表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

892/980

変革の号砲

演習中ミカエル君「リロード!」

演習中クラリス「援護します!」

演習中モニカ「弾幕弾幕弾幕ゥ!!」


疲労困憊ミカエル君(あれ、グレネード投げる時なんて言うんだっけ)

手榴弾「安全ピン外れたで、はよ投げや」

疲労困憊ミカエル君(あ、そうだ)


錯乱ミカエル君「 テ イ ク ア ウ ト ぉ ! ! 」


血盟旅団各位「!?!?!?www」





ナレーター「仲間の腹筋を破壊するミカエル君であった」


 ぽつ、ぽつ、と雫が石畳に落ちる。


 まだ温かく、鉄のような臭いのする紅い雫。


 ヒトが誕生したその日から、それ以前では生命がこの惑星に誕生した日からその肉体の内を流れていた血潮。永い永い生命の歴史の中で、これまで流れてきた血の総量はいったいいくらくらいなのだろうか。歴史を振り返れば戦いに明け暮れてばかりいる人類の事だから、そろそろ地球全域を水没させられるくらいの量になったのだろうか?


 そんな事を考えながら、石畳から伸びる竹林のような槍衾に串刺しにされた死体たちを見上げた。


 地獄には、罪人をこのように串刺しにして責め苦を与える針山があるという。じゃあここで串刺しにされている兵士たち―――白軍の兵士と赤軍の兵士は、なにか悪い事をしたのだろうか。


 それは分からない。中には罪を犯してそのまま兵士になった奴もいるかもしれないけれど。


 心の中で短く、彼らの魂にせめて安らぎが訪れますようにと祈った。


 乗り捨てられている車の運転席をピッキングでこじ開け、雷属性の魔力を使って発生させた電撃でエンジンを強制始動。座席を限界まで先進させつつメニュー画面を召喚、C4爆弾を8つほど呼び出してダッシュボードの中に詰め込んだ。


 サイドレバーを解除、ギアを入れて半クラの状態からアクセルを踏み込んで、誰のものかも分からぬブラウンのクーペを急発進させる。


 パパン、パパン、と至る所で銃声が聴こえてくる。交差点では赤軍の猛攻を受けたらしいカマキリ型の戦闘人形(オートマタ)が、その蟹みたいに鋭い脚で数名の赤軍兵士(私服姿にポーチやヘルメット、銃を装備しているから分かりやすい)を串刺しにしながらうつ伏せの状態で擱座していた。弱点の頭部を至近距離で撃ち抜かれたようで、人間でいううなじの部分にはライフル弾で穿たれた弾痕が十重二十重に刻まれている。


 何気なくカーラジオをつけたが、放送内容は同じもののループだった。愛国心を煽る軍歌をBGM代わりに、施錠し外出を控える事、赤軍への協力は絶対にしない事を伝えるアナウンサーの声が何度もリフレインしている。


 チャイルドシートが欲しいな、と自分のミニマムサイズっぷりを呪っていたその時、ずん、と金属音と共に車が揺れた。


 見なくても判る―――窓をぶち破って車のルーフをがっちりと鷲掴みにしている蟹のように尖った脚。白軍のカマキリ型戦闘人形(オートマタ)だ。


 弁え知らずのそいつが小癪にもフロントガラス越しに運転席を覗き込んできたので、俺は表情一つ変えずにPAK-9を引き抜いて銃口をアリクイみたいな顔面に突き付けてやった。


「頭が高い」


 公爵の前だぞ、こうべを垂れろ。


 ガンガンガン、と3発ほど9×19mmパラベラム弾の強装弾を叩き込んだ。装甲の繋ぎ目、あるいは複眼のために装甲に穿った穴の部分から機内に飛び込んだ弾丸が制御ユニットの中枢部を直撃し、頭を潰されたカマキリ型戦闘人形(オートマタ)が動かなくなる。


 そのまま力尽きたカマキリを乗せたまま爆走する盗難車クーペ。今度は何でもかんでも平等だの何だのと他者へ平等を強制するのが大好きな思想の赤い兵士の一団が銃撃してきた。ライフル弾で撃たれ続けているのも申し訳ないなと思い、お返しに彼らの目の前でアクセル全開、インド人を右に。


 ミカエル君は愛国者なので右にしか曲がれないのだ(※大嘘)。


 ともあれそんな急カーブをキメたものだから、遠心力でルーフに乗ったままだったカマキリ型戦闘人形(オートマタ)が振り落とされ、その質量がそのまま赤軍の兵士たちへと牙を剥いた。


 短い悲鳴と肉の潰れる音。


 出て来なければやられなかったのに。


「パヴェル、パヴェル、まだいるか」


《いつでもお傍に》


「リクエストだ。駅前にMOABの投下をお願いしたい(デリバリーを頼む)


《了解》


 皇帝陛下(ツァーリ)の亡命を支援するため、駅前には白軍の大部隊が集まっている筈だ。


 使うならば今が好機であろう―――そう思いながら遥か頭上を見上げると、白い雲の切れ間に漆黒の翼が踊るのを確かに見た。後部ハッチの追加や武装などを施した、特務仕様のAn-225の姿だった。


 その後部ハッチからパラシュートが伸びたかと思うと、金属製のパレットに乗った”何か”が勢いよく機内から躍り出る。やがてパレットから分離した巨大なミサイルを思わせる物体が、ついにはパラシュートすらも切り離して、真っ直ぐに駅前広場目掛けて落ちていく。


 ―――【MOAB】。


 アメリカが開発した超大型爆弾であり、核兵器を除く通常型の爆弾の中では最強の破壊力を誇るとされている。


 駅前は人口密集地であるものの、既にシャーロットの観測により住民の避難が完了している事は確認済みだ。民間人を巻き込む心配はない。


 MOABの姿が建物の影に隠れた瞬間、俺は片手でハンドルを握りながら空いた手と肩を使って耳を塞ぎ、口を思い切り開けた。衝撃波から内臓を守るためだ。


 それから何が起こったのか、一瞬だけ分からなくなった。紅い閃光が周囲を駆け抜けたかと思いきや、周りの建物という建物の窓が割れ、日の光を浴びてダイヤモンドダストのようにキラキラと輝きながら大地へと降り注ぐ。


 その中を車で突っ切り、駅前へと出た。


 駅前広場はなかなか無残な状況だった。


 先ほどの爆発があまりにも凄まじかったようで、駅前の建物には折れたカマキリ型戦闘人形(オートマタ)のブレードや装甲の一部などが深々と突き刺さっている。少し離れたところの建物の壁面には生焼けの肉片のような物がへばりついていて、あの爆発で吹き飛ばされた人体の一部があんなところまで飛んだのだ、と理解するには2秒ほどの空白を要した。


 けれども、空爆のみで地上の敵を完全に殲滅する事は困難である、とよく言われている。


 どれだけ強力な爆弾を投下して、ミサイルを撃ち込んで、自爆型ドローンの群れを突入させても、敵の歩兵というのは強かだ。塹壕や遮蔽物、トンネルのような構造物を上手く利用してやり過ごし、生き延びている。


 だからきっと、高度なロボットの兵士が実戦投入されるその日までは銃を持った歩兵が戦場から姿を消す事はないのだろう。


 あらゆる軍事分野での専門家が口をそろえて言うように、あのMOABの投下を以てしても駅前の敵はまだ残っていた。混乱から辛くも立ち直った兵士の一団が、三脚に据え付けた水冷式重機関銃をこっちに向けてコッキングレバーを引き初弾を装填。ガガガ、と曳光弾混じりの8mm弾を射かけてくる。


 身を屈めて攻撃から身を守りつつ、使用済みのSTANAGマガジンをアクセルに引っかけて固定。運転席のドアを開け放つなり、身長150㎝のミニマムボディを車外へと躍らせた。


 人体の一部や金属片、木片にレンガの欠片など、あらゆる破片が散らばる石畳の上をバウンドしながらも転がるミカエル君。ごしゃあっ、と金属の塊がめり込むような音が響き、それが何をもたらしたのかをこの目で見るよりも先に、俺はポケットから取り出したスマホの画面をタップしてC4爆弾を起爆させた。


 車のダッシュボードに夢と希望と一緒に詰め込んだC4爆弾が一斉に起爆。設置された重機関銃とカマキリ型戦闘人形(オートマタ)の残骸の乗り上げる形でスタックしていたクーペが派手に大爆発を起こし、車から飛び降りたミカエル君を撃ち殺そうと銃撃を加えてきた敵兵たちを豪快に吹き飛ばす。


 断面から千切れた腸を覗かせながら、人間の上半身がすぐ隣にどさりと落ちてきた。口元に髭を生やした恰幅の良い親父さんで、きっと家に居れば笑顔の似合う頼りになるお父さんだったんだろうな、とついつい考えてしまう。


 ―――赦さなくていい。


 スマホをポケットに押し込みながら立ち上がり、AKをCクランプ・グリップで構えながら前に出た。


 ふらつきながらも起き上がる敵兵の頭に5.56mm弾のセミオート射撃を叩き込み、銃剣突撃してきた敵兵を躱してマズルアタック、たまらず転倒した敵兵の眉間に弾丸を射かけて黙らせる。


 ―――恨んでくれていい。


 瓦礫の山を押し退けて、片腕だけになった半壊状態のカマキリ型戦闘人形(オートマタ)が姿を現す。特徴的な複眼型センサーを疎らに点滅させながら襲い掛かってきたソイツの無造作な一撃を回避して銃撃で反撃。仕留めきれないと判断するなり、剣槍を頭部に突っ込ませて制御ユニットを強制破断。擱座へと追い込む。


「Чёрт, чёрт! Это что, монстр!? Мои атаки ни во что не попадают!(くそ、くそ! なんだこいつは!? 攻撃が当たらない!)」


 ノヴォシア語で悪態をつきながら銃撃してくる兵士が、しかし次の瞬間横合いから飛来した剣槍に首から上を持っていかれ、物言わぬ肉の人形へと姿を変えていった。


 こんな姿、子供たちには見せられないな―――敵兵を撃ち殺しながら、正直にそう思う。


 ウチの子供たちに限った話じゃあないが、彼らは戦場で戦う兵士をおとぎ話の騎士か何かとはき違えているように思えてならないのだ。


 戦場で敵をやっつけて帰ってくる兵隊さんはヒーローだとか、そう思っているのだろうか。


 現実を見せたら、きっと子供たちは幻滅するはずだ。けれどもいつかは直視させなければならない。現実と向き合わずに生きていけるほど、人生は甘くは無いのだから。


 俺にしてもそうだ。敵は出来るだけ殺したくない―――いずれ手を血に染める覚悟はしていたつもりでも、それを実行するのには随分と時間がかかったし、今となってしまっては何十人、何百人、何千人も手にかけても、見た目だけは平然としている自分が恐ろしくなる。


 ガギ、とエジェクション・ポートに薬莢が噛み込んでAK-19が沈黙した。排莢不良だ。


 こんな時に、と歯を噛み締めつつ、とりあえずリカバリーは後回しにして右手をグリップから離した。そのまま腰の右にある特注ホルスターへと手を伸ばしサイドアームのPAK-9を引き抜き伸縮式ストックを展開。銃撃してくる敵兵をPAK-9で撃ち殺し、安全を確認してからストックを地面につけてコッキングレバー目掛けて踵落とし。エジェクション・ポートに噛み込んでいた憎き空薬莢を強制排出して復帰、武器を持ち替え駅構内へと踏み込む。


 駅前にはMOABの爆発で横転した帝室専用車もあった。ということは、既に皇帝(ツァーリ)は駅に到着しているという事だ……急がなければ取り逃がしてしまう。


 暗殺まであと一歩、されど亡命成功まであと一歩とあっては、相手方も力が入るというものだ。


 駅の正面入り口から改札口を望むと、無数の銃口がこっちに向けられていた。


 銃剣付きのボルトアクションライフルを手にした歩兵の隊列―――水冷式の重機関銃もある。


「Дуже люб'язно з вашого боку влаштувати для мене вітальну вечірку(気が利くじゃあないか。俺のための歓迎パーティーとは)」


 銃口を下げ、と呟く。


「……Зійди з дороги(……どけよ)」


 敵兵たちの銃口が一斉に火を噴いた。


 磁力を受けた弾丸たちが水に弾かれる油のように逸れ、ドーム状に展開した磁力防壁の輪郭をなぞるように周囲を滑っていく。どれだけボルトアクションライフルが一斉射撃をしても、水冷式機関銃が掃射を始めても結果は同じだった。


 次の瞬間だった。床から生じた無数の大槍が、待ち構えていた兵士たちを一人残らず串刺しにしてしまったのは。


 心臓を、眉間を、喉元を串刺しにされ、自分の身に何があったのかすら理解できぬまま絶命した兵士たち。


 竹林さながらに乱立する槍の間をすり抜けつつ、AK-19を背負い、代わりに背中に背負った布製のバックパックから2つに分割された砲身を取り出す。


 RPG-29の砲身を連結するなり、砲身を一旦脇に挟んで砲身後部からサーモバリック弾頭を装填。炸裂と同時に周囲の酸素をごっそり奪いつつ、爆風と衝撃波で全てを薙ぎ払う強烈な代物だ―――少なくとも、閉鎖空間に立てこもっている時に使われたくない兵器第一位である。


 ミカエル君の身体にはあまりにも大きなRPG-29を担ぎ、改札口からホームへ上がっていこうとすると、先ほどの攻撃を生き延びたと思われる若い兵士と目が合った。


 震える手で拳銃をこっちに向けながら、歯をガチガチと鳴らし今にも泣き出しそうな顔で俺を見ている。


「...Я тебя не убью, если ты уйдёшь сейчас(今すぐ立ち去るならば殺さない。どうするかはお前が決めろ)」


 イライナ訛りのノヴォシア語で告げると、兵士は拳銃を投げ捨てて、何度も転びそうになりながら走って逃げていった。


 ……それでいい。


 彼が逃走を選んでくれた事に少しだけ救われながら、ホームへ続く階段を登っていく。


 一歩、また一歩。


 磨き抜かれた大理石の階段を登る度に、クラスメイト達の顔が脳裏を過った。


 階段を登り切り、RPG-29の砲口を向こうのホームに停車中の帝室専用列車―――分厚い防弾ガラスで守られている皇帝専用車両へと向ける。


 窓の向こうに、見慣れた女帝の姿が見えた。


 皇帝カリーナ。


 俺に竜殺しの英雄(ドラゴンスレイヤー)の称号を与えた皇帝にして、テンプル騎士団の傀儡たるを望んだ相手。そしてアンドレイ達を死へと追い立てた張本人。


 大国の指導者らしく落ち着いた佇まいの彼女も、しかし窓の向こうでロケットランチャーを構える俺と目が合うなり、目を見開いて驚愕したような仕草を見せた。


 そういえば、澄ました顔以外の彼女の表情を初めて見たかもしれない。


 慌てる皇帝カリーナに左手で敬礼し、照準を合わせる。


「……アンドレイ、俺からの手向けだ。あの世でも陛下と仲良くな」


 引き金を引いた。


 ドン、とバックブラストが後方にあったベンチを吹き飛ばし、発射されたサーモバリック弾が皇帝専用車両へと迫る。それに先立って剣槍が車両へと突入、分厚い防弾ガラスに大穴を穿ち突破口を形成する。


 大槍が築いた花道を、サーモバリック弾頭は我が物顔で通過していった。


 照準器の向こう―――発射したサーモバリック弾頭が、確かに皇帝陛下(ツァーリ)の首を刎ね飛ばすところを、俺は確かに見た。






 このミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフは、皇帝(ツァーリ)を殺したのだ。





大東亜共栄圏(1914年~)


 極東戦争に勝利し国際的地位を確固たるものとしたジョンファ、コーリア、倭国の3ヵ国が提唱した東アジアの巨大経済圏構想。列強諸国の植民地とされている中小国を呼び込み経済面、安全保障面において団結することで列強国に対抗しようという構想から生まれ、1914年に3ヵ国が設立を宣言。本部を台湾に設置し本格的に始動した。

 経済面だけでなく軍事面においても連携を取る事となっており、組織としては極東におけるNATOとも言える。結果、加盟を希望する国々は次々に宗主国からの独立を宣言し大東亜共栄圏へ加盟。1920年までの6年間でその規模は爆発的に拡大した。

 しかし宗主国から見れば植民地の独立は面白いものではなく、幾度か大東亜共栄圏と軍事衝突も起こっている。1916年にネーデルラント王国が、1919年にフランシス共和国が独立阻止のために軍を派遣したが、倭国やジョンファ、コーリアの支援(武器、弾薬提供並びに派兵)を受けた植民地側がことごとく勝利。これを皮切りに東アジア地域で独立ラッシュが始まる事となる。


 1945年に名称を『大東亜安寧保証機構』へ解消。戦後に勃発した冷戦では資本主義陣営にも共産主義陣営にもつかず、第三勢力として各方面に睨みを利かせながら静観を貫いた。


 各国との緊密な経済支援などのほか、パスポート無しでの各国の往来なども可能となっている。また、本部のある台湾はアジアの交易の中枢としても機能しており高度に発展。ジョンファはこれを『新時代のシルクロード』と位置付けている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
元々ミカエル君は戦闘力に極めて優れた成長を果たしていましたが、今回はヒートホーク力也氏とは別ベクトルで一切の慈悲も容赦もなくそれを行使してますね。立ち塞がるなら効率的にそれを排除する、殺すと決めた目的…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ