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社内恋愛は禁止

 会社への通勤手段は電車なのだが、これがまたあり得ない。

 今朝も車内に痴漢が発生した事で、少々遅れを生じる事になった。

 公共交通機関とはキャバクラやピンサロでは無い。お触りなど厳禁である事も理解しない、性欲を抑えられない変態は後を絶たず、どれだけの女性が被害に遭っているか。

 しかもあれらクズは卑怯姑息な手段で、女性の尊厳を傷付けるのだから、質の悪さは桁違いだ。ナンパ野郎が少しだけ、ほんの少しだけ可愛く見える程に。


 あの手の性犯罪者は去勢を義務付け、GPSを埋め込んで行動を監視すべきだな。

 人権を謳う頭のおかしい弁護士が人権侵害と喚くが、じゃあ、女性が被害を受けるのは良しとするのか? 人権を謳うならば被害者の人権を第一義に考えるべきだ。

 犯罪者、しかも卑怯極まりない痴漢野郎に、なぜ一般人と同じ権利があるのか不思議だ。あんなもの、最早人ではない。ケダモノに人権を与えるから、後を絶たないのだ。


 私も過去に幾度か痴漢に遭っている。

 当然やられっ放しは性に合わないから、これ以上ない報復を行い、股間を露出させて車外に放り出した事もある。

 丸出しなのだから、当然即座に逮捕されたのは言うまでもない。わいせつ物陳列罪って奴だな。汚い体液を漏らしている事から、直前まで何をしていたかは理解が及んだだろう。汚いものを見せられたが已むを得まい。


 死ねばいいのに。


 つい熱くなってしまったが、女性にとって一生もののトラウマにもなりかねない、と言う事を男にはよくよく理解して欲しい。

 それ程に悍ましい行為なのだと。


 少々遅刻気味で会社に着くと上司が尋ねてきた。


「遅刻の理由は?」

「痴漢の所為で定刻通りに電車の運行が出来なかったのです」


 時間にして十分以内だったと思う。その場合、遅延証明が発行されない事から、ただの寝坊では、などと寝言をほざいて来たから、痴漢による被害がどれだけ女性を傷付けるか、滾々(こんこん)と説明し続けたら「もういい」と言って引き下がった。

 所詮上司も男だ。本当には理解出来まい。


 昼休みになり弁当を広げていると、同僚の女性社員が一緒にと言って、昼食をとる事になった。


「痴漢出たんだって?」

「私は被害に遭って無いけど、本当に気の毒で、もし私が近くに居たら締め上げて、走行中の電車から放り出してるところだね」

「ほんとにやりそうで怖い」

「痴漢は人間に非ずだから」


 当然だが、同僚の女性社員もそこには同意する。

 この手の話をすると口々に「死ねばいいのに」となる。男は知らんだろうけど。


「あ、そうだ。あの噂聞いた?」

「噂?」

「総務のNさんと営業のTさんが出来てるって」


 他人の色恋沙汰なんて面白くもなんともない。自分にも勿論不要だから、余計にどうでもいい。


「ふーん」

「でね、この前、うちの課のSさんがホテルにしけ込むの見たんだって」

「へえ」

「声掛けちゃおうかな、とか考えたらしいんだけど、さすがに他人の恋路を邪魔するのも悪いからって、遠慮して眺めるだけだったんだけど」


 マジでどうでもいい。

 でも、こんな話にも付き合って行かないと、社内で孤立するから表向きは付き合ってる。


「でさあ、この話し続きがあって」


 うん。どうでもいい話程、どうでもいい続きがある。結論は得ないけど。


「偶然ホテルから出る所も目撃したんだって。NさんがTさんに寄り掛かって、ああ、やる事やって満足したんだなって」

「まあ、ホテルだし、入って出て来たならそうなんだろうね」

「あの二人って結婚したりするのかな?」

「さあ」


 想像力が逞しいのか、乏し過ぎるのか。


「あとね、最近営業のYさん。狙ってるらしいよ」

「?」

「あなたの事だよ? 知らなかった?」


 マジか?

 遠巻きに見ながら日夜妄想に明け暮れて、勝手に惚れたとかって事なのか? 激しく迷惑千万なんだけど。


「それだけじゃないんだよ。もう、モテモテだよね。経理のMさんもそうだしぃ、うちの課のIさんもそうらしいよ。美人だもんね。そりゃモテもするよなあ」


 ちょっとでも近付いたら金的を食らわせてやる。

 普通の蹴りなんて生温いからな。


「あたしにもどっかにいい男現れないかなあ」


 そう思っている内は意外と現れないらしい。

 忘れた頃に息の合う相手が見つかったりするんだとか。


「ねえ、男嫌いって治らないの?」


 病気じゃないんだから治る、治らないじゃ無いと思う。


「霊的に生まれ変わってくれたら、もしかしたら大丈夫になるかも」

「なにそれ?」

「男が今のままじゃ無理って事」


 絶対無理だ。

 傍に寄って来られただけで、鳥肌立つし寒気するし。


「勿体ないなあ。せっかく誰もが羨む美人なのに、全然男に興味無いんだもんなあ」

「別に気にして無いし」

「でもさ、今は若いからいいけど、年取ってパートナー居ないと寂しくない?」

「それはその時になってみないと分からない。でも、寂しくなったら猫を飼えば問題無いと思う」


 猫が膝の上で寛いでる姿を想像するだけで心が安らぐ。

 男が同じ事をしたら蹴り殺す。


 昼休憩が終わり業務に戻るけど、今の職場では女性社員がコピーやお茶汲みなんて、一切無いから仕事に集中出来ると言えば出来る。

 未だに女性社員は雑用係だと思ってる、原始人が居る職場もあるらしいけど。

 新しい価値観が頭に入らないんだろうね。容量が小さ過ぎる原始的な脳みその所為で。


 飲みたきゃ自分で淹れればいいし、コピーも大した手間じゃないんだから、自分でやればいい。


 だから、この職場には給湯室はあっても、飲みたい奴が自分で淹れて自分のデスクに持って行く。私も時々男が居ない時を見計らって、給湯室に行く事はある。男が居たら居なくなるまで自分のデスクで待機だ。罷り間違ってもあの狭い場所で一緒などあり得ない。


 で、喉乾いたし、お茶でもと思って給湯室に行き、お茶を淹れてたらまさかの男。

 おいこら、何で私の居る時に入って来た? 接近厳禁だって周知したはずだ。


「あ、先客居たんだ、悪いね」


 わざとらしい。

 そうやって手籠めにすべく声掛けして、あわよくば体を頂こうって腹積もりだろ。


「水でいいんで、そこのコップだけ渡してくれる?」


 水? コップを渡せば立ち去るのか?

 ならばとコップを渡すと本当にその場を離れて行った。水はどこで入れるんだ?


「ありがと」


 そう言って他の女性が見れば爽やかであろう、白い歯を少しだけ見せて笑顔で出て行ったのだ。

 まあ、私に関与する気が無いのであれば、そこまで邪険にする必要もあるまい。

 即座に離れると言う事は、周知された事を守る意思はあるのだろう。


 湯飲みを持って自分の席に戻ると、隣の女性社員がボソボソ何か言ってきた。


「ねえ、Iさんと何か話したの?」


 何を勘繰っているのだ? 会話らしい会話は一切ないのだが。


「何も」

「でも、Iさん狙ってるって」

「知りません。興味ありません。傍に寄って欲しくありません」


 あれが私に気があるとか噂のIって奴か。

 ならば分かってて来やがったな。最初の内は気にしない風を装い、徐々に馴れ馴れしく接してきて、女性を口説き落とすと言ったありふれた手口か。

 全く、油断も隙もあったもんじゃない。


 次来たら後ろ蹴りを噛ましてやろう。


 終業時刻になりやっと解放される。と思ったら課長から声が掛かった。


「えっと、来週なんだけどIさんと一緒に、得意先のL社に行って貰えるかな。打ち合わせしないといけないから、君がアシスタントとして同行して欲しいんだけど」


 こいつ、バカなのか?


「男に同行させるのは禁止と言ったはずですが?」

「いや、そうなんだけど、でもそれだと今後必要な仕事が出来ないから」

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