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プロローグ2 自称”魔王”からの贈り物


 即死する時に痛みを感じない、という話があるが、あれはどうやらマジらしい。


 痛みを知覚するよりも先に死ぬのだからそれも当然か……さぞグロい死に方をしたのだろうな、などと他人事のように考えながら、俺は周囲を見渡した。


 さて、ここはどこだろうか。俺は確かに対向車と正面衝突し、死んだ筈だ。ということはここがあの世というやつなのだろうか。三途の川とかお花畑とか、もしくはもっとシンプルな光の世界を想像していたんだが、目の前に広がっているのはそういう一般的な“あの世”のイメージを覆す光景だった。


 蒼い六角形の結晶が幾重にも連なって出来上がった床の上。果ても天井も見えぬほど広大な空間の中に、ぽつんと椅子と小さなテーブルが置かれている。テーブルの上には蓄音機が置かれていて、ラッパのような形状のスピーカーから綺麗なピアノの旋律を奏でていた。


 クラシックだ。ドビュッシーの『月の光』……母さんが好きだった曲で、実家にはかなーり古いレコードもあった。


 あの世でクラシックとはどういう組み合わせか。そう思いながらそっちに歩いていくと、椅子に座っていた人物がこちらの存在に気付いたようで、ゆっくりと俺の方を振り向く。


 綺麗な黒髪の女性だった。背中を覆うほど伸びた、艶のある黒髪。しかしその中からはまるで悪魔のように捻れた黒い角が不規則に生えていて、明らかに普通の人間ではない、と言う事が一目で分かった。


 コスプレなどではない。ここから見る限りでは、あの質感は決して造り物などではないという事が良く分かる。


 異様なのはそれだけではない。


 身に纏っているのは黒い軍服のような服で、雪のように白い肌で覆われた顔の左側には大きな眼帯がある。それでも覆い隠せない程大きな古傷が、眼帯の縁から顔を覗かせていた。


 体格は引き締まっていて、モデルと言うよりは女性のアスリートのようだ。軍服と眼帯の厳つい外見的特徴から女性兵士のようにも見えるが、あの角はマジで何なのだろうか。


『……ほう、死人か』


 この人が閻魔大王的な人なのだろうか……閻魔大王って女性だったのか、なんて間抜けな事を考えていると、クラシックを聴いていた閻魔大王(仮名)は静かに立ち上がり、不敵な笑みを浮かべた。まるで退屈を紛らわす相手がやってきた、と言わんばかりだ。


 というか今、俺の事を“死人”と呼ばなかったか?


「ええと、あなたは閻魔大王様……だったり、します?」


 キョドるな。会社の上司と話してるわけじゃないんだからキョドるな、堂々と行け俺。うん、無理。そんなこと出来たらとっくの昔に陰キャ卒業しとるわ。


『誰だそれは』


「ええと……いや、あ、あの」


『まあいい……私はまあ……アレだ、“魔王”とでも呼べ』


 魔王様。


 あれですか、ファンタジーの世界に居るラスボス的な。ああ、閻魔様じゃなくて魔王様でしたか。それはそれは大変ご無礼を……。


「ま、魔王様?」


『うむ、もうそれでいいよ』


 ちょっとめんどくさそうに言う魔王様。彼女の背中からまるで人間ではない事をアピールするかのように、黒い鱗で覆われた9つの尻尾が伸びる。日本の昔話や伝承に伝わる”九尾の狐”を彷彿とさせた。


『ところで貴様、事故で死んだようだな』


「やっぱり死んだんですかアレ」


『そりゃあそうだろう。対向車と正面衝突、両者とも仲良くグッシャグシャに―――』


「ああああああ! やめて、18歳未満に刺激が強そうなグロ表現はやめて!」


『む、すまん』


 グロはやめてグロは。エロなら許す。


『まあいい……しかし貴様、21歳であの世行きとか哀れ過ぎやしないか?』


「まあ……そうッスね、まだ死にたくないッス……」


 やりたいことはまだまだあった。


 家族に会いたかった。親戚の子と思い出話もしたかった。


 仕事でも何とかして出世したかったし、いつかは結婚して家庭を持ちたかった。子育てをしてみたかった。父親になってみたかった。


 自分の死を自覚する度に、未練が沸々と湧き上がってくる。


 するとそれを悟ったのか、魔王を名乗る女性は溜息をついた。


『残念ながら、お前を元の世界に戻す事は出来ん』


「ですよね……」


『まあ、代わりと言っては何だが、別の世界に生まれ変わらせてやる』


「……異世界転生ってヤツですか」


『察しが良いな。流行ってるのか?』


「ええ」


 異世界転生、か。


 自分の死と未練は少し引き摺りそうだが、せっかく相手が異世界転生というまさかの提案をしているのだ。生まれ変わったら、今度こそ悔いのないように思い切り生きよう。


 前向きに考えよう、人生のやり直しだ。前世を教訓にして今度こそ成功を掴むのだ。


『まあ、ただ転生させるのもアレだ。哀れな貴様にちょっとした贈り物をやろう』


「?」


 贈り物?


 次の瞬間、目の前にいきなり蒼いメニュー画面のようなものが表示された。画面の中には『武器生産』、『装備』、『ステータス確認』の3つのメニューが縦に並んでいる。


 ゲームの画面を思わせたが、生前にやってたゲームのメニュー画面でももっと複雑でごちゃごちゃしていたのを思い出す。これではあまりにもシンプルであり過ぎた。


 恐る恐るそれに手を伸ばし、武器生産をタッチ。すると画面が切り替わり、ずらりと大量の武器が表示された。


「うお……!?」


 アサルトライフルに汎用機関銃、スナイパーライフルにハンドガン。ミリオタだった俺から見たらよく知っている武器が大量に表示され、ちょっとばかり興奮してしまう。


 数ある選択肢の中からアサルトライフルを選択し、ワクワクしながらAK-47をタッチ。すると両手にずっしりとした感触が生じ―――ソ連軍を支えたアサルトライフルの傑作、AK-47がそこに姿を現した。


 エアガン……ではない。まるで工場で組み立てが終わり、これから軍へ納品される直前のようにピカピカな、正真正銘の本物だった。


「マジ……? え、コレ……え?」


『喜んでもらえたようで何よりだ』


 喜ぶも何も……。


『さて……使い方も分かってもらえたようだし、そろそろ異世界へ貴様を飛ばすとしよう』


「え、え?」


 蓄音機を止め、片手を頭上に掲げる自称”魔王”。すると唐突に俺の頭上の空間が裂け―――蒼い光を放つ裂け目へと、身体が吸い込まれ始めた。


 叫びながらじたばたと暴れるが、航空機のエンジンのように強烈な吸引は止まらない。ふわり、と床から足が浮き上がる感覚がした頃には、視界が蒼い光に包まれていた。




『―――信じているよ。貴様は私のようにならない事を』




 意識が途切れる前に聴こえたのは、自称”魔王”の何かを期待するような、そんな声だった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >ソ連軍を支えたアサルトライフルの始祖、AK-47が StG-44じゃないかな?始祖は。 ソ連だけで考えてもSKSの方が若干先だし…
[一言] 同志団長あんた何やってんすか?
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