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狩人たち

動画配信ミカエル君「こんミカ~☆」

クラリス&モニカ「こんミカぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!(※6000㏈)

窓「死」


ヴォロディミル「閣下、ミカエル様の動画配信の収益が国家予算レベルに」

アナスタシア「 当 た り 前 だ 私 が 投 げ ま く っ た か ら な 」



 ライト兄弟はとんでもねえバケモンを空に解き放ってくれたものだ。


 遥か昔の偉人(この世界では新技術実証実験中の現役科学者)に悪態をつきながら、星空とその辺を漂う雲目掛けて74式車載機関銃をひたすら撃ちまくる。ドガガガガガ、と曳光弾を含んだ弾雨が虚空を穿ち、どこかへと消えていく。


 もちろん命中したとか、これは牽制になっただろうという手応えもクソも無い。ただただ我武者羅がむしゃらに、どこかにいるであろう敵目掛けて弾丸をばら撒いているだけだ。


 当たらない、命中しない、そもそもどこにいるか分からねえ。


 「太平洋のど真ん中に落とした小石を拾ってきてください」と言ってるようなものだ。どこにいるかも分からないし、仮に命中したとしても7.62×51mmNATO弾ではどう頑張っても戦闘機を撃ち落とすには至らない(この程度の口径で撃墜を期待できるのは第二次世界大戦初期くらいの戦闘機だろう)。


 ごう、とどこからか戦闘機のエンジン音が響いてくる。


 反対側のドアガンを展開し、シェリルも同じように弾丸をばら撒き始める。どこに居るのか察知したのかと一瞬淡い期待を抱いたが、無茶苦茶に撃ちまくって弾幕を張っているところを見ると、彼女も俺と同じ状況らしい。


「パヴェル、雲の中に!」


《よっしゃ!》


 咄嗟に思いついた作戦の意図を、彼は素早く汲み取ってくれた。


 ぐんっ、とMi-26の巨体が左へと翻る。


 目指す先は星空の中に浮かぶ雲の塊。


 ドガガガガ、と弾幕を張りながら雲に突入するまでの時間を推し量る。願わくばそれまでにミサイルを撃ってこない事だが……。


《Попередження, наближаються ракети. Уникайте, уникайте цього(警告、ミサイル接近中。回避せよ、回避せよ)》


 ほらな、こういう事だと思ったよクソッタレ!


 機外に身を乗り出しつつ、フレキシブルアームでマウントされたドアガンをぐるりと後方へと向けた。やはりというか技術的限界なのだろう、さすがにミサイルにまでラウラ・フィールドは展開していない。ミサイルそのものは丸見えだが……。


 これ難易度ハードモードとかだとミサイルにまでラウラ・フィールド展開してるのかな、と前世の世界でやってたゲームっぽい事を考えながら、接近中のミサイル目掛けて弾幕を射かけた。


 だがやはり、当たらない。


 Mi-26がミサイル回避のために回避運動を取り始めたのもあるが、それよりも飛んでくるミサイルもちょっと崩れたS字形に回避運動を取りながら接近してくるのである。偏差を考慮し、ミサイルの回避先に弾丸が噛み合うように狙いをつけて撃ってみるが、しかし思ったようにはいかないものだ。


 そうこうしている間にミサイルとの距離が狭まっていく―――というところで、ガガガ、とミサイルの弾頭部で火花が散った。


 俺の射撃ではない―――シェリルだ。


 今のでコツを掴んだのだろう、シェリルのドアガンからの射撃が正確さを増したかと思いきや、そのままミサイルの安定翼を根元からもぎ取った。がくん、とミサイルが揺れるや狙いを逸れ、ゴウッ、とヘリの左側を突き抜けて雲の中へと突っ込んだ。


 今のミサイル攻撃で、敵機がどこにいるのかも分かった―――こっちを追尾して来ている。


 しかしヘリと戦闘機では致命的過ぎるまでに速度が違う。ヘリでは戦闘機から逃れるのは難しいが、同時に戦闘機ではヘリのような低速を維持する事は出来ない。無理に背後に位置し、攻撃チャンスを長時間維持しようとすれば通過(オーバーシュート)してしまうか、あるいは長時間無防備な姿を晒す羽目になる。


 敵もそれほど愚かではない筈だ。あくまでも短時間の攻撃チャンスにのみ攻撃をかける一撃離脱戦法で手堅く攻めてくるに違いない。


 だが、こっちも逆転のチャンスはある。


 相変わらずプラネタリウムみたいに凶星が瞬くクソのような夜空だが―――天は俺たちを見放してはいないようだった。


 ぐぉう、とMi-26ウォーロードが雲の中へと飛び込んだ。


 そのまま高度を上げ雲から浮上。メインローターの回転に引き裂かれた雲が千切れ、水飛沫さながらに拡散する。


 すぐさま後ろを見た。


 追尾しているならば敵機も同じように、あの雲を突き抜けてくるはずだ。いくら姿を消せてもエンジン音と、身に纏う衝撃波までは消せまい。


「!!」


 次の瞬間だった。


 ゴウッ、と雲が爆ぜた。


 戦闘機が身に纏う衝撃波に引き千切られ、夜空を漂う空の中に衝撃波の形に削り取られた円筒状の大穴が穿たれる。


 それを参考に、響いてくるエンジン音を頼りにして弾丸をばら撒いた。


 ガガガンッ、と何かに当たる音。目の前の、それこそ何もない空間で唐突に火花が弾けたと思いきや、ただただ星空が広がるばかりだった何もない空間に黒いノイズのようなものが走り―――やがて異形の怪物が姿を現す。


 ステルス性を意識したであろう機首に大きな主翼、武装のほとんどを機内のウェポン・ベイに収納する事でステルス性を向上、レーダーによる索敵を少しでも遅らせようというステルス機特有の設計思想が見て取れるフォルム。


 目を見開いた。


 よりにもよってロシアの最新鋭ステルス戦闘機を差し向けるとは―――!


「パヴェル、”Su-57(スホーイ)”だ!!」


 通信機のマイクに向かってあらん限りの声で叫んだ。


 今しがた俺たちの目の前に姿を現したSu-57は先ほどの被弾でラウラ・フィールドのデバイスを損傷したのか、再度姿を透明にする事なくMi-26ウォーロードの左側を通過。傍らを漂う雲をぶち抜いて夜空へと急上昇、リング状の衝撃波を幾重にも纏いながら俺たちの真上につく。


 来るぞ……逆落としの急降下が。


 がくんっ、と力尽きたように機首が大きく真下を向く。


 まるでそれは、地上を走る獲物に狙いを定めた猛禽類のようだった。


 ぐんっ、とヘリが急加速した。


 少しでも敵の急降下攻撃から外れようというのだろう。脇目も振らぬ加速で二度、三度も雲の中へ飛び込んで欺瞞を図るが、しかし一度狙いを定めたSu-57からはそう簡単に逃れられない。


 急降下しながら機関砲を撃ってくるSu-57。当たるな、外れろと祈っている間に、Mi-26ウォーロードが再び雲の中へと突入する。


 小さい頃、雲は綿飴でできているのだと信じていたものだが、全然綿飴なんかじゃない。水分の塊だこんなものは。夢もクソもあったもんじゃない。


 ごう、と雲が晴れた。


 急降下攻撃に失敗したSu-57がMi-26ウォーロードから距離を取った。獣の唸り声のような轟音を高らかに、真っ白な線をこれ見よがしに曳きながらの左旋回。ああやって距離を稼ぎつつ旋回、後方に回り込んでの攻撃でトドメを差すつもりだ。


 がごん、と大きな音がした。ブー、ブー、と警報音が鳴り響き、格納庫内の赤い警報灯が点滅と回転を繰り返す。


 非常事態を告げる音に何事かと後ろを振り向いた俺は、目を丸くしてしまった。


 カーチャがまた格納庫のハッチの非常用解放スイッチを操作して、機体後部に面する格納庫の大型ハッチを解放しているのだ。


「カーチャ、お前何してる!」


「あたし、やられっぱなしってのは性に合わないの!」


 彼女の手には巨大なライフルがあった。


 ”アリゲーター”―――ウクライナが開発した、14.5mm弾を使用する超大型の超遠距離向け対物(アンチマテリアル)狙撃銃(ライフル)


 格納庫の床に伏せ、バイポッドを展開するカーチャ。ストックに付属しているモノポッドも展開してライフルを安定させるや、スコープのダイヤルを調節して右手をボルトハンドルへ伸ばす。


 薬室を解放し、中に一発の弾丸を装填した。


 弾頭部には蒼い模様が描かれていた―――徹甲弾だ。


 貫通力を向上させ、軽装甲車両や大型車両のエンジンブロックをぶち抜く事を想定した14.5mm徹甲弾。


「パヴェル、そのまま真っ直ぐ飛べ!」


《正気か、ケツに付かれてるんだぞ》


「そのケツに付いてるスケベにキツいの一発ぶちかます!」


 俺じゃなくカーチャが、だけど。


 カーチャの意図を察したのだろう、彼女の隣にやってきたシェリルが格納庫内の武器コンテナから拝借したMG3汎用機関銃を腰だめに構え、引き金を引いた。ヴァァァァァッ、と常軌を逸した7.62×51mmNATO弾の弾雨が敵機に向かい伸びていく。


 さすがに煩わしいのだろう―――被弾しても致命傷にはなり得ないが、それでも敵機は曳光弾を大目に含んだ弾幕に視界を遮られ、強制的な回避を強いられる上に機関砲による攻撃っまで断念させられてしまう。アレに人間が乗っていたならば、さぞ苛立っている事だろう。


 頼むぞ、と祈った次の瞬間だった。


 小さく、カーチャが何かを呟いた。


 ズダンッ、とアリゲーターが吼えた。


 薬室内の14.5mm徹甲弾、その雷管に撃針が飛び込んで、薬室の中の装薬を爆発的に燃焼させる。


 通常のライフル弾よりも遥かに大きな薬莢にぎゅうぎゅうに詰め込まれた装薬の燃焼を受け、14.5mm徹甲弾が薬室から外へ外へと押し出されていった。長大で肉厚な銃身の内部でライフリングによる回転を付与され、運動エネルギーという物騒極まりないドレスを身に纏った弾丸が、凶星の如く夜空を駆ける。


 向かうは殺戮という名の舞踏会。


 微かに山なりに飛んだ一発の弾丸―――その着弾地点が敵戦闘機と重なったその時だった。


 まるで冷や水を浴びせられたように、ぶるりと一瞬だけSu-57の機体が揺れたように見えた。


 それ以降、回避運動も機関砲を撃つ素振りも見せぬまま、Su-57がそのまま真っ直ぐこっちに向かってくる―――大きく割れたキャノピー正面と、胸から上が消失した戦闘人形(オートマタ)のパイロットの骸を俺たちに晒しながら。


 コントロールを失った敵がそのまま機体を大きく右へと傾かせるや、そのまま大地へと向けて高度を落としていく。


「嘘だろ……すげえ、マジでやりやがった!」


 ふー、と息を吐きながらボルトハンドルを引くカーチャ。キンッ、と14.5mm徹甲弾の大きな薬莢が格納庫の床に落ちるや、急激に錆びながらころころとハッチの方へ転がっていった。


 カーチャお前……ホムンクルス兵1人を討伐するだけでも大金星なのに、撃破記録に『戦闘機×1』まで加わるとか何だこの女。


「すげえ……すげえよカーチャ!」


「私だってやる時はやるのよ」


 惚れた? なんて冗談めかして言うカーチャ。これは惚れるしかない。


《2人とも、はしゃぐのは良いが敵は1機じゃねえぞ!》


「!」


 言われなくとも分かっていた。


 ドン、と右側の雲が爆ぜる。相も変わらず透明だが、そこに居るのだ―――もう1機のSu-57、姿なき狩人が。


 近すぎる―――やられる、と息を呑んだ次の瞬間だった。


 ガガガ、と何もない空間に唐突に火花が飛び散った。夜空から降り注いだ機関砲弾の弾雨を背中にもろに受け、黒煙を吹きながら光学迷彩を解除するSu-57。主翼を撃ち抜かれ、エンジンノズルは片方がひしゃげて意味を成さなくなり、主翼や垂直尾翼のフラップは脱落して機動性を大幅に欠いているのが見て取れる。


 そんなSu-57に、無慈悲にも更なる機関砲の砲弾が降り注いだ。黒煙を吐き出すSu-57が蜂の巣と化し爆散、破片のいくつかがMi-26ウォーロードに衝突し、ガツガツと金属音を発した。


「なんだ、今度は何が―――」






《クックックッ、どうやら間に合ったようだねェリガロフ君?》






「その声―――シャーロット?」


 ゴォォ、と大きなエンジン音を高らかに、特徴的なカナード翼を持つ黒いステルス機がMi-26ウォーロードの隣についた。


 ロシアのSu-57ではない。国産のステルス機を開発、実用化まで漕ぎ着けた軍隊の保有する機体であんなカナード翼を持つ機体を、俺は一種類しか知らない。


 ―――中国の”J-20”だ。


 中国のステルス機をシャーロットが操縦しているというのか。そう思いキャノピーへ視線を向けるが、キャノピーは一般的なガラス張りではなく装甲で覆われてしまっていて、ここからではコクピットに収まっているであろうシャーロットの姿を確認できない。


 彼女が乗っているか否か―――キャノピーを開けてみるまでは分からない、さながらシュレディンガーのシャーロット状態。


 とりあえず、窮地を救ってくれたJ-20に向かって大きく手を振った。J-20もそれに応えるように小さく翼を振って返答してくれる。


 というか、アイツ戦闘機も飛ばせたのか……パヴェルの多才ぶりが突出しているが、シャーロットも何気に多才なんだよな。研究開発したり前衛で戦ったり、ついには戦闘機を飛ばしたり。


 テンプル騎士団畏るべし、などと思いながら、俺はキャビンのドアを閉めた。


 ひとまずこれで任務は完了だ。


 さっさと帰って温かいシャワーを浴び、温かいボルシチを腹いっぱい食べて泥のように眠りたい。


 そうすればきっと、明日にはこの疲労もぶっ飛んでるだろうから。




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