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それは鈍色の空の下で


 格納庫の管制室には、色々なレバーやらスイッチやらでごちゃごちゃしている。警報灯の点灯スイッチに照明切り替えスイッチ、通常動力から非常電源への切り替えスイッチにハッチ開放レバー。それ以外にも酸素濃度計に格納庫内の温度計、圧縮空気の圧力計などの計器類まで並んでいて、機械が苦手な人間が入ったら混乱しそうな空間だ(メカが好きな人はむしろ癒しの空間かもしれないが)。


 ヴェロキラプター6×6の運転席に座るクラリスに合図を送り、ハッチの開放レバーを引いた。それから警報灯の点灯スイッチを入れると、格納庫内を紅い警報灯の灯りが照らしつつ、格納庫のハッチが外へと倒れる形で解放されていく。


 外の景色が丸見えになったところで、ミカとクラリス、そしてシスター・イルゼの3人を乗せたヴェロキラプター6×6は走り出した。アメリカ製のガソリンエンジンを高らかに響かせ、でっけえオフロードタイヤを回転させながら、さながら戦車のような迫力のピックアップトラックが戦場へと向かって駆け出していく。


 彼らが出撃したのを見送り、ハッチの操作レバーを倒す。吊り下げられていたハッチがワイヤーによって引き戻され、格納庫の内部は10秒ほどで再びガソリンや機械油の臭いが充満する閉鎖的な空間へと逆戻りだ。


 警報灯のスイッチを切り、管制室を出た。作戦展開地域にアイツらが到着するのはまだ先だろう。自室に戻り、無線機のチェックをしながら一杯やる時間はある筈だ。


 アルコールとニコチンはパヴェルさんの友達なのだ。


 身体に悪いだとか、健康がどうとかよく言われるが、そんなことはどうでも良かった。銃弾が飛び交い、砲弾が降り注ぎ、次の瞬間には死んでいるかもしれない苛酷な戦場のど真ん中。数多の戦友の屍を見たし、多くの同志の死を看取ってきた。


 そんな極限状態が日常と化した兵士から、アルコールにニコチンまで取り上げるっていうのは酷な話じゃあないか?


 戦争が終わり、比較的平和な世界を生きているが、しかし当時の習慣というのはなかなか抜けない。コレ健康診断とかあったら確実にアウトだろうなとは思うが、身体はアルコールとニコチン、そして何よりもジャズを望んでいるのだ。


 さーてウォッカウォッカ、と思いながら車両の連結部を飛び越え1号車へと向かい、自室のドアを開けようとして―――窓の向こうに見慣れた女が居る事に、俺は気付いた。


 頭髪は雪のように白く、その中から狼のようなケモミミがぴんと突き出ている。目つきは鋭く、今にも飛びかからんとする肉食獣を思わせるが、そうなっている原因は手の中にある煙草だろう。手持ちのライターの調子が悪いのか、なかなか火がつかないらしい。


 こんなところまで出張ってきて運の無い女だ……彼女は昔からそうだった。


 列車の外に出ると、彼女―――ホッキョクオオカミの獣人の女は、こっちを睨むように見てきた。


 無言でライターを差し出すと、早くしろ、と言わんばかりに不機嫌そうな顔を浮かべながら、口に咥えた煙草を近づけてくる。いつも怒ってそうな目つきも昔から変わらない事に安堵しながら、彼女の煙草に火をつけた。


「―――久しいな、”スミカ”」


 俺も葉巻を口に咥え、自前のライターで火をつける。


 スミカ、と呼ばれたホッキョクオオカミの女は、煙を吐き出してから淡々と言った。


「貴様らしくもないな、”大佐カーネル”。あんな連中に付き添うなど……いったいどういう風の吹き回しだ?」


 女にしちゃあドスの利いた声で問いかけてくるスミカ。その声音にはそれなりに長い付き合いとなる俺に対する失望が、微かにだが滲んでいるようにも思えた。


 スミカとは”教団”関係で長い付き合いになる。


「貴様1人ならば、もっと高みを目指せただろうに」


「なんつーか、”人を育てる”事に興味を持ってな」


 ふう、と煙を吐いた。


「アイツは……ミカは俺と真逆の人間だ。優しくて、真っ直ぐで、甘っちょろい。そんなアイツがどこまでやれるのか見てみたくなったし、育ててみたくなった」


「気まぐれか」


「そうでもない、今回のは割とマジだ」


「ふん……教団の序列2位も変わったものだ」


「昔から俺はこうだったはずだが」


「ウソをつけ、昔の貴様はもっと尖っていた」


 それはお前も同じ筈だ、スミカ。


 そう思ったところで、ぺち、と小さな手がスミカの頬を叩いた。


 戦友との再会で頭がいっぱいだったからなのか、俺は全く気付かなかった。彼女が―――”教団”の序列3位の座に君臨するあのスミカが、右手で小さな赤ん坊を抱き抱えている事に。


「あう、うー」


 ぺち、ぺち、と小さな手でスミカの頬を叩いたり、引っ張ったりする赤ん坊。彼女と同じ狼の獣人の赤子なのだろうが、毛並みが異なる。ハイイロオオカミだろうか。まだ歯も生えておらず、自力で這い回る事も出来ぬ無力な赤子……彼女の子だろうか。


 あのスミカも変わったものだ、と思いながらニヤニヤしていると、スミカは珍しくちょっと困惑したような表情を浮かべながら否定した。


「違うぞ、拾った子だ」


「ははーん?」


「勘違いするな、拾っただけだ」


「……お前も丸くなったもんだ」


 昔のスミカときたら、そりゃあ教団の教えに従い標的を確実に仕留める恐ろしい女だったからな……理想と仕事の事以外には無関心で、歪で、いつぶっ壊れるか分かったもんじゃない危うい女だった。


 そういう意味では、俺の妻(セシリア)と似ているのかもしれない。


「あのスミカが捨て子を拾うとは。明日は雨か?」


「黙れ殺すぞ」


「おー怖い怖い」


 葉巻から今にも落ちそうな灰を携帯灰皿の中に落とし、ニコチンが染み付いた息を吐き出した。捨て子、というのは本当のようで、スミカの手の中で彼女の顔をじっと見上げるハイイロオオカミの赤子に彼女の面影はない。


 が、随分と懐いているようだ。こんなに威圧感を発しているおっそろしいスミカにも躊躇せず、小さな手を振り回してぺちぺちとその頬を叩いたり、むにむにしたり、引っ張ったりしている。


「名前は?」


「”グレイル”」


「由来は」


「……昔読んでいた絵本の主人公の名前だ」


 ほう、グレイルね……。


 試しに俺も手を伸ばして撫でてみようとしたが、ぺちんっ、と小さな手で指先を叩かれた。嫌われているのだろうか。


「ぶーっ」


「ふっ、嫌われたか」


「やかましい。……それより、ここまで来たのは赤子の自慢の為だけじゃねえだろ?」


 すっかり短くなってしまった葉巻を携帯灰皿の中に押し込みながら問いかけた。スミカという女とは長い付き合いだから、彼女がどういう人間なのかは誰よりも分かっているつもりだ。何よりも効率を重視し、余計な感情は一切持ち合わせない(はず)の暗殺者アサシン、スミカ。そんな機械じみた思考回路の彼女が、わざわざ捨て子を拾った事を報告しにここへとやって来るとは思えない。


 まさか”教団”から俺に暗殺命令が下ったわけではあるまいなと勘繰ったが、それはどうやら杞憂だったらしい。


「……道中で小耳に挟んだ話だ。”奇妙な東洋人の2人組”が、ミカエルという名前の冒険者を追っているらしい」


「ワンチャン同じ名前の人とか?」


 だってウチのキュートなミカちゃんがそんな人に追われるような事するわけ……あるわ。各地で盗みを働いてるわ。悪人からしか盗んでないけど、恨まれるような事ガッツリやってますわ。


「たわけ、ノヴォシアで”ミカエル”という名前の冒険者はお前のところのハクビシンしかいないだろうが」


 言っておくが、ノヴォシアでは”ミカエル”ではなく”ミハイル”と読むのが主流である。それを何を思ってヘブライ語読みの”ミカエル”という名前にしたのか、アイツの生みの親に小一時間くらい問い詰めてみたい。


 余談だが、英語圏だと『マイケル』、ドイツ語圏だと『ミヒャエル』、フランス語だと『ミシェル』、ロシア語だと『ミハイル』というように、アイツの名前は国によって色々と変わる(今度マイケルって呼んでみるか)。


「で、その東洋人二人組は何者なんだ」


「調べてみたが、片方は倭国のエゾを拠点とする海産問屋の娘らしい。雪船家だったか」


「雪船家? 聞いた事が無いな」


「エゾの先住民の家系だ。倭国本土と交易を行ってる」


 エゾっていうと、前世の世界で言うところの北海道か。先住民という事はアイヌ的な民族の家系だと思われるが……こっちの世界じゃあ倭国本土と揉め事は起こらず、仲良く土地を開拓していると見える。


 それはそうと……なんでそんな海産問屋の娘にミカが追われているのか?


 アイツ、俺の知らないところで盗みを働いたとか? それとも今まで盗んできた被害者の連中の中に、その雪船家の関係者が居たとか? 考えられるのはそのくらいだが、少なくとも倭国の相手に心当たりはない。


 もう1回、調査に使ったファイルを調べてみるかと思っているうちに、スミカは煙草を携帯灰皿の中に押し込んだ。


「なんでも、トラクターみたいな奇妙な乗り物で森の中を爆走しているらしい」


「何だそいつ」


「知らん。変な乗り物に乗った東洋人が爆走してるって噂でもちきりだぞピャンスクは」


 え、何それ……アレなのか、最近のノヴォシアでは倭国人が増えているのか?


 ミカも今日食堂で倭国人の侍とエンカウントしたばかりだし、今度はトラクターみたいな乗り物(もしや戦車か?)に乗って道をガン無視し爆走するやべえ奴にエンカウント希望されてんの?


 何、何? ミカエル君何したのマジで???


 そういうのはマネージャー通してっていつも言ってるでしょ???


「まあいい、せいぜい気を付ける事だ」


 グレイルとかいう赤子を抱いたまま、スミカはレンタルホームから改札口へと続く通路の方へと歩いて行ってしまった。


 なんか知らんが不穏な情報だけを残して。


 冷たく、どこか鉄臭い風が―――東から吹いていた。













 5.56mm弾の集中砲火を浴びたハーピーの頭が、さながらトマトのように割れた。


 飛ぶために身体を軽量化した代償なのだろう、ハーピーの身体は脆弱で、ドラゴンのように敵の攻撃から身を守るための外殻のようなものは一切ない。寒さから身を守るための羽毛くらいのもので、何とも無防備極まりない。


 そういうソフトターゲットには、5.56mm弾は十分すぎる威力を発揮してくれた。RPK-201から立て続けに放たれる5.56mm弾が次の獲物に襲い掛かるや、その華奢な肉体を瞬く間に蜂の巣に変えてしまう。


 クラリスも負けてはいない。機関銃をメインアームとしたのを良い事に、バカスカ撃ちまくって弾幕を張る俺の隣で、FA-MASのセミオート射撃で正確にハーピーの弱点である頭を射抜いている。


 女性の金切り声を思わせる咆哮を響かせ、さながら獲物へ急降下する猛禽類のように迫り来る大量のハーピーたち。後方に2体のエルダーハーピー、すなわち年齢を重ね肉体が成熟した個体が控えているからなのだろう、強気に攻めてきやがる。


 が、フライドチキンになりたいというならばそれを叶えてやるまでだ。


 そろそろ60発入りのマガジンが空になる……というところで、後方で戦いを静観していたエルダーハーピーの片割れを、1発の強烈な弾丸が貫いた。


『ピギャッ!?』


『―――命中!』


 ナイス、と小声で言いながら、ちらりとヴェロキラプター6×6の方を振り向いた。


 今の一撃を放ったのは、荷台に据え付けられた武装を使っているシスター・イルゼ。護身用に携行しているMP40をスリングで下げた状態で荷台にいる彼女の手には、俺たちが使っているアサルトライフルや分隊支援火器よりも大型で、長大で、更には重そうな重火器がででんと鎮座している。


 イギリスが開発し、第二次世界大戦で投入した『ボーイズ対戦車ライフル』と呼ばれる代物だ。


 長大な銃身とマズルブレーキ、そして機関部レシーバーから真上へと伸びるマガジンが特徴的な対戦車兵器である。ボルトアクション式で、使用弾薬は独自規格の13.9×99mm弾(.55ボーイズ弾とも)。優れた射程と貫通力を兼ね備え、第二次世界大戦時のイギリス軍を支えたという。


 それに狙撃用のスコープを搭載した代物を、ヴェロキラプター6×6の荷台に武装として搭載していたのである。


 以前、エルダーハーピーと交戦した時の反省からこれを投入する事となった。エルダーハーピーは通常の個体と異なり、身長が3mにも及ぶ。当然、5.56mm弾ではダメージは与えられこそするが威力不足であり、効率的な討伐にはより大口径かつ長射程の兵器が必要である、と結論付けられた。


 十分な威力があり、尚且つ過剰な破壊力で素材を滅茶苦茶に破壊することのない兵器として白羽の矢が立ったのが、銃の歴史の中から姿を消していった対戦車ライフルである。


 .55ボーイズ弾を喰らってもなお飛び続けるエルダーハーピーに、シスター・イルゼがダメ押しの一撃をお見舞いする。バガンッ、と対戦車砲みたいな銃声……いや、砲声が響き渡り、.55ボーイズ弾はもがき苦しむエルダーハーピーの胸板へと吸い込まれていった。


 ドバンッ、と弾丸が胸板を穿った。鈍色の空に紅い飛沫が舞い、力尽きたエルダーハーピーが重力に束縛され落ちていく。


 身動きの取れないシスター・イルゼを援護すべく、RPK-201でハーピーを撃ち落としながらふと思った。


 人間は、死ぬと体重が21g軽くなるらしい。


 それは魔物も同じなのだろうか。こうして、ドットサイトのレティクルの向こう側でばたばたと撃ち倒されていく魔物たちもそうなのだろうか。周囲に落ちてくる死体の重さを測れば、生前より21g軽いのだろうか?


 それが魂の重さなのだろうか?


 ガギンッ、とRPK-201が沈黙する。普段AKを使っているノリでマガジンを交換しようとするが、RPKは簡単に言うとデカいAK、その分重さもある。長大な銃身はそれだけで重り(ウエイト)としては十分すぎた。


 いつもと違う重さに戸惑いつつも30発マガジンを装着、セレクターレバーをセミオートに弾き、接近してくるハーピーに5.56mm弾を撃ち込んで撃墜していく。


 エルダーハーピーはあと1体―――まだか、とイルゼの次の一撃を渇望していた俺たちの頭上を、ありったけの装薬で送り出された.55ボーイズ弾が翔けた。


 ああ、これは当たる―――必中を確信した次の瞬間、その一撃はエルダーハーピーの右肩を撃ち抜き、空に血の混じった羽を舞わせた。


 が、致命傷ではない。確かにその身の内では筋肉繊維が裂け、骨が砕けているだろうが、撃墜には至らない。エルダーハーピーにも長寿個体としての意地が、生物としての生への執着があるのだろう。苦しそうな呻き声を漏らしつつも、踵を返してどこかへと飛び去ろうとする。


「奴が逃げる!」


「くっ!」


 おいおい、冗談じゃない。


 目的はエルダーハーピー2体の討伐だ。1体だけでは依頼達成とは見做されない―――運が良くても報酬半減、という何とも半端な結果に終わってしまう。


 追わなければ、と車に乗り込もうとしたその時だった。


「ご主人様!」


「……?」


 鈍色の空の下。


 戦車みたいな車両が、真っ直ぐにこっちに向かってくるのが見えた。













「しゃもじ、なんかデカい鳥が来る」


「おもち、ちょっと運転代わってちょうだい」


「ん」


 エルダー個体だ。


 エゾの屋敷にいた頃、父上が買ってきてくれた魔物図鑑で見たことがある。魔物の中には長い時間を生き、肉体的に成熟し、人類を翻弄するほどの知能を得た”エルダー個体”と呼ばれる大型の魔物が存在する、と。


 Mサイズを頼んだのにLサイズのハンバーガーが出てきたみたいな、今そんな心境だわ。


 まあそれでも、残してしまうのは料理を作ってくれた人への冒涜というもの。戦も同じで、相手はきちんと斬らなければその相手を生んだ母親への冒涜になる。だから斬る、敵は斬る(KILL)


 トチ狂ってる? 好きなだけ言いなさい、今夜あたり家庭訪問行くから。


 平原のど真ん中、高速回転する履帯で荒々しい轍を描きながら驀進するRipsaw EV3-F4の側面のハッチを開け、スレッジハンマーを片手に外へ出た。


 頭上を睨むと、やけにデカいハーピーは肩から血を流しながら、新しい獲物を見つけたとばかりに急降下してくる。


 やれやれ……傷を負って頭に血でも昇ったのかしら?




 ―――いったい何時から、私が”狩られる側”になったというの?




 両足にあらん限りの力を込め、一気に跳躍。急降下してくるクソデカハーピー(もう名前なんてどうでも良い)の攻撃を飛び越えたかと思いきや、そのまま頭の上に着地する。


 今しがた仕留めるつもりだった獲物が頭の上に居る事に気付いたようで、クソデカハーピーは暴れに暴れた。傷を負った肩から血が溢れ出てもお構いなしに、縦横無尽に飛び回って私を振り落とそうとする。


 そんな暴れん坊の脳天に、私はポーチから取り出したブリーチャーバーを力任せに突き立てた。


 ガヅッ、と刃先が頭蓋骨にめり込み、それを破砕する感触が確かに左手に伝わってくる。ずきりと痺れるような感触が脳天まで駆け上がってきたけれど、そんなものは関係ない。


「とっとと唐揚げに―――なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


 おもちが好きそう……なーんて思いながら、スレッジハンマーを両手で握って振りかぶり―――とにかく今ある力と体重を全部かけて、脳天に突き立てたブリーチャーバーの後端へと思い切り叩きつけた。


 ごりゅ、となーんか嫌な、ちょいグロな感じの音が聞こえてきて、ハーピーの身体から力が抜けていくのが分かった。


 何だっけ、ヒトは死ぬと体重が21g軽くなるってどこかで聞いた気がするわ。でもまあ、今しがた脳天に錐みたいに打ち込んであげた私のブリーチャーバーもそのくらいの重さだし、だいたい等価交換でしょ。これならハーピーも成仏できると思うわ。


 とうっ、と掛け声と共に飛び降りる。


 ずしんっ、と重々しい音を響かせながら、クソデカハーピーが大地に落ちた。


「やっつけた?」


「ぴーすぴーす」


 傍らで停車したRipsaw EV3-F4の運転席の窓からひょっこり顔を出すおもち。彼女にVサインと飛び切りの笑顔を向け、スレッジハンマーを肩に担いだ。


 さて、このクソデカハーピーをどうしてやろうかしら。唐揚げにするって言ったけれど、思いのほか身体が人間っぽくてアレなのよね、カニバリズム的なアレになっちゃいそうでアレなのよね……。


 手羽先ならワンチャン、と思っている私たちの方へと接近してくる車のエンジン音を、エゾクロテンの聴覚が捉えた。


 振り向いてみると、鈍色の空の下を大型のピックアップトラックが走ってくる。簡易的な装甲が施され、荷台には対戦車ライフルらしき武装が備え付けてあるのを見て、私はぎょっとした。


 この世界の車は、1920年代のアメリカを走ってそうなレトロな車が大半。なのに、ガッツリ現代のアメリカっぽい感じの車が、しかも武装まで搭載しているというのは違和感しか感じない。


 いや、違和感よりも。


 アイツら―――転生者(私と同類)


 傍らにやってきたピックアップトラックが停車し、中からやけに小さいイタチみたいな獣人の女の子(幼女?)と、逆に身長も胸もでっかいメイドさん、そしてデカさを胸に全振りしたようなシスターまで降りてきて、私はちょっと警戒してしまう。


「凄いな、コイツを簡単に……ケガは?」


 ノヴォシア語―――でもちょっと訛りがある。ベラシア語……いえ、イライナ語かしら。


 頭の中でノヴォシア語の文法と単語を思い出しつつ、返事を返した。


「ええ、何とか無事よ。もしかして横取りしちゃった?」


「まあ、そうなるけど……あはは。あ、俺はミカエル。ミカエル・ステファノヴィッチ・リガロフ。冒険者やってるんだけど……君は? 変わった服だけどどこから来たの?」


 ん、ちょっと待って。


 ミカエル・ステファノヴィッチ……リガロフ?


 待って待って、コイツが?


 このちんちくりんが? 幼児だか幼女だか分からない背丈のこの子が?


 まあいい、まあいいわ。


 ガノンバルドを倒した異名付き(ネームド)の冒険者……。








 や  っ  と  み  つ  け  た  。







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