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久しぶりの帰省

ミカエル「アダプターを用いたSTANAGマガジンへの適応、西側規格の使用弾薬、西側のドクトリンに各種装備品(西側)」

ミカエル「あれ、俺って自分のAKの尊厳も破壊してる???」

パヴェル「持ち主に似たんでしょ(適当)」


デスミカエル君「  こ  ろ  す  」


 パパパン、と銃声が弾けた。


 列車の3号車、2階の射撃訓練場。スペースの関係で近接射撃訓練しかできないが、しかし銃の動作確認や試し撃ち、CQBの訓練にはもってこいとなっているそこで銃を構えているのは珍しく俺ではない。


 パヴェルの方だ。


 機関車の運転をシャーロットにバトンタッチし射撃訓練場へと足を運んだパヴェルが構えているのはいつものAK-15ではない。


 同じくAK-12をベースに使用弾薬を西側規格の5.56mm弾とした、AK-19だ。


 銃身は命中精度と弾速UPを期待しての20インチのロングバレル。マガジン装着部にはM4のような形状のアダプターを装着し、STANAGマガジンへの対応ができるよう改造を施している。加えてアンダーバレルにはロシア製新型グレネードランチャーのGP-46を搭載、火力を重視したカスタマイズとなっているようだった。


 人間というよりは敵を撃つという行為に最適化された殺人ロボットのような無駄のなさで、次々に起き上がる人型の的を撃ち抜いていくパヴェル。AKのようなものを抱えた敵兵のイラストが描かれた的の他に、時折民間人のイラストが描かれた撃ってはいけない的、その民間人を人質に取る敵兵のイラストも起き上がってくるが、前者は確実にスルー、後者は人質を取っている敵兵の眉間だけを正確に撃ち抜いて撃破している。


 30発撃ち尽くすなりマガジンを排除、ポーチから予備のマガジンを引っ張り出して取り付け……ようとするが、しかし前方から傾けながらマガジンを装着するというAK系(※95式や191式などの中国系ライフルもそうだ)特有の”クセ”を身体が覚えているのだろう。傾けながら装着しようとしたマガジンが引っかかったのを感じ取るや、改めてマガジンを装着し直しコッキング、射撃を再開する。


 俺もそうだが、長年AKを使っているとこういう動作が身体に染み付いてしまう。


 銃の操作方法は、当然ながら銃によって違う。全く操作方法が違う銃を採用してしまうとそれを使う兵士たちが慣れるために改めて訓練し直す必要性が出てきてしまうので、軍隊で採用する小銃は極力従来の小銃に近しい操作方法のものが好まれる。


 銃の使い方に限らず、戦いのための技術は頭で理屈を覚えるのもそうだが、それ以上に”体で覚える”のが重要となる。この銃のリロード手順はどうだとか、弾道のクセ、反動の大きさに至るまでを身体に覚えさせ、頭で考えるよりも先に身体が動いて期待する結果を掴み取るような、それこそ”条件反射”と言えるレベルまで昇華させるのが理想である。


 マガジン一つ変えただけでこうなってしまうのだ。今のパヴェルは、使い慣れた小銃に入り込んだ”異物”に適応しようとしている段階なのだろう。


 またマガジンを使い果たし、空になったマガジンを取り外す。ポーチから引っ張り出したマガジンを今度は素早く装着しコッキング、射撃を再開したところでブザーが鳴った。


「……やっぱ慣れねえなぁ」


 マガジンを外し、コッキングレバーを引いて薬室内の5.56mm弾を排出するパヴェル。薬室内に弾薬が残っていない事を確認しつつ何度か空撃ちして確認、安全装置(セーフティ)をかけた彼は、布製の薬莢受けを取り外してAKを傍らに置き、休憩スペースに腰を下ろした。


 缶に入ったタイプのタンプルソーダを彼に渡し、俺も隣に座る。


「まあ、AK-15に慣れてるし仕方ないよな……」


「それなんだよな、どうしても身体が普通のAKの使い方を覚えてるんだ。親の顔より見たAKだし」


「もっと親の顔を見ろ」


 何だよ親の顔より見たAKって。


 俺ですらAKより親の顔を見……てない、ガチでワンチャンAKの方が親の顔より見た可能性があるの笑えない。笑えないよ幼少期ミカエル君。


「ぶっちゃけどう、今更他の銃使えって言われたら」


「……出来ないわけじゃないが気分は乗らない」


「だよねぇ」


 躊躇なく使える銃は他に無いのかって言われたら、AK系列以外だと辛うじてMP5……そこから転じてG3系列ならワンチャンあるかもしれない。


 まあ、ガチで銃弾をぶちまける事にそもそもならないのが一番なのではあるが。


















 ごう、と駅のホームが過ぎていった。


 ザリンツィクを通過すれば、キリウまではあと少し。1.5~2時間ほどであのグラスドームに覆われたキリウ駅の威容と、日本の民謡である故郷をアレンジしたチャイムが聴こえてくる筈だ。


 客車の屋根の上に上がり、マウントされている連装型ブローニングM2重機関銃の銃身を雑巾で拭きながら故郷を想う。まあ、昔はクソッタレな思いでしかなかったけれど、今では家族が待つ大切な故郷(ふるさと)だ。駅のチャイムに故郷の採用を強く要望したのも、そういう個人的な背景がある。


「はいダンチョさん」


「ああ、ありがとう」


 リーファが真新しい水の入ったバケツを持ってきてくれたので、一度それで雑巾に付着した汚れを落としてから再び機銃の清掃を開始する。


 以前、蒸気機関車を使っていた時は特に汚れが酷かった。原因は機関車の煙突から出る煤で、ちょっと布で擦っただけであっという間に真っ黒になってしまうレベル。けれども今はディーゼル機関車……を魔改造した対消滅機関車で、あのレベルの黒煙が出る事は無い。


 対消滅エネルギーの濃度を一定に維持しつつ、燃料代わりに大気を取り入れて対消滅エネルギーと反応させ、その際に生じる熱でお湯を沸かして蒸気を作ってタービンを回して発電して……という方式で、あの重連運転中のクソデカ機関車は動いている(ベースになっているのはアメリカのAC6000CWだ)。


 なので廃棄物は出ないし環境を汚す事も無い。環境保護団体もニッコリである。


 とはいえ、かといってメンテナンスを怠る事は許されない。


 機関車からの排気では汚れなくなったとはいえ、そうじゃなくても外を舞う砂塵や枯れ葉、木くず、それからその辺を飛んでる蟲の死骸とかで汚れたりするので、そういうのはしっかり洗い落とす必要がある。いざ機銃で魔物に対し応戦するという時に汚れが酷く動作不良が頻発して使い物になりません、では話にならない。


 一通り掃除が終わってから、リーファにバケツを預けてスマホを取り出しアプリを起動。機関銃のチェックリストに従って細部まで点検していく。


 スマホ画面に表示されているチェックリストには試射も含まれている。既にザリンツィクからはそれなりに遠ざかったし、人口密集地は遥か彼方だ。この辺だったら試射しても問題ないだろう。


「あー、ミカエルよりパヴェル、ミカエルよりパヴェル」


《どうぞ》


「定期点検、機関銃の試射を行う。どうぞ」


《了解、左舷90度方向で試射を行うように、どうぞ》


「了解」


 ぐいー、とターレットリングに乗った連装ブローニングを左へと90度旋回させる。なぜ左向きかというと、今は複線区間を走行中で、右側は下り列車が走行する線路があるためだ。試射したら下り列車が来て乗客に当たって……なんて事になったらシャレにならない。


 コッキングレバーを引いて初弾を装填。撃つぞ、とリーファに告げてから押金を押し込んだ。


 ドガン、ドガガ、と短間隔での射撃。


 遥か彼方へと消えていく曳光弾を目で追いながらスマホを取り出し、試射のところにチェックを入れておく。


 試射は問題なし。


 こういうメンテナンスの積み重ねが、実戦での確実性をより高めるのだ。


 多くの場合、戦場で命を落とすのは運が悪かった者か、こういう積み重ねを怠ってきた者のどちらかだ―――個人的には、そう思う。


 ともあれコレで機銃の定期点検は無事終了。あとはキリウからリュハンシクまでの帰り道に一度チェックする事になるが、そっちはモニカが割り当てられているので俺はゆっくり休めそうだ。まあ、キリウでの姉上の”お話”の内容如何によってはそれどころじゃないと思うけど。


 九分九厘結婚の話だろうなぁ、と思いながらタラップを滑り降り、リーファと一緒に食堂車に顔を出した。


 食堂車のカウンターの上には『ご自由にお食べください』というパヴェルからの置手紙と一緒に、ドーナツが山盛りになった大皿がドドンと置いてあって、既にシェリルとモニカが席についてドーナツをパクついているところだった。


「ん~♪ この甘さ加減が絶妙……良い腕してるわよねパヴェル」


「大佐って普通にお店とか出したら繁盛するのでは? あ、ミカ」


「やっほー、点検お疲れ様~♪」


 食べる、とモニカに差し出されたドーナツを1つ受け取って向かいの席に座ると、既に自分の分のドーナツをどっさりと取ってきたリーファが通路側に座って退路を塞がれた。しまった罠か(何が?)。


 ドーナツを口へと運ぶと、ふわりとした生地の柔らかさとバターの風味、それから適度に塗した砂糖の甘さが胃の底から脳へと駆け上がってきて一瞬で幸せになった。


 やっぱりこういう甘いものって多少カロリーが高い方が幸福感を感じられていいよね。


 まあ運動もせずにパクついてたら生活習慣病一直線なんですけども。皆さん、運動しましょう。


 
















《間もなく終点キリウ、キリウです。お降り口は左側です。アレーサ方面行きはお乗り換えです》


 スピーカーから聞こえてきたパヴェルの放送に促されるように、自室の窓を開けて外を見た。ごう、と吹き込んでくる風と共に、レールを車輪が踏み締める金属音が流れ込んでくる。時折聴こえてくる甲高いブレーキ音……駅が近いのだ。


 まだ風が肌寒いイライナの春。灰色の雲の切れ間から差し込む黄金の光を浴びて待ち受けているのは、皇帝が住まう宮殿さながらの威容を誇るキリウ駅の駅舎だった。頭上にイライナ公国の国章が刻まれたグラスドームを頂く3階建ての駅舎へ、列車が減速しながら滑り込んでいく。


 見張り台に上半身だけ設置された駅員代わりの戦闘人形(オートマタ)が、ブレードの代わりに搭載された旗を振るってレンタルホームへ誘導してくれる。それに警笛で応えるや、ポイントが切り替わり、在来線用のホームからレンタルホームへと入線していった。


 利用客たちの声や館内放送、発車チャイム。それらが入り混じった大都会の駅特有の喧騒は、しかしリュハンシク駅のそれよりも大きい。


 血盟旅団のロゴと放送で俺たちに気付いたのだろう―――他のレンタルホームに停まっている列車の冒険者たちや、在来線のホームにいる乗客たちがこっちに手を振ってくれている。


 彼らに手を振り返し、窓を閉めた。


 荷物をまとめ、降りる準備をしておく。


 列車が完全に停車するのを待って、クラリスと一緒に部屋を出る。持ち物は着替えと財布、スマホに重電機、それから一応護身用にグロック26。戦いに行くわけではないので武装は最小限である(とはいえキリウは治安がいいので拳銃を持ち歩く必要もないレベルだ)。


「んじゃ、行ってくるよ」


「2人だけで大丈夫ですか?」


 通路にいたシェリルに言うとそんな心配をされた。


 まあ、今回のキリウ行きは俺が呼び出されただけだし、皆には付き合ってもらったわけだしな……。


「まあ、とりあえずは大丈夫。キリウは観光名所も多いし、旅行だと思って羽を伸ばしてきてよ」


「良いんですか? お姉さんに挨拶とかしようと思ってたんですが」


「……ん?」


「いえ、”不束者ですがよろしくお願いします”的な」


「とりあえず聞かなかった事にしておくよ」


 それじゃ、とシェリルに言い、クラリスと一緒に列車を降りる。


 レンタルホームから連絡通路を通って改札を潜り、駅の外に出た。


「……絶対さ、結婚の話だと思うんだよね俺」


「まあ、そうでしょうね。アナスタシア様にジノヴィ様、マカール様も立て続けに結婚なさいましたから」


「俺もそろそろ身を固めろって言われるのかぁ……」


 言われたら言われたでちょっとアレだ、困る事がある。


 身の回りに素敵な女性が多すぎるのだ。素敵な女性……うん、皆一癖も二癖もあるけど素敵な女性である。うん、素敵だ。ジャコウネコ吸いしたり尊厳を爆破したりしてくるけど。人を女扱いしてくるけど!


 あれ、今のイライナって一夫多妻制OKだっけか……などと真面目に考えていると、駅前の広場に見慣れた家紋の入ったセダンが停まっている事に気付いた。


 リガロフ家の自家用車だ。


「おかえりなさいませ、ミカエル様」


 運転席から降りてきた運転手に挨拶され、ちょっとぎこちない感じで会釈する。


「アナスタシア様が首を長くしてお待ちかねです。どうぞ」


 そう促され、後部座席へと乗り込んだ。


 にしても姉上の呼び出しねぇ……マジで結婚についての事だろうなと思うと、一時期「お見合い」という単語に全身全霊で拒否反応を示していたジノヴィ兄さんの気持ちもわかるというものである。


 ただ親が勝手に決めた相手とくっつけられないだけ温情だろうな、と他人事のように考えると、少しだけ気が楽になった。




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― 新着の感想 ―
大丈夫。制度上一夫多妻が出来なくても正妻と妾でいけるって。 ただ、絶対に正妻戦争(文字通りの戦争)が起きるし、相続問題が発生するだろうけど。 あるいはミカエル君だって公爵様だし、姉上は公国の最有力者だ…
半 分 西 側 小 銃 と 化 し た A K 性 別 不 明 な ミ カ エ ル 君 銃 と 持 ち 主 は 似 る 慣れ親しんだ仕事道具をいきなり変えろって言われるのは、誰でも困惑しますよね。出…
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