首狩り公爵、ガブリエル
二頭身ミカエル君『ミカァ~?』
二頭身ミカエル君『ミカミカ』
二頭身ミカエル君『ミカァー!』
二頭身ラファエル君『らふぃ~?』
二頭身ラファエル君『らふぃー!』
二頭身ラファエル君『らふぃらふぃ』
二頭身ガブリエル君『キシャシャシャシャwww』
二頭身ガブリエル君『オレ、オマエ、クウ』
二頭身ガブリエル君『オレ、オマエ、コロス』
二頭身ガブリエル君『ヤツザキ、ミンチ、サンマイオロシ』
二頭身ガブリエル君『ツギ、ガメンノマエノ、オマエ』
二頭身ミカエル君=可愛いけど理不尽
二頭身ラファエル君=無害。可愛い
二頭身ガブリエル君=猟奇的
1970年 12月7日
キリウ大公ノンナ1世 逝去
享年93歳
真新しい墓石に、ノンナの名前が刻まれている。
ノンナ1世―――ノヴォシアの圧政からの解放と、新生イライナ公国の誕生を象徴するキリウ大公の血筋にして、激動の時代を生き抜いた豊穣の国の女帝。
真っ白な花束を供えるノンナ2世と、孫娘であり現役のキリウ大公ノンナ3世。家臣やメディアの前であるが故に涙を堪えるその背中は、見た目以上に大きく力強い。イライナを、この国を背負う重責には、それくらいじゃないと耐えられないのだろう。
親族から順番に、墓石の前に跪いて墓石に聖水を注ぎ、胸の前で十字を切る。イライナ公国がノヴォシアに併合されるよりもはるか前から続く、キリウ大公を埋葬する際の儀式だ。
杖が無ければ歩けないほど衰えた王配ルカに肩を貸し、彼の最愛の妻であり妹分でもあったノンナに最後の別れを告げさせる。すっかり眼球は白濁し、もう視力も失われつつあるルカの瞳。しかしそれは微かに震え、熱い雫を静かに流していた。
「……ミカ姉」
「……ん」
巨人みたいな体格だった全盛期と比較すると、随分と小さくなり腰も曲がったルカ。彼はこちらに視線を向けるなり、涙を拭い去りながら言った。
「一緒に旅をした仲間、ついに僕だけになってしまったね……」
「……そうだな」
みんな……みんな、逝ってしまった。
イライナからベラシアへ、そしてノヴォシアへ。豊穣の地に泥濘、太古から残る原生林。湿地帯にスクラップの山、峻険な山脈と黒海の威容。そして殺人的な極寒の節減、雪と氷の地獄。
それらを直に見て、触れて、感じて。
あの旅は苛酷だったけれど、今思えばあの時の経験と知見が今の自分を作っているのではないか、とすら思う事がある。
当時の経験を語り合える人間は、しかしついに彼だけになってしまった。
王配ルカ―――キリウ大公の家系とは縁も所縁もなく、元々は爵位すらなかった。ザリンツィクのスラムで安い日銭とスリで生計を立てていた哀れな少年は、ただ愛した一人の少女を間近で守るためだけに努力を重ね、ついには王配にまで上り詰めたのだ。
立派なものである。
今でこそイリヤー伝説と並び雷獣伝説も語り継がれているが、彼の物語も民衆から教材として親しまれている。努力すれば、諦めなければ、目標に向かって突き進めば、たとえ貧民であろうと大きな成功を掴む事だってあるのだ、と。
王配ルカの名は、今のイライナでは”努力”を意味するほどに大きな存在となっている。
親族のところへ彼を連れて行ってから、俺もノンナの墓石にそっと聖水を注いだ。キリウ大聖堂の大司教が直々に祝福の祈祷を施した聖水。それはあらゆる邪気を払い、死者の魂が進むべき道を悪魔から守るものであると信じられており、大司教が直々に用意するレベルのそれはキリウ大公の埋葬でしかお目に懸かれない。
優しく、病人の身体を洗うようにそっと聖水で墓石を濡らし、片膝をついて指で十字を切った。
―――ノンナ。
心の中で、彼女の名を呼ぶ。
瞼を閉じれば、今でも彼女の姿が思い浮かぶ。
旅をしていた頃、よく厨房でパヴェルの手伝いをしていた。
彼から多くの技術を学び、いつの間にか料理の腕はギルドの皆を唸らせるほどにまで成長していたノンナ。その腕は健在で、時折宮殿の使用人たちのために自作の料理を振舞って彼らの献身を労う事もあったという。
ズメイによる世界規模の寒冷化で食糧問題が勃発した時は、自ら大貴族たちを説得して食糧庫を解放。キリウ大公自ら一日二食に制限し、キャビアやらフォアグラといった高級食材は使用人たちに与えて、彼女は黒パンと缶詰で食事を済ませた。
お腹を空かせて泣いている子がいる、という知らせを聞くなり自らパンを配って歩き、民に慈愛と共に救いの手を差し伸べ続けたキリウ大公。
だからこそ、彼女は多くの民衆に愛された。
国葬が執り行われた時は多くの国民が献花に訪れてくれた。それを見て痛感したのだ。彼女はこんなにも、たくさんの人々を救っていたのだと。
立派じゃあないか。
スラムでルカと共に貧しさに耐えていたからこそ、かつて弱い立場だったからこそ、飢えの苦しさを知っていたキリウ大公。ゆえにその統治は常に国民目線で、彼らの意思を軽んじる事は一度たりともなかった。
娘や孫娘にも常々語っていたのだそうだ……『弱い人の立場に立って物事を考えなさい』と。
きっと、ノンナの本当の両親も鼻が高い事だろう。
「……お前、本当に立派だよ」
真新しい墓石に向かってそう呟き、踵を返す。
―――じゃあな、ノンナ。
もし俺もそっちに逝く事になったら……その時は、またギルドの皆で旅でもしよう。
天国ってどんなところなのか分からないけれど―――未開の地だからこそ、探索する楽しみがあるってもんだ。
その時はパヴェルも、クラリスも、みんな一緒だ。
だからまた―――いつの日か。
また逢おう、ノンナ。
1983年 9月19日
ノヴォシア、イライナの親極東、親西欧的姿勢を危険視。予防的侵略を実施
第四次イライナ侵攻
1983年 10月15日
ノヴォシア 革命首都モスコヴァ
人民革命ホール
―――彼らは、いったいいつになったら学ぶのだろう?
今しがた、BRN-180の5.56㎜弾で眉間を撃ち抜かれ天に召されたばかりの『同志書記長』の胸に2発、弾丸を追加で撃ち込みながら、ふとそんな事を考えた。
―――彼らはこの斬首作戦で何本の首を落とされれば学ぶのか?
イライナを攻めれば負ける、という事実に気付くのに、あと何人国家元首を暗殺すればいいのだろうか?
国家元首を殺したら下にいるやつがスライドしてくると仮定して、いっそのことノヴォシア人口のおよそ3億人を殺すまでイライナ侵攻は止まらないのではないか―――そんな事すら考えつつ、扉の向こうから室内に雪崩れ込んで来ようとするノヴォシア兵の眉間を撃ち抜き、その後ろにいた奴の眉間に5.56㎜弾の心温まるプレゼントを送り届ける。
時折、こうやって作戦中に無駄な思考が顔を出す事がある。大抵は現実離れした、突拍子もないとんでもないもので、しかし頭が全く関係のない事を考えている間にも身体は動いて、淡々と敵兵を殺していくのだ。
無駄に苦痛を味わわせる事を避け、殺す時は眉間を撃ち抜き一思いに。
かつてパヴェルは『相手を確実に殺すために』ヘッドショットを徹底していた。ズメイみたいな不老不死でもない限り、頭を撃ち抜かれて起き上がる人間なんてそういないからだ。
彼の考えた『効率的な殺し』と、俺の信条でもある『苦痛を感じさせない慈悲』。目的が違うだけで手段が同じなのはいったい何の冗談なのか。俺のは偽善なのか、と時折自問自答する事がある。
今日もそうだ。自分の信条は偽善でしかないのか―――そんな答えの出ない問いを自分自身に投げつけつつサーブ・スーパーショーティーに持ち替えて、曲がり角から奇襲しようと待ち構えていたノヴォシア兵にマズルアタックをかましてから発砲。12ゲージの散弾がチョークもない銃口から迸り、ノヴォシア兵の上顎から上を吹き飛ばす。
フォアグリップを介してフォアエンドをコッキング、ローディング・ゲートから散弾を1発継ぎ足しつつBRN-180に持ち替え、また効率的に相手を殺していく。
弾切れ。
空になったSTANAGマガジンを取り外すため、マガジンリリースボタンを押し込みながら銃を振ってからのマガジンを払い落す。床に落ちたマガジンはメタルイーターの作用で瞬時に錆びた金属の粉末と化すがそんなものを眺めている余裕もなく、マグポーチから引っ張り出した40発入りのSTANAGマガジンを装着。ACRストックを腹に押し当てたまま左手をハンドガード下から潜らせてコッキングレバーを操作、初弾を装填する。
ミカエル君113歳、その長すぎる人生のうちの半分以上を戦いに費やしていれば身体もそれに最適化されていくもので、自分でもびっくりするほどスムーズに再装填が終わり反撃が始まる。
ちらり、と窓の外に視線を向けた。
騒ぎを聞きつけたのだろう、ノヴォシア軍の『T-69M』戦車がキュラキュラと履帯の音を響かせながら主砲の100㎜ライフル砲を向けてくる。
とん、と足をタップ。
次の瞬間、T-69M戦車の足元から巨大な自由の女神像が屹立。それに押し上げられる形でひっくり返った戦車が、まるで裏返ってしまい身動きが取れなくなったセミよろしくじたばたと砲塔を動かしている。
共産主義国家の中枢に自由民主主義の象徴をデリバリーして満足するなり、セレクターを弾いてひとしきり発砲。まだ応戦してくる根気のある兵士に制圧射撃で労い、窓をぶち破って外に出た。
得意のパルクールで塀を乗り越え、電線を伝って人民ホールを離れ、路地裏に入ってから隠していたベスパに跨った。エンジンをかけ、ブブブ、と吹かしながらその場を離れていく。
斬首作戦完了、これより帰投する。
斬首作戦にも慣れたものだ。昔やりまくってた強盗とあまり変わらない。警備の脆弱部を見つけ出し、そこをねちっこく攻めるのだ。違いは金を盗むか、ヒトの命を奪うかの違いである。
そういや机の上にあったレーニンのライター盗んでくればよかったな……とちょっとだけ後悔する。見たところ純金製、売れば金になっただろうに。
まあいいか。どうせ次もあるだろうから、その時に盗ませてもらうとしよう。
楽しみが増えたな、と思いつつベスパをかっ飛ばし、人民ホールへ急行するT-69戦車の車列の脇を堂々と通過してモスコヴァ市の郊外へと出た。
今頃イライナの戦いも終わってるだろうな、と思っていたところに、戦略指揮AI『セフィロト』からの通知が入る。
リュハンシクにはガブがいる―――アイツがノヴォシアの軍勢を打ち破ったのかな、と期待していたが、スマホの画面に表示された通知は予想を悪い意味で裏切るものだった。
《ガブリエル・ラファエロヴィッチ・リガロフ公爵、マズコフ・ラ・ドヌー市街地へ独断での反転攻勢を実施。戦線拡大中》
「……マジか」
絶句……はしなかった。ガブならワンチャンやりそうだな、と思っていたのだが、よもや本当にやってしまうとは。
気持ちは分かるが、あまりエスカレートし過ぎるとどちらか片方が力尽きるまで延々と続く死のパイ投げ合戦が始まってしまう。俺としては、イライナをその渦中に叩き落とすのは本意ではない。
止めなければ。
急ごう、と思いながらベスパを走らせた。
1983年 9月21日
ノヴォシア社会主義人民共和国連邦 マズコフ・ラ・ドヌー
今日は我が家のクソジジイの、114歳の誕生日である。
いったい何時まで生きるのだろう、と思うが、不老不死なのだからいつまでも生きるのだろう。この俺が年老い、もう73歳になってしまったというのに、あのクソジジイときたら17歳の頃から容姿が変わっていないらしい。
羨ましいものだ。終身名誉全盛期など人生の絶頂ではないか。
前に踏み込んだ。
愛用の大鉈を盾にして銃弾を弾き、T-69M戦車の砲撃を紙一重で躱して、力任せに大鉈を振り下ろす。
ボギン、とすげえ音がした。金属の破断する音、舞い散る火花とスラグ、そして半ばからぶち折れた100㎜ライフル砲の砲身。
主砲を失うなり、T-69Mは無礼にもこの俺を踏み潰そうと前進してきたので、そうなる前に操縦手が乗っているであろう場所に大鉈を振り下ろした。
ぼこん、と装甲が貫通されるような音。折り紙のように大きくひしゃげた装甲の断裂部から、装甲諸共叩き潰された操縦手だったものが溢れ出る。
そのまま戦車をよじ登り、ハッチを無理矢理こじ開けた。
車長らしき戦車兵に至近距離でウィンチェスターM1897を突きつけ、散弾を見舞う。意図的に排除したチョークのおかげで散弾が一気に飛び散り、戦車長の顔面が潰れたトマトみたいに真っ赤になる。
コッキングし、車内に銃口を突っ込んだ。
砲手が『Прекратите, я сдаюсь!(やめてくれ、降伏する!)』と叫んでいるが知った事か。自分たちが好き好んで殺しに来たのだ、殺される覚悟くらいはあるだろうに。
お構いなしに引き金を引いた。命乞いをする声は、銃声を最期に聴こえなくなった。
砲塔の上から跳躍し、逃げる兵士の一団に襲い掛かる。
落下する勢いを乗せて大鉈で兵士を叩き潰し、力任せに振るった鉈で兵士3人をまとめて両断にする。距離がある敵兵に対しては愛用のウィンチェスターM1897にスラグ弾を滑り込ませてヘッドショット、上顎から上をふっ飛ばしてやる。
―――滑稽だ。
侵略者が、こうもみっともなく遁走する光景は。
そしてそれを一方的に殺す瞬間は。
「―――たまんねえなァ。ええオイ!?」
『ガブリエル様、敵兵は撤退しています。無用な攻撃は―――』
「構わん、殺せ」
異論を挟んでくる戦闘人形共にそう言い、俺はなおも殺しを続けた。
大鉈を振るい、ショットガンをぶちかまし、逃げる敵軍のトラックにはその辺で死んでた兵士から拝借したロケットランチャーをぶち込んで炎上させる。
命乞いは聞き入れない。
イライナを、俺たちの国を侵略したくせに命乞いをする権利があるとでも思っているのか。謝れば許されると思っているのか。
徹底的に刻みつけてやるのだ。戦争を、死の恐怖を。未来永劫消えない傷を。
《―――ガブリエル、退け》
ヘッドセットから聴こえたのは、クソジジイの声だった。
もう斬首作戦を終わらせてきたのか、と感心する。さすがは雷獣伝説の英雄、ズメイを殺した現役の英霊。手際が良い、というか化け物じみている。
「ジジイ、ここは俺の戦場だ」
《もう十分だろう、退け。これ以上ノヴォシアを追い込むな、戻れなくなるぞ》
「断る。まだだ、まだ殺す。イライナを敵に回したらどうなるか、骨の髄まで徹底的に刻み込んで―――」
《お前はもう十分殺したじゃあないか》
ハッとした。
後ろを振り向けば死体だらけだ。
上顎を吹き飛ばされ、両断され、炎上する戦車の中に閉じ込められ……数えきれないほどの死体が、俺たちが通ってきた道に転がっている。
もう十分殺したじゃあないか―――祖父の放った言葉は、戦闘の熱狂に取り付かれた俺たちの目を覚まさせるには十分すぎた。
冷水を浴びせられたかのように理性が冷静になっていく。
「……全部隊、撤収する。抵抗する敵を排除し国境線まで後退」
『閣下、敵の死体の処理は?』
「死体はそのままでいい、捨て置け」
『それではゾンビ化します』
「どうせ敵国だ、構いはしない」
『……了解』
配下の部隊に撤退を命じ、息を吐く。
確かに、これ以上殺していればきっと戻れないところまで突き進んでいた事だろう。必要以上に追い詰められたノヴォシアがどんな手段に打って出てくるか、考えるだけでもゾッとする。
だが、死体の処理だけはしてやらない。
俺たちの祖国を侵略しようとした罰だ。
せいぜい末永く苦しむと良い。
ガブリエルの反転攻勢の際、死体の処理がされていなかった事で戦死者の8割がゾンビ化してしまい、マズコフ・ラ・ドヌー市街地は1999年まで【恒久汚染地域】に指定。人の住めぬ街となった。




