42 怒りの流れ星
空からデカい物体が落ちてくる数十分前の出来事―。
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~レベッカ・ペル・キャンディス・グリム~
一人の女の子と三匹の猫が、走り出した一台のトラックを追いかけ走り出していた―。
ジークの瞬時の判断で、レベッカがペルを抱きかかえ、キャンディスと共に走る。
そんな中グリムは駄々を捏ねたが、十数秒遅れで仕方なしにトラックを追いかけた―。
道が入り組んでいるせいもあってか、流石に走りで車に追いつけるはずもなかったが、見失う程のスピードでもなかった。
「―クッソ!!まさかあんな訳の分からん猫と女に見つかるとは…!」
「あんなお嬢ちゃんが俺達を捕まえに来たのか?一人で猫連れて?」
「ん?…言われてみりゃ確かにこんな焦る事もないよな…?喋る猫はビックリしたけど。」
「ロイドンさんが珍しく声張ったから、なんか勢いでヤバいと思ったけどよぉ…。強いのかあの子が?」
助手席に座る男が、後方を走るレベッカを見ながら言った。
その姿は徐々に小さくなっていく。距離が取れた安心感もあってか、男達は段々と冷静になり、「安心感」と「余裕」が生まれ始めていた。
そして数秒後、この男達の勘違いが自らの首を絞める事となる―。
「あんな戦えそうもない女と猫から慌てて逃げたのが恥ずかしくなってきたぜ…!」
「ロイドンさんの事だ、もう向こうは片付いてるだろ。いくらお嬢ちゃんと猫だからってこっちも面見られちまったからよ、面倒起こされる前にお嬢ちゃんに釘差しといたほうがいいんじゃないか?」
「それもそうだな。喋る猫は貰っていこう!いい商品になりそうだ。カッカッカッ!」
「じゃーとりあえず車止めるか…。いつの間にかお嬢ちゃんの姿も見えなくなってッ……「――トロいくせになに止まろうとしてやがるんだ。…あ?」
――ビュオォォォォォォォォンッッ……!!!!!
「「………⁉⁉⁉」」
突如、トラックをも吹き飛ばしそうな程の強い突風が吹いた―。
「―ちょっと!トラックには猫ちゃん達も乗ってるんだから気を付けてよ!」
「ホントに気が利かないガサツな男だわ。」
「俺の仲間にケガさせないでくれニャ。」
フワフワと風に乗ったレベッカ達が空からゆっくり降りて来た。グリムの風魔法だ。
「あ~~うっせぇな!どいつもこいつも文句しか言ってねぇじゃねぇか!ここまで運んでやっただろうが!」
文句を言う一同にグリムが更に文句を言っていた。
「……ッててて…何だ今の揺れは…。」
「あ!アイツ等いつの間にかこんな所に!」
トラックに乗っていた男二人が下りて来た。
「初めからこうしとけば良かったぜ。」
「おいお嬢ちゃん。怖い目に遭いたくなけりゃ今日見た事は黙っとくんだな!逃げてもいいぞ(笑。あ!猫は置いていけよな。」
男達は目の前にいるレベッカと猫に何も警戒していなかった。
「典型的なやられキャラだ…。」
「じゃー後グリムお願いね。私達は積み荷の動物達を助けてくるから。行きましょうレベッカ!」
「うん!ペルも行こう!」
レベッカ、ペル、キャンディスはトラックの荷台へと向かった。
「おいおい!勝手な事しようとしてんじゃッ―⁉⁉」
――ブオォォンッッ…!!
「…テメーが勝手な事すんじゃねぇよ。」
グリムvs手下二人。
戦闘開始―。
レベッカ達を止めようとした男の一人がグリムに止められた―。
グリムが男の周りにだけ風を巻き起こしている。
「…ぐッ……な、なんだ…これはッ…⁉」
風に包まれた男は身動きが取れず、その風圧の強さで立っていることも出来ず膝をついていた。
「…お、おい!大丈夫か⁉…何なんだよこの猫は⁉…このぉ~クソ猫がッ!」
もう一人の男がグリム向けて魔法を繰り出した―。
魔力によって集められたエネルギーの球が五つ。全て同時にグリム目掛けて放たれる―。
………シュンシュンシュンシュンシュンッ…!!
「吹っ飛べクソ猫ぉ!!」
「……ふッー…!」
――ファァ…ン…。
「―なッッ⁉⁉⁉」
男が放ったエネルギー弾は、グリムがふッーっと息を吐いただけでかき消されてしまった。
「テメー“魔導成形”しか使えないのかよ。ホントにやられキャラじゃねぇか…。勘弁してくれよ本当に。」
あまりの弱さにグリムはガックリと項垂れている。
敵の男は開いた口が塞がらない程力の差を見せつけられ、開いた口からヒョロロ~っと魂が抜けて気絶していた。
グリムvs手下二人。
戦闘終了!勝者グリム!
そんな事をしているうちに、レベッカがトラックに積まれていた動物達を助け出す。
――バッ…!!
積み荷のカバーを開けると、数十匹の猫や動物、モンスター達の姿が―。
「―いた!皆大丈夫⁉」
「ひどい事するわ…。」
「―!おい!しっかりするニャ!」
レベッカとキャンディスが次々にゲージの扉を開け、動物達を開放していく。
捕まっていた中にはペルの仲間の猫もいた。ペルは急いでゲージに駆け寄り、それに気付いたレベッカがゲージの扉を開けてあげた。
「おい!大丈夫か?目を開けるニャ!」
見つけたペルの仲間は気を失って横たわっていたが、直ぐにペルの呼びかけに反応し、無事を確認出来た。
「良かったニャ~!何とか無事みたいニャ!ありがとうレベッカ!キャンディス!」
「フフフッ。」
「他の動物やモンスター達も無事みたい!」
無事に助け出せたレベッカ達は一安心。
「――おい野良猫!俺にも感謝しろよな。」
一人蚊帳の外のグリムが、ポケットに手を突っ込みながらダルそうに歩いてきた。
「…!!お前その二足歩行…そうか…。只の猫じゃないと思ったら人間だったのかニャ。」
ペルはグリムが人間のように歩いていたのを見て確信したようだ。
詳しい理由は分からないが、ジーク達は元は人間なのだろうと。
「気を付けなさいよアンタ。たまたま他に人がいないから良かったけど。」
「面倒くせぇなぁ…ったく。既に転がってる二人に見られてるけどな。…そういや案外自然と戦えたな。いや、戦ったなんて言えるもんじゃねぇな。。」
ノびている男二人を見ながらグリムは言った。
「さぁ、それじゃ無事助けられたし戻りましょ。一応コイツ等とトラックも持っていった方が良さそうね。って事で頼んだわよグリム。」
「おいおい!!人使い荒いぞお前!ただでさえこっちは消化不良でイライラしてんだからよぉ。」
「だったらそのトラックに当たりなさいよ思う存分。誰も困らないから。当然動物達は大事に扱いなさいよ。」
「だぁぁぁぁぁ!!!このクソがッッ!!!!」
言われるがままグリムは怒りをトラックにぶつけた―。
しっかり動物達を離れた所に移動させた後でー。
「優しいのか乱暴なのか分からないわね…。」
「口と態度は悪いけど根はいい奴なの一応ね。」
暴れるグリムを見ながら、レベッカとキャンディスはそんな会話をしていた。
「クッソォォォォォォォ!!!!!」
――ドゴンッッッ!!!
グリムがぶん殴ったトラックは、数多の星が輝く綺麗な夜空へ、まるで流れ星のように飛んでいった――。