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弟分との再会

【お知らせ】


 以前、隻腕で断熱圧縮ソードブンブンする方の力也さんの話の最後で『旅順要塞でミカエル君と激突』などの年表を記載していましたが、今後の展開を整理していたところ、ミカエル君と一戦交える事に変わりはありませんがそれ以外の展開に大きな変更が入りましたので、年表の方につきましてはネタバレ回避のため編集し削除した事をお知らせします。


 何卒、ご了承の程をよろしくお願いいたします。




 ビントロングは、数あるジャコウネコ科の動物の中で最も大きな身体を持つ種とされている。


 生息地はインド北東部や東南アジア、中国南東部など。生息地の一部はハクビシンとも重複している(ラップしている)ので、尻尾のデカい熊みたいなやつと眉間に白い線が入ってる可愛いやつが野生で顔を合わせた事もあるのかもしれない。

 

 まあ、それはさておき。


「いやぁ久しぶりだねぇミカ姉。はぁ~このもふもふの感触……やっぱりミカ姉だぁ~」


「……」


 手入れしてきた人の髪を勝手にモフモフしたり、挙句の果てには人目をはばからず顔を埋めてジャコウネコ吸いを始めるルカ。傍から見ればがっちりした体格のでっかい男の娘が幼女(自分で言って死にたくなった)の髪を吸ってるようにしか見えず、憲兵さんからすれば職質☆チャンスタイムなわけだが。


 しかし憲兵さんたちもそんなジャコウネコ吸いをするジャコウネコ科の獣人にちょっと君するほど暇ではないようだ。それもそのはず、白昼堂々キリウの街中で起こった銀行強盗事件の事後処理をしなければならないので、こんなところでモフっているルカに構っている時間は無いのだ。きっとそうだ。さっき羨ましそうな目でこっちを見てきた憲兵の姿が見えたが、尊いからという理由でスルーされているわけではないと願いたい。


 憲兵からの簡単な事情聴取を受けてから、俺たちはキリウ駅に停車中の列車へ足を運んでいた。駅へと向かう途中の酒場はまだ昼間だというのに仕事帰りの冒険者でごった返している……かと思いきや客足は疎らで、店内には数名の冒険者らしき客がぽつぽつと座り、酒をキメるか料理を黙々と食べている姿が目立った。


 まあ、治安の良いキリウならばそうなのだろうな。


 キリウはイライナ公国時代の首都(そしてこれから再びそうなる)という事もあって、治安維持に特に力を入れている。憲兵による犯罪の取り締まりやパトロールはもちろんの事、騎士団(イライナ地方では既に”軍”と改称)や冒険者と連携した定期的な魔物の掃討により、この一帯は安全地帯となっているのだ。


 さて、そうなれば住人たちは助かるわけだが困ってくるのが冒険者である。彼らは魔物退治やダンジョン調査といった仕事で生計を立てているわけであり、治安がいいという事はその場所は稼ぎが悪く、彼らにとって旨味の無い場所という事になるからだ。


 だからキリウやモスコヴァのような大都市を拠点にする冒険者なんてそうそういない……居るとしたら依頼人(クライアント)からの直接契約で汚れ仕事を専門的に請け負う環境を整えた、一握りの勝ち組くらいのものだろう。


 治安の良い場所ではあまり見かけず、逆に治安の悪い地域に群がる冒険者(ノマド)たち。彼らをどれだけ見かけるかが、その地域の治安を見定める一種の指標と言ってもいいだろう。


 今のところキリウは安全か……リュハンシクもそうなりつつあるが。


「わ~……なんだか懐かしいなぁ」


「だろ、中身も変わってないぞ」


 レンタルホームに停車中の列車にルカを招き入れ、自室のドアを開けた。


 昔と同じ感覚で入ろうとしたからなのだろう、部屋の入り口の上の方にごつんと頭を思い切りぶつけてしまうルカ。「あぅ」と巨体に似合わぬ可愛らしい声を出しながら頭を押さえた。


「そーいやさ」


「何だよぅ」


「お前身長なんぼ?」


「ええと……前測った時で195㎝?」


「伸びすぎィ!!」


 175→195㎝って……マジかお前。


 ンアッー! 弟 分 の 身 長 が デ カ す ぎ る ! !


「……ルカ」


「な、なにさ」


「お前ェ……もしやミカエル君から身長ドレインしてない???」


「す、するわけないじゃん!」


 前に冗談で”ルカの奴、そのうち2m行くんじゃない?www”って言った事あったけどお前マジで2m一歩手前じゃん。むしろ2m超えそうな勢いで身長伸びてるじゃん何この子。


「……何か、何か裏技でもあるんですか」


「え裏技……ってああ! ミカ姉血涙! 血涙が!!」


「13歳からね、ミカね、1ミクロンも身長伸びてないの。なして???」


「ぎゅ、牛乳飲めばいいと思うよ」


「身長伸びずに骨だけ異様に頑丈になったんですが」


 ああ、だからか。前にミリセントに壁ぶち破る勢いでふっ飛ばされても骨が無事だったのは。よもやあれが幼少期から高身長に憧れてせっせと積み上げた努力の賜物だったとはなぁ……裏を返すとミニマムサイズの人体すら破壊できないミリセントという尊厳破壊が発生するのでやめておこう。


「あれ、クラリスさんは?」


「あー、小麦粉買いに市場に行ってるよ……でもそろそろ帰ってくる頃かな。呼ぶ?」


「え、呼ぶってどうやって?」


 ルカの問いにジャコウネコ☆スマイルを返し、部屋の中にあるタンスの中からミカエル君のパンツを1枚拝借。いきなり何をし始めたんだコイツは、と言いたげな目でこっちを見てくるルカの目の前で自分のパンツをひらひらさせてから、それをわざとらしく床に落とす。


 その瞬間だった。


 一陣の風が突き抜けていったのは。


 唐突に吹き荒れる風。何か、それなりの質量の物体が常軌を逸した速度で移動してきたからなのだろう。空気は見事に攪拌され、そればかりかちょっとした衝撃波まで発生したせいで窓ガラスがびりびりと振動している。


 そして床に落ちたパンツは―――消えていた。


「え―――」


 目を丸くしながらこっちを見たルカ。


 きっとその視界には、多分信じがたいものが映り込んでいる事だろう。


「すんすんすんすんハスハスうふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! ご、ごひゅっ、ご主人様のおパンツの香りィィィィィィィィィィィィィィィィィィ↑↑↑!!!!!」


「」


 ベッドの上に転がり込むや、床に落ちて僅か0.001秒のうちに拾い上げたミカエル君のパンツを顔に押し付け全力で吸い、頬ずりして記事の感触を楽しむ身長183㎝のでっかいメイドさんの姿に、ルカは見事に言葉を失っていた。


 そりゃあそうだよね。うん、俺も初見の時はそうだった。


「すんすんハスハスずるずるレロレロぬっちゃぬっちゃ」


「「ぬっちゃぬっちゃ!?!?」」


 待ってこんなの俺知らない。なんかクラリスの行動がよりにもよって客人の前でオリチャー突入したんだけどナニコレ。


「待てお前何して……あぁよだれ! よだれが!!」


 待っておまっ、なんで俺の パ ン ツ 舐 め 回 し て ん だ こ の 変 態 メ イ ド は !


「放せ! はーなーせー!」


「もーごーごー!」


「うわバカバカお前バカ、パンツを口に詰め込……馬鹿お前それ俺の手! 俺の手まで呑み込もうとするんじゃn―――うわ嘘でしょ肘まで入ったぞオイ」


 何なのこのメイド……。


 ちょっとクラリスを甘く見ていた。まさかパンツでここまでスイッチが入るとは……。
















 

 ウチのメイドさんの唾液と胃液に塗れたパンツ(←文字に起こすと酷すぎる件)をとりあえず水洗いしてから洗濯機にぶち込んで部屋に戻ると、列車の自室には3人分のティーカップと茶菓子のクッキーが用意されていた。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


「うん」


 クラリスの顔を見るなり、もしかして俺いつか真面目に喰われるんじゃないかなって心配になった。性的な意味ではなく物理的な意味で。


 まあ冷静に考えればこっちはハクビシンで向こうはドラゴンだもんね、そりゃあ喰われるわ。


 とりあえず椅子に座ってティーカップを拾い上げた。イライナ産の茶葉……ではないようだ。香りが違う。こう、いつまでも鼻腔の奥に留まるような濃厚な香り。咲き誇る薔薇にも似た香りの中には微かにハチミツの甘い香りも溶け込んでいる。


「ん、いつものと違う」


「さすがはご主人様ですわ。その通り、本日の茶葉はバーラト王国からの輸入品ですの」


「バーラト産か、納得」


 最近、イライナは独立のためイーランドとの関係強化を図っている。


 安全保障分野だけに留まらず、経済においても同様だ。イーランドの企業や製品がイライナに入り込んできたのは姉上がロイドの構築したパイプを活用し、はるか大西洋の彼方のイーランドとコンタクトを取るようになってからである。


 イライナからすればかつての”世界の主”、海軍大国イーランドの後ろ盾が得られるし、イーランドとしても北海の石油採掘の利権で甘い汁が啜れるうえ、目の上のたん瘤であったノヴォシア帝国を突き崩す千載一遇のチャンスでもある。おまけに武器や兵器に留まらず、自国製品を大量に買い込んでくれる顧客が得られるのも嬉しいポイントだろう。イライナからの食糧輸出も、向こうからすれば魅力的な点の1つに違いない。


 既にイライナ独立時の帝国との軍事衝突を睨み、ドレッドノート級の4番艦『アルゴノート』の購入契約も締結済みだそうだ。黒海艦隊に編入予定となっているんだが、信じがたい事に建造元のペンドルトン・インダストリー社はイライナとの契約締結に至るや建造中の戦艦の現場から人員を割くばかりか、閉鎖した部品の生産ラインまでわざわざ再稼働させ、3隻で終わる筈だったドレッドノート級の追加建造にまで踏み切ってくれたという話だ。


 この話だけでも、イーランドの本気度が窺えるというものである。


 ゆくゆくはイーランドを足掛かりに極東にも味方を作るつもりだ、と姉上は言っていた。


 そうなると候補はリーファの祖国である中華(ジョンファ)、範三の故郷である倭国、それからコーリアだろうか。いずれもノヴォシアの南下政策で領土問題を抱えており、特に直接国境を接しているジョンファからすればノヴォシアはいつ攻め込んでくるかも知れぬ侵略国という一面も持っている。


 ノヴォシアにとって冬季でも使える不凍港の確保は死活問題だ。イライナの独立に伴いアルミヤ半島の不凍港が使用できなくなる可能性が高くなったと見るや、それに押し出される形でジョンファに手を伸ばした、という事なのだろう。


 おそらく目的は大連とかその辺か。前世の世界における日露戦争で旅順要塞を巡る戦いの舞台となった場所だ。


 リーファには申し訳ない事をしてしまったな……と仲間の顔を思い浮かべ複雑な心境に至る。


「それにしても、ルカ君背が伸びましたわねぇ~……クラリスより大きいですわよね?」


「ああ、うん。多分まだ伸びるよコレ」


「えぇ……?」


 今で195㎝でしょ?


 もう熊じゃん、と思いながらクッキーに手を伸ばしたところで、ノックも無しにシャーロットとシェリルが部屋に入ってきた。


「やあやあ。美味しそうな紅茶の香りに釣られて遊びに来て上げたよミカエルく……おや? おやおやぁ?」


「あら、このポップコーン臭はもしや?」


「え、待って」


 シェリルと目が合ったルカはちょっとびっくりして立ち上がった(そしてその背の高さにびっくりしてシェリルも目を丸くした)。


 一応だが、この2人とルカも面識はある。とはいっても過ごした時間は非常に短く、ミリセントに裏切られた2人が血盟旅団に加入してからキリウへと戻ってくるまでの間だけだ。俺たちほど打ち解けた関係でもないし、何よりルカはシャーロットがこんなでっかくてムチムチのサブボディを手に入れた事を知らない。


 ちょっと面白そうなので、フォローは入れずに見守ってみよう。面白そうだし(二回目)。


「えっと、そっちのお姉さんはシェリル……さん?」


「はい。最初は敵対組織の女幹部ムーブかましてたシェリルです」


「待ってこの人こんなキャラだったのミカ姉?」


「うん、思ったより面白い女だった」


「ふんす」


「えぇ……? んでこっちのムチムチのお姉さんはどちら様?」


「おや、忘れたのかい? 前にボクと戦ってフルボッコにされたじゃあないか」


「え? フルボッコにされたって、あのちんちくりんのホムンクルス兵じゃないし……」


「合ってる合ってる」


「合ってr―――え゛」


「やあやあ、シャーロットお姉さんだゾ☆」


 ぶるんっ、とわざとらしく胸を揺らしながらウインクするシャーロット。一瞬ルカの視線が揺れるおっぱいに向けられたのをミカエル君は見逃さない。そうだよな、みんなおっぱい好きだよな。大きいと尚の事いいよな。巨乳が嫌いな人なんていないよな。いないって言え(豹変)。


「待っ、え、せ、成長期?」


「機械の身体だよこれは。本体はリュハンシク城に放置してきた」


「放置してきた」


「ほら」


「うひ」


 どうだい、と胸元をナイフで切り裂いて中身を見せるシャーロット。びっくりして目を瞑りかけたルカだが、人工皮膚の下に覗く金属製のフレームと超小型の対消滅機関を見て、決して嘘ではないという事を理解したらしい。


 目を丸くしながらシャーロットを見ながら、彼はぽかんと口を開けた。


「ね、すごいでしょ」


「み、ミカ姉……」


 嘘でしょ、と言いたげな顔でこっちを向くルカにウインクしてやった。


 うん、まあ何というか……みんなのおかげで退屈してないよ、うん。




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― 新着の感想 ―
例 の ゴ ー グ ル と ミ ー ム 1 . 3 ミ カ エ ル 君 と 化 し た ル カ 君  何 だ こ の で っ か い も の 195センチってクラリスやパヴェルよりでかいんですよね……
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