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39 ペルの覚悟

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「――もうすぐだ!」


先頭を走る紅正が皆に聞こえる様に言った。


術者に近づくにつれ、紅正が密かに感じ取っていた疑心が“確信”に変わっていった―。


「…おい皆!思ってたよりサーモンの術者厄介だぞ。」


「どういう事?」


「魔力の濃さからいくとランクSだ。」


「「「――!!」」」


「―えッ⁉なんでそんな奴が⁉これってクエストレベル一番下でしょ…??どうして⁉」


「クエストにイレギュラーはつきものよ。…って言ってもランクSなんてなかなか出てこないけど。」


慌てふためくレベッカをよそに、キャンディスが冷静な口調で言った。


「ラッキーじゃねぇか!退屈なクエストが大幅リニューアルだ!あんな雑魚じゃ物足りねぇ。ランクS捕まえりゃギルドポイントも稼げるだろ!」


早くもグリムはやる気満々の様子。


「だからそれだと目立つだろ。」


シドの心配も空しく、遂に術者の元へと辿り着いた―。


紅正達の後方五十メートル付近。

一番後ろにいたジークとペルが走りながらこんな会話をしていた。


「……で?ペルは何であんな所でアイツと話してたんだ?」


ペルが全てを語り出す―。


「あれは三か月程前の話ニャ――。」


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~ペル回想~


「…俺達は野良猫。自由気ままに生きるのが性に合ってるニャ。その日も、今までと何も変わることなく、散歩してご飯食べて、昼寝して仲間と楽しく会話…。いつもの日常だったニャ。

だけど…“ソイツ”は突然現れたニャ…。

猫のような姿をしていたが、何とも言えない不気味な雰囲気…。ユラユラとしていて、突如現れたかと思いきや塀や壁をすり抜けていく―。


最初は皆も不気味がっていた…。だけど、アイツが現れてから数日―。

数匹の猫がアイツと仲良くなっていたニャ。聞いたところによると、どうやら食べ物を盗んでいたらしい。


確かに俺達は飼われていない野良猫だから、ご飯が食べれない時だって多々あるニャ。

だから猫仲間が盗んでても「またか。」ぐらいにしか思わないし猫の世界に窃盗罪なんて罪は無いからニャ。

それも猫の世界では当たり前の毎日。―でも、アイツの場合はちょっと違ったニャ。


言った通り、どこでもすり抜けていくから食べ物も取り放題。

そんな食べ物に釣られた数匹が、アイツと毎日盗みを働かせていた―。

最初の内は、その猫達も他の仲間に食べ物を恵んでいたから、喜ぶ猫も多かったニャ。


だけど…次第にそれがエスカレートしていって、組織化するまでになってしまった…。

アイツはどこからともなく食べ物を持ってきては従順な猫に渡し、その猫達が下っ端に食べ物を与える代わりに、自分たちの食べ物確保の縄張りを広げていったニャ―。


そのせいで、本来なら自由気まま野良猫達の間に、人間みたいな組織や上下関係、縄張り争いが生まれてしまった…。


アイツ等の縄張りで勝手な事をすれば仕返しされる…。それでやられた俺の仲間も多いニャ…。

それに仕返しされるだけでなく、何故か中には“消える”猫達までいた―。

その猫達は未だに会えていないニャ…。どうやらそれもアイツが原因らしく、猫達を言いなりにさせて、何の目的かは分からないがどこかへ連れ去ってるという噂もあるニャ―。


庭での争いは、アイツについている猫達をなんとか正気に戻したかったからだニャ…。

でも、そんな思いも空しく…何の解決にもならない只の争いになってしまった…


もう抑えが利かないと思った俺は、アイツとケリを付けようとあそこにいたんだニャ――。


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ペルの話を聞いたジークは必死に怒りを抑えていた。


「ケリをつけにいったつもりが、まさかあんな化け物だったとは驚いたニャ…。普通の猫じゃないとは分かっていたけど…。本当に助かったよジーク。お前達も普通の猫じゃなさそうだけどニャ(笑。助けてくれたからいい奴って事でいいか?」


「まぁな(笑。アイツと違うのは、俺はお前達猫を争わせる様な事は絶対しねぇって事だ。ペル!後は俺に任せとけ。アイツを操ってた術者倒してやるからよ!」


ジークの事を何も知らないペル。だが…不思議と「この猫に任せれば大丈夫」と強く思えたペルだった―。


紅正達が立ち止まって十数秒―。

ジークとペルが皆に追いついた。


「―ここか?」


「ああ。」


ジーク達の目の前には、真っ暗で物静かな建物が建っていた。

大きな工場跡地。何年も稼働していないであろうその工場には、人影どころか唯一ある街灯でさえも、ジジ…ジ…と鈍い音を響かせながら不規則に点いたり消えたりを繰り返している。


「こんな場所に誰かいるの?」


そう思いながら辺りを見渡すと、工場の奥にぼんやりと明かりのついている場所を一つ見つけた。


「…あそこだ。」


紅正がその明かりの方を見ながら言う。紅正の魔感知によると、ランクSと同等の男が一人と、その近くにランクC~Bの男が二人。

そして、一か所に集められた猫や動物、モンスターの魔力が数十匹感知出来た。


「―どういう事だ?なんか猫や動物達がいっぱい捕まってるぞ。」


紅正の言葉に、ジーク達の不信感がより増していく。


「術者の野郎一体何やってやがる。」


「なんか嫌な予感がするニャ。」


さっきのペルとの会話が頭を過る―。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


<何故か中には“消える”猫達までいた―。>

<どこかへ連れ去ってるという噂もあるニャ―。>


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「急ごう皆!」


ジークの掛け声と同時に、一行は明かりの処へと走って行った。

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