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機械仕掛けの英雄

ミカエル「軍隊のおバカエピソードって聞いてるとほっこりするんだけど何かないかなパヴェル?(圧)」

パヴェル「何だよ急に」

血涙ミカエル「なんか俺の曇らせ展開の足音が聴こえてくるからこう、後から思い出してクスってなるような話が欲しい。プリーズフォアミー」

パヴェル「うーん切実」


パヴェル「……軍事パレードで行進してたら花束持った子供が走ってきて花束くれたから、その子そのまま抱き上げて行進したらテンプル騎士団広報部がそれを切手にして発行しちゃって、トドメにその子が俺の後を追ってテンプル騎士団特戦軍に志願入隊してきて奇跡の再会果たした」


モニカ「フツーに良い話じゃん」

カーチャ「……あれ、笑えるオチは?」

パヴェル「ないです」



パヴェルの現役時代のぶっ飛びエピソード

・敵の砲撃の降り注ぐ中ずっとジャズを聴いていた

・妻に無断で似顔絵をSNSにアップしたらバズって絵師の仕事を貰った

・本業スペツナズ指揮官、副業絵師・ゲーム実況者(顔出し声出し配信)

・ゲームのプレイ動画がテンプル騎士団広報部のPR動画の再生数を一晩で抜いた

・テンプル騎士団を舞台にした映画やドラマに本人役でカメオ出演した事がある


 大地が弾けた。


 バババババン、と爆竹を一斉に鳴らしたような爆発が連鎖して、アンドレイよりも前を走っていた兵士たちの肉体が粉々に砕け散る。腕が、脚が、内臓が、生首が吹き飛んで、血の滲んだ泥が飛び散った。


 ごう、と頭上を何かが通り抜けていく。


 大型の鳥のようにも見えるが、違う。


 頭上に大きなプロペラを持ち、翼に武装らしきものをぶら下げた機械の猛禽。空を飛ぶ機械などアメリア合衆国で研究中であり、実用化の目途は立ったがまだ開発中であると聞いていたが、イライナではもう既に実用化したというのだろうか。


 黒く塗装された機械の猛禽たちが空中で旋回。機関銃のような物を搭載した機首をこっちに向けたかと思うと、そこから火を噴いた。


 Mi-24”スーパーハインド”の機首にマウントされた23mm連装機関砲と、スタブウイングに搭載された23mm連装ガンポッドの掃射を受けた兵士の肉体が、原型も留めぬほど無残に破壊されていく。


 人間の肉体とは実に脆い―――5.56mmの風穴を穿たれただけで、当たり所によってはいとも容易く死んでしまうのだから。


 それよりも大きな質量と運動エネルギーで迫る”砲弾”を受けて、無事で済む道理もない。


 銃弾を撃ち込まれた熟れたトマトのように人体が弾け、地面が紅く染まっていく。


 劣勢の彼らを追い立て、揺さぶりをかけるためなのだろう。蟻の隊列を踏み潰す子供のように襲い掛かってくるスーパーハインドたちは皆、機外スピーカーからベートーヴェンの『歓喜の歌』を大音量で流しているようだった。


 美しい男女のコーラスと伴奏、歓喜を歌う荘厳な歌詞とは裏腹に、しかし地上で行われるのは虐殺という言葉すら生温く感じてしまう一方的な”殺し”だ。


「アンドレ―――」


 応戦しろ、と命令しようとでもしたのだろうか。


 片手で降り注ぐ破片や土の欠片から頭を守りつつ、空から一方的に攻撃してくるスーパーハインドの群れを睨んでいた魔術師部隊の隊長の頭が、次の瞬間消失した。


 運悪く、掃射された23mm機関砲のうちの1発が彼の上顎から上を捉えたのだ―――砲弾の一撃が、人間の頭を潰す瞬間を確かに見てしまったアンドレイは、ああ、頭ってあんな感じに潰れるんだ……と他人事のように考えてしまう。


 段々と、心が摩耗しているのが自分でも分かった。


 こんな現実を、極限状態をいちいち真に受けていれば脆弱な人間の心など簡単に壊れてしまう。そうならないようにと、アンドレイの心は無意識のうちに現実に対しフィルターをかけ始めているのだ―――以前読んだ心理学者の論文にそのような記述があった事を思い出し、アンドレイは空を睨んだ。


 火球を連続で放つ。相手は機械であり、攻撃を委縮、あるいは士気を挫くための攻撃は意味を成さない。人間と違って反撃に脅えず、死を恐れず、与えられたプログラムに従いタスクを淡々と消化する彼ら機械の軍団に、心理的効果を期待した攻撃など無意味でしかないのだ。


 だから反撃するからには必中を期さねばならない。そのつもりで放った3発の火球のうち1発がスーパーハインドの腹を捉えたが、しかし痛手にはならなかった。


 ヘリコプターの底面の装甲は厚い。地上からの小銃や機関銃による反撃に耐えるためだ。小さな爆発を起こす火球程度では装甲を穿つまでには至らず、ずんぐりとした胴体を多少揺らすのが精一杯であった。


 リュハンシク守備隊仕様の兵器には、それ以外にも特徴がある。


 それは装甲表面に『対魔術コーティング』と呼ばれる処置がとられている点であろう。


 テンプル騎士団でも一般的なものであり、装甲表面に着弾した魔力を分散させつつ、それらに対し真逆の属性の魔力を同量ぶつける事で魔術によるダメージを軽減、あるいは完全に相殺してしまう事が可能な技術である。


 テンプル騎士団由来のその処置が、シャーロットの手によりリュハンシク守備隊の兵器群に施されているのだ。


 とはいえあくまでもナノマシンを含有する塗料でコーティングしているだけであり、それが剥がれてしまうまで攻撃を受ければ防御力は何ら意味を成さなくなる。


 ガガガ、と果敢にヘリに対し水冷式機関銃を撃ち込む機関銃手を、しかしスーパーハインドの機銃掃射が無慈悲にも呑み込んだ。大地が弾け、人体の一部が飛び散り、また1人の勇敢な兵士が戦場で、そして書類上での死を迎える。


 叫びながらスーパーハインドの底面に魔術を連続で放つアンドレイだったが、しかし結果は同じだった。着弾した炎の魔術は装甲を穿つまでには至らず、漆黒の機体の表面に血のように紅い渦輪を波紋のように広げながら相殺され、全くダメージにならない。


 次の瞬間だった―――大地が、空気が、そして空が震えたのは。


 吹きつけてくる突風―――いや、違う。衝撃波だ。唐突に生じた大爆発と音が物理的に牙を剥いているのだ。


 それが砲声だと理解したアンドレイは、まさかとリュハンシク城の方を見た。


 ここからでもはっきりと見える巨大な要塞砲―――”イライナの槍”が二度目の火を噴いたのだ。


 ただの一撃でマズコフ・ラ・ドヌー駐屯地を消滅せしめた巨砲。次はいったいどこを狙って撃ったのだろうか―――砲声の余韻がノヴォシア兵たちに絶望を植え付ける。もしや次の標的は自分たちの故郷なのではないか。最愛の家族のいる故郷ではないのか。


 その恐怖が、彼らを土壇場で団結させていた。


 祖国を、故郷を、これ以上撃たせてなるものか。


 かくなるうえはここで刺し違えてでもイライナの蛮行を止めなければ―――。


 奮い立ち、進撃しようとするノヴォシア兵たち。


 が、しかし。


「おい……あれって」


「嘘……だろ……」


 リュハンシク城の麓。


 開け放たれた城門の向こう側からぞろぞろと姿を現す、戦闘車両の車列。


 BTMP-84-120(※ウクライナ製BTMP-84に120mm砲の搭載や車体の延長を行った独自改造車両)を先頭に、T-84-120”ヤタハーン”が、そして自衛隊でも採用されている89式装甲戦闘車の車列が続く。


 総勢800両―――いや、それよりも遥かに多い。


 リュハンシク守備隊の機甲師団だ。機械化歩兵隊を伴って出撃したその物量は、否応なくノヴォシア兵たちの心を折っていく。


 それだけではない。


 絶望的な状況で双眼鏡を覗いていた兵士が、震える声で言った。


「……おい、大槍を持った女の子が見える」


「え?」


 いきなり何を言い出すのか、とアンドレイは思った。大槍を持った女の子―――冒険者だろうか。その報告だけを聞くと、戦力不足を補うために冒険者を戦力に組み入れたのかと考えてしまうが、しかしどうしてもそのキーワードで頭を過るのはかつての学友、ミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフの小さな後ろ姿だ。


 貸してみろ、と仲間から双眼鏡を借り、アンドレイは目を見開く。


 機甲師団の先頭を進むBTMP-84-120。その砲塔の上に、小柄な人影が乗っている。マルチカム迷彩のコンバットシャツとコンバットブーツ、その上にチェストリグを装着し、腰回りのベルトにはポーチをいくつも装着した、この時代の軍隊ではまず見ない遥か未来の兵士の服装だ。


 頭にはイライナハーブの花冠を飾った黒いウシャンカをかぶり、肩には大剣のような、しかし大槍にも見える特徴的な”剣槍”を担いでいる。


 黒髪と、特徴的な白い前髪。


 雪のように白い眉毛と睫毛、そして愛嬌のある顔立ちからは想像できないほど鋭い銀色の瞳。


 卑しい害獣の獣人であれど、その身に纏う風格は百獣の王と並ぶにふさわしい威厳に満ちている。


「……ミカ」


 ―――”雷獣(ライジュウ)”のミカエル。


 リガロフ家の庶子でありながら、しかしその活躍を称えられ正式に第5の仔として公爵家に迎えられた、イライナの大英雄イリヤーの末裔―――そして本人もイライナを背負って戦う英雄の1人として広く知られている。


 雷獣(ライジュウ)竜殺しの英雄(ドラゴンスレイヤー)、串刺し公。彼女を意味する異名は数多く、それだけ多くの武功を打ち立ててきたという事の証でもある。


 ノヴォシア兵たちの足が竦んだ。


 勝てるのか、英雄に。


 イライナの大英雄イリヤーの子孫。


 戦う前から心が折れているノヴォシアの歩兵たちに危機感を覚えたその時だった。


 BTMP-84-120から降車したミカエルが、ただ1人槍を担いでゆっくりとアンドレイ達の方へと歩き始めたのである。


 その後方では機甲師団が二手に分かれ始め、左右両翼からリュハンシク城へと向かうノヴォシア軍の眼前へ立ち塞がらんとしているところだった。


「1人で何をするつもりだ、アイツ」


 まさか、1人で魔術師部隊とやり合うつもりか。


 不可能だ―――そう断じたいところであったが、しかし5年前にアンドレイは実際に見ている。Cランク程度の適正しか持たぬミカエルが、遥か格上の相手を下し帝国魔術学園の頂点に君臨したその瞬間を。


 あれから5年だ。


 魔術に加え錬金術も修めた彼女は、さらなる力を求め進歩を続けているのだろう。それこそ、アンドレイたち学園の同級生が想像もつかぬほどに。


 彼女の背後に1機のMi-35Pがやってきたかと思うと、スタブウイングに搭載された大型のスピーカーがミカエルの声を発し始めた。


《侵略者諸君、これが最後通告だ。今すぐ引き換えしたまえ》


 二度目の降伏勧告。


 二手に分かれた機甲師団も、そして頭上を舞うスーパーハインドや自爆ドローンたちも、そして遥か後方で照準を合わせる砲兵隊も、誰も一発も撃ってこない。


 猶予を与えているのだ。


《戦力の差ははっきりと分かった筈だ。これ以上進撃しても、無用な犠牲を出すばかりだ。引き換えしたまえ》


 彼女の言っている事は事実だ。


 兵器の技術水準が違う。他に類を見ない、まるで遥か未来から持ち込んだような先進的な兵器の数々。それらに思うように蹂躙され、そもそも”戦争”の体を成していない。


《イライナが独立しても、我々イライナ人は諸君らノヴォシア人と良い付き合いを続けていきたいと考えている。これからイライナは外国になるが、我々は同じ太陽の下、同じ月の下で生きるのだ。どこに止める理由があろうか。故にこれ以上の戦闘は無意味である、引き換えしたまえ》


 彼女は何を言っているのか。


 自分たちから戦争を始めておいて、何を今更。


 ミカエルの言葉は、アンドレイを憤らせるに十分すぎた。確かにイライナ人からすればノヴォシア人は自分たちの国を、文化を、言葉を奪った相手であり、富をむさぼり負債を押し付けるだけの存在なのだろう。


 しかし両国の問題はあれど、いつかはそれを乗り越えて対等な友人として上手くやっていける日が訪れると、ずっと信じていたしそのための努力もしてきた。


 が、その結果はどうか。


 イライナは―――かつての学友はそれを仇で返してきたのだ。戦争の原因を作り、アレーナを死に追いやって。


《15分猶予を与える。その間に撤退せよ。撤退が確認できない場合、また猶予時間中の敵対的行動が確認できた場合は容赦なく攻撃する》


「アンドレイ……!」


「ふざけやがって……!」


 ぎり、と歯を食いしばり、アンドレイは前に出た。傍らの死体が握っていた銃剣付きのボルトアクション小銃を拾い上げ、安全装置を解除。薬室内にライフル弾が装填されている事を確認し、降伏勧告を繰り返し行っているミカエルに銃口を向ける。


 ―――赦せなかった。


 いくら親友と言えども―――アレーナを殺した事だけは、絶対に。


「ミカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 腹の底から声を出すまでもなく、彼女の銀色の瞳と目が合った。


 引き金を引く。


 ガチ、と撃針が雷管を殴打した。ダンジョンから発掘された技術の実用化により普及したばかりの金属製薬莢の中で、装薬が炸裂し発射ガスが8mm弾を押し出していく。


 放たれた銃弾は、しかしミカエルには当たらなかった。


 そのまま直進していれば眉間を撃ち抜いていたであろう一撃。しかしそれはまるで彼女の周囲にドーム状に張り巡らされた不可視の何かの輪郭をなぞるように、大きく滑ってあらぬ方向へと逸れていく。


「お前っ、お前ぇぇぇぇっ!! 自分が何をしたのか分かってるのか!?」


《アンドレイじゃないか。元気そうで何よりだ》


「ミカ……アレーナが死んだんだぞ! お前の始めた戦争で!! アレーナが死んだんだぞ!!!」


《……》


 忘れたわけではあるまい。


 学園時代、昼休みや放課後によく一緒に過ごしていた女子生徒。


 ミカの美貌と、そして魔術師としての力に憧れにも近い感情を抱いていたアレーナと、可憐なミカに淡い恋心すら抱いていたアンドレイ。卒業して仕事を見つけお金を貯めたら、いつかミカの故郷のイライナを訪れてみようとすら思っていた彼も、しかし今となっては憎悪以外の感情を持たない。


 あの子を、こんなにも憎たらしいと思う事は後にも先にも今だけだろう。


 アレーナの死を突きつけられ、ミカエルは言葉に詰まったようだ。


 あわよくばここで顧みてほしいと期待したアンドレイだったが―――友人はこの5年で変わってしまったのだと、嫌でも思い知らされることとなる。


《遺憾だが敵対的行動を確認した。現時刻を以て降伏勧告を打ち切り、攻撃を再開する》


 淡々とした声。


 その感情の無い、機械的な振る舞いにアンドレイは絶望した。


 あんなにも慈愛にあふれ、天使のようだった少女の面影は―――もう、どこにも無いのだと。







 


 

第一次リュハンシクの戦い(1894年5月5日~5月15日)


 イライナ独立宣言に端を発し始まった『イライナ独立戦争』の最初の戦い。文献によっては『第一次リュハンシク会戦』とも。イライナ側の独立を阻止するため、マズコフ・ラ・ドヌーからイライナ領リュハンシクへ侵攻したノヴォシア軍であったが、ミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフ率いるリュハンシク守備隊の猛反撃を受け開戦20分で第一次攻撃は失敗。続く第二次攻撃では魔術師部隊も動員しているが、こちらも退けられている。両陣営の軍事力に絶望的な技術格差こそあれど、イライナ側の防衛戦術は理に適ったものとして現代においても高く評価されており、軍の教科書に掲載されているほど。

 なお、ノヴォシア側では惨敗に終わった結果から『リュガンスクの屈辱』とも呼ばれる(※リュガンスク=リュハンシクのノヴォシア語読み)。


 また、あくまでも都市伝説の類ではあるものの、当時ミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフ公爵は城におらず、指揮を執って戦っていたのは彼女の影武者であるという説が今なお囁かれているが、リガロフ公爵の遺族とイライナ政府は影武者の存在について否定している。


 この戦いで祖国防衛と独立維持に重要な役割を果たしたミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフ公爵はその死後、生涯を通じての偉業を称えられ英霊となり、新たに雷属性の宗派として『ミカエル教』の誕生へと繋がっていく事となる。

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― 新着の感想 ―
実は広報関係の才能も豊かなんですよねえ、あのヒグマ。現在はもっぱらミカエル君の同人誌とか同人誌とか同人誌の作成にその才能を傾けてますが() ここでどれだけの兵力を。それも極東で陸海軍の精鋭を同人誌に…
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