クラリスのご主人様らぶらぶ観察日記
ジャコウネコ科の一種であるハクビシンは、フルーツなどの甘い果実を好んで食べると言われています。
だからなのでしょう、クラリスのご主人様もフルーツ類に目が無いのです。どれだけ機嫌が悪くても、一口サイズにカットしたフルーツをちらつかせるだけで目を輝かせ、尻尾を振ってケモミミをぴょこぴょこ動かしながら寄ってきます。
今ではもうクラリスの膝の上がお気に入りのようで、こうして食堂車でおやつ(今日はカットフルーツ、ご主人様の一番好きなおやつです)を食べる時は決まってクラリスの膝の上で丸くなりながらリンゴやらイチゴをもぐもぐするようになりました。
もっふもふでふわっふわの髪を撫でながら、お皿の上のリンゴを1つ手に取ってご主人様の口へ。待ってましたと言わんばかりに顔を上げたご主人様はリンゴを咥えると、そのまましゃくしゃくと咀嚼し始めました。
最初の頃は恥ずかしがってなんでもかんでも1人でやろうとしていたご主人様ですが、今では特にオフの日はこんな感じです。クラリスの膝の上で丸くなったり、撫でられて気持ち良さそうに目を瞑りながらそのまま寝落ちしてしまったり、随分と動物的な感じになってます。
「ふふっ、美味しいですかご主人様?」
「にゃむにゃむにゃむ」
「あーん♪」
「ふにゃーん♪」
おっといけません鼻血が、鼻血が……。
しかし当然ながら果物を延々と食べていればいずれはなくなってしまいます。お皿の上のフルーツの盛り合わせが無くなると、ご主人様はちょっと寂しそうにケモミミをぺたんと垂れさせました。可愛い。
さて、お腹もいっぱいになった事でしょうしそろそろお昼寝の時間にしましょうかご主人様。
ご主人様を抱っこしつつ吸い始めます。このふわっふわでもっふもふの髪の触り心地と、どこからともなく香るバニラのようなご主人様の体臭が本当に癖になるのです。一度やってみてください、あっという間にハクビシンを吸う事しかできなくなるダメ人間になってしまいます。クラリスのように。
ちなみに何でご主人様からこんなバニラみたいな良い匂いがするのかというと、それはジャコウネコ科の獣人に共通する特徴でもあったりします。
ジャコウネコ科の獣人には、”臭腺”というジャコウネコ科獣人特有の器官が存在します。これはジャコウネコ科の動物も持っているものだそうで、外敵が来たときにこれから臭いを分泌して威嚇したり、自分の縄張りへのマーキングに使ったりするのだとか(ここから分泌される液体は大昔には香水の原料として重宝されたのだそうです)。
獣人の場合、モデルとなった動物の特徴も反映されているのですが、ジャコウネコ科獣人の場合その臭腺も受け継いでいるようなのです。ご主人様曰く、『ジャコウネコ科獣人の臭腺はお尻の辺り、尻尾の付け根辺りにある』のだとか。実際にご主人様が寝ている隙にお尻の匂いを嗅がせていただきましたが確かにバニラの香りがしたので間違いないでしょう。
さて、話がずれました(ご主人様には内緒ですよ)。
ジャコウネコ科の獣人はその臭腺で分泌した良い香りのする液体を汗やその他の老廃物と一緒に分泌するそうで、そのせいでジャコウネコ科の獣人の皆さんは香水無しでもいい匂いがするのです。体臭を気にしなくていいので羨ましいですね。
ちなみに匂いにも個人差があるようで、ご主人様の場合はバニラの香りですが、その母親であるレギーナさんはジャスミンの香り、ご主人様の祖母にあたるカタリナさんはラベンダーの香りだそうで、祖父のアンドレイさんはサンダルウッドの香りだったそうです。
ノンナちゃんはオレンジの香り、ルカ君は何故か分かりませんがポップコーンの香りなのです(ビントロング獣人だけ匂いが固定なのでしょうか?)。ジャコウネコ科獣人の皆さんは吸ってて飽きないですね。ジャコウネコ吸い、普及させていきたいと思います。
ハスハスクンカクンカしながらご主人様を寝室へと連行するクラリスを、モニカさんやリーファさん、そして何故かイルゼさんまでが羨ましそうな目で見つめてきました(あらあらイルゼさん?)。
けれどもこれはクラリスの特権、そう特権なのですわ。このクラリスこそがご主人様の専属メイド、常に主人の傍らに控えそのお世話をする権利を有する唯一無二の存在なのです。だからクラリスはご主人様にとっての特別な存在なのです、えへん。
さて、そんな感じで付き合いが長いのでご主人様の身体の事なら大体知ってます。首の裏にホクロがあるとか、ケモミミの裏側を掻くと喜ぶとか、上着を脱ぐと胸元に謎の光が発生して円盤じゃないと全部見れなくなるとか。
ベッドに腰を下ろし、その辺に置いてある猫じゃらし型のおもちゃを手に取ります。クラリスの膝の上であおむけになっていたご主人様の前で猫じゃらしをゆらゆらさせると、早速くりくりとした銀色の瞳が可愛いピンクの猫じゃらしに釘付けになりました。
「……クラリス?」
「はい」
「俺の尊厳は?」
「うふふ♪ 可愛いから良いではありませんか」
「いやそういう問題じゃ……」
口ではそう言いながらも視線は猫じゃらしを追い、隙あらば捕まえようと両手をブンブンするご主人様。まるで飼い猫みたいな可愛さです。本当に何度この人をクラリスだけのものにしようとした事か……一度や二度じゃありません本当に。
割とガチで何なんでしょうねこの可愛い生き物?
猫じゃらしに対する反応が薄れ始めた辺りで、用済みになった猫じゃらしをベッドの上にポイしてからご主人様のお腹をさわさわしました。触れると分かる割れた腹筋、こんなミニマムサイズで可愛らしい姿をしていても身体はしっかりと戦うための身体になっているのです。あー良いですねこのシックスパック。ミニマッチョですミニマッチョ。
「誰がチビやねん」
「うふふ♪ 可愛いから良いではありませんか♪」
「いやそういう問題じゃ……」
「もふもふ~♪」
「ん~♪」
はい、ご主人様が大好きななでなでの時間ですよ~♪
ケモミミの裏側を中心に優しく掻いてあげると、ご主人様は気持ち良さそうな感じのロリボを口から漏らしながら目を瞑ってしまいました。特徴的な長い尻尾もゆらゆらと左右に揺らしていて嬉しそうです。
さて、ここでちょっと意地悪をしてみましょう。
唐突にケモミミの裏を掻く手をぴたりと止めてみました。
するとどうでしょうか。先ほどまで気持ち良さそうな顔をして今にも寝落ちしそうだったご主人様が目を開けるや、真顔でクラリスの方をじっと見上げてきます。「え、なして止めたん?」とでも言いたそうな感じの視線を向けてきて、段々と切ない表情になってきたのでなでなでを再開してあげました。
ホントにウチのご主人様は可愛らしいです。恥ずかしがってたりするご主人様も良いですが、やっぱりこうやって甘えてるご主人様が一番可愛いですね。真面目に食べてしまいたくなります本当に。今夜あたりどうでしょう……いいえ、いけませんいけません。クラリスはリガロフ家のメイド、そんなはしたない真似は許されません。
我慢我慢、もふもふとジャコウネコ吸いだけで我慢……でも合意の上だったらセーフですわよね?
などと蛇口をひねったかのように溢れ出す煩悩を赴くままに垂れ流していると、すうすうと寝息が聞こえてきました。
視線を落とすと、やはりそうでした。ケモミミの裏を撫でられていたご主人様が、気持ちよさのあまり寝落ちしてしまったのです。
ぴょこんとケモミミを動かしながら眠りに落ちてしまったご主人様をベッドに寝かせ、ついでにクラリスも添い寝を。
今日はオフですので、お昼寝しても問題ありません。
この部屋には今、ご主人様とクラリスだけ。この静かな癒しの時間を邪魔する者は誰も居ないのです。
さあ、眠ってしまいましょう。
きっと気持ちが良いですよ、うふふ……。
あーでもやっぱりブチ犯s……いけませんいけません。
「ハイあと30秒!」
「う、うぐ、ぐ……ぐ……!」
「なんだルカ、だらしないぞお前!」
プランクのトレーニング中、今にも脱落しそうになるルカ君がパヴェルさんに怒鳴られています。あの人、基本は優しいし頼れる兄貴といった感じなんですが、訓練は容赦ないんですよね……ウェーダンの悪魔、なんて呼ばれていたらしい(クラリスよりも後の時代のテンプル騎士団から来たそうなので面識は一切ありません)ですが、それは敵から呼ばれただけではないのではないでしょうか。
あれは新兵にとっても”悪魔”ですねぇ……。
なーんて思いながらプランク耐久3時間目。これ本当にトレーニングになってるんでしょうか、と思ったまま姿勢を保持していますが、まあ身体を動かさなければ無駄なお肉がついてしまいますし、そうじゃなくても筋肉は衰えていきます。こうやって適度に負荷をかけてやるのが一番なのです。
そういえばクラリスの同期にもやべー奴が居ました。訓練開始に遅れて連帯責任で腕立て伏せ、教官が個人個人に「OK」と言うまでひたすら腕立て伏せを続ける罰があったのですが、その張本人だけ教官が声をかけるのを忘れていて、結局3ヵ月の教育課程が終わるまで延々と腕立て伏せしてた化け物が居たのです本当に。
同期一同が気付いた頃にはその人、両腕だけ異様にマッチョになっていて、右ストレートでヘラジカをワンパンできるレベルになっていたのだとか……。
ちらりと視線を隣に向けると、プルプルしながらも頑張るご主人様の姿がありました。
幼少の頃からこの人は努力家でした。自分なりに身体を鍛えて、体力をつけて冒険者として屋敷を出る日に備えていたのです。1人でも生きていけるように徹底的に身体に負荷をかけていたご主人様のストイックさは未だ失われていません。
タイマーがトレーニング終了を告げ、ご主人様は息を吐きながら膝を床につきました。
「う゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁ終わっだ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うわきっつ……」
「ほい、体力トレーニングは以上! 後は各自整理体操して自由時間!」
「「ありがとうございましたァー!!」」
教官を務めたパヴェルさんにそう言い、トレーニング後で負荷のかかった身体を整理体操で解すご主人様とルカ君。この後運転手のバトンタッチがあるルカ君はご主人様に何か話をしてから汗拭き用のタオルで髪を拭き、トレーニングルームを後にしました。
それでご主人様はというと……。
射撃訓練場のレーンに向かうや、イヤーマフを装着してメニュー画面を召喚。グロック17Lを召喚するや、マガジンに9×19mmパラベラム弾を装填して射撃訓練を始めます。
ご主人様は可愛いだけじゃあないのです。やる時はキッチリやるお方なのです。あの大きな背中を見ていると本当に頼もしいですし、ご主人様の成長が感じられてクラリスは嬉しいのです。
さて、プランク3時間10分にも達したところでクラリスもトレーニングを終了、タオルで汗を拭いてからレーンに向かい、イヤーマフを装着してグロック17を手に取ります。
木箱の中から9×19mm弾を掴み取り、マガジンに装填。手慣れた動作で初弾を装填、レーンの向こうで起立する的に向かって9mm弾を浴びせかけていきます。
射撃の片手間でちらりとご主人様の方を見ました。
迷彩模様の短パンに黒いタンクトップというラフな格好、汗ばむ身体に真面目な瞳、なんとエロいのでしょうか。
やっべもう押し倒して貪り尽くしたい……いけませんいけません、今は訓練中なのです。
真面目に、真面目に訓練しましょう。煩悩は一旦隅に置いといて蓋をして……あーいけません漏れちゃう漏れちゃう溢れちゃう。
すうすうと寝息を立てるご主人様を抱きしめ、頭を撫でながらクラリスも瞼を閉じました。
この人は、本当に苛酷な運命の元に生まれてきたと今でも思います。
愛のない庶子という出生、蔑まれながら育った幼少期、そして冒険者になった後の度重なる逆境。人生いろいろあるのは当然ですし、辛い事も山ほどあるでしょう。ですが生誕からたった17年でここまでの逆境を一度に経験し、そのことごとくをボロボロになりながらも乗り越えてきたこの人はきっと、強い心の持ち主なのです。
決して砕ける事のない強靭な心。それがあるからこそ、折れる事もなく歪む事もない、闇に染まる事もなくここまで進んでくる事が出来たのでしょう。
きっとこの人は、ミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフという1人の獣人は、いずれ世界の歴史に名を遺すでしょう。祖先の名に恥じぬ大英雄の1人として。
クラリスが居なくとも、この人は大義を成す―――クラリスにはそう思えます。
だから、クラリスがするべきなのはこの人の傍らに控えて、その手助けをする事。
この人を更なる高みへと至らせる、そのお手伝いをする事。
小さな身体をぎゅっと抱きしめ、頬にそっとキスをしました。
「明日も頑張りましょうね、ご主人様」
寝ぼけたのでしょうか。
ご主人様は何を思ったか、ひゃむにゃむ言いながらクラリスの頬にキスを返してきたのです。
もう我慢できませんでした。
あっこれヤバいかもと思った時には既に遅く、クラリスはベッドの中で盛大に鼻血ブーする羽目になっていたのです。
翌朝、パヴェルさんから拳骨を頂き半ギレになった彼と2人で部屋を掃除する事になるのですが、それはまた別の話。
やっぱりご主人様をもうブチ犯s……いけませんいけません。
いけませんいけません(R-15タグ付いてるので)




