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意外な乱入者

リーファ「ダンチョさん今回も身体測定150㎝ネ」

ミカエル「何故だ……なぜ1mmも伸びない?」


シャーロット「なんか没設定に【序盤のダンジョンに落ちた際に実は本物のミカエル君は死んでて、主人公だと思っていたミカエル君はテンプル騎士団の機械人間だったから身長が伸びなくなった】っていう案が初期の頃あったらしいよ」


ミカエル「待ってお前なんでそんな事知ってるの???」

シャーロット「天の声が教えてくれた」

ミカエル「天の声」





ナレーター「だってそうすると流血描写やりにくいんだもん」


《Привіт, це Рю Хансік(もしもし、こちらリュハンシク)》


「Це я. У тебе все добре?(俺だよ。良い子にしてたか?)」


《О, тут усе гаразд. Хлопці з Імперії мовчать, як собаки, що їдять(ああ、こっちは何もないよ。帝国の連中もまるで餌を食べてる犬のように静かだ)》


 帝国が押し付けた標準ノヴォシア語ではなく、イライナで古くから話されている俺たちの言葉―――イライナ語でのやり取りは、帝国側からの傍受を警戒しての処置だ。


 連中は俺たちに自分たちの言葉を押し付けたはいいが、それで終わりだった。他者の言葉を理解しようとしないその怠慢と傲慢が、こういう局面で命取りになる。


 とはいえ無論、ノヴォシア国内でもイライナ語を話せる連中は居るだろうし、そういう人材が対イライナ対策部で活動しているのだろう。特にリュハンシク側はノヴォシアと国境を接しているだけあって両国の人間の出入りが激しい。イライナ側でもスパイの取り締まりは徹底しているが、しかしそれでも限界はある。


 まあ、だからといってノーガードにする理由も無いのだが。


《Ну як там справи? Я чув, тебе мало не вбив кілер?(それで、そっちの調子はどうだい? 暗殺者に殺されかけたって聞いたけど?)》


「Ніби я спіткнувся об узбіччя дороги. Це навіть не перешкода(道端で躓いたようなものさ。あんなの障害にすらなりゃあしないね)」


《Судячи з усього, ти не намагаєшся вдавати з себе жорсткого чи щось таке. У будь-якому разі, я радий, що ти в безпеці(その調子だと強がりでも何でもなさそうだ。ともあれ、君が無事でよかったよ)》


「Вибачте, що викликав у вас занепокоєння... Я хочу це сказати, але я примушу людей Імперії заплатити за це ціну. Є якась інформація?(心配をかけてすまない……と言いたいところだが、このツケは帝国の連中に支払ってもらおう。何か情報は?)」


 イライナ語で問うと、自分の声と全く同じで、全く同じ口調の言葉が返ってくる。


 まるでこだまか、一人芝居でもしているような気分だ。ドッペルゲンガーとはこの事か。


《Після смерті Хасан-і-Саббаха Імперія, схоже, перебуває у стані нестабільності. Вони, мабуть, не очікували такої легкої поразки. Ну, якщо ви запитаєте мене, вони дуже недооцінили князя Михайла Стефановича Ригалова(ハサン・サッバーフの死後、帝国内では動揺が広がっているようだ。まさかこんなにも簡単に返り討ちに遭うとは思ってもいなかったんだろう。まあ、俺に言わせればあいつらはミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフ公爵を見くびり過ぎだってところだ)》


「Ну, я думаю. Але це правда, що він був грізним суперником(違いない。だが、彼が手強い相手だったのは確かだ)」


《…Імовірно, Імперія деякий час не розпочинатиме жодних атак на нас(……恐らくだが、帝国はしばらく俺たちに攻撃を仕掛けてくるような事はない筈だ)》


「Ти зіграв усі карти, які міг використати?(切れるカードは全部切ったって事か?)」


《Так воно і є. До того ж, у країні є комуністи... Якби вони вдалися до сили, їм би вдарили ножем у спину в ту ж мить. Важко повірити, але, очевидно, деяких високопосадовців Імперії понизили в посаді за те, що вони порадили дозволити Елайні стати незалежною і спочатку щось зробити з комуністами(そういう事になる。加えて国内には共産主義者が控えてる……迂闊に実力行使に転じれば、その瞬間に背中を刺されるってわけだ。信じがたい話だが、帝国の高官にはイライナ独立を承認し共産主義者をまず何とかするべきって進言して左遷された奴もいるらしい)》


「Це хороша річ(そりゃあありがたい話だ)」


 戦わずして勝つ事は最上である。戦闘という無益な浪費を回避し、相手にも自分にも出血を強いる事なく争いを終結させられるならば、それに勝る勝利はないという事だ。


「Я розумію ситуацію. Дякую. І мені шкода, що я завжди змушував вас проходити через усі ці негаразди(状況は分かった、ありがとう。それといつも面倒事を押し付けてすまないな)」


《Нічого, для цього я був створений... правда?(気にするな。そのために俺は生み出された……違うか?)》


「…Щиро дякую за все. Я це ціную(……本当にいつもありがとう。感謝している)》


 受話器を置き、ふう、と息を吐いた。


 メカエル君ことルシフェルにはいつも面倒をかけている。外出中の留守は彼(彼女じゃないよ)に任せっきりだし……。


 アイツも何か要望があれば遠慮なく言えばいいんだが、中身が機械だからなのか、それともそういうプログラムを組まれているからなのか、自分からこうしたいとか、あんな事がしてみたい、と言う事が無いのだ。言われた指示を淡々とこなしつつ、何か仕事に関する意見があったら進言する程度で、欲求を表に出してくる事が無い。


 機械だから欲求がない、とでも言うのだろうか。


 後で設計者(シャーロット)にこの辺質問してみようか……と思いながら、椅子から立ち上がった。


「ご主人様、どちらへ?」


「久々にちょっとパルクールでも」


 動かないと身体が鈍るし、と付け加えて、俺はキリウの屋敷の自室を後にした。


















 鉄柵の真上、僅かな面積のそれを足場にして着地、力を込めてすぐに跳躍。全身のバネを使って大きく飛び上がるや車道の上を跨ぐ電線の上に着地して、そのまま綱渡りの要領で車道の反対側へ。


 大きく跳躍し電柱の上へ、そしてそこからアパートのベランダへ。僅かな凹凸に指を引っかけて窓枠に掴まり壁をよじ登って屋根の上に到達するや、煙突を右に躱してそのまま突っ走る。


 屋根の上で昼寝していた猫の隣を突っ切り、そのままの勢いで屋根の縁から大ジャンプ。車道を駆け抜けていく大型トラックの上を軽々と飛び越えて、反対側の建物の屋根の縁に手をかけまたしても屋根の上へ。


 懐かしいな、と思う。


 キリウの屋敷で軟禁されていた時は、いつもこうやって部屋の窓から抜け出してはパルクールの練習をしていたものである。暇潰しにはちょうど良かったし、なにより身体を動かす事によって運動神経の刺激と体力作りに大きく貢献したであろう事は言うまでもない。


 動きが衰えていない事を確認しつつ昔の思い出に浸って電線の上を渡っていく。さすがハクビシン獣人、バランス感覚は抜群だ。


 いつの間にか、高級住宅街を離れてスラムの方へと差し掛かりつつあった。


 キリウを旅立った時と比較するとスラムの面積は目に見えて減っている。経済の安定やインフラ整備、俺の主導した”国土回復作戦”で農地再開発などの雇用が生じ、失業者の大幅減少やスラムの削減へと繋がっているのだという話は聞いたが、それにしても随分と大きな変わりようだ。


 粗末な造りの小屋が並んでいた場所にはそれなりに立派な家が建ち、元々は浮浪者だったと思われる住人たちが出入りしているのが見える。


 少なくともキリウからスラムが消滅するのも時間の問題だろう。


 良い事だ、頑張った甲斐があったと成果を実感していたその時だった。


 唐突に鳴り響く銃声と防犯ベル。何事かと視界をそちらに向けるや、目についたのは貧民街付近に立つ小さな銀行の支店だ。どうやら正面入り口から派手に車で突っ込んだらしく、ロビーでは3名ほどの男が銃を構え、何やら怒鳴りつけているのが分かる。


 もしかしなくても銀行強盗だ。それも治安の良いキリウで、白昼堂々強盗行為をキメるとは……肝が据わっているのか、それとも単なるおバカなのか。


 メニュー画面を開いてPAK-9を召喚し、現場へ急行しつつあの強盗達がダメな点をいくつか洗い出していく。


 まず銀行側に強盗行為が発覚するのが早すぎる。事前に()()()を済ませ、通報が憲兵に届かないよう細工をしているというのであれば分かるが、しかし防犯ベルが声高に鳴り響いている事を考慮するとそれすら怠ったのだろう。


 おまけに車で正面玄関から突っ込み、更に威嚇射撃までかましたのだから周囲からの注目も集まる。あれでは通行人が最寄りの交番に駆け込んだり通報したりという事もあり得るだろう。


 まあ、非常ベルを鳴らされている時点で強盗の腕はお察しくださいレベルなんですけども。


 行き当たりばったりでやった強盗だな、三下もいいところだ。何一つ評価できるところがない。


 俺たちだったら事前に連絡網を遮断、店内に入り込んでから本性を現すところだ。あるいは睡眠ガスを店内に充填させて店員を全員無力化、金庫の扉を解除ないし破壊して金を奪って……と言ったところか。


 まあいいさ、準備を怠ったツケを払わせてやるとしよう。


 と、そう思いながら現場に急行しようとしたその時だ。


「ん」


 ブロロロロ、と車道を走っていくバイクが見えた。


 丸いライトと楕円形の大型燃料タンク、武骨なマッドガードが特徴的な古めかしい軍用バイクといった外見をした”K750M”―――ウクライナ製のバイクだ。


 オリーブドラブ一色のそれに跨っているのは、背中に大型警棒とバリスティック・シールドを背負い、対爆スーツをベースにしたと思われる防弾スーツを身に纏って、頭にはソ連製のバイザー付きヘルメットである『マスカ・ヘルメット』を被った大柄な男性だった。


 ヒグマみたいな体格体格だったもんだから、パヴェルかなと思ったんだが―――パヴェルがあんな強盗如きを相手にあそこまで重装備になる筈がない。特殊部隊を経験しているからなのだろう、彼は防御力より機動性を重視する。


 じゃああれは誰だ―――思っている間にバイクは真っ向から豪快に、銀行の支店の中へと突っ込んだ。


 ウイリーで突っ込むなり強盗犯の1人をふっ飛ばすバイク。そのままバイクを乗り捨てた大柄な兵士は背中の大型警棒へと手を伸ばすや、突然の乱入者に驚きレバーアクションライフルを向けようとする強盗犯の首筋を、力任せに振るった大型警棒で殴打しノックダウンさせてしまう。


 あと1人。


「て、てめえ何者だ!?」


 乱入者は答えない。


 大昔の騎士よろしく、バリスティック・シールドと大型警棒を構え、姿勢を落としながらそのまま突っ込んだ。強盗が拳銃の引き金を引くが、しかし弾丸すら防ぐ素材で造られていると思われるバリスティック・シールドは貫通を許さない。


 撃たれた弾丸はむしろ磁石に吸い寄せられるように盾に圧着、跳弾すらしなかった。


 跳弾による二次被害は発生していない。


「ひっ―――」


 攻撃を無力化して突っ込んでくる巨漢に強盗が怯えた頃には、もう遅かった。


 姿勢を低くした全力のタックルが強盗にぶち当たっていたのである。ちょっとした軽自動車が衝突したような衝撃だったらしく、それをもろに受けた強盗は派手にそのまま吹き飛んで、後ろの壁に背中を打ち付けてからそのままずるずると倒れ込んでいった。


 銀行の支店に足を踏み入れた頃には、もう何もかもが終わっていた。強盗犯3名は無力化され、店を訪れていた客や店員にも被害は無し。店舗が被った器物破損の損害を除けば、被害ゼロでの事件収拾という最良の結果と言えるだろう。


 憲兵隊にもこんな手強い人が居たんだな、と感心していると、マスカ・ヘルメットを被った巨漢と目が合った。


 なんだろう……気のせいか、どこかからポップコーンみたいな匂いが漂ってくる。


「え……」


「ん」


 マスカ・ヘルメット氏(仮名)が、驚いたようにバイザーを上げた。


 武骨なバイザーの下から顔を出したのは、見覚えのある顔。


 体格に対して輪郭は丸く、童顔とはまさにあの事を言うのだろうな、という感じの顔つき。目は丸く、半開きになった口の中にはジャコウネコ科特有の鋭い牙が並ぶ。










「み、ミカ姉!?」










「お前……まさか、ルカか?」


 見覚えがある、なんてものじゃない。


 それはかつて、共に旅をした大事な仲間。


 そして俺からすれば、身体のデカい弟のような存在で―――。








「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんミカ姉ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」







「うお毛玉」


 次の瞬間だった―――声変りを経てちょっと声が低くなったビントロング獣人のルカ君という名の毛玉が、真正面から抱きついて来たのは。






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― 新着の感想 ―
正直前書きで書かれた展開は大好物だけどそれ前作シリーズなら許されるけどこの作品だと合わないよな、でもそんな展開も見たかったけど三部作目で似たような展開だったようなでもそういう展開見たかったな( '-'…
そういえばミカエル君。実家から脱走する時からこの手の強盗ミッションには手慣れたものですし、潜入作戦を含めてもうエキスパートですよね。何かGTA5のマイケルがアマチュアの強盗を採点してるみたいだなと思い…
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