隣国トラブル解決法(物理)
ルカ(15)「ミカ姉ー!」←155㎝
ルカ(16)「ミカ姉ー!」←168㎝
ルカ(17)「ミカ姉ー!」←175㎝ ←今ここ
ミカエル「この調子でいったらルカの奴次に会う時2m超えてるんじゃ……!?」
パヴェル「クソデカルカ君概念」
シェリル「そしてそのうち3mに」
シャーロット「熊さんかな?」
ルカ「ビントロングだよォ!!」
クラリス「成長期って良いですわねぇグヘヘヘヘヘヘヘ」
「―――ラスプーチンを殺す」
現状を打破するにはそれしかないだろう、という確信があった。
ラスプーチン―――ノヴォシア皇帝カリーナの傍らに控える最高位の祈祷僧にして助言者。記録によるとある日、シベリウス方面からふらりと現れて流行り病に苦しむ先代皇帝の命を救うという奇跡を披露、帝室からの信頼を確固たるものとしたという。
しかしその正体はテンプル騎士団が遣わした連絡役のホムンクルス兵。ノヴォシア帝国を組織の傀儡として自由自在に操るためのキーマンであり、全ての命令は彼を通じて皇帝カリーナの元へと下されていた。
テンプル騎士団による浸透は、おそらくかなり早い段階から始まっていたのだろう。
旅を始めたばかりの頃、最初にアルミヤ半島を訪れた辺りから不審な感じはあった。海賊たちが好き勝手しているというのに黒海艦隊を増強して対抗するどころか、大西洋や北海艦隊へ兵力を引き抜いて好きにさせるという謎の采配―――今であればあれもテンプル騎士団によるものだったと説明がつく。
あの男を消し、テンプル騎士団の伸ばす人形の糸を断ち切らない限り、ノヴォシアにもイライナにも未来は無いだろう。
「で、どうやって」
「帝国に潜入して俺が殺す」
パヴェルの問いに即答した。
ラスプーチン用ではないが……万が一、共産主義者が約束を違えてイライナ侵攻に踏み切ったり、皇帝陛下相手にその必要が出てきた場合に備えて、密かに反撃と国家元首暗殺を含めた作戦を構想していたのである。
それはラスプーチン相手にそのまま適用しても通用するはずだ。
「とはいっても、具体的にどう殺すかとか、標的に対しての情報はこれから煮詰めるが……個人的には、こうするしかないと思っている」
この一連の魔物たちによる百鬼夜行も、おそらくは帝国の手によるものだろう。推測の域を出ないが、爆薬を用いた意図的な雪崩で魔物たちを刺激してこの襲撃を起こしているとしか思えない。
無論、状況証拠しかないので帝国が原因だと断定はできない。ちゃんとした証拠も無しに思い込みで行動するのは陰謀論者と同じだ。
しかしこうも連続で、それも夜間や早朝、会議中に食事中と、こっちが嫌がる時間にピンポイントで襲撃をかけてくる―――そんな事が頻発すれば、背後にいるであろう帝国の関与を疑うなというのが無理な話だ。
仮にこれが本当に魔物たちが偶発的に起こした襲撃で、帝国が一切関与していないとしても―――テンプル騎士団と帝国を繋ぐ連絡役を消し、両者の連携を徹底的に断つ事には戦略的に大きな意味がある。
まあ、四の五の言わずに試してみようじゃないか。
ラスプーチンを殺して、この襲撃が止まるか否かを。
「だがお前はもう、昔とは違うぞ」
腕を組みながらパヴェルが言った。
「以前のような無名の冒険者じゃない―――分かるか、ミカ? 今のお前は大英雄イリヤーと並ぶ偉業を打ち立てた現役の大英雄、イライナの至宝だ。ちょっと腕の立つ新人冒険者なんかじゃあない」
「分かってるよ、少々有名になり過ぎた事くらいは自覚してる」
「じゃあどうやって」
「それはボクが一任されてるよ」
クックックッ、と笑い声と共に暗闇から現れたシャーロット。傍らには小型PCサイズのモニターをぶら下げたドローンを従えていて、すっかりドローンを使いこなすマッドサイエンティストといった感じだ。
小さく指を振るや、モニターをぶら下げたドローンがパヴェルの目の前まで移動して何かを映した。
液晶画面を見たパヴェルが、目を見開き息を呑む。
「ミカ、お前……!」
「子供だったらさ、誰しも妄想した事があると思うんだ……”もし自分という人間が2人居て、勉強とか嫌な事を偽物の方に押し付けて遊びに行けたらなぁ”って」
後ろで手を組みながら、ゆっくりとパヴェルの方を振り向く。
彼が驚くのも無理は無いだろう―――俺自身、まさかこんなテンプル騎士団の真似事をするなんて微塵も思っていなかった。
無論、昔の自分にそう言っても信じてくれないだろう。
忌むべき敵のやり口を模倣するなど、おぞましいにも程がある。
「現実ってのはとことん残酷だ。性格が悪すぎるにも程がある」
一歩、二歩。
モニターを凝視したまま凍り付くパヴェルに歩み寄り、彼の顔を見上げながら告げる。
「そんな残酷さに毅然と立ち向かうには、ヒトはあまりにも弱すぎる。手段を選んでいる場合じゃない」
「だが……ミカ、お前……これは……」
「―――これが俺の”覚悟”だよ、パヴェル」
分かっている。これが何を意味するのか。
自分でも感じているのだ―――姿形は変わらなくとも、その内面はじわじわと、インクが真っ白な紙に滲んでいくように変容していくのが。
現実はこれ以上ないほど残酷だ。嫌な事をこれでもかというほど突きつけてくる。そしてその理不尽なまでの残酷さに耐えきれなかった者を弱者として間引き、耐え抜いた者を強者として選別するのだ。
そんな運命には、抗いたい。
弱い人たちにだって生きる権利はある筈だ―――俺は、ミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフという個人は、その全てを肯定したい。
そのためにも―――誰もが安息を得られる祖国のためにも、領主となった今はこの身を捧げる覚悟でいる。
安寧に満ちた未来ならば、この心が、この身体が、どれほどおぞましく変容しても構わない。
命ある限り、残酷な運命には全身全霊で抗うつもりだ。
たとえそれが、どんな姿になっても。
「ラスプーチンは兎にも角にも陰険な男です」
リュハンシク城内の執務室。
クラリスが淹れてきてくれた紅茶のマグカップを受け取るや、テンプル騎士団の黒い制服姿のシェリルが立体映像投影装置を用いて説明を始めてくれた。
蒼い結晶が砕け散るようなアニメーションが再生されたかと思いきや、砂粒ほどの大きさまで砕けたそれらが凄まじい精度で空中で収縮、ラスプーチンの姿を精巧に再現する。
執務室の中に出現した直立不動ラスプーチン。なるほど、メガネの奥の瞳はあからさまに相手を見下すような目つきで、口元に浮かんだ冷笑も相手を嘲るような意味合いがあるのだろう。本心が顔から滲んでいる。
見るからに陰険そうな男だ。
どうせ小学生の頃は片思いの女の子のリコーダーをこっそり舐めたり、中学生になってインターネットを覚えるや掲示板やオンラインゲームででレスバ、暴言、クエスト中の途中退出という迷惑行為に明け暮れ、高校になったらなったでSNS上でイキり散らかし人生の一番美味しい時期を黒歴史で塗りたくってきたような、そんな彼の過去が顔だけで分かる。
絶対コイツ趣味は何かと聞かれたら得意気に『人間観察』って答えそうだ。
「初等教育時は片思いのホムンクルスの子に告白する勇気も出ずこっそりその子のリコーダーを舐めて過ごし、中等教育時はインターネットを覚えた途端にイキり散らかして暴言や迷惑行為のオンパレード、高等教育時はSNS上でイキりつつレスバに明け暮れた、まさに”陰険”という言葉が服を着て歩いているような男です。趣味は【人間観察(笑)】だそうでw」
「わーお」
頭の中で適当に組み上げたラスプーチンの黒歴史マシマシ☆プロフィールが狙い違わず的中した時の俺の心境を簡潔に述べよ。
そんな人本当に居るのか……というかそんなイキり野郎でも上に上り詰める事が出来るのかテンプル騎士団。
「テンプル騎士団は実力至上主義です。組織にとって有用と判断すれば、たとえ犯罪者だろうと恩赦を与え登用します」
「へぇーそうなんだ。ナチュラルに心を読むのやめてくれない?」
「ちなみにコイツ、幼年教育課程から一緒のクラスですのでよく知ってます」
「まさかの同級生で草」
「絵に描いたような陰キャでした。トイレの個室が彼の居城で、昼休みに姿が見えないなと思ったらトイレに行けばだいたいエンカウントします。授業中は窓際の一番後ろの席だったのでこっそりゲームやったりラノベ読んだりスマホでSNSやって顔の見えない相手にレスバで殴りかかっては正論で殴り返され後釣り宣言かまして退散するような無様な男です。戦闘教育課程でもAKの部品をよく無くしたり、分解結合したらどこからかスプリングとかその他細かい部品を召喚してはやり直しをいつも喰らい、彼の分隊員だけ連帯責任で腕立て伏せ100回を言い渡されていました。おかげでラスプーチンの所属する部隊の隊員はやけに腕だけマッチョになってしまい”ラスプーチン教育課程”なんて陰口まで生まれて同期の中では嘲笑の的でした。そんな醜態を晒しても澄ました顔で教育課程をすべて終え、実戦部隊に配属されるのですからきっとラスプーチンのメンタルはオリハルコンか何かでできているのでしょう。まあどうせ日頃のストレスをネットでぶちまけてイキり散らかし、周囲のネットユーザーの皆様に多大なご迷惑をおかけしていたであろう事は想像に難くありません。まさに同期の恥です。控えめに言ってあんな男よりも三葉虫の方が経済的価値があります」
「三葉虫に経済的価値で負けるホムンクルス兵 is 何?」
「さらにとんでもない過去が」
「ごめんこの話長くなる?」
「このラスプーチンにこっそり舐められていたリコーダーの持ち主は 私 で す 」
「」
……ええと。
その、あの、え、っあ、あぁ……うん、はい。
よほど辛い過去だったのだろう。立体映像に映るラスプーチンの姿に向かってゴミを見るような視線を向けるシェリル。一部の性癖の持ち主にはご褒美に見えるかもしれないが、俺にそういう趣味は無いですハイ。
「ですのでミカエル、貴女には期待しています。あの男の身体の穴という穴にリコーダーを突き立ててちゃちゃっと暗殺してください」
「あっハイ」
未だに恨んでるのか当時の事……。
などと思っていると、傍らでPCに超高速でタイピングしていたシャーロットがとんでもない爆弾発言をぶちかました。
「……ということは、だ。万一シェリルとリガロフ君がくっついて○○○○する関係まで進めば実質NTR、ヤツの脳を破壊できるのでは?」
「 そ れ だ ! ! 」
「 ど れ だ 」
「さあミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフ、私とその……しましょうか」
「何をだ」
「何って決まってるじゃないですか脳破壊ですよ。あのラスプーチンの脳を破壊するのです。暗殺したいのでしょう? 私もあの男には恨みがありますし何よりあなたのこのミニマムサイズボディを思い切り吸いながらジャコウネコ科の魅力に全身全霊で溺れたいのですハアハア」
待てシェリル、おいばかやめろ。鼻息荒くしながら寄ってくるな。上着脱がそうとするなモフるな吸うなネクタイ解くな。んでクラリスはベルトを緩めるなズボンを下げようとするなやめr……おいマジやめろ! これR-15だぞやめろ! やめろって怒られるから!!
何もない空間からハリセンを召喚して2人を引っ叩き強制停止。なんだろう、シスター・イルゼの苦労が分かったような気がした。
「油断も隙もありゃあしねえ」
「コレ同人誌だとそのまま押し倒されてアレする流れだよねェ」
「うるせえ張り倒すぞ」
「押し倒す? やんっ、ミカたんのえっち」
このホムンクルス三馬鹿には毎回ペースを乱される。何なんだコイツら。
「―――けれどもミカエル、ラスプーチンを相手にするなら最大限に注意を払う事をお勧めします」
先ほどまでの欲望剥き出し、下心丸出しの状態から打って変わって、いつもの真面目で無表情でクールな雰囲気に戻るシェリル。まるでラノベとかの敵キャラによく居る無表情で冷酷な女にも見えるが、頭にギャグ回特有のたんこぶ乗せたままシリアスな雰囲気出してもギャグにしかならねえんだよなぁ。
この女もしかしてポンコツなのでは???
「あの男は先ほども述べた通りイキり散らかし訓練の成績でも散々の三葉虫以下の男です」
「辛辣だな」
「評価すると調子の乗るので」
「うん」
「―――戦闘力は大したことはありません。が、話術だけにはとにかく長けていた」
ぴくり、と眉が動く。
「相手の強みと弱み、自分の立ち位置を弁え、嘘と真実を交えて相手を翻弄する生まれつきの詐欺師です。決して奴の口車には乗せられないように」
「分かってる」
「それと、あの男の事です。暗殺される事も想定しているでしょう―――どこまで影響力を持っているかは未知数です。慎重な作戦の遂行を」
「……ああ、分かった」
テンプル騎士団との連絡役、ラスプーチン。
奴を消せば一連の襲撃もなくなり、帝国とテンプル騎士団の連携も寸断されるだろう。
いわば、あの男は両陣営にとってのアキレス腱なのだ。
そして、この作戦は記録には残らない。
されど作戦の成否自体は―――歴史に刻まれるだろう。
それだけははっきりと分かった。
第三十四章『新局面』 完
第三十五章『凶星のプラネタリウム』へ続く
ミカエル「話術に長けてた割にはレスバは弱かったんだなラスプーチン」
シェリル「本人曰く”相手の顔を見て面と向かった対話なら勝てる”だそうで」




