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38 サーモンを追う猫

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


~依頼主の店~


日が沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。


倉庫内で手掛かりを見つけたレベッカ達は、依頼主のゴードンに事情を話し、店内から倉庫が見える窓で張り込みをしていた。


「ふぁ~あ…。退屈だなぁ~……。」


ゴードンによると、いつも食料が無くなるのは夜らしい。

その話を聞いた一行は気長にサーモンが現れるのを待つしかなかった―。


「…大体、いつ来るかも分からないのにいつまで待つんだ?」


「来るまでに決まってるでしょ!犯人分かったんだからもう待つだけじゃないのよ。それに何かワクワクするじゃないこういうの♪」


「お前初クエストだからって張り切り過ぎだぞ。」


「張り切って何がいけないのよ!」


ジークとレベッカが話している最中、“それ”は現れた―。


「―――きた!」


やはり一番最初に察知したのは紅正―。

その二~三秒後にジークもサーモンの魔力を察知した。


「―アレか!」


窓越しに見ていると、魔力を纏った魔獣……を想像していたが、そこにはとても“猫”に似た姿の、でも確実にサーモンの魔力を感じる猫がいた。


暗闇に、猫に纏われている怪しい魔力の光がユラユラ揺らめくのが見える。

実体の無い、言わば幽霊のようなサーモンは倉庫に近づいたと思いきや、そのまま壁をすり抜けて中へと入って行った―。


「確実にアレだな。」


「よりによって何で猫なんだよ。ややこしいな。」


サーモンの姿にツッコみを入れていると、中に入って行ったサーモンが食料を一袋咥え、元来た道を帰って行く―。


「追うぞ。」


一行は追跡を始めた。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


~フレア王国内・とある館~


暫く追跡すると、サーモンはある大きな館に入って行った。


「……ここがアジトか?」


見た所とても古い館の様だ。明かりは無く、数か所割れた窓がある。長い間人が住んでいないであろうその館は、広い敷地や建物、玄関の高い門…。そこら中伸びっぱなしの、手入れされていない雑草が生い茂っていた。

満月の光が館の唯一の明かり―。余計な明かりが無いせいか、一際月の光が明るく感じられる。

電気や外灯が無くてもしっかり辺りの様子が伺える。


広い敷地のとある場所で、サーモンが徐に歩みを止めた―。

すると、向かい側から生い茂る草を掻き分け、一匹の猫が現れた。


「―また猫…⁉」


遠くから様子を見ているジーク達。

突如現れたもう一匹の猫に思わず声を上げたレベッカ。


「シッー…静かに。」


キャンディスに言われレベッカは慌てて口を塞ぐ。


「なんだ?魔力を感じない…。“普通”の猫だぞ。」


「…ん?アイツは…。」


そう。現れた猫はサーモンではない普通の猫だった。

そしてその猫に見覚えがあったジークはハッと思い出した―。


「そうだ!アイツ昨日中庭で話してた猫だ!」


「昨日って…。思い出すのも悍ましい、俺らが猫になった日じゃねぇか。」


「そういやそうだな…。まだ昨日の出来事か。」


感慨深げに浸る紅正とグリム。


「それよりあの猫を知っているのかジーク。」


シドに聞かれ、ジークは中庭でのことを話し始めた―。


「ああ。昨日お前等が契約結ぶ寸前で猫が大乱闘始めただろ?その時に俺と話してた猫だよ。確か“縄張り”がどうとか言ってたなぁ。それと関係あるのかな?」


「何それ⁉私初めて聞いたけど!何?って事はあの猫達のせいで私達が猫になったって事⁉」


キャンディスが怒りだす。


「話してた…って、猫と話せるの?お前。」


「紅正も話せるぞ!勿論他の皆もな!なんせネコラ―だから。俺もそれを知ったのは昨日だけど!」


軽い口調で話すジークとふて腐れるキャンディスに、場の緊張が一気に緩んだが、何やら重要な事が起きていると直感したシドが再び空気を戻した―。


「詳しく聞かせてくれジーク。その猫との会話。」


「詳しくって言っても…ただ縄張り争いがあるとしか聞いてないぞ。猫も大変なんだなぁと思ったくらいで。」


「じゃあ何故普通の猫とサーモンが会っている?」


「それは俺だって知らないよ。でも何か因縁ありそうな感じだよなぁ。」


「ここからじゃさすがに聞こえないわね…。まぁ聞こえたとしても私だけ猫語分からないし。」


「俺に任せろ。」


そう言うとジークは、魔法で何かを猫達の方へ飛ばした。


「あれはスピーカーみたいなもんだ。もう一個ここにあるコレと繋がってるから聞こえるぞ。」


ジークの言う通り、話し声が聞こえてきた―。

レベッカは普通に人間の為、「ニャー!ニャー!」という鳴き声にしか聞こえないが、猫のジーク達はちゃんと猫語が聞こえるらしい。


「……これ以上好き勝手やらせる訳にはいかないニャ。」


中庭でジークと話していたグレーの毛色をした猫が、サーモンに向かって言い放った―。


「おい!本当に普通の会話に聞こえるぞ!」


「変な感じね~。」


「静かにしろ。」


皆猫の言葉が分かり驚いている。

それと同時に、グレーの猫とサーモンの会話は止まることなく続く。


「しつこい猫だなお前も。私に文句を言ったところで何の解決にもならんぞ。ただの使い魔獣だからな。」


「そんな事分かってるニャ。お前を操っている術者の手掛かりが掴めない以上、まずはお前を止めるしかないニャ!」


会話を聞いていたジークと紅正が、グレーの猫に感心している様だ。


「へぇー!アイツ猫のくせに術者がいるとか分かるのか!大した猫だ。」


「猫達も猫達でちゃんと知恵があるんだなぁ。猫になって初めて感動したぜ何か。」


―――ブォォォッ!!!


突如激しい音が響き渡る―。


「――何だッ⁉」


皆が一斉に音の方へ視線を移すと、そこにはふっと飛ばされたグレーの猫と、攻撃をしたであろうサーモンが魔力を高めて構えていた。


「おい!大丈夫か!」


それを見たジークが一目散に飛び出し、グレーの猫の元に駆け寄る―。


「ちょッ、ちょっとジーク!!」


ジークを追いかけレベッカも出ると、ほぼ同時に紅正達もジークの方へ向かって走った。


「おい!しっかりしろ!」


ジークが倒れているグレーの猫の意識を確認する。

すると、ゆっくり目を開けジークの方を見た。


「…お…お前は…昨日の…。」


「なんとか大丈夫そうだな。起きられるか?」


「ああ、ありがとう。大丈夫ニャ…。それよりどうしてこんな所にいるニャ?」


「まぁ色々事情があってよ。…兎に角話は後だ。それよりアイツをどうにかしないとな。」


ジークは視線をグレーの猫からサーモンに移しながら言った。

威嚇するように、サーモンはずっとこちらを睨み魔力を高めている。


「下級のサーモンが粋がってんじゃねぇぞ(笑。」


グリムが戦おうと魔力を高めながら一歩前に出た。

今にも攻撃しそうなグリムをシドが止める。


「待て。ここでコイツを消したら術者の所まで辿り着けない。」


「あ?じゃあどうすんだよ。今すぐにでもッ――!」


―ドォォン!!


話を遮るように、サーモンが攻撃を繰り出してきた―。

不意打ちの攻撃だが、このサーモンのレベルでは到底ジーク達には勝てない。


「な?今すぐにでも攻撃してきただろ?もう消すしかないぜ。」


血の気の多いグリムは早くやり返したくてしょうがない。

ここでサーモンを消すのはいとも簡単だが、シドの言う通り本命はコイツを操っている術者。

どうしたものかと考えていると、ジークに一つの閃きが―。


「…コイツを倒そう。」


「本気か?そんなことしたら後も追えない上に、“術者に気付かれて”次のチャンスも無くなるぞ。」


「それだよ。」


ジークは自分の考えを皆に言い始めた。


「サーモンが消えれば当然術者が気付く。そうすれば少なからず魔力が乱れるはずだ。その一瞬を魔感知すりゃいい。」


「――なるほど。紅正の魔感知の高さならいけるかもしれないな。自分のサーモンが消えたら嫌でも気になるはずだ。魔力をこちらに向けてくれれば更に設けものだが。」


「いけるか?紅正。」


「任せろ!」


「じゃーアイツ消すぜ。」


待ってましたとグリムが速攻で攻撃を繰り出し、一瞬でサーモンは消え去った―。


「お前達一体何者ニャ……。」


グレーの猫は目の前の出来事に茫然としている。

突如現れた五匹の猫と一人の女の子。理由は分からないが、彼らもこのサーモンと何か因縁があるのだろうと思うグレーの猫であった。

そしてそんな風に思っていると、一匹の猫が声を上げた――。


「――いた!!こっちだ!」


紅正が魔感知で術者を捉えた。

走り出す紅正の後を皆が追う。


「俺もついて行っていいかニャ?」


グレーの猫がジークに聞く。

一瞬迷ったが、グレーの猫の真剣な眼差しに、ジークも説得された。


「…お前名前は?」


「ペル。」


「ペルか。…俺はジーク。よろしくな!」


そう言って、ジークとペルも紅正を追いかけ走って行った―。

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