のメイドを下がらせた。自分も退室する前にロングスカートの裾をつまみ上げて深々とお辞儀をし、部屋を離れていく。


 人払いさせる要件って事は、間違いなくろくでもない案件であるに違いない。


 何だ、ノヴォシア関連か。それともテンプル騎士団の残党が居ました、とかそんな案件じゃないだろうな……嫌な予感に限って的中するからホントやめてほしいものである。


 腹を括りつつ「いいぞ、話してくれ」と告げると、パヴェルは本題に入った。












《セシールがな、今度仲間と仕事をするという情報を掴んだ》













 ずだーん、と昭和のギャグマンガみたいなノリで盛大にずっこけた。


 お前、お前っ……あんなシリアスな空気醸し出しておきながら娘の色恋沙汰に首を突っ込む親父ムーブやめえや。


「……い、いいんじゃないの別に」


《よくない。ミカ、お前は何もわかってない。エロ同人で何を学んだ》


「エロ同人で何を学べと」


《よくあるだろ。女の冒険者を悪い男が騙して一服盛ってそのまま宿屋なり山小屋に連れ込んで青少年には刺激が強いあーんなことやこーんなことを……》


「現代人のモラルをエロ同人と同じにするんじゃねえ」


《とにかく、セシールが冒険者とパーティーを組んで仕事をするという情報を掴んだ。お前にはそれを見守って、セシールがマジでお持ち帰りされそうになったら救出してほしい!》


「別に男って限らないだろ」


《いーや限るね。あんな香水使って最近なんか化粧にまで気を遣うようになったんだ。ありゃあ男だ、男が出来たって証拠だ。俺の鼻に生息してる二頭身パヴェルさんも全会一致でそうだそうだって言ってる》


「二頭身パヴェルさん」


《とにかくセシールを見守ってほしい。んで男だったら俺に知らせろ》


「知ってどうする」


ぐ》


「何を!?」


《決まってんだろアレだよ。二度と俺の娘で興奮出来ないようにしてやる。心と身体に一生消えない傷を刻んでやるぜジュテェェェェェェェェェム》


「怖い、怖いよこのクマさん! ママ―!!」


《やってくれたら冬に出す新刊とアクスタ特典込みでプレゼント》


「よっしゃやりますやらせてください」


《コイツ男を売りおったぞ》


「俺の男みたいな言い方すんなや」


「え、ご主人様に男が!?!?!?!?」


「ほらもぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 ガチャ、と部屋を開けて中に入ってくるなり鼻息を荒くしながら「どちらが攻めでどちらが受けですの!?」とか聞いてくるクラリス。聞いてたんかコイツ……。


 なんかもう、収拾がつかなくなってきたんですが大丈夫ですかねコレ。


 とりあえずまあ……うん。薄い本のために男を売ります、俺。


















「で、お前も来たのね……」


「なんか面白そうだし?」


 アキレス腱を伸ばしながらニコニコしているモニカ。その隣ではモシンナガンM1944(※独自改造で10発入りの拡張マガジン装備)に実弾を装填してから、なぜかついて来たクラリスが俺に銃を渡してくれた。


 ソ連製の銃剣付きカービンを受け取り、はて、これセシールを見守るだけの簡単なお仕事だよね、と困惑する。なんでボルトアクションライフル装備してるんだろうか俺ら。まさかこれでセシールを狙う悪い虫を撃て、というわけじゃないよね。違うよね?


「他人の色恋沙汰には積極的に首を突っ込むと楽しいって、二頭身モニカちゃんたちが」


「二頭身モニカちゃん」


 私服姿に弾薬用のポーチ、それからナイフと触媒用のホルダーを装備した軽装のモニカもモシンナガンM1944を受け取って、スリングに肩を通しライフルを背負った。


 いつもはメイド服姿のクラリスも今回は私服姿……というか彼女、仕事用のメイド服と迷彩服以外にマジで私服を持っておらず、今回もマルチカム迷彩のコンバットパンツに黒のタンクトップ、その上からポーチを装備しているというなんともラフな格好だ。


 男がやるなら別にいいのだが、クラリスは仮にもGカップ。歩く度に揺れるご立派なおっぱいは周囲の男性冒険者たちの目を見事に釘付けにしており、悪い意味で目立ってしまっている。


「お前、服装もっとマシなの無かったのか」


「動きやすさを追求しました」


「動きやすいだろうけど周りの目のせいで動きづらいわ」


 どうすんのよコレ……でもまあ、今更帰って着替えてる暇もないし。


 まあいいや、このままお仕事しましょ。


 薄い本とアクスタのために。



 

イライナの変な法律その2

『唐揚げにレモンかけるの禁止法』


 転生者が持ち込んだレシピや食習慣に加え、ジョンファや倭国とも交流が増えた事から、イライナ国内でも唐揚げを目にする機会は多くなった。しかし主に飲み会の席などで、大皿で運ばれてきた山のような唐揚げにレモンをかけたことでトラブルになる冒険者が後を絶たず、無駄に大量の請願書が届いた事からイライナ議会は困惑しながら本法案を審議し可決された。

 

 要するに『大皿に唐揚げが乗った状態で』レモンをかける事を処罰する法案であり、事前に同席者の承諾を得るか、小皿にとってからレモンをかける事が推奨される。


 ……なんでこんな法案が成立してしまったのだろうか(困惑)

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― 新着の感想 ―
アザゼル君…君もドローン移動を発見してしまったのか… これにはシャーロットもにっこりですね。 違う意味で(助手として)お持ち帰りされそうなぐらいには。 さて、パヴェルさん、やっぱりミカエル君に頼むんで…
アザゼル君は機械関係に尖った才能を発揮しましたか。ある意味ではシャーロットの後継者かもしれませんね…ドローンを多数使いこなし引きこもりって、寧ろそのオペレーティングだけですごい才能なんですが。とはいえ…
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