09 最悪の美人姉妹
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~ギル王国・お城~
ジークとレベッカはお城の門へと着いた。
大きい門の前には門番が立っていた。
「…レベッカ王女様⁉⁉また城を抜け出したのですか?」
門番が驚いた様子でレベッカに言った。
「城は退屈なの。前にも言ったでしょ?私が何処へ行こうが私の自由よ。」
「ですが、国王様より無断での外出は許可しないと申し付けられております。」
「もうその国王様いない。そんな規則は破棄よ。さっさと門あけてくれる?」
「は…はい!失礼いたしました。」
ガチャン…!
門が空き、レベッカは中へと歩いて行ったー。
猫ジークはレベッカに抱きかかえられ、創造神はまた別の用があると先程別れた。
「…お前よ。門番だからってあんな言い方しなくてもいいんじゃねぇか?」
「なによ。あなたには関係ないでしょ。」
「反抗期か?」
「うっさいわね!猫のアンタに家の苦労なんか分からないでしょ!」
「カリカリしてんなぁ~。お嬢様ってもっと優雅に品よく紅茶を傾けてるんじゃないんだな(笑。」
「夢見過ぎよアンタ。」
ジークとレベッカがそんな会話をしていると、遠くの方から何やら声が聞こえてくるー。
「ーーー!!!」
「……〇〇!!!
「×××……!!!」
少しづつ近づくにつれ、声がクリアになっていく。
そこには、イメージの王室とはかけ離れた怒号で言い争いをしている女達の姿があったー。
「…だから何度同じことを言えば分かるのよ!!」
「分かっていないのはお姉様ですよ!!」
「これじゃ先が思いやられますわ!」
「何なのその言い方は!!……レベッカ…!アナタ何処へ行っていたの?」
女達の一人がレベッカに気付きこちらへ声を掛けてきた。
「くっそ美女!!ッ…ンガッ…!!」
ジークは女達の顔が見えた瞬間、思わず声が出てしまった。
そしてそれを咄嗟にレベッカが手でジークの口を塞ぐ。
「このエロ猫喋るなッ…!」
レベッカが小声ながらに圧をかけた。
「レベッカ。出かける時は声を掛けるよう言ってあるでしょ?何かあったら困るでしょ。」
「ごめんなさいエリザベス姉さん。」
<エリザベス・ウォーカー>
四姉妹の長女。
年齢:二十八(28)
顔良し。スタイル良し。
ブロンドの髪を後ろで束ねていて上品さが際立つ。
ジークのお姉さんレーダーが何の躊躇もなく反応した。
「あら?何その猫は?」
「あ、ああ…これは…その…拾ったの!可哀想でしょ…?」
ハハハ。っとレベッカは苦笑いで答える。
(めちゃくちゃ美人なお姉~さまじゃねぇかッッ!!)
ジークは「ニャーオッ!」とエリザベスの所へ行きたそうにしている。
「こら!ダメよエロッ…じゃない!この猫!大人しくして!」
「そんな事言ったら猫ちゃんが可哀想よ。ほら。おいで。」
猫の正体を知らないエリザベスは普通の猫のように扱う。
待ってましたと言わんばかりにジークが飛びついたー。
「ゴロニャ~~ン♪♪♪」
「凄いもふもふ!気持ちいいわねぇ。」
「待って姉さんッ!止めた方が…!(でも…本当の事話してもややこしくなるし…コイツが全部喋って私が襲われたなんて知られたら外出禁止になっちゃうわ…。)」
葛藤しているレベッカをよそに、エロ猫ことジーク・ルアソールは猫を満喫する。
(うっは~~♪♪やっぱ猫最強~!)
「あらあら。元気のいい猫ちゃんね!」
「姉さん……(違うんです!本当は違うんですよエリザベス姉さん!)」
本当の事を言えずに肩を落とすレベッカ。
そこへ、さっきまでエリザベスと会話していた女二人もこちらへと近づいてきた。
「…姉さん!話はまだ終わっていないわ!」
「そうですね。話はまだ途中ですわエリザベス姉様。…あら。かわいい猫ちゃん。」
「ローズ…メアリー。」
<ローズ・ウォーカー>
四姉妹の次女。
年齢:二十七(27)
顔良し。スタイル良し。
エリザベスと年子。
髪は肩にかかるぐらいの長さで軽くウェーブが掛かっている。
目付きがキリっとしており芯が強そう。
<メアリー・ウォーカー>
四姉妹の三女。
年齢:二十四(24)
顔良し。スタイル良し。
ブロンドのロングの髪に眼鏡を掛けていて大人しそうな雰囲気。
「ローズ姉さん。メアリー姉さん。」
こちらに来た二人にレベッカも反応する。
そして当然の如くジークの“お姉さんレーダー”も反応した。
(…⁉⁉⁉⁉)
噂通りの美人さに、ジークは目をハートにし、言葉が出ない程の衝撃を受けていた。
「レベッカ。アンタどこにいたのよ?…まぁそれより話の続きよエリザベス。」
「おかえりなさいレベッカ。エリザベス姉様、そのかわいい猫ちゃんどうしたのですか?」
(天国ですかここは…♪♪?)
近くまで来たローズとメアリーにもメロメロウハウハなジークは最早天国に逝き掛けたー。
だがその刹那ー。ジークの幸せに大きな亀裂が入る。
「何このノラ猫!どこで拾って来たのよ!私“猫アレルギー”なんだけど!さっさと捨ててきなさい!」
ローズが不機嫌そうに言い放ったー。
「そうだわ。ローズは猫アレルギーだったわね。ごめんね猫ちゃん…。」
そう言ってエリザベスはジークをレベッカに返した。
(なにぃぃぃ~!!まさか猫アレルギーとは!!…考えてもいなかった…。俺のパラダイスがまた終わった…。それにしても噂通りの美女揃いだった……。)
レベッカに持たれたジークはまるで死体のように項垂れた。
「なんなのよコイツ…!イラつくわ。」
ジークのあからさまな態度にイラつくレベッカ。ローズはジークと少し距離をとった所で再び話し始めた。
「…もうこの話はずっとしているけど、“次の王位継承”は私がもらうわよ!」
「それはダメだと何度も言っているでしょうローズ。王位継承の順位は長女の私が一番にあるの。だから次に王になるのは私のフィアンセ。ロバートよ。」
エリザベスはうっとりした顔で言った。
その発言にローズとメアリーが反論する。
「だからそれが“問題”なのよ!ロバートは国王の器じゃないわ!」
「それには私も同意見ですエリザベス姉様。ロバート様では荷が重すぎです。」
「何よ二人とも!何故そんなにロバートを侮辱するのですか!」
「「アホだから。」」
ローズとメアリーが同時に言ったー。
そう。エリザベスのフィアンセは相当アホである。少し可愛い言い方をするならば天然。
だが、ロバートは誰もが認めるアホ。
「失礼ですわ!!」
「本当の事を言ったまでよエリザベス!何でも顔だけで判断するのはいい加減止めて!」
そう。これがエリザベスの悪い所。ロバートはアホなのだが顔がメチャクチャイケメン。イリーガル中で誰もが知っている高級ブランドのモデルを務めたりもしている。
だがアホ。姉妹達だけでなく城に住む使用人や門番達も認めている。国を任せたら間違いなく滅びると。
「悪い人ではありませんが、国は任せられませんよエリザベス姉様。」
「そんな事ないわ!彼は少し天然なだけ。私が立派な王へとしてみますわ!」
「無理だって!」
「言っときますけどローズ。アナタの彼の方が問題よ。」
「マックスが?彼は何も問題なんてないわよ!だから頼りないロバートじゃなくてマックスを次の国王にしたほうがいいに決まってるわ!」
「マックスも無理ですわローズ姉様。」
「メっ、メアリーまで!何がいけないの!彼はロバートと違って見た目も屈強だし頭もいいわ。まさに王に相応しいのよマックスは!」
「「ヒモだから。」」
今度はエリザベスとメアリーが同時に言い放つー。
そう。ローズのフィアンセはヒモ疑惑。マックスも有名な名のある貴族のお家柄だが、兄弟が十人の八番目。
将来の王位継承は八番。自分が王にはなれないと分かったマックスは家を出てローズと出会った。
だが、家を出たと言っても“自立”するとは誰にも言っていない為、ただ彼女の家に転がり込んだぐらいにしか思われていないマックス。
趣味の筋トレを毎日しており、生活費は当然家から貰っている。働きもせず筋トレと“筋トレの参考書”を何冊も読破。
ローズはそんな姿を見て、体格もいいインテリだと思っている。
「そ、そんなことないわっ…!」
「では彼は何のお仕事をしているのかしら?」
「それは…。ま、前にも言ったけど…彼だって貴族のお家柄よ!別にすぐに働かなくても困らないでしょ!」
「それをヒモ。ニート。無職。ダメ男。クズ。と言うのですよ。ローズ姉様。」
「ち、違うわ…!マックスはそんなだらしない男じゃないの!やれば出来るんだから!やっても出来ないロバートは違うの!」
「何を言ってるのローズ!ロバートだってやれば出来るわ!」
「はぁ~…。ロバート様もマックス様も向いていないとなると…やはり私の彼しかいませんわね。お姉様。」
メアリーのこの一言で言い合いに更に拍車が掛かったー。
「「は⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉」」
エリザベスとローズは物凄い剣幕でメアリーを見た。
「だってそうでしょうお姉様。私の彼、ボブはとても常識人。自分の努力と商才でこのギル王国でも重要な貿易会社の若社長にまでなりました。彼は周りを良く見る事出来ますし、国に利益をもたらせます。人からも慕われていますからまさに国王に適任ですわ。」
「「…………。」」
そう。メアリーの彼氏ボブは、父の小さな会社を努力と商才でギル王国一と呼ばれる貿易会社にまで築き上げた苦労人。人柄も良く、人間関係のトラブルもなければしっかり働く誠実な青年。
年齢はローズと同じでまだ若いが、将来有望は間違いない。姉さん達の男に呆れているレベッカでさえも“ボブの事は”認めている。そう…。“ボブ”の事は。。
「メアリー。確かに彼なら次期国王に相応しいわ。人間性も性格も人徳も。彼の働きによっては今より更にギル王国が暮らしやすい豊かな国になるわ。」
「私もそう思いますエリザベス姉様。」
「けれどダメですわ!!」
エリザベスは一刀両断した。
「何故ダメなんですの?エリザベス姉様!彼以外に任せる人はいません!」
「“彼”が問題ではないの。」
「そうよメアリー。問題は“ボブ”じゃない。」
「エリザベス姉様…ローズ姉様…。一体何がダメと言うのです!」
「「“アナタ”よメアリー!」」
エリザベスとローズが見事同時に言ったー。
そう。メアリーは超がつくほどの“お金好き”。部屋には色んな国のお金や経済にかかわる本がズラリと並んでいる。国の為というよりはお金の為に全てを尽くしている。
良くも悪くも“お金”が最優先のメアリーは、国を、そして国民の事を誰よりも大切に思っている。
国が、人がいなければ“お金”をたくさん生み出せないから。。
「メアリー…。あなたはそもそもまだお付き合いをしているだけで、結婚の話にはなっていないでしょう?」
「確かに今はそうですが、私はもう彼と決めています。彼以上に今この国で“利益”を出せる人はいないのです。」
「アンタ収入で結婚相手決めるタイプなのねメアリー。」
「当然です。全てはお金ですよ姉様♪金、金、金。お金が私の気持ちを満たしてくれるのです。それにお金があれば誰でも嬉しいはず。民が一人一人豊かになるにはそれ相応のお金が必要になります。私は誰よりもこの国を、この国の民を愛しています!だから全員に幸せになって頂きたい!だからお金が必要なのです!だから民が大事なのです!」
「「………………。」」
言葉にならないエリザベスとローズ。
そして会話をずっと聞いていたレベッカとジークが呟く。
「……とんでもねぇなお前の姉ちゃん達…。」
「どう?美人姉妹の感想は。」
「“見た目”はパーフェクト。」
「あら。初めて意見があったわね。」
美人姉妹の壮絶なやり取りに、流石のジークもドン引き。
百年の恋も冷めるとはこの事だろうと、この時ジークは思ったー。