37 初クエスト
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~フレア王国・王都~
クエストの依頼主の店にやって来たジーク達。
「ここだわ!」
レベッカが呼び差す店の看板には、クエスト依頼と同じ名前が書いてあった。ここだ―。
「―あら。可愛い猫ちゃん!」
「凄い数ねぇ!」
「皆リードもつけていないのに逃げないわね!」
店の前にいると、通りかかったマダム達に声をかけられた。
そう。傍から見るとレベッカは“猫五匹”を連れた女の子。たかが猫でも、足元に五匹も連れていれば自然と人目に付きやすくなってしまう。
グリムが「見世物じゃねぇぞ。」とばかりにガンを飛ばす―。
「あらヤダ。この子だけ何か目つき悪くない?」
「そう?きっとお腹でも空いてるんじゃないかしら!」
「(お前何やってんだよ…。)ニャーォ。」
紅正がグリムにアイコンタクトを送る。
「ニャー…!(文句あんのか?)」
「ニャッ!」
―ビシッ!
キャンディスがグリムに軽く蹴りを入れた。
「ニャーオ。(大人しくしてな!)」
「チッ…!」
「今この猫ちゃん舌打ちしたかしら?」
「そんなわけないでしょう!さっきから何言ってるの!」
「そうよねぇ!年は取りたくないものねぇ。オホホホホッ。」
マダム達は去って行った―。
「―アホかお前!余計な事済んじゃねぇよ!」
「俺を上から見下す方が悪ぃ。」
「バカ言ってないで大人しく猫演じな。」
「早く入ろうレベッカ。」
レベッカが依頼主の店に入っていく。
開けた勢いで扉にぶら下がっていた鐘がカランカランッと鳴った。
「すいませ~ん!依頼を頂いた者ですけど!」
「――あ!魔導士の方ですか!」
レベッカが来たことに気付き、奥から依頼主と思われる男が出てきた。
「初めまして!依頼をお受けしたのですが、こちらで間違いありませんか?」
「そうだよ!私が依頼主のゴードン。ここの店の責任者だよ。よろしく!」
ゴードンが手を伸ばしてきたので、その握手にレベッカも答える。
「よろしくお願いします!早速依頼の事なんですが…。」
「ああ、そうだね!頼んだ通り、数週間前から裏にある倉庫から食料が消えるんだ。いつも鍵を掛けているし、人が出入りすれば監視カメラに映るはずなんだけど…」
「人じゃないって事ですか?」
「恐らく…。人は映っていないのに、棚にある食料が突然パッと消えるんだ!」
「え?お化けですか?」
「ハハハッ!それはないと思うが、犬や猫がどっかから入り込んだかと私も棚の壁とかを調べたけど、出入り出来そうな穴とかもないし…とても不思議なんだ。」
「確かに不思議ですね…。」
「だろ?それになくなる量も一回一回は少ないんだ。小人でもいるのかな?な~んて思ってるんだけど(笑。一度確かめたくてね。」
「分かりました!一回その倉庫見させてもらっていいですか?」
「勿論だとも。外から裏へ回ってきてくれるかな?」
レベッカは一度外に出て、倉庫のある店の裏側へと向かう。
ジーク達もそれに付いていった。
裏の倉庫内には食材がたくさん保管されていた。横には依頼主のゴードンが育てているであろう野菜や果物が生っている畑とビニールハウスが見られる。
倉庫の鍵を開けて中へと案内してくれるゴードン。
「――ここだよ。ほら。中も自由に見てくれて構わないよ…って凄い猫の数だね(笑。この子達で調査するのかな?」
「あ、ああ…ええ、まぁ!猫使いの魔導士なんで…へへ…!」
「――――!」
レベッカは咄嗟に適当な事を言って、苦笑いで誤魔化した。
倉庫の入り口でそんな会話をしていると、紅正が何かを察知した。
「猫ちゃん達も一緒にいいですか?」
「構わないよ!けど、食料は食べないでくれよ(笑?調べ終わったら扉だけ占めといてくれるかな?私はまだ仕込みをしないと!」
「分かりました!」
倉庫からいくつか食材を持っていくと、依頼主は店へと戻って行った。
「――さて。調べましょうか!」
初クエストで張り切っているレベッカを気にも留めず、紅正が口を開いた。
「―“霊魔召”だ。」
「……サ…サーモン…??」
出鼻を挫かれたと同時に、言葉の意味が分からないレベッカは頭にクエスチョンマークがいくつも生まれた。
「霊魔召って、魔力で召喚された聖霊獣とか魔獣の?」
「ああ。」
キャンディスは紅正に確認した。魔導士達には普通に知れ渡っている“召喚魔法”によって生み出された、実体のない聖霊獣や魔獣の通称である。
勿論レベッカは知らないのだ―。
「成程…。確かにそれなら鍵なんか意味ねぇな。」
「鍵が開けられた形跡も無く、小動物が通れるような穴も無い。何より…僅かだけどサーモンの魔力が残ってる。」
魔感知に長けた紅正のみが、その消えそうなほど小さい魔力の残り香を感じ取っている。
「って事はそのサーモンの“術者”がいるな。どっかに。」
「ソイツは何でわざわざサーモン使ってまで食料なんかチマチマ盗んでるんだよ。」
「そんな事まで俺は知らない。」
「紅正。そのサーモンの魔力辿れるか?」
「いや。さすがにそれは無理だ。もう魔力が薄すぎて、倉庫の外には何も残ってない。」
「そうか。だけど十分過ぎる手掛かりだな。」
倉庫内には、紅正が微かに感じ取れる程の微量な魔力だけがだったが、犯人の手掛かりが分かった。
ジーク達はまたそのサーモンが現れるまで待ち、見つけた後サーモンを尾行しようという作戦を練った―。
「―――サーモンに召喚魔法……。聖霊獣に魔獣…。奥が深いわね魔導士…。」
会話に入れなかったレベッカは一人ボソボソと呟いていた。