俺たちは何をしに来たんだっけ?
シャーロット(L)「いやあ胸が大きいのも考え物だねェ」←H
クラリス「本当ですわ。戦闘中なんか特に揺れて……」←G
イルゼ「下着も特注品になりますし、ボディアーマーを着込む時も大変で大変で」←I
リーファ「胸大きい、百害あって一利なしネ」←F
シェリル「……あっ、私は貧乳じゃないですよ?」←D
モニカ「どう足掻いても相対的に貧乳に見えてしまうから無駄よ」←C
ミカエル「 そ も そ も 俺 は 男 だ よ 」←A
シャーロットの持つ指揮棒の動きに反応するかのように、次元の裂け目から現れたドローンたちが動いた。
それはまるで獲物を見つけ、手綱を放された猟犬の如しだった。甲高いローターの駆動音を羽虫さながらに響かせながら散開した武装ドローンたちが一斉にレーザーポインタを照射、ヴォジャノーイに照準を合わせる。
次の瞬間だった。
機体下部に吊るされたPP-19が火を吹き、放たれた9×19mmパラベラム弾(※本来は9×18mmマカロフ弾仕様だが弾薬共通化のために9×19mm仕様のモデルを選択している)がヴォジャノーイの眉間を正確無比にヘッドショット。飛竜のような外殻に守られているわけでもないヴォジャノーイが銃弾に耐えられる道理もなく、次の瞬間には頭を大きく揺らして仰け反るや、ぬかるんだ地面の上にピンク色の肉片を撒き散らして事切れた。
他のヴォジャノーイたちも慌ててドローンに反応するが、もう遅い。
ぬるりとした粘液で覆われたその表皮には、死刑宣告さながらにレーザーポインタの照準が合わせられていたのだから。
パパ、パパパッ、とライフル弾とは違う軽快な拳銃弾の炸裂音が響き渡り、弾丸に穿たれたヴォジャノーイたちが倒れ伏していった。
シャーロットの召喚に応え馳せ参じた武装ドローンの総数は12機。
いずれも血盟旅団で採用されているドローンと同一のものであるが、その操縦方式は従来型とは大きく異なる。
通常、血盟旅団のドローンはスマホやコントローラーを用いた遠隔操作か、機体に搭載した、あるいはリュハンシク城地下にメインフレームを持つAIと連動しての自律制御が主流である。また、ごく少数ではあるがあらかじめ決まったコースを徘徊して侵入者の索敵を行う警備型も存在するが、しかしシャーロットの呼び寄せたドローンたちはそういった類の機体と根本から異なる制御を受けている。
全てシャーロットの脳波による操縦だ。12機すべてが、である。
彼女が思い描いた通りのコースを飛び、思い描いた通りの標的を狙い、思い描いた通りの標的を撃ち抜いて思い描いた通りの結末を導き出す機械の傀儡たち。タイムラグなしのリアルタイム制御を12機並列に、しかもそれぞれの挙動から攻撃命令までを並行して行う事が一体どれだけの情報処理能力を要求するか、我々ただの人間が察するには余りある。
しかし元々生まれつきの情報処理能力に加え、身体の機械化という合理性の追求に手を染めたシャーロットであれば可能だ。
1機1機の回避行動から火器管制に至るまでの管理を正確に行いつつ、自分自身の肉体も思った通りに動かすという超高等技術―――生身の人間では決して踏み入れられぬ領域に、彼女は今立っている。
彼女にとっては冒涜的な表現であるが、今の彼女はさながら”人の姿をしたスーパーコンピューター”と言っても過言ではなかった。
ヴォジャノーイの飛ばす粘液の散弾を回避したドローンがすれ違いざまに9×19mm弾のフルオート射撃を脇腹へと叩き込む。致命傷ではあるが内臓を潰された程度で済んだヴォジャノーイが血を吐きながらも踏ん張るが、しかし次の瞬間にその眉間に無慈悲な拳銃弾のヘッドショットがお見舞いされ、また1体のヴォジャノーイが天に召される。
嬲り殺しだった。
ガンガン、とAK-19(※平原での銃撃を考慮し20インチのロングバレルに換装)をセミオートで放ち、熟練の兵士さながらに正確なヘッドショットを連発していたミカエルも、その超絶技巧には目を奪われた。
まるでそれは殺戮のオーケストラ。
指揮棒を片手に殺戮マシーンたちを指揮するシャーロットは、血塗られた劇場に立つマエストロのようにも思え、ミカエルは改めて得体の知れない不気味さと頼もしさを感じていた。
『ヴォロ、ヴォロロ』
戦意を喪失し逃げ始めるヴォジャノーイ。すかさずドローンたちが追い縋り9×19mm弾を叩き込んで仕留めていくが、それでも木々に紛れて逃げおおせる個体がいた事を2人はしっかりと確認していた。
「逃がした、か」
「この規模の群れだ……こりゃあ近場に巣があるな」
「どうする、潰すかね?」
手元にドローンを呼び戻し、指先にまるで鷹のように降り立ったドローンを愛でるように見つめるシャーロット。黒く、それでいて光沢のない無機質な質感はさながらブラックホールだ。光さえ捻じ曲げてしまう超重力の坩堝、一種の空間の裂け目。
禍々しい塗装のドローンたちを使役するシャーロットは、しかし既に結論を出しているようだった。
後はミカエルが首を縦に振るだけである。
「―――当然だ」
AK-19のマガジンを新しいマガジンに交換しながら、ミカエルは断言した。
「ヴォジャノーイの巣が大規模化すれば近隣の居住地に危害が及ぶ。領主として見過ごせない」
「クックック、決まりだねェ」
獰猛な笑みを浮かべるシャーロットを見て、やはり彼女の本質は戦を好むホムンクルス兵なのだな、とミカエルは思う。
テンプル騎士団のホムンクルス兵は、その原型となった”キメラ”という種族も含めて皆”戦闘民族”と呼んでも過言ではない。戦を求め、血飛沫舞う地獄の中にこそ己の生きる意味を見出す存在。彼女たちはどうあがいても、本能的に戦を求めてしまう。
理性では平和の重要性を知っていても、遺伝子に刻まれた衝動がそれを許さないのだろう。
とはいえテンプル騎士団が倒れた今、しばらくは平和だ。平穏を謳歌しつつも水面下でノヴォシア帝国との前面衝突に備えなければならない現状、変なところで爆発されても困る。
哀れではあるが、あのヴォジャノーイたちにはガス抜きのための人身御供になってもらう他あるまい。
「それじゃあカエル狩りと洒落込もうか、リガロフ君?」
「……ところでコレ薬草採取の仕事だったよね?」
「クックック、気にしない気にしない♪」
ずしっ、とHカップの胸を押し付けられつつケモミミを吸われつつ、ミカエルはちょっと困惑していた。
本来の仕事から大きく逸脱している。薬草採取のつもりで出発したらフィールドワークに夢中で時間を忘れて日付を跨ぎ、いつの間にか森にまで足を運びヴォジャノーイ討伐にまで興じているなど、いったい誰が想像したであろうか。
回復アイテムや食料も1.5日分しか用意がない。弾薬は余分に持ってきたが、しかしこれ以上長引くようなら気絶させてでもシャーロットを連れ帰ろう、と心に誓うミカエルだったが、どうせこれも思考読まれているんだろうな、と思いすぐに観念するのだった。
「ああ、そうだシャーロット」
「なんだねリガロフ君?」
「知ってるか、ヴォジャノーイの足って珍味なんだぜ」
きらーん、とシャーロットの目が輝いた。
バックパックいっぱいに詰め込んだヴォジャノーイの足、合計80本。
単純計算であの場に40体は居た計算になる。俺もそれなりに倒したが、しかし体感で6~7割はシャーロットとドローンの戦果だった。あれだけの数のドローンをいきなり召喚したどころか、並列処理で同時制御とは本当に恐れ入る……しかも自分の身体を動かしながら、だ。
死体の焼却処理を手早く終え、逃げていったヴォジャノーイの足跡を辿り彼らの巣を目指す俺たち。足を進める度に森はどんどん深くなっていき、周囲には霧が立ち込めて、空気も肌にべっとりとまとわりつくようなジメジメしたものに変わっていったのがよく分かった。
ヴォジャノーイたちにとっては理想的な環境だろう。
「今夜の夕飯が楽しみだねぇリガロフ君?」
「おっぱい押し付けてる暇があったらお前も警戒しろ」
「クックック……でも嫌いじゃあないだろう?」
「……ハイ」
「じゃあいいじゃん♪」
「良くねえわ。童貞には刺激が強すぎる」
「ふぅーん?」
むにゅ、とさらに胸を押し付けてくるシャーロット。シリコン製の人工皮膚でできた機械の身体とはいえ、その質感はクラリスのそれとそう変わらない……そう、クラリスのOPPAIに毎日のように襲われているミカエル君だからこそ分かるのだ。このずっしりとした重量感に沈み込む感じ。アニメのゴムボールみたくとにかく揺らしとけばいいだろみたいな感じで揺れているOPPAIとは違う。
やべ、やべ、こんなんじゃ警戒できねえ。
「あの、注意力散るから放して」
「心配ご無用、ボクのドローンが全周囲を警戒しているからねェ」
そう言いながら、例の指揮棒で周囲を示した。
ローターの音は聞こえないが、しかし耳を澄ませると確かにそれっぽい駆動音は聴こえてくる。どうやら音の聴こえてくる方向から推察するに、俺たちの周囲にリング状に展開したドローンたちがセンサーをフル稼働、万全の警戒態勢を敷いているらしい。
「ああそうだ、サンプルに持ち帰りたいから数体は生け捕りにして欲しい。その……”ルサールカ”だっけ? 女王っぽい個体も出来れば生け捕りの方向で」
「簡単に言うよな」
「でもできるだろう?」
「できる」
ヴォジャノーイは群れで生活する魔物だが、その社会構造は蟻や蜂に似たものとなっている。女王となる雌の個体を中心に、複数の下位個体が狩りをして餌を集める。そして集めた餌は女王へと献上され、繁殖のための糧となる。
一定の規模を超えたヴォジャノーイの群れは、間違いなくルサールカを中心とした巣を形成している可能性が高いのだ。
先ほど戦った群れも推定で40体。これほどの頭数が確保できているならば相当な規模の巣に育っている筈である。
パパパ、と前方から響く銃声。どうやら先頭を警戒していたドローンがヴォジャノーイを発見したようだ。
やるぞ、とシャーロットに告げて姿勢を低くし、AK-19を構えて姿勢を低くしながら走った。ぬかるんだ地面を踏み締めたブーツが泥を舞いあげ、真新しい足跡を地面に刻んでいく。
イライナの土は水分をとにかく吸い、そして溜め込みやすい。保湿性にも優れているが、結果として水分を吸ったイライナの泥は日本のものと比較できないほど”重い”。こうして普通に走っているだけにしても、まるで両足にガンガンとダンベルを追加されているような重さで、ちょっと走っただけなのに息が上がり始める。
これほどの重さの泥である。雪解け水を吸い至る所に底なし沼が出現するイライナの春は大勢の冒険者や旅人、行商人が”溺死”する泥濘の春だ。おまけにヴォジャノーイが活動を開始するシーズンでもあるから、雪の次は泥が自然の驚異として立ちはだかる。
草むらを抜けるなり、俺はAKを構えて撃った。STANAGマガジンのスプリングに押し上げられた5.56mm弾が薬室に装填され、撃針に装薬を覚醒させられて、ライフリングの刻まれた20インチのロングバレルの中で目一杯加速してから飛び出しヴォジャノーイの左目をぶち抜く。
悲鳴を上げながら泥沼の底へと沈んでいくヴォジャノーイ。既にドローンたちが頭上に展開、ヘリカルマガジンを搭載しているが故に弾数に余裕のあるPP-19の掃射でヴォジャノーイの反転攻勢を頭上から押さえつけている。
そうしている間にシャーロットも現場に到着。既に始まっているヴォジャノーイ討伐を見物しながらニッコリと笑みを浮かべるや、飛びかかってきたヴォジャノーイの頭を鷲掴みにした。
「弁えたまえよ」
次の瞬間だった。
ドカァンッ、と彼女の手が爆ぜた。
破れたシリコン製の皮膚の下から覗くのは、手のひらに穿たれた銃口。
―――”ショックカノン”だ。
14.5mm弾の空砲を装填、それを銃口に向かうにつれて口径を漸減していく”ゲルリッヒ砲”の構造を採用し12.7mmまで漸減する事で発射ガスを限界まで加圧、その圧力を一点に集中させる事で遮蔽物やドアノブを破壊する、テンプル騎士団謹製のブリーチング用の装備である。
もちろんゼロ距離で相手の頭を鷲掴みにしてぶっ放せば殺傷力も期待できるというもので、現にショックカノンのゼロ距離射撃を受けたヴォジャノーイは上顎から上をベロっと抉り飛ばされ、そのまま泥沼へと沈んでいった。
左手で持ったグロック17Lで次々にヴォジャノーイにヘッドショットを決めていくシャーロット。俺も負けてられないな、とスコアを伸ばそうとしたその時だ。
ぶわり、と泥沼の表面が盛り上がった。
ブーツに付着した泥だけでもダンベルみたいな重さになるんだから、泥沼の水面をぶち破るなどいったいどれほどの重さになるか想像もできないが―――そんなクッソ重い泥の塊を押し退けて浮上してくるのだ、並大抵の筋力の持ち主ではあるまい。
泥の塊を火山弾さながらに撒き散らしながら姿を現したのは、通常のヴォジャノーイよりはるかに巨大な、推定8~10mほどの大きさにもなる大型個体。
数多の同胞を殺された怒りからか、目は真っ赤に充血しており怒り狂っている事が窺える。
牛すらも丸呑みに出来そうなほど巨大な口の中には長剣のような鋭い牙が所狭しとびっしりと並び、成人男性の胴体よりも太い剛腕は筋肉で覆われている。ぬめりのある緑色の表皮で覆われているからなのだろう、カエルと言われればまあカエルに見えない事も無いが、こんな怪獣みたいなカエルは見た事が無い。
泥濘の女王、ルサールカ。
巣の主が、怒り狂って飛び出してきたのだ。
「うおでっか」
「言ってる場合か。予想よりデカいぞコレ」
「でも勝てるんだろう?」
「まあ―――」
AKの銃口を向け、二ッ、と笑ってみせた。
「―――勝てる気しかしねえ」
まさかシャーロットのフィールドワークでこんなに引っ張ると思いませんでした。
ごめんなさい、もう1話くらい付き合ってくださいませ。




