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いざ見習い登録へ

※本編開始前の注意事項


・作者は夜勤明けです。

・これを執筆している時点で一睡もしていません。

・なので昼間に関わらず深夜テンションです。

・「うわ深夜テンションで執筆とかないわー引くわー」という方はそんな冷たい事を言わずにどうかお付き合いください。

・それではどうぞ!


 クラリスの実家の裏には畑があります。


 そこで毎年、イチゴとかスイカ、トウモロコシを育てているのです。


 収穫の時が一番楽しいのですが、最近はちょっとばかり困った事があるのです。


 一体どこからやって来るのか、いたずら好きのハクビシンが夜な夜な畑にやってきては、収穫前のトウモロコシやスイカを食べて行ってしまうのです。


 縄を張ったりバリケードを設置したりとクラリスも対策をしましたが、パルクールが得意でキュートなハクビシンのようでなかなか被害は減りません。


 そこでクラリスは、畑に罠を設置しました。


 そして一夜明けた次の朝……。


「うふふ、捕まえましたよ」


「ぴっ、ぴえぇ……」


 囮のフルーツをたくさん詰め込んだ檻の中には、くりくりとした丸い目の、身長150cmのハクビシンがいました。見た感じはしっかりとした身なりで、まるで貴族とメイドの間に生まれた庶子のよう。


 食べかけのスイカを両手で抱え、檻の隅でブルブルと震える二足歩行のハクビシンに、クラリスは指をワキワキと動かしながらにじり寄ります。


 いくらパルクールが得意で運動神経が良いハクビシンと言えど、こうなってしまっては逃げ場はありません。必死に威嚇する姿はとっても可愛いですが、けれどもクラリスは知っています。このハクビシンはとっても心優しくて、やったとしても甘噛み程度。クラリスを傷付けるような事はしない、とっても優しいハクビシンなのです。


 ですから、こうなってしまったらもう最後。クラリスの独壇場なのです。


「うふ、うふふ……悪い子ですね、畑をこんなに荒らしちゃうなんて」


「ぴえぇ……許してぇ……」


「ダメですよ。クラリスの畑をこんなに荒らした罰です。荒らした分は身体で支払ってもらいますからね……でゅふ、でゅふふふ……♪」


「ぴえぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 もう駄目です、我慢できません。


 理性が崩壊するのを自覚しながら、クラリスは欲望のままに可愛いハクビシンに襲い掛かりました。












「でゅふふ……ご主人様ぁ……でゅふ、でゅふふ……」


「オーイ起きろー」


 読んでた新聞紙を丸めて軽くクラリスの頭を叩くと、口の端からよだれを垂らして欲望全開だったウチのメイドさんはハッとしたように目を開けた。


 ポケットから取り出したハンカチでクラリスのよだれを拭うと、さっきクラリスの頭を叩いた新聞紙をもう一度広げ、待合室の椅子に腰掛けながら記事に視線を走らせる。


 ここはベラシア最大の都市、ミリアンスク。ベラシアがノヴォシア帝国に併合される前までは首都だった場所で併合後も帝国経済のかなめとしてその一翼を担っている。


 経済面だけじゃない。国防に関しても西側から攻め込んでくるであろう仮想敵国に対しての前線司令部としての機能も期待されているし、それにベラシア地方そのものが魔境という事もあって、ベラシア地方では冒険者は仕事に困らない。


 そりゃあ年がら年中魔物とドンパチやってるような地域である。さっきから管理局の建物の中を行き交う冒険者の面構えが違う。


 顔に傷のある筋骨隆々の巨漢に他を寄せ付けない威圧感を放つ剣士、さっきから難解な魔術教本を読み漁っている魔術師……さすがミリアンスク、冒険者のレベルも他の地域と比較して次元が違う。


 さて、そんな魔境に何をしにやってきたかと言うと、だ。


「えー、ルカ様、ルカ様、お手続きの準備が出来ましたのでどうぞこちらへ」


「ぴゃいっ!」


 ……そう、ルカの冒険者見習い登録である。


 冒険者の登録は17歳からだが、冒険者には15歳から登録できる『冒険者見習い』という制度がある。


 これは【実務経験2年以上の冒険者が同伴する】という条件付きで、登録のための最低年齢に満たない人でも冒険者同様の活動ができる、という制度だ。ただしあくまでも見習いである関係上、見習い登録した人の安全のためにも受けられる仕事はDランクまでという制限が課せられている。


 これに違反した場合は2000万ライブル以上の罰金、もしくは20年以上の懲役、またはその両方が科せられるので、冒険者パーティーを運営するリーダーや見習い登録する諸君は気を付けるように。ミカ姉との約束だぞ。


 通常の冒険者登録はEランクからのスタートで、ギルドのランクが所属する冒険者のランクの平均値で決まる関係上、新人の冒険者を採用しようというギルドはそれほど多くはない。というか、むしろギルドランクの低下を嫌う傾向があって鎖国的な感じになっている。


 けれども見習いにはランクがなく、ギルドランクの変動も起こらない。


 さらには見習い登録から正式な冒険者登録までの2年間の間に大きな成果を見せた場合、Eランクからではなくもっと上のランクからのスタートになる。


 そういう制度の仕組みもあって、登録したばかりの冒険者よりも、見習いを採用して2年間育て、そこから叩き上げの冒険者として採用しようというギルドは多い。というか、期待の新人を勧誘しようとギルド間で争奪戦を繰り広げる事も珍しくないのだとか。


 おーやだやだ怖いねえ……そういうところは共産主義的にさ、こう平等に……ね。見習い君を2等分とかできないものか(できません)。


 ともあれ、管理局に手続きに訪れた冒険者があまりにも多いせいで待合室に押し込まれて待つこと2時間、やっと巡ってきた出番である。暇を持て余し腕立て伏せを始めてしまった範三(うわ筋肉バッキバキやんけ)に声をかけ、一緒に受付に行くことに。


「範三、行くよ」


「しばし待てミカエル殿。あと300回」


「いや俺たちの番だから」


「断る」


「範三!」


「断固拒否する!」


「範三ぉ!!」


「やだ!!!!!!!!!」


 こ、この頑固者めぇ……!


「あ、あはは……範三さんの様子は私が見てますから、ミカエルさんたちはお手続きの方に……」


「ご、ごめん。ありがとうイルゼ」


 まったく、範三の頑固さには困ったものだ。仲間としては非常に頼りになる事この上ない(クラリス、パヴェル、リーファと並んでウチのギルドの最高戦力、その一角である)のだが、こう……自分の意見を絶対に曲げない頑固なところは何とかならないものだろうか。


 とりあえず腕立て伏せに余念のない範三と保護者のシスター・イルゼを待合室に残し、俺、ルカ、クラリスの3人で受付へと向かった。


 受付に到着するなり、オコジョの受付嬢がひょっこりと顔を出し、ルカに向かってにっこりと微笑んだ。


「ルカ様ですね」


「ひゃ、ひゃい」


「本日は冒険者見習い登録でよろしかったでしょうか?」


「ひゃい、お願いします」


 緊張のし過ぎで声が裏返るルカ。ふふっ、とオコジョのお姉さんが笑みを浮かべながら、カウンターの裏から申請書とサイン用のペン、それから朱肉を取り出した。


「こちらにお名前と生年月日、出身地と年齢を」


「ええと……俺、孤児なんで出身地とか正確な生年月日が分からないんですが……」


「でしたら、出身地は一番長く住んでいた地域、生年月日は推定で十分でございます」


「は、はいぃ……」


 困惑しながらも、ルカはサインペンを申請書に走らせた。


 読み書きはマスターしているルカ君。うん、ちゃんと教えた甲斐があった。こっちの世界じゃ前世の世界みたいに義務教育という概念がまだなくて、労働者階級の子供も勉強より働く事を優先されているそうだが、さすがに読み書きと簡単な計算は必須であろう。


 字がちゃんと読めなきゃ契約内容とか理解できないし、悪い奴に騙されるからな。


 出身地にザリンツィク、生年月日を1873年6月18日と記載すると、オコジョの受付嬢はそっと朱肉の蓋を開けた。


 判子を押し付けるにしては随分と大きな朱肉だなー、なんて思っていると、オコジョのお姉さんはニコニコしながらそれの説明を始めた。


「ではルカ様、こちらの朱肉に肉球を押し付けてくださいませ」


「ひゃい」


「肉球を?」


「ええ。ベラシアでは肉球に朱肉をつけてスタンプのように押し付ける事で同意の証明になるのです」


「へぇー……」


 肉球スタンプやんけ、と思いながら見守っているうちに、ルカは自分の手のひらにある肉球を朱肉に押し付け、勢いよくそれを申請書に押し付けた。ポンッ、と小気味良い音と一緒に真っ赤な手形……というか肉球のスタンプが押し付けられ、申請書が仕上がる。


 獣人には骨格が獣に近い第一世代型、そして人間に近い姿の第二世代型があるけれど、両者に共通する特徴として手のひらに肉球がある、という特徴がある。それを署名に添える事で本人の同意証明とするというのは、イライナでは見なかった制度だ。


 渡されたタオルで朱肉を拭き取っている間に、受付嬢はカウンターから小さなバッジを取り出した。表面には冒険者管理局の紋章がある、ブロンズカラーのバッジだった。


「こちらが冒険者見習いのバッジでございます。身分証明にもなるので紛失にご注意くださいませ」


「は、はい」


「万が一紛失された場合は、本人証明のできる証明書をお持ちの上、最寄りの管理局にまでお問い合わせください。それとこちらは見習いのバッジですので、依頼を受ける際は実務経験2年以上の冒険者の方が同伴でなければなりません。違反すると2000万ライブル以上の罰金、もしくは20年以上の懲役、またはその両方が科される可能性があります。依頼を受ける際はご注意くださいませ」


「わ、分かりました」


 実務経験2年以上の冒険者となると、ウチのギルドでは必然的にパヴェルだけになってしまうのよな……モニカはまだ2年に届かないし、それ以外のメンバーはミカエル君含め冒険者一年生……こう見てみるとウチのギルドの偏りがすごい。


「説明は以上になります。何かご質問は?」


「い、いえ、特には」


「では、今後の活躍を祈っております」


 そう言いながら微笑むオコジョの受付嬢。


 こうしてルカの冒険者見習い登録は終わった。


 スキップしながら受付を離れ、やっと腕立て伏せを終えて良い汗をかいてる範三&保護者イルゼと合流する。タオルで汗を拭いていた範三は、ルカの手の中にあるブロンズカラーのバッジを見るなり目を輝かせた。


「おお、ルカ殿も冒険者の仲間入りでござるか!」


「えへへ、見習いだけどね」


「うむ、しかし大きな一歩に違いはない。精進なされよ」


「うん、俺頑張るよ。いつかミカ姉みたいに強くなるんだ」


「あ、あはは……」


 俺なんかを手本にしちゃ駄目よルカ。もっと立派な人がたくさんいるんだからさ。


「せっかく管理局に来たのですし、少し依頼やダンジョンについての資料も貰ってまいりましょうか、ご主人様?」


「うん、そうしようか」


 大きな街の管理局だと、周辺のダンジョンについての資料を無料配布している事もある。例えばどんな構造になっててどの程度調査が進んでますよとか、こんなスクラップが採取できますよとか、こういう危険が潜んでますよ、という管理局の事前調査と、実際に内部に入った冒険者のレポートで得られた情報が記載されているので、調査に赴く前に目を通しておいて損はない。


 しかも無料、無料である。


 掲示板の近くで依頼書に目を通すクラリス。じゃあ俺はダンジョン情報を、とパンフレットの方をチェックしてみるけれど、まあ魔境ベラシアの名に恥じぬカオスっぷりだった。


「え、なにこれ」


 気のせいだろうか。あるいは見間違いだろうか。


 なんか『エロトラップダンジョン』って書いてあるパンフレットがあるんだけど。媚薬ガスとか触手とか粘液プールっていう卑猥な、それこそエロ同人に出てくるようなシチュエーションを連想する単語がこれでもかというほど記載されてるんだけどナニコレ?


 けしからん、実にけしからん……1つもらおうか。


 他にも『18禁ダンジョン』とかあったんだけどなあにこれは。


 頼むからR-15の範疇でやってくれ怒られるんだよ……。


 ……とりあえず1つもらってくけど。


 そんな感じでパンフレットをもらい、掲示板の前でクラリスと合流する。


「そっちは?」


「お仕事はたくさんありますが、どれも念入りな事前準備が必要なものばかりですわ」


「そっか……まあ、そこは後で吟味しよう」


「そうですわね」


 彼女と一緒に範三とイルゼの方へ戻る。


 休憩用のベンチに腰を下ろしていた2人が手を振ってくれるけれど、よく見ると近くにルカの姿はない。


 管理局の中は冒険者だらけだ。これから仕事に行くパーティーや、一仕事終えて仲間との反省会を開いている真面目な連中、依頼成功の打ち上げで騒いでいるギルドの連中……そんな荒くれ者ばっかりの騒がしい建物の中、そりゃあ迷子にもなるか。


「あれ、ルカは?」


「トイレに行くと言ってましたが……遅いですねぇ」


「……ちょっと様子見てくる」


 絶対ろくな目に遭ってない。


 案内板を見て最寄りのトイレの位置をチェック、推定だけどルカの足跡を追う。


 案の定、トイレの標識の近くにやたらとモフモフなビントロングの獣人少年がいるのが見えた。いや、それだけで済めば良かったんだけど、何かしらの問題に巻き込まれているようだ。


 トイレ近くの壁際に追い込まれたルカと、そんな彼の前に立ち塞がる獣人のお姉さんたち。随分とまあ露出度の高い服に身を包み、エロ本すら読んだことのないルカ君を色々とまあ、うん、勧誘しようとしている。


「ねえボク、お姉さんたちと一緒に来ない?」


「一緒に来てくれたらぁ、とぉっても楽しい事してあげるわよ?」


「え、ええと、でも俺っ……も、もう所属ギルド決まってるし……っ」


「そんなのどうでも良いじゃないのぉ。移籍の手続きだって簡単なのよぉ?」


「ねえねえ見習い君、来てくれたらお姉さんたちが色々と教えてあ・げ・る♪」


「え、えぇ……?」


 あー、拙いねアレ。


 おねショタはね、至高なんですけどね……まあその、ウチの将来有望な弟分を取られたら困るし、ノンナも悲しむわけで。


 あー、あー、と声をチェック。声帯に住んでる二頭身ミカエル君ズに女子っぽい声をリクエストしながら、口調もなるべく女子っぽく、出来れば幼馴染っぽい感じを意識してルカに駆け寄った。


「あー! ルカったらこんなところに!!」


「え?」


「あら?」


 お姉さんを押しのけるようにして間に割って入り、ルカの手を取った。


「み、ミカ姉!?」


「もうっ! ルカったら何やってるのよこんなところで! 今からあたしとデートの約束でしょ!?」


「え、ちょ、ミカ姉!? デート!?」


「もー! ほら、早く行くよ! 彼女を蔑ろにしちゃ駄目じゃないの!」


「ご、ごめんなさい……」


「ごめんねお姉さんたち。そういうわけで、あたしたちこれから映画見に行くの。それじゃ!」


「ちぇっ」


「なーんだ、つまんないの」


「ルカ君、気が変わったらいつでもお姉さんたちのところに来てねー?」


「あ、あはは……」


 何とか抜け出したか……この声出すの久しぶりなんだよな、上手く行ったけど。


 ちらりとルカの顔を見上げると、コイツ何を勘違いしているのか顔を赤くしてやがった。オイやめろ、俺男だぞ。男だからな俺は。ちょ、手を強く握るな、ドキドキすんな。バカやめろお前放せ……ちょっ、力強……っ!


「まったく……平気か?」


「う、うん。ありがとミカ姉。それとさ」


「んぁ?」


 ルカの手を引いて仲間の方へと歩いていると、ルカは恥ずかしそうに言った。


「可愛かったよ、ミカ姉」


「……」


 ぺちっ、とルカにデコピンをかました。


「ぴゃうっ!?」


「俺は男だ」


 まったく、どいつもこいつも……。


 なーんでみんな俺の性別間違うのかね……?






 


 


 

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― 新着の感想 ―
[一言] うん…クラリスさんや、これまたとんでもない夢見てらっしゃいますね… そして出ました肉球スタンプ。 クラリスさんが朱肉の出処を探してそう… さらに性別が放し飼いどころか逃げ出したミカエル君。 …
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