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白き巨人を討て


「クソが、あんなクソデカ兵器が居るなんて聞いてねえよ」


 メニュー画面を開き、AK-19を装備済みの武器から削除。代わりにAK-308を装備し、カスタムをしながら悪態をつく。


 想定外にも程がある。何かしらの切り札を用意しているだろうとは予測していたが、その正体がまさかオーバーテクノロジーによって建造されたあんな巨大兵器とは。


 巨大兵器ベロボーグ―――名称はおそらくスラヴ神話に登場する白き神『ベロボーグ』だろう。確かに機体も白く塗装されていたからネーミングとしては間違いないが、それが正式名称なのか、それともアレを発掘し修復して運用しているワリャーグの連中が付けた名前なのかは分からないが、そんなことはどうでもいい。


 今はただ、どうやってあのデカブツを倒すか。それだけが重要である。


 AK-308にM203を装着。交戦距離がそれほど遠くない事も考慮し、照準器はPK-120のみとしブースターの装備は見送った。FPSとかやってると忘れがちだが、こういうカスタムパーツは”付ければ良い”というわけじゃない。重量の増加は取り回しの悪化に直結するので、大事なのは状況に応じて取捨選択する事だ。


 必要なものは使い、不要なものはバッサリとオミット。この割り切りが生死を分けると言っても過言ではないだろう。中には不要なものを敢えて使用したり、趣味に走って戦い続ける猛者もまた存在するのも事実だが。


 麻酔銃も、八九式重擲弾筒も装備済みの武器の中から削除した。背負っていた装備の重みが唐突に消失し、身軽になる。


 召喚した40mmグレネードランチャーをポーチに詰めていると、階段のところで機甲鎧パワードメイルを体育座りさせた状態でコクピットを解放したモニカが、機体の腰にあるケースからジェリカンを引っ張り出しながら言った。


「勝ち目あるの? あんなデカブツに」


「ああ、今考えてる」


 確かにあの巨大兵器”ベロボーグ”は脅威だ。防御力はざっと見て戦車以上、下手すりゃ巡洋艦クラス。火力はこの世界の技術で製造できるレベルにグレードダウンしているが、それにしても搭載している武器が多い。いくらローテクな兵器(手回し式ガトリング砲のクランクに連結棒を取り付け、動力と繋ぐという非合理極まりない兵器)ばかりとはいえ、あの口径の兵器を山ほど搭載されれば脅威でしかないのだ。


 そして止めは”対魔術コーティング”……。


「モニカ、対魔術コーティングなんて聞いた事あるか?」


「何よそれ」


 ジェリカンで機甲鎧パワードメイルにガソリンを給油していたモニカがきょとんとした調子で言う。一応言っておくが、俺よりもモニカの方が魔術に関しての知識も技術も上である。というか、血盟旅団の中で魔術に最も精通しているのは彼女だ。


「聞いた事ないわ。新種の対魔術装備?」


「らしい……あの巨大兵器に搭載されてた。魔術が効かない」


「は? 何よそれ……反則じゃないの!」


 まあ、そりゃあ確かにそうだ。魔術はいわば神や精霊、英霊の力の一部である。それを借りて発動するのが魔術であり、その攻撃力は戦闘における切り札となり得るものだ。


 それが通用しないという事は、現代兵器に慣れ親しんでいる俺やパヴェルはともかく、こっちの世界の人間であるモニカたちにとっては絶望的な現実でしかない。


「ということは、銃で何とかするしかなさそうね」


「ああ。だが勝ち目がないわけじゃない」


 召喚した弾薬箱の中から7.62×51mmNATO弾を取り出し、それをAK-308の20発入りマガジンへと装填していく。ちょっとスプリングが硬いようで(そりゃあこんなでっかいライフル弾を押し上げるのだ)装填には力が要る。おかげで親指の先が真っ赤になった。


 カチン、カチン、と弾を込めていると、階段の上の方から足音が聞こえてきた。


 敵ではない。薄暗い階段の中、ひらりひらりと揺れるロングスカートと真っ白なフリルが、その足音の主が頼もしい味方であることを立証してくれる。


「おかえり、クラリス」


 メインアームをQBZ-97からG3A4に変更したクラリスは、俺の傍らに戻って来るなり申し訳なさそうに跪いた。


「申し訳ありませんご主人様。例の巨大兵器の動力源、特定できませんでした」


「……そうか、それは仕方ない。こっちこそ疲れてるところに無理言って悪かった」


 メイドの苦労を労い、ポーチからタンプルソーダの瓶を1つ取り出して手渡す。クラリスお気に入りのイライナハーブ味だ。彼女は礼を言ってからそれを受け取ると、ドラゴンの外殻で親指を覆い、王冠を弾き飛ばして中身を飲み始める。


 彼女にはベロボーグの動力源の特定を命じていた。


 巨大兵器ベロボーグ。確かに脅威となる兵器だが、こっちにとって幸いなのは相手の兵器が完全な状態ではなく、修復途中での戦闘を余儀なくされているところにある。下半身及び右腕の喪失、残った部位にも数多くのダメコンの跡……狙うべき所はよく考えてみれば数多いが、最大の弱点は動力源であろう。


 おそらく、激しく損傷した状態で発掘されたのであろうベロボーグ。ワリャーグの連中にはその動力源の修復は不可能だったようで、妥協策として大型のケーブルをどこかへと伸ばし、外部から動力を得ていた。


 つまりは”動力を外部に依存していた”という事になる。だからその動力源(おそらくはアキヤール要塞の動力源だろう)の捜索をクラリスに命じていたのだが、見つける事は出来なかったらしい。


「ケーブルを辿ったのですが……上の階でコンクリート壁の中に完全に埋め込まれていて、そこから先は辿れませんでした」


「なら仕方がない。動力源の破壊が無理なら、そこから電力を供給しているケーブルを片っ端から切断するしかないな」


 動力源を外部に依存しているなら、そうするのが一番だろう。テレビゲームをプレイしている最中にコンセントを引っこ抜くようなものだ。電力が無ければ何もできまい。


 幸い、送電用ケーブルはあの地下大聖堂に集中して伸びていた。戦闘中、誰かがベロボーグの注意を引いているうちにケーブルを切断する戦術が有効であろう。


 もちろん、そればかりに依存するのも駄目だ。もしかしたら非常用の予備動力を機体に搭載している可能性があるし、そうじゃなくてもベロボーグに損傷を与え弱体化を図る必要もある。


 今、俺たちが装備しているメインアームの弾薬は7.62×51mmNATO弾―――その徹甲弾だ。口径の大きさと装薬の量も相まってなかなか強力な銃弾だが、巡洋艦クラスの防御力を誇るベロボーグ相手には今一つ決定打に欠ける。


 40mmグレネードランチャーも用意してあるが、こちらも通用しない事は無いにしてもダメージはそこまで大きくはない。となると必要になってくるのが対戦車兵器である。


 ふう、と息を吐いた。


 メニュー画面の中、兵器の羅列の中から生産済みの兵器一覧に画面を切り替える。その複数のカテゴリーの中で、対戦車兵器と記載されているカテゴリーの中から、この2日間でみっちりと訓練を受けた代物をタッチして召喚。


 唐突に、ずっしりとした重みが腕と肩にのしかかってきた。


 いつの間にか俺の腕の中に姿を現していたのは筒状の発射機だった。先端部には弾頭が、後端部にはバックブラストを噴射するためのラッパ状のノズルがあり、発射機下部にはグリップとフォアグリップ、そして左側面に照準器がある。


 それは”RPG-7”と呼ばれる、ソ連製対戦車ロケットランチャーであった。


 対戦車兵器といったらコレである。さすがに現代の戦車を撃破するのにはやや威力不足だし、命中精度にも難があり、何よりバックブラストで射撃位置が露見しやすいという欠点があるのだが……。


 自分の分を用意してから、クラリスの分も生産して彼女に発射機と予備の対戦車榴弾の弾頭を渡した。これでベロボーグの装甲を真っ向からぶち抜く事は叶わないだろうが、ダメコンを施した部位―――損傷部位を塞いでいる鉄板程度ならば楽に撃ち抜けるはずだ。


「クラリス、ちょっと手伝って」


「かしこまりました」


 生産済みの兵器の中からTOWを召喚。一般的な地上設置型ではなく、コブラやアパッチなどの戦闘ヘリに搭載される4連装タイプのランチャーだ。もちろんそんなものをか弱いミカエル君は持ち上げられないので、代わりに怪力メイドさんであるクラリスに持ち上げてもらう。


 もちろんこれを担いでぶっ放すわけではない。クラリスならマジでやりそうだが……やらないよね? ね?


 クラリスに運搬してもらい、それをモニカの乗る機甲鎧パワードメイル2号機の右肩にあるハードポイントに接続。機体正面の装甲を解放し、ネコ科らしいしなやかな動作でコクピットに滑り込んだモニカが、コクピット内にある展開式のモニターを引っ張り出して装備の接続を承認。モニターを戻し、ランチャーの動作をチェックし始める。


 動作は良好なようで、モニカは親指を立ててからコクピットを閉鎖した。気の強い彼女の姿が灰色の装甲に覆われて見えなくなる。


 更にモニカ用にMG3を用意。これは列車防衛用のドアガンとしても搭載されているので彼女も使い慣れている事だろう(前みたいに連射速度に驚いて逝きかけないか心配だが)。ベルト式機関銃は機甲鎧パワードメイルでの歩行中、振動でベルトが捻れ装填不良を起こす懸念があったが、この際気にしてはいられない……。


 メインアームを持ち替え、艶の無い黒で塗装されたMG3を腰だめで構えるモニカ。ジャコンッ、と豪快にコッキングレバーを引き初弾を装填すると、それにつられる様に俺とクラリスもAKやG3のコッキングレバーを引いた。


 この戦いに、アレーサの安寧がかかっている。


 俺たちがやるしかないのだ。


 サリーが……いや、彼女だけじゃない。これから生まれてくるであろう次の世代の子供たちに、ワリャーグという理不尽な暴力を残さないためにも。


 俺たちがやるのだ。


 奴らの暴虐を、俺たちが今日―――ここで終わらせる。













 交わす言葉など、既にない。


 力こそが全てだというのなら、理不尽な暴力を打ち払うのもまた暴力だというのなら、答えはこれ一つだけだ。


 白き巨人、ベロボーグの眠る地下大聖堂。もちろんそこは神を祀るための場所でも、祈りを捧げ信仰心を示す場所でもない。暴力の化身、殺戮の悪魔たる巨大兵器が大地に埋まり、眠りにつき、その眠りから目覚めた場所だ。


 壁面から伸びる何十本ものケーブルに繋がれ、ゆっくりとこちらへと旋回するベロボーグ。足音か、魔力反応で俺たちの接近を察知したのだろうがもう遅い。奴がこちらに気付き、コクピットでふんぞり返っているであろうウルギンがベロボーグを咆哮させた頃には、それに対する返答であるかのように、俺とクラリスが一斉にRPGを放っていた。


 ボフッ、と装薬が弾頭を押し出し、後端部にあるラッパ状のノズルからバックブラストが噴き出す。こうやって逆噴射するかのように後方からもバックブラストを噴出する事で反動を相殺しているのだ。


 同じ仕組みを採用している兵器は数多く、自衛隊の採用しているカールグスタフもその中の1つである。


『―――!?』


 顔は見えないにもかかわらず、声も聴こえないというのに、未知の兵器を目にしてウルギンが動揺するのが分かった。


 左手を突き出してガトリング砲による弾幕を展開、それでの迎撃を試みるウルギンだったが、いくらなんでもそれは悠長に過ぎた。ガトリング砲、つまりは複数の銃身を束ねてそれを回転させ連射するという兵器の特性上、発砲前にどうしても”スピンアップ”が必要になる。トリガーを引けばすぐに弾丸が発射される、というわけではないのだ。


 しかも彼が使用しているガトリングガンは従来の手回し式のガトリング砲に動力を接続し自動化したもの。ミニガンやアヴェンジャーのような暴力的な連射速度には至らない。


 それに対してこちらの放ったRPG-7のロケット弾は、既にロケットモーターに点火してさらに加速、標的たるベロボーグをすぐ目前に捉えた状態であった。


 固定砲台的な運用を強いられるが故に、迎撃をしくじればもう打つ手がない。装甲が攻撃を防いでくれることを祈るのみだ。


 しかし神は、どうやらウルギンを見放したらしい。


 スピンアップが終盤に差し掛かり、ようやく銃身が高速回転を始めたガトリング砲のすぐ真下を、2発の対戦車榴弾が通過していく。すぐさまサブアームが装甲の内部から展開して手持ちのピストルで迎撃を試みるが、全てはもう遅かった。


 まるで悪魔ザミエルがカスパールに授けた魔弾の如く―――2発の対戦車榴弾は、ベロボーグの胸元に無造作に張り付けられていた鉄板の周囲を直撃した。


 おそらく発掘されたばかりの頃は大穴が開いていたのであろう。そこを鉄板で塞ぎ、とりあえず応急処置していたに違いない。他の装甲と比較して材質的にも厚み的にもあまりにも脆弱なそこへ、戦車すら撃破し得る必殺の対戦車榴弾が2発も飛び込んだのだからたまらない。


 純白の装甲で覆われた巨人の胸元で爆炎が弾け、金属片が周囲に舞った。


『馬鹿な!?』


 一貫してこちらを見下した態度を崩さなかったウルギンが、今になってようやく狼狽した。


『大砲……いや、違う。貴様、その兵器は一体……!?』


 ギギ、と装甲を軋ませながらこちらを睨むベロボーグ。胸元の鉄板は吹き飛び、そこからは古傷のように穿たれた大穴が覗いていた。


 RPG-7を肩に担ぎながら、しかし俺は何も返答しない。


 その代わり、挑発するような笑みを浮かべながら―――思い切り中指を立ててやった。




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