41 紅正vsロイドン
「――この猫の体でどこまで動けるのか…。一丁やるかッ!!」
――ブォォォォォォォォォォンッ!!!!
爆炎と共に、紅正の魔力が上がっていく―。
「おおーー。(…それにしても…)」
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<おい!お前等二人はトラックの作品売りさばいて来いぃ~!!……>
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(―なんでこんな売買してる奴ばっかと出会うんだろ…。)
先程のロイドンの言葉に、ジークはレベッカと出会った闇ショップがふと頭に浮かんだ―。
そんな事お構いなしに、暗闇を一気に照らす炎の魔力。
これが紅正の魔力属性―。
「お前らぁ~猫のくせになんなんだぁ…その魔力ぅ!面白いから俺のペットになれよぉぉ!!」
ロイドンが操るサーモンが、紅正目掛けて飛び込んでくる―。
初めの猫サーモンとは比べ物にならない程、魔力の高いサーモン。
ユラユラと浮かぶそれは、死神の様な姿形をしていた。
三メートル弱はありそうな大きな揺らめく体に、骨だけの腕が大きな鎌を持っている。
「――#$%&'!!!」
人の言葉ではない、唸り声のような声と共に、その大鎌を紅正目掛けて思いっ切り振り下ろす―。
――ズワァンッ!!
当たれば間違いなく体が真っ二つにらるであろう死神の一振り。
巨体からは想像できない程早い太刀筋。
だが、紅正はそれを難なく交わした。
「こんな大振り当たるわけねぇだろ。」
「――)('&%$!!!」
交わされた死神は、再び唸り声と共に紅正へ大鎌を振るう―。
――ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュン!
凄まじい連続攻撃―。
常人の目には追えないスピード。
絶え間ない連撃で斬り付ける死神であったが、その全てを交わす紅正―。
「なかなかやるな…。」
「口だけじゃなかったか(笑。」
見ていたジークとシドも少し感心している様だ。
その間も攻撃は止まない―。
何撃交わしただろうか―?
避けていただけの紅正が遂に反撃に出る―。
「……いつまで遊んでる?…俺が斬り方教えてやるよ―。」
紅正がそう言った次の瞬間―。
―――ズバンッッ……!!!
辺りを照らす炎の魔力の光が、紅正が繰り出したであろう一つの太刀筋に反射した―。
「――⁉⁉」
まさに一瞬の出来事―。
死神の攻撃よりも更に早く刀を振った紅正は、死神を一刀両断していた―。
斬られた死神はユラユラと数秒揺らめいたのち、灰のように散り消えていった。
「…ほぉ~…。恐ろしい猫だなぁ~やっぱ。ああ~。欲しいなぁ…♪ヒッヒッヒッ。」
自分のサーモンがやられても尚、ロイドンは焦るどころか楽しんでいる。
「アイツ相当ヤバいな。」
「完全にサイコパス。」
死神を倒した紅正が刀の切っ先をロイドンに向ける―。
「ヘラヘラしてんじゃねよ。あんなに猫達捕まえて何が楽しい…。次はテメーの番だ!!」
ロイドン達が動物やモンスターを捕まえ、悪巧みしていたのは一目瞭然。
怒る紅正はロイドン目掛け走り出す―。
気付いたロイドンも瞬時に魔法でサーモンを召喚する―。
「“召喚魔法”…操り芸人形!!」
――ボワンッ!ボワンッ!ボワンッ
「――!!」
ロイドンによって今度は三体のサーモンが同時に召喚された。
「あの魔力の強さで複数同時召喚…!」
「へぇ~まぁまぁやるじゃんアイツ。」
サーモンは術者の魔力の強さに応じて強さが異なる。術者の魔力が高ければ高いほど、召喚されるサーモンも強くなる。
また、召喚魔法の使い手の中でも、隠密やスパイ等の遠隔操作タイプと戦闘が得意な近接操作タイプと、ざっと二つに分かれている。
ロイドンは完全な近接操作タイプ。
サーモンの複数同時召喚は、術者の中でも出来る者はそう多くはない。
先の死神と見た目は異なるが、三体とも死神より魔力が高い―。
「…次は誰だってぇ(笑??俺の生み出すアートに殺されるがいいぃ~!いけぇぇ…!!」
三体のサーモンが一斉に紅正に襲い掛かった―。
一体はガーゴイルの様な見た目の巨体。
その両サイドに、ゾンビの様な見た目をして刀を持ったのが二体。
サーモンの異形な姿に、ジークとシドが「趣味わりぃ~。」と呟いていたのはここだけの話―。
ロイドン目掛けて走り出していた紅正に、突如目の前から襲い掛かってくるサーモン達。
両者の間合いは一瞬で詰まる―。
「くたばれ野良猫ぉぉ~…!!」
「「「――$%ッ&'()バ…!!!」」」
「……言ったろ?…“次はテメーの番”だって…。」
鋭い猫目は、サーモン達より奥にいるロイドンをずっと捉えていた―。
「――“炎魔法”…一刀流……。“卍斬り”!!!」
―――ズバンッッ!!!!!!
「――ガッ…⁉⁉⁉」
紅正の斬撃が、三体のサーモンとロイドンを斬った―。
斬られたサーモン達は消え去り、腹部を斬られたロイドンもその場に膝から崩れ落ちる―。
相手が決して弱いわけではなかった―。
だが、あまりに早く美しいその太刀筋に、ジークとシドはそう思わずにはいられなかった。
(紅正もなかなかやるじゃん。)
……キィンッ…!
刀を鞘へ納め、紅正はジークとシドを見ながら余裕のある口ぶりで言った。
「ど~よッ!強すぎて見惚れちまったみたいだな。」
「まぁまぁだな(笑。」
「何ッ!」
「俺ならもっと早くケリがついていた。」
「なッ!シドお前まで!意外と強情な奴だ…。」
ジーク達が話していると、少し遠くでやられたロイドンが起き上がろうとしていた。
「――ぐッ……ハァ…ハァ………。」
斬られたロイドンの傷口からは血が流れている。
誰が見てもまともに動けるようなダメージでは無い。
「…シド。アイツ拘束出来るか?」
「愚問だな。」
そう言うとシドは影魔法で、セルジオを捕まえた時と同じ大きな黒い手を出した。
「…まさ…か…こんな…強い猫とはなぁ~…ヒッヒッ…。」
ロイドンは変わらず不気味な笑顔と独特な口調であった。
そして、シドがロイドンを捉えようとした時、ロイドンがジークを見て思い出した―。
「……そ~だぁ…。お前…どこかで見覚えあると思ったら……“あの時の猫”かぁ~…ヒッヒッ…あのお嬢ちゃんも“王女”だったなぁ~(笑…。」
「―⁉なんで俺とレベッカの事知ってるんだ。」
ジークは勿論、紅正もシドも、ロイドンの発言に少し驚きを見せた。
「…ヒッヒッヒッ…あの時俺も“参加”していたからなぁ~…“ガンテツ”が王女をオークションにかけたあの闇ショップの売買になぁ…!…ヒッヒッ…。」
「―お前あのクソオークションに参加してやがったのか!」
何の因縁か、世間は狭いと言うべきか…。それを聞いたジークは呆れて何も言えなくなった。
「王女がオークションって…レベッカか?」
「そー。」
「王女ってそんな狙われるんだな。」
「いや。アイツがトラブル体質なんだきっと。」
「こんな下らん事をやってる奴が他にもいるとは不愉快極まりない。」
「シドの言う通りだ。早くコイツ影の中に沈めてくれ。」
三人は満場一致で、ロイドンの存在を視界からも記憶からも消したいなと強く思った。
シドが出していた大きな黒い手でロイドンを掴もうとした瞬間――!!
ヒューーーー………………………………
―――――ズガンッッッッ!!!!!!!!!!
「「「――⁉⁉」」」
物凄い衝突音と共に、空からデカい物体が落ちて来た――!
「…………え?何…?」
ジーク達は只々茫然とするしかなかった―。