45 新魔導士現る!
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~スーパーキャット~
朝六時前―。
「…ん~~!空気がおいしい!」
昨夜の賑やかなパーティは夜遅くまで続き、皆はいつの間にか寝ていた。
外で体験するほぼ全てが、レベッカにとっては新しく新鮮で刺激的な事である。
色んな事が日々起こりやすい魔導士と一緒にいれば尚更だ。
昨晩の事、これまでの事…。レベッカは寝ている猫達を見ながら色々思い返していた。
出会ってまだ日も浅いが、間違いなく自分の人生で一番濃厚な日々。
不思議な高揚感で早く目が覚めたレベッカは、そんな事を思いながら紅茶を入れた。
皆は椅子やソファ、クッションの上等そこら辺でぐーすか寝ている。
近くのテレビの前のソファに座り、レベッカはスイッチをオンにした。
紅茶を飲みながらぼんやりと点けたテレビを眺める。
<――次のニュースです。二年前、アレフ大陸の多くの人を震撼させた猫虐殺事件。“ロイドン・キャット・キラー”
が昨夜逮捕されました。>
「――あ!」
昨日のクエストで捕まえたロイドンが、早くもフレア王国のみならずアレフ大陸全体でニュースになっていた。
昨日の今日でここまで取り上げられるところを見ると、凄い多くの人達がこの事件に関心をもっていたのかが伺える。
レベッカはニュースを見て、ロイドンを捕まえられて良かったと改めて思った。
だが、本当にニュースなるのはここからだった―。
「あ!ゴードンさんだ!」
テレビには、ロイドン逮捕のきっかけとなった依頼主のゴードンが映っていた。
朝早くからゴードンの店の前に記者達が集まってきていた。どうやら色々インタビューを受けているらしい。
「うわぁ。こんな朝早くから人一杯…。なんかゴードンさんに余計な迷惑かけちゃった…。」
予想外の事に、テレビを見ながらレベッカはゴードンさんの心配をしていた。
だが、これまた予想外に、ゴードンは余程今回の出来事に感銘を受けたのか、レベッカをべた褒めしていた。
<すいませんゴードンさん!今回のロイドン・キャット・キラーの逮捕のきっかけが、ゴードンさんの依頼からという情報が入っているのですが間違いありませんか?>
「…え、ええ。結果そうなったみたいですけど…。」
<今回の犯人があのロイドンだとは思いもよらなかったのでは?>
「それはとてもビックリしました!依頼をした“レベッカという魔導士の子”が凄かったんですよ!」
<そのレベッカという魔導士はどこのギルド所属なのでしょうか?女性ですか?>
「はい。確かギルド名は…スーパーキャット!何でもまだ新設されたばかりのギルドらしく、彼女しか魔導士がいないらしいんです!それにも驚きましたけど、イメージする強い魔導士とは真逆で、見た目も二十そこそこで…モデルさんのようにとても可愛い女の子だったので、最初会った時は正直心配になってしまいました(笑。」
<実際にロイドンを捕まえた現場にはいらしたのですか?>
「いいえ。元々頼んだ依頼で、彼女は犯人の手掛かりを見つけた…と。そしてそれを追ったらあのロイドンとかいう犯人に辿り着き、そのまま倒して捕まえたとレベッカから報告してもらいました。いや~!まさかあんな女の子がこんなに強い魔導士だったとは本当に驚きです!…あ!それと確か彼女猫をたくさん連れていました!私は魔導士ではないので詳しくないですが…きっと“猫使いの魔導士”とかじゃないですかね!」
<猫使いの魔導士…聞いた事ないですね…。それにあの凶悪犯を捕まえた魔導士が若い女の子……これは色々とスクープですね!ありがとうございましたゴードンさん!――直ぐに帰ってこの魔導士の子を調べるんだ!凄い面白そうなネタだ!!見出しは……“最強猫使い現る!謎の美女魔導士!”…これで行こう!!>
このインタビューで、ゴードンと記者達はロイドン逮捕よりも“新魔導士”が現れた事に盛り上がっていた。
一連のやり取りは全てテレビで放送され、フレア王国では凶悪犯逮捕とその犯人を捕まえた英雄を称え、盛り上がるのであった―。
すぐさま色々な所で速報として取り上げられ、号外を配る為に印刷の準備も取り掛かっていると一部のテレビで報道されている―。
電光石火の世の流れに、思わず飲んでいた紅茶をテーブルにこぼしたのは、“新魔導士”となったレベッカだ―。
訳の分からない出来事に、時間が止まったかのようにフリーズする。
だが、そんなレベッカとは相反して、フレア王国の盛り上がりは加速していく―。
「ええええええええええ!!!!!!!!!!」
スーパーキャットに響き渡る悲鳴のような声。
「「「「――⁉⁉⁉」」」」
「なッ、…なんだッ⁉⁉」
寝ていたジーク達が飛び跳ねるように起きた。
レベッカがまた連れ去られたのか⁉
敵が攻め込んできたか⁉
驚いて起きた一行は、反射的に凄いスピードで辺りを見渡した―。
「―なんだ?敵は見当たらねぇ…。」
「誰の悲鳴だ⁉レベッカか?」
「一体何事なのよ朝から!」
何処を見渡しても敵らしい奴はいない。紅正の魔感知にも反応しない。レベッカもちゃんといてテレビを見ている。
じゃーさっきの悲鳴はなんだ??…っと、皆は一人起きているレベッカを見た。
「…おい。もしかして今のお前か?」
ジークの問いかけにレベッカは無言で振り返り、「コレ見て…」とずっとテレビを指差してジーク達に訴えかけた。
ニュースの速報は異様な盛り上がりを見せ、どんどん情報がアップデートされていた―。
<なんとあの凶悪犯を捕まえたのは一人の女の子だという事が分かりました!スーパーキャットというギルドに所属するその魔導士の名は“レベッカ・ウォーカー”!!入ってきました情報によると、彼女は“猫使い”の“新魔導士”との事!昨夜捕まったロイドンとその手下もこう供述しております…『猫にやられた』っと!!>
「なんかフルネームバレてるし……。」
シクシクと嘆くレベッカ。
「すげぇ事になってんな。」
「猫使いの魔導士ねぇ(笑。魔法使えないけど。」
<また新たに情報が入ってきました!…え⁉…し、失礼いたしました!この情報によりますと、なんとレベッカ・ウォーカーさんはあのギル王国の王女との事です!!王女が魔導士で凶悪犯を捕まえたという驚きの事態になっております!!>
「どんどんバレてくな。」
「一気に有名人だなレベッカ!」
<更に追加情報です!なんとレベッカさんはギル王国でも美人四姉妹と呼ばれるほどの美女との事!お姉さん達は今、王位継承で揉めていて性格が良くないとの事です!!>
「ハッ~ハッハッハッ!まだ揉めてるのかよ(笑!」
「もうやめてぇ~…。」