40 サーモン術者
~工場内・明かりの灯る場所~
「―――カッカッカッカッ!今日も“大量だな”!」
「“新作”も売れ行きがいいそうですぜ!“ロイドン”さん!」
「ヒッヒッヒッ。そりゃ~そうだろぉ。俺の“作品”だからなぁ。」
ロイドンと呼ばれた男。
身長は一八〇cm近くある細身の体系、短い焦げ茶の髪が寝ぐせの様に無造作だ。
不気味な笑みと共に、ねっとりとした話口調。
「流石ですね!んじゃ早速ブツをさばいてきます。」
そう言った男の一人が徐に、近くに止めてあったトラックの方へと向かって行った。
トラックの後ろに回ると、男は積荷のカバーをバッっと捲った。
「ニャーー!!」
「ニ”ャーーオ”!!」
「グワーッ!グワーッ!」
「ピーピー!」
そこには、無造作に鉄のゲージに入れらた猫や動物、モンスター達の姿が数十匹積まれていた―。
雑に積まれたゲージは今にも崩れそうだ。
「カッカッカッ!今日も一仕事しに行くか~!大人しくしてろよお前等!」
猫達が積荷にいるのを確認した男は、再びカバーを下ろし今度は運転席へと回った。
「――おいッ!!」
「「「――⁉」」」
男が運転席のドアを開けようとした瞬間、ジークが男達に声を掛ける。
ジークに続きすぐさま紅正達とレベッカも男達の前に姿を見せた。
「どうしたお嬢ちゃん?迷子か?へへっ。」
「今あの猫喋らなかったか?」
突然現れた猫六匹と女の子に、男達もいまいち状況が掴めていない―。
「ちょっとアンタ達!ここで何してるのよ!!」
レベッカが威勢よく男達に啖呵を切った。
「いきなり来て何怖い顔してるんだお嬢ちゃん。俺らは仕事してるだけだぜ?」
「そうそう。早く家に帰りな。」
男達から見れば只の女の子と只の猫。当然何も警戒するはずがなかった。
奥に座るロイドンと呼ばれる男を除いては―。
トラックから聞こえてくる動物たちの鳴き声にジーク達が気付く。
「お前等何しようとしてるんだ?」
「うわッ⁉やっぱり喋ったじゃねぇかこの猫!」
喋る猫に驚く男達。
その反応を無視して、紅正がジークに声を掛ける。
「ジーク。アイツだ…。」
紅正の視線の先には、ランクSと思われる魔力の持ち主が座っていた。
サーモンを操っていた術者―。
「んん~~…なんだぁ?お前等…。“どっかで見た顔”だなぁ…。そっちの猫達も只者じゃなさそうだぁ~(笑。ヒッヒッヒッ!何の用だぁ。」
流石の魔力の持ち主と言うべきか。
手下の男二人は全く気付かず普通の猫だと思っているようだが、ロイドンは目の前にいる猫達が間違いなく“強者”だと感じ取っていた。
そして、ロイドンは誰かを見た事があるような口ぶりだ。
「お前サーモン使って何裏でコソコソやってやがる。」
「ヒッヒッヒッ。そうかぁ~俺のサーモン倒したのお前等かぁ。」
そう呟いたロイドンが急に声を張り、手下の男達向かって指示を出した―。
「おい!お前等二人はトラックの作品売りさばいて来いぃ~!!この猫達は俺が始末するぜぇ~!ここまで探られたんじゃ生きて返すわけにはいかねぇ~なぁ~…!!!」
「「―は、はい!」」
手下二人はトラックへと乗り込み、エンジンをかけこの場を離れようとする―。
―ブォォォンッ…!!
「…なッ⁉ちょっと待ちなさいよ!!」
そんなレベッカの戸惑いを気にすることなく、ロイドンが突如魔法を繰り出す―。
―――ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!
「「「「「――!!」」」」」
それを見たジーク達も戦闘態勢に入った―。
攻撃を繰り出そうとしているロイドンと、トラックで走り出す手下二人。
ジークは瞬時に判断し、二手に分かれさせた―。
「―グリム!キャンディス姉さん!レベッカとペル連れてトラックの二人組頼む!俺らはコイツを捕まえる!」
「分かったわ!行くわよレベッカ!」
「うん!おいでペル!」
キャンディスとレベッカがトラックを追いかけ走り出す―。
「はぁ~?なんで俺雑魚担当なんだよ!」
ランクS相手ではなく、手下の方を担当させられたグリムは納得いかないのか、へそを曲げて動こうとしない。
「お前こんな時に駄々こねるなよ。」
「そもそも何でお前が仕切ってんだッ…「―来るぞッ!」
―――ズワァンッッ!!!
ロイドンによって出されたサーモンがジーク達を攻撃する―。
軽い言い争いで気付くのが遅くなったジークとグリムは、何とか間一髪のところで攻撃を交わしたー。
「「―あっぶねぇ~!」」
「何してんだお前等…。」
そんな事をしていると、遠くを走っているキャンディスから喝が飛んできた。
「――さっさとしなグリムッ!!男のくせにチマチマ文句言ってんじゃないよ!!」
「ほら。早く行って来い。」
「…クッソ!何で俺なんだよ!」
「まぁそう言うなよグリム。お前の“風”じゃないと追いつけないだろ?頼むぜ。次からは強い相手全部お前に譲るからよ!」
ジークはポンポンっとグリムの肩を叩き、「なっ!」と流れで納得させた。
言われたグリムは「はぁ~。どいつもこいつもッ…ったく…」と文句を言いながらダルそうにトラックを追いかけた。
「…ホントに世話の焼ける奴だ。」
シドが冷静に呟く。
「よし!俺らもアイツ倒すか!」
シドと紅正が魔力を一気に高めた―。
紅正は刀を抜く―。
「――!」
刀を持つ紅正を見てジークが少しイジる。
「そういや紅正が戦ってるとこ見た事ないな(笑。」
「言われてみれば確かにそうだな。」
シドもジークに乗っかる。
二人はジッと紅正を見つめていた。
「…おいおい。まさか弱いとでも思ってんじゃないだろうな?」
レベッカ救出の際、初めて顔を合わせたジーク達。
確かにあの時魔力を使わなかったのは紅正のみ。誰も見た事がないのだ―。
「弱いとは思ってないけど、強いのかな?って(笑。」
「ずっと刀を持ってるが抜いたとこも今初めてだ。」
ジークとシドの二人は顔を合わせて「な。」っと疑いの眼差しで意気投合をしていた。
「――ッ!ふざけんな!見てろッ!俺の強さを!あんな奴俺一人で秒だぜ!」
(…冗談で言ったつもりだけど何か面白い方向に進んだからこのまま一人でやらせよっと…。正直、紅正以外の皆も“どれだけの戦闘力”か見てみたいしな…。)
ジーク達は時間が限られているー。
毎秒毎秒ドタバタで忘れることも多いが、本命はデュエール。
ぶっちゃけジークがやれば一瞬で片がつく。
だが、それでは意味が無い。デューエルの相手が未知数な以上、こちらも強くなる必要がある…。
話の成り行きでたまたま今の形になったが、これはこれで見る価値があるのだ。
そう思ったジークはフラフラ~っと数メートル歩くと、その場にしゃがみ込んだ。
「…期待していいんだよな?」
その一言で、ジークが紅正に全て任せるという思いを汲み取れた。
シドも何も言わずジークの近くに座った。
「…オッケー!…その猫目に俺の強さ…しっかり焼き付けろ!!」
紅正vsロイドン。
戦闘開始――。