リュハンシク城
シェリル「ぶっちゃけモニカは胸より尻」
パヴェル「分かる」
シェリル「一番残念なのは本人が自分の武器に気付いてないところ」
パヴェル「分かる」
シェリル「まあ他の巨乳ヒロインズと比較するとどうしても薄味になってしまうのですが」
モニカ「誰が薄味ヒップよ誰が!!!!!!!!!(1000㏈)」
窓「じゃあの」パリーン
パヴェル「 オ イ 」
ガクブルモニカ「アッハイゴメンナサイ」
リュハンシク州。
イライナ公国の最東端に位置する州であり、東部ではノヴォシア最西端のマズコフ・ラ・ドヌーに面する”東部の玄関口”だ。イライナ語では『リュハンシク』だが標準ノヴォシア語では『リバンスク』と発音するというが、それはさておき。
ノヴォシア帝国の中でも最も過酷な冬を迎える事になるノヴォシア地方に面した場所というだけあって、イライナの中ではトップクラスの豪雪地帯としても知られる。
そして同時に石炭や石油といった資源が豊富に採掘できる場所であり、ノヴォシアからの出資もあって宗主国ノヴォシアを差し置き重工業化へいち早く成功したイライナの工業を支えている場所の1つがこのリュハンシク州だ。
帝国と国境を面し、そのうえ豊富な化石燃料が採掘できる重工業の生命線の1つということもあり、かつてのイライナ併合戦争(イライナ側では『帝国侵略戦争』、ノヴォシア側では『領土回復戦争』と呼称されている)では真っ先に狙われた。
だからイライナ独立の際には真っ先に狙われる場所であろう、と予測されていた場所だ―――実際に開戦すれば、この閑静な雪の積もる街が最前線となる。
線路のポイントが切り替わった。
共産主義者の放逐後から、姉上の介入と前領主の政治的手腕もあってリュハンシクの財政はかなり安定しているらしい。以前は列車の誘導を行う戦闘人形も整備不十分で動かなかったり、凍結したまま打ち捨てられたりと随分酷い有様だったが、今は違う。
見張り台には上半身のみの戦闘人形が鎮座し、旗を取りつけたアームを振るって手旗信号を出し列車を誘導している。整備も良好なようで、腕の動きは滑らかだった。
列車が進路を変更した先は、リュハンシク駅ではない。
キリウでは一旦駅で俺たちを降ろしてから、列車はリガロフ家所有の車両基地へ回送という形となったが、リュハンシクではそんな事をする必要はないらしい。
これから向かう場所―――そこまで線路が続いているからだ。
リュハンシク駅を遠くに望みながら、ぐるりと左へカーブしていく列車。やがて巨大なスノープラウが装着された警戒車の遥か先、波濤の如く左右へ割れていく雪の向こうに巨大な影が見えてくる。
それはまるで巨人が創り上げた壁のようで―――しかし尖塔のようなものが幾重にも屹立した、巨大な建造物だった。
吹雪でうっすらと白く染まりながらも、しかし雪雲の天蓋から差し込む日の光を背に受けながら巨大な影を浮かび上がらせる”それ”。首が痛くなるほど空を見上げながら、吹雪の中で静かに息を呑んだ。
「これが―――」
―――【リュハンシク城】。
遥か昔、この地でイライナ側の指揮官『ヴィクトル・テレヴチェンコ』将軍が実に15回にも及ぶノヴォシアの攻勢を退けた事は今でもイライナの歴史の教科書に記される程有名であり、イライナの帝国騎士団においても当時の防衛戦闘は研究の対象となっている。
姉上曰く『防衛戦の秘訣は地の利を生かす事と十分な装備と食料の備蓄、それから補給体制の確立』との事だ。いくつかの記録によれば、当時からテレヴチェンコ将軍は簡易的ではあるが部下に塹壕を掘らせ、そこからの一斉射撃や魔術の集中砲火で敵を足止めする戦術を駆使したのだという。
しかしそんな名将も数の暴力には勝てなかったようで、16度目の攻勢を受けた頃には指揮下の兵士は僅か39名、しかも将軍含め全員が負傷兵という状態で、最終的には一番若かった兵士にキリウ大公への伝令を命じるや最期の防衛戦を敢行、最期の1人になるまで徹底抗戦を貫いたとされている。
その際、部下たちに戦場からの離脱を命じたそうだが、誰1人としてそれには従わず将軍と運命を共にしたという逸話からも、テレヴチェンコ将軍がどれだけ兵士から慕われていたかが窺い知れる。
そんな名将が守った東部の地―――俺は果たして守り切れるだろうか。
イライナ併合後、元々はノヴォシア侵略に対抗するための城塞だったそこを改装し領主の居城となったリュハンシク城。歴史あるあの城が、今日から俺の”家”になる。
巨大な門が開いた。
配管の隙間から蒸気を派手に吹き上げながら、凍結した壁面の氷を強引に剥がして巨大な城壁の一部―――鋼鉄製の門が上へ上へと持ち上げられていく。列車が通り抜けられるほどの高さに持ち上げられたと見るや俺たちの列車はその下を通過、歴史あるリュハンシク城の敷地内へとついに足を踏み入れた。
線路が段々と下へ下がり始めた。地下へ潜っているのだ。どうやら列車の格納庫は地下にあるらしい。
レンガ造りの壁面と、等間隔に規則的に並べられた大きな照明。レールのジョイント音が幾重にも反響し、怪物じみた音をトンネル内へと響かせる。
しかしそんなトンネル探検も長くは続かない。
照明の灯りが一段と明るくなったかと思いきや、視界が一気に開けた。
広大……とは言い難いが、しかしまるで地上にあるような車両基地をそのまま地下に持ってきたような格納庫が目の前に広がり、思わず息を呑んだ。
周囲には他の装甲列車が停車している。いずれも車体側面にリガロフ家の家紋が描かれており、その隣にはイライナの国旗―――麦で覆われた大地を現す黄色と青空を意味する蒼の二色を背景に、黄金に輝く三又槍が描かれている。
在来線のホームと比較すると随分と殺風景な、ただ乗員が降りるだけの簡素なそこには既に兵士たちの隊列があった。皆リガロフ家の私兵部隊の制服に身を包み、列車がホームに入線するや一斉に銃剣付きの小銃を掲げる。
儀仗兵たちなのだろう。
列車がブレーキをかけて停車するや、俺は私物と、それから姉上が「儀礼用の剣も持った方が良い」と言い持たせてくれたシャシュカ、それからコサック伝統の短剣『キンジャール』を腰に提げて列車の外に出た。
かぶっていたウシャンカを手に取り、乗り口から一歩ホームに足を踏み入れるや、号令も無しに儀仗兵たちが一斉に捧げ銃の姿勢を取る。銃の揺れる音だけがホームに響き、その一糸乱れぬ人間らしからぬ動きに、もしかしてこの人たち精巧に造られたロボットなのではないかと変な疑いを抱いてしまう。
呼吸しているようにも見えないし……と思わずきょろきょろしていると、後ろに控えていたクラリスがそっと耳打ちする。
「こういう時は堂々となさるものですよ、ご主人様」
「う、うん」
やっぱ慣れねぇ……。
いや、何年経っても陰キャにこういう場はキツいって。
などといつまでも言ってられない。今の俺はリュハンシク領主、公爵家の三男なのだ。堂々と胸を張っていなければ領民に示しがつかないし、ノヴォシアからの圧力にも対抗できないだろう。まずこういう場から堂々とする姿勢に慣れなければ。
息を吐いてから前へと歩いた。
儀仗兵の指揮官と思われる男が1人、一歩前へと歩み出た。腰にはリボルバー拳銃と儀礼用の剣がある。
「ようこそリュハンシク城へ。アナスタシア・ステファノヴァ・リガロヴァ公爵様よりこの城の守備を任せられておりました、”ダニール・キリフチェンコ”中佐であります」
「リガロフ家三男のミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフです。どうぞよろしく」
「ええ、短い付き合いになりますがよろしくお願いしますね」
そう、彼らとは短い付き合いになる。
万一ノヴォシアがイライナ侵攻へと踏み切った場合、真っ先に戦火に晒されるのがこのリュハンシクだ。そうなれば彼らも戦線へと駆り出される事になる。
兵士というのはとにかく高価だ。生まれてから成人になるまで何百~何千万ライブルもの大金がかかるし、どこの家庭だって自分の家の子供や夫を戦争に出したがらない。なんとか兵員を確保したとしてその兵士たちに対する給与や衣食住、それから訓練……とにかく何をするにも金がかかる。
兵器ならばまだ良い、破壊されたり戦闘で喪失しても、同じ規格で同じ仕様の部品を組みなおせば真新しい同一の兵器が出来上がる。だがしかし生身の兵士というのはそうはいかない。戦闘で戦死したらそれまでで、しかも戦死したらしたで国内の厭戦感情を大いに刺激する。
基本的人権を遵守するイライナだからこそ、兵士の値段というのはどこまでも高騰するのだ。
そういう倫理的、そして経済的な理由もあって、姉上と協議した結果一致したのが『緒戦での人的損耗は極力防ぐべし』という方針だった。
もしイライナ侵攻が始まった場合、リュハンシクでの戦いは彼ら無しで持ちこたえる事になる。彼ら経験豊富な私兵部隊はキリウへと移動、戦闘の経過を見て防衛線の破られそうな戦線へと投入される増援部隊として機能することになるのだ。
では兵員の引き払った後のリュハンシクをどうやって守るのかというと。
「で、あれが我々の代わりですか」
後ろで手を組んだキリフチェンコ中佐が物珍しそうに、列車から降りてくる白騎士やドローンたちを見ながら言った。
貨物車両に一緒に積み込んでいた白騎士たちだ。シャーロットの起動コマンドを受け起動、列車から自力で降りてきたのだろう。既に手にはAK-19があり、マルチカム迷彩のコンバットパンツにコンバットシャツ、それからプレートキャリア。腰のベルトには各種ポーチとグロックのホルスター、それからナイフの鞘がある。
中には白兵戦も想定しているのか、トマホークやらマチェットを装備している白騎士もいた。
頭には米軍など西側諸国で採用例の多いFASTヘルメットを装備、ヘルメットには既に暗視ゴーグルやライトなどの装備品が装着されている。
単発式の銃剣付き旧式銃を手にした第一次世界大戦以前の兵士と、最新の装備を身に纏ったロボットの兵士たち―――なんとも面白い対比ではないだろうか。
中には番犬のように複数の小型ドローンを引き連れている白騎士もいた。
白騎士、といっても骨格は人間のそれをほぼ踏襲しており、騎士というよりは”異様に肌の白い人間”のようにも見える。
シャーロットの話ではテンプル騎士団の黒騎士たちは髑髏のような骨組みに防弾装甲をかぶせたような構造となっており、その姿で相手を威圧する心理的効果も企図したものであるのだという。
それに対し白騎士はリュハンシク防衛の主戦力として運用する機械の兵士だ。その性質上、民間人が目にする事も多く過度に威圧するような姿に仕上げるよりは、人間に似せて受け入れられるような姿であってほしいという要望を出したところ、あのような姿になったという。
ちなみに食堂車で配膳していたのは、従来のタイプのバイザーを装着した初期生産型だ。
リュハンシク州への配備を見越してキリウで密かに増産されていた白騎士の初期ロット、総勢20体。それに初期生産型の3体を加えて今のところ白騎士の数は23体―――戦力化するにはまだまだ心許ない。
そこで戦力の主力が完全に白騎士に移行するまでの間、キリフチェンコ中佐率いる部隊にはもう一働きしてもらうというわけだ。
「なんだか、未来を見ているようですなぁ」
「その未来を我々が作るのですよ、中佐」
整列する機械の兵士たちをまじまじと見つめるキリフチェンコ中佐に、つい自然とそんな言葉を漏らしてしまう。あくまで心の中で思っただけのつもりが、無意識のうちに言葉として紡いでしまったらしい。
目を丸くしながらこちらを見下ろす中佐に、こうなったら言えるところまで言ってしまえと思いつつ言葉を続ける。
「―――我らの子供たちが謳歌するであろう、より良い未来を」
「……ええ」
そのためにここへとやってきた。
冒険者ミカエルではなく―――領主ミカエルとして、ここに。
1889年 10月27日
ノヴォシア帝国 帝都モスコヴァ
暗い部屋の中に変化が生じたのは、いったいいつまで待たされるのだろう……そう”彼ら”が何度目かも分からぬ疑問を思い浮かべたその時だった。
ぱっ、ぱっ、と部屋の壁面に配置されたロウソクが、まるで魔法使いの手に掛かったかのように次々に赤い火を灯してゆく。やがて円形の広間の壁面に沿ってロウソクの光が燈り切るや、広間の大きな扉が音もなく開く。
向こうからやってきたのは、僧衣に身を包んだ長身の中性的な男だった。肩幅と骨格から辛うじて男性である事が分かるが、しかしその端正な顔立ちと海原のように蒼い長髪、そして身に纏う色気は、骨格さえ分からなければ長身の女性であると錯覚させるには十分すぎるであろう。
長身の僧衣の男―――テンプル騎士団が遣わした使者、ホムンクルスの1人『ラスプーチン』は視線をこちらへと向ける男女を見渡すや、孤児院で孤児たちに慈愛に満ちた笑みを向けるかのように微笑んだ。
「いやいや、お待たせして申し訳ない」
深々と頭を下げ、男女の方へと歩みを進めるラスプーチン。
相違を身に纏う彼に対し、広間で待たされていた男女は皆、制服姿だった。
ブレザーにセーラー服……そう、日本のいたって普通の高校生のものである。中には学生鞄まで抱えた生徒まで居て、まるで学校帰りにここへとやってきたかのような、そんな有様だ。
されど全員が制服姿というわけでもない。中には学校が休みだったのか、あるいは引きこもりだったのかは定かではないが、私服姿で目元にクマを浮かべた男子もいる。
ここはどこなのか、自分たちはどうなったのか―――そんな疑問が渦巻く彼らに向かい、ラスプーチンは両手を広げた。
「突然ですが―――皆さんは死を遂げられた」
お前たちは死んだ―――いきなりそんな事を言われ、平常心を保っていられる者など居る筈がない。戦争もなく、平和な日本でついさっきまで過ごしていた学生ならば猶更だ。
「しかし皆さんの無残な死を哀れんだ慈悲深き女神様により、あなた方はこの世界へと転生を果たしたのです。世界を、そして偉大なこの帝国を崩壊から救う気高き勇者として!」
「……あのー、えと、つまりそれってアレッスか? 今流行りの異世界転生的な?」
「いかにも!」
辛うじて問いを投げた男子高校生にそう応じ、ラスプーチンは熱弁を振るう。
「一度目の人生、思う事はたくさんあった事でしょう。未練もあるでしょう、やり残した事もたくさんあるでしょう。唐突に訪れた死はさぞ理不尽でしょう……ですが、この二度目の世界ではそうはならない! 皆さんの手には、女神が与えたもうた圧倒的な力がある!!」
ざわつく転生者たち。チート能力、などアニメやラノベの中だけの話ではないか。そんな力が自分たちに本当に宿っているのか―――困惑する彼らに畳みかけるように、ラスプーチンは続けた。
「どうかその力でこの国を救って下さい、勇者の皆さん。あなた方の力で、帝国を崩壊に導かんとする魔王を斃すのです―――ミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフという名の魔王を」
ミカエルの与り知らぬところで、『ミカエル暗殺計画』は始動しつつあった。




