04 王女は美人姉妹
暴れに暴れた日から早一週間―。
創造神の力により、ジークが破壊したものは全て元通りとなっていた。
ジークはこの一週間でだいぶ猫の生活に慣れてきたようだ。
「――いやぁ~。自分の体とはいえこの“もふもふ”の毛並みは素晴らしいなぁ~。」
「お前さんが転生したのは捨て猫じゃけどな。貴族に飼われてる猫ならまだしも。」
「失敗こいたお前が言うんじゃねぇよ!ノラ猫でもこんなもふもふじゃねぇか!大事にしろ人間!」
「すっかり猫代表じゃのぉ。ホッホッホッ。」
「猫代表……。これからは猫魔導士になるのか俺?いや……むしろこの異世界に新しいジョブ『猫魔導士(ネコラ―)』とでも新たに作ろうか……?魔導士に限らず猫剣士も、猫ヒーラーも総じてネコラ―。」
「そんなに猫に馴染んでくれて良かったわぃ。」
「良くはねぇよ。……つか、これからどうするんだ?」
創造神とジークはまたもや壁にぶつかっていた―。
「条約じゃ五vs五の仕合だろ?結局俺一人じゃ無理だから誰か仲間探さなきゃいけないよな……。それにリーダーは王か王妃……そういやイリーガルの王って誰だ?どこの大陸の王でもいいんだよな?」
「お前さん自分の国の国王も知らんのか??」
「俺は綺麗なお姉さんにしか興味ないんだよ。」
「やれやれ……。ええか?お前さんのおるここ。ギメル大陸の国王はセーリオ・ウォーカー王じゃ。……だが、イリーガルには今王も王妃もいないけどのぉ。」
「……え⁉ どういう事だよ??」
「本当に何も知らないのか⁉⁉ 全く……呆れるわい。どういう生活していれば“この事態”を知らずに過ごせるんじゃ……。」
創造神はやれやれと呆れながら言った。
「だから何だよ!兎にも角にも王に話さないと進まないだろ話が。」
「……亡くなったんじゃよ…。つい一週間程前にな。」
「亡くなったって…?…王も王妃も両方?」
「ああ。正確には“殺された”じゃろうな。恐らく。」
「―は⁉⁉誰に⁉しかも恐らくって。誰がやったのか分からないのか?…神なのに?」
「ゔッ………!!!」
ジークの鋭い突っ込みに創造神は返す言葉なく、しかもあからさまに何か落ち込んでいる様子だ。
それを見たジークは「どうした?」と問いかけた。すると、創造神は蚊の鳴くような声で呟いた。
「……ワシのせいじゃ…。。」
「……?」
「ワシがこのイリーガルに何者かを侵入させてしまったんじゃ。。。」
「話が全然見えないな……。何者って誰なんだよ?殺す目的は?」
創造神は事の成り行きを話し始めた―。
「それは分からん……。じゃが、ちょうどお前さんを転生させた日じゃ。
…あの日、お前さんを戻そうとした時に時空間から急に誓約書が飛んできて、驚いたワシは転生も失敗したと言ったじゃろ?そのすぐ後じゃ……。
誓約書の事で動揺したワシはあの誓約書が本物かどうかを確かめる為に、夢中で情報や書物を探したんじゃ……。そのせいで普段であったら絶対に気付くはずの外部からの侵入に気付けなんだ…。それも……王と王妃を狙っていたのに助けることも出来ずにのぉ……。」
気付くと創造神は涙を流していた―。
「……それは別にさ……アンタのせいじゃないだろ……?」
「いいや。ワシのせいじゃ……。お前さんは知らぬが、ワシら創造神は自らの星全体に結界を張っておる。このイリーガルもじゃ。他の異世界や惑星からの侵入を防ぐためにのぉ。
その結界に変な“違和感”を察知した時には遅かった―。
王も王妃も殺され、跡形もなく逃げた後じゃった……。」
「……なんか匂うなぁ……。」
創造神の話を聞いていたジークが真面目な顔で考え出す。
「俺がマスタークエストをクリアしてアンタに会ったのも、誓約書が急に出てきた事も、王と王妃が殺されたのも……全部“同じ日”だろ?」
「――!!」
「偶然ってのはそんなに重ならない……。もしなったとしたらそれは何者かによる必然だろきっと。」
「そんなッ……まさか……一体誰が何の為に……。」
「それは分からない。でもこれでまずやる事が出来たな。王と王妃には子供はいるのか?」
「……おる。今このギメル大陸は……いや、イリーガル全土はその話題で持ち切りじゃ。次のギメル大陸の王は誰がなるかとな。…それでまた争いが起こりそうなんじゃ今。」
「なんでだよ。」
「これがまた困ったというかややこしくなる原因というか…。セーリオ王の子供は四人おるんじゃが全員“女”なんじゃ。有名な美人四姉妹としてな。」
「美人…?」
その言葉にジークが過敏に反応した。
「じゃが噂によるとこの四姉妹…。どうも仲が悪いというか意見が合わんというか…。それぞれ自分の男を次の王にしようと、王位継承で揉めてるんじゃ。」
「よし!行くぞ!」
「ん??なんじゃ急に。」
「どの道誰かには俺らのリーダーになってもらわないといけない。だったら俺はその美人姉妹の誰かがいい!まぁ俺的には美人なら全員でもいいんだけどな♪堅物のオジサン王だと思っていたから急にやる気が漲って来たぜ!」
ジークの目はデューエルやる気満々で満ちていたー。
「なんて不謹慎な奴じゃ!王達が殺されておるのじゃぞ!!」
「ああ。アンタのせいでな。」
「―――ッ………!!!!!!」
グサッ!とその言葉が創造神の胸を刺した。
あまりのショックに創造神は膝から崩れ落ち号泣している。
「ゔっ……ゔゔっ……。さっきはワシのせいじゃないって…ゔゔっ……言っておったのに…ゔゔ…。」
「…いちいち泣くなよ。悪かった言い過ぎた…。でもな…創造神様よ…。
男なら美人を見たいと思うのもまた必然。当たり前の事だ。なにも不謹慎な事じゃない。気の毒だが王達はやられちまった。。むしろ自分の親が死んだのに、王位継承なんかで姉妹喧嘩している姫様たちの方が不謹慎だろ?それに国王ってのは民を守れる存在じゃなきゃいけない。姫様達のいざこざで選ばれた国王なんて、大勢の民が浮かばれないぜ。
な。そうだろ?そしてそれを一番近くで解決出来るかもしれない俺達が美人姉妹を見に…助けに行かないと!」
「……ジーク…。お前いい事と下心が絶妙に絡み合っておるのぉ。結果いい事言ってるっぽく聞こえたぞぃ。そうじゃな…。いつまで嘆いていても解決せん…!必ず犯人の正体を暴かなくてはのぉ!王達に合わせる顔がないぞぃ!」
「よっしゃ。その意気だぜジイさん!そうと決まれば出発だ!」
「そうするかのぉ!…そして遂にワシの事をジイさんと呼んだのジーク…。まぁもう良い。」
こうしてジークと創造神は王都へと向かった―。




