逃走経路
パヴェル「メカ受けミカ攻めのえっち本できました~購入はこちらからどうぞ~」
クラリス「買う買う買う買いますわ! 自慢用、保存用、観賞用に!」
シェリル「興味はありませんがまあ、買います(こんなん買うしかないじゃないですか)」
シャーロット「興味深いねぇ」←開幕ダッシュで既に1ダース購入
メカエル「尊厳破壊世界記録狙えそう」
ミカエル「おまけに登場して1話で早くも尊厳破壊喰らったってマ?」
メカエル「尊厳破壊RTAマジやめてもろて」
酷い有様だった。
紅蓮の炎に包まれ、燃え落ちていくマイカ宮殿を一瞥して電線の上に飛び乗る。眼下ではサイレンを鳴らしながら全力疾走していく消防車の車列が通過していき、住宅街では何事かと野次馬たちが顔を出している。
綱渡りの要領で電線の上を通過して、貴族の屋敷の屋根に着地。ベランダから身を乗り出して火事を見ていた貴族のお嬢様の視界に入らないよう屋根の上に上がったところで、もぞもぞと動く黒い影が目についた。
やけに長い尻尾とずんぐりした胴体。足は短くて、丸みを帯びた顔にはビー玉みたいにくりくりした可愛らしい目がある。眉間と顔の一部には白い模様のような体毛が生えていて、ずいぶんと洒落た模様の仮面を思わせる。
野生のハクビシンだった。
しかもソイツの顔には見覚えがある。
【【速報】住処全焼俺氏、放火したお嬢ちゃんと再会】
「お前さっきの」
マイカ宮殿の屋根裏を住処にしていたハクビシンだった。
こんな雪の降る寒い夜に辛いだろう。作戦上仕方がなかったとはいえ、路頭に迷わせてしまったのは俺のせいだ。
おいで、と身を屈めて手招きすると、その野生のハクビシンはすんすんと鼻を鳴らしながらこっちにやってきた。都会に住んでてそれなりにいいものを食べていたのだろう、リュハンシク城になんか勝手に住み着いた他のハクビシンと比較するとぽっちゃり体系だ(厳しい冬に備えて脂肪を蓄えていただけかもしれない)。
《ミカ、そいつどうするつもりだ》
「飼う」
《……ま、まあ、うん。同族だしな》
【【朗報】お嬢ちゃん優しい】
というかなんでハクビシンがこんなクソ寒い国で野生化しているのだろうかとは思ったが、大方動物園や研究施設、あるいは珍獣としての需要を見越して密輸された個体が脱走して野生化したとかそんなところだろう。
「お前なんでノヴォシアに? 寒いだろ」
【【悲報】朝起きたら密猟者に捕獲されここへ】
「Oh……」
可哀想になぁ、と喉元を撫でながら呟きつつ屋根の上からジャンプ。電線の上に着地して大通りを軽々と通過していく。
《……ミカエル、問題発生です》
シェリルの重々しい声に、何やら面倒事の臭いを感じ取る。
作戦計画とは往々にして予定通りにいかないものだが、それもそうだ。相手だって人間なのである、想定通りに動いてくれるとは限らない。NPC相手に通用した作戦が、オンライン対戦ではあまり役に立たずプラン変更を強いられるのと同じだ。
《テンプル騎士団が動きました》
スマホを、と促されポケットからスマホを取り出す。カーチャからメールが送られており、画面をタップして添付されているファイルを展開した俺は眉をひそめた。
赤いペンでマーキングされている範囲内に8人ほどの人影―――厚手の黒いコートを羽織っているが、おそらくテンプル騎士団側の戦力なのだろう。よく見るとその手にはサプレッサー付きのAKらしきライフルもある。
カーチャがドローンで撮影したものに違いない。
「黒騎士か」
《少なくとも2個分隊から1個小隊程度の戦力が差し向けられたとみるべきでしょう。このままの回収はあまりおススメ出来ませんね大佐》
《仕方ない。ミカ、”プランB”だ》
「……了解した」
作戦状況は時間の経過によって刻々と変わっていくのが常である。
想定外の事態に発展する可能性も高く、当初の作戦計画が想定外のトラブルで台無しに……となってしまった時に備えて複数の作戦プランを用意しておくのが常識だ。特に、暗殺などの特殊作戦を遂行する場合は特にである。
しかしプランBか……うーむ。
スマホのマップアプリを開いた。既にプランBの回収予定地点がハイライト表示されている。
マップによると回収予定地点は北方にある旧工業区画―――閉鎖された廃工場が軒を連ねる、滅多に人の寄り付かない区画だ。
モスコヴァの市街地外周部までパルクールか。なかなかハードだが……まあ、やるしかない。
道中で相手がこっちを見失ってくれる事を期待しながら、俺は走る速度を上げた。
ノヴォシアの今の混乱は、かつての皇帝が行った農業から工業への強引な転換に端を発する。
当時、北海や大西洋の制海権及び石油採掘の利権を巡って対立していた聖イーランド帝国が産業革命に成功。国内産業が一気に重工業へとシフトしていき、そこで生み出された最新技術をふんだんに用いた兵器が続々と世に送り出されるようになるや、かの帝国は『世界の工場』とまで呼ばれるに至った。
そこで焦ったのがノヴォシア帝国である。
北海や大西洋の制海権を巡って幾度となく小競り合いを、あるいは植民地での代理戦争をしていたノヴォシアはこの産業革命に危機感を抱いた。重工業の発達はより簡易な新兵器の大量生産を可能としたし、そうした大量生産と並行して新技術の開発も一気に進んでいたのである。
既に新技術で建造された高性能な新造戦艦が北海にまで現れ、ノヴォシアが主権を主張する海域どころか領海にまで土足で踏み入ってくるようになると、このままではイーランドに後れを取ってしまうという認識は帝国議会全体に蔓延していた。
しかし当時のノヴォシアは経済の基盤を農業で賄っていたため、強引な重工業への転換は国内の経済に大打撃を与える恐れが常にあり、故に慎重派の意見も多かったのである。
結果として当時の皇帝はイーランドに追い付く事を急務と考えた。
しかしその選択の結果は、多くの慎重派の大貴族が警鐘を鳴らした通りの結果に終わった。唐突な農業から工業への転換は経済を大きく混乱させ、これまで祖国の収入源として日夜働いていた農民たちの期待を裏切る事に繋がったのである。
更に強引な重工業化により国内各地に工場が整備されたが、ある程度政策が安定し始めると競争力のない工場からどんどん底辺へと追いやられ、シェアを奪われて、最終的には閉鎖に追い込まれていった。
弱肉強食という自然由来の最もシンプルなルールは、こんなところにも根付いていたようで何よりである。
そんな事もあって、ノヴォシアやイライナには廃工場が乱立する地域が非常に多い。
産業革命、夢の跡―――つまりはそういう事である。
もっとも、イライナのマルキウやザリンツィクといった一部の地域は重工業化に成功、結果として発展した工業を強みに生かしていく事になったのだが、帝国からすればそれらの地域を含んだイライナが独立へ突き進んでいるのは悪夢以外の何物でもないだろう。
閉鎖された工場の敷地内。錆び付いたタラップを登りながら、メニュー画面を開いて装備を変更していく。
弾薬を消費しサプレッサーにも負荷をかけてしまったAK-12SKは装備中の武器から選択を解除、いつも通りのAK-19を召喚し装備する。装備はリューポルド製のLCOとD-EVO、ハンドガードはM-LOKとし下部にはハンドストップを装備してCクランプ・グリップでの射撃に最適化しておく。
少し悩んだが、ハンドガード右側面にはシュアファイアのライトも装備した。重量の増加に繋がるんじゃねーかと懸念したが、暗所を一瞬照らしたり、ここに向かっているかもしれない黒騎士たちの光学センサーを一瞬だけでいいから眩ませる事が出来れば儲けもの、という判断から装備を選択した。
サイドアームはいつものグロック17L(ピストルカービン仕様)。マガジンはエクステンションを用いて増量した43発入りのクソデカマガジン。
ナガンM1895はそのままサイドアームとして残しておく。弾薬の消費がそれほど多くない事と、万が一の場合を想定してだ。サイドアームという事にしているが、どちらかというとターシャリ的な運用になるかもしれない。
「目標地点に到着した。今工場を上がってる」
《了解、屋上で待機してください》
「急いでくれ、寒すぎて連れがぶるぶる震えてる」
肩にちょこんと乗っている小太りハクビシンは寒そうにぶるぶる身体を震わせていた。やはり中国南東部や東南アジア、台湾などの温暖な地域に生息している動物なので寒いのは苦手なのだろう(とはいっても北海道にも生息しているらしいので環境適応能力は高いのかもしれない)。
《現在回収ポイントに急行中。到着まであと240秒》
《ミカ、黒騎士がそっちに向かってるわ。急いで防御態勢を整えて》
「へいへい」
メニュー画面を開き、クレイモア地雷を召喚。タラップの踊り場や曲がり角の影など見づらい場所に設置して、ワイヤーを伸ばしておく。これでうっかりワイヤーに引っかかってしまったら最後、至近距離から大量のベアリングが飛び出して標的をズタズタにするという寸法だ。
屋上に登るや、メニュー画面を開いて新たに重機関銃を召喚した。三脚に乗ったそれにスコープを追加、12.8×108mm弾のたっぷり詰まった弾薬箱を傍らにセットして、付近の雪を払ってから胡坐をかき重機関銃の射撃準備をする。
ロシア製重機関銃の『Kord』、その中でも重機関銃でありながら歩兵が持ち運んで運用する事を想定した異色のモデルの”6P60”と呼ばれるタイプだ。ストックの形状と銃口に装着された大型マズルブレーキもあって、ベルト式給弾である事を除けばそれは巨大な対物のようにも見えた。
スコープは暗視スコープではなく一般的なものを選択した。元々ハクビシンは夜行性の動物なので、暗闇であっても視界は良好なのだ。むしろ暗視スコープを使ってしまうと視認性が悪化してしまうので、よほどの暗闇でもない限りは避けるようにしている。
《ミカ、何とか持ちこたえろ》
「はいさ」
隠れてな、と肩に乗っているハクビシンに言うと、小太りのハクビシンは腰の後ろにあるダンプポーチの中へもぞもぞと入っていった。しかし都会で美味いものばかり食っていたことが祟ったのだろう、全身すっぽりポーチに収まる事はなく、でっぷりと太った尻周りと長い尻尾だけがにょっきりとダンプポーチから生えてて草生える。
大丈夫、大丈夫……たった3分だ、1個小隊が何だ。
ふぅ、と息を吐き―――引き金を引いた。
ドタタッ、と短間隔での射撃。スコープのレティクルの向こうへ、12.7×108mm弾が山なりに飛んでいって―――乗り捨てられた廃車群を盾に接近を試みようとしていた黒騎士の1体を、朽ち果てたクーペのエンジンブロック諸共ぶち抜いた。
相手の動きが変わったのはそれからだった。
隠密行動は無理と判断したらしい。サプレッサー付きのAK-12で仰角を大きめに取り、こっちに向かっての制圧射撃。ヒュン、と5.45×39mm弾が飛来し、パチンパチン、と枯れ枝を踏み折るような音を周囲に響かせる。
命中しそうな弾丸だけ磁力防壁で弾き、その他の弾丸は基本的にスルーする事で魔力の無駄な浪費を防ぐ。
更に磁界をKord重機関銃の射線上にも展開。磁力による反発を弾丸の第二加速に利用して弾速を一気に押し上げる。これによりサイズの大きな12.7mm弾の凶悪性は更に増したようで、廃棄されたトラックのエンジンブロックを盾に制圧射撃を試みていた黒騎士の頭がエンジンブロックもろとももぎ取られた。
ドガッ、ドガガッ、と短間隔での射撃を継続。おかげで黒騎士たちは廃工場の廃車置き場や駐車場に縫い付けられてしまっている。
射程距離が長く、スコープまで装着した大口径の重機関銃がここまで猛威を振るうのだから、その脅威度は計り知れない。はっきり言ってアサルトライフルだけポンと渡されて機関銃陣地を制圧して来い、なんて言われたらストレスで発狂してしまいそうだ。
しかしそんなマシンガン☆フィーバーも長くは続かない。
ドムンッ、と尻の下から響く爆発音。やはりな、と思いつつ背後にも気を配る事にする。
先ほどここまで上がってくる際に設置したクレイモア地雷に、どこかの間抜けが引っかかったらしい。敵に対するブービートラップ以外にも、こうやって敵の接近を察知するための警報としても地雷は重宝する。
《あと60秒》
名残惜しいが機関銃から手を離し、スリングで背負っていたAK-19をスタンバイ。セレクターレバーを弾いてフルオートに入れつつ、息を吐いて銃口を背後のドアへと向ける。
次の瞬間だった―――勢いよくドアが蹴破られたのは。
それと同時に出待ちミカエル君のフルオート射撃。5.56mm弾のスコールが突入を試みた黒騎士の顔面をズタズタに引き裂いて、瞬く間に戦闘不能に追いやる。
《あと40秒》
仲間の残骸を盾代わりに、強引な突破を目論む黒騎士。しかし次の瞬間には側面から飛来した剣槍に首から上を刎ね飛ばされて、機能を停止し屋上の雪の上に転がる羽目になった。
《あと30秒》
AK-19が沈黙する―――そうなるよりも先にAKの保持をスリングと左手に預け、右手一本でグロックをホルスターから引き抜いた。そのまま9×19mm強装弾が装填されたそれを敵に向け、引き金を何度も引く。
ガンガンガンッ、と荒々しくピストルカービンが吼え、コンペンセイターが装着された銃身が跳ね上がる。銃が破損せず運用できる限界まで装薬を増量した強装弾が黒騎士の頭を砕き、内部の脆弱な制御ユニットを撃ち抜いた。
《あと20秒》
銃剣付きのAKを構えて突っ込んできた黒騎士を飛び越えて回避しつつ通過する間際に電撃を浴びせる。
そのまま着地しグロックの連続射撃、後続の黒騎士2体を無力化しつつマガジンを交換。ジャキンッ、とスライドが前進するや後方を振り向いて先ほど電撃を浴びせた黒騎士に止めを刺す。
《あと10秒》
「どうしたポンコツ人形共」
また新たに1体、黒騎士をヘッドショットで無力化しながら機械たちを煽る。
コイツらに感情はない―――どれだけ煽ったところで無意味でしかないのだが。
「パヴェルのデータ使っててこのザマか。”同志大佐”が泣くぞ」
《もう泣いてるよ》
バババババ、と聞こえてくるメインローターの音―――重装備の怪物、その唸り声を背に受けながら、黒騎士たちに向かって中指を立てた。
「時間切れだバーカ」
その直後だった―――俺の背後から、ぬうっと巨大な重装攻撃ヘリが姿を現したのは。
《 ぶ っ 殺 し て や る ぜ ジ ュ テ ェ ェ ェ ェ ェ ム 》




