28 候補だよ!全員集合!
(――コイツ…すげぇ魔力の濃さだ…。)
紅正の魔感知が奴の魔力の強さを感じ取る―。
「ン“ン“ーー!!!」
黒い手に捕まれているセルジオが暴れようとしているが、掴んでいる手はビクともしない。
「手間かけさせんな。」
男がそう言いながら、黒い手を動かした。
――ドプン…ッ…!
すると、黒い大きな手がセルジオを掴んだまま地面に潜るように消えていった。
「…何あれ…。どこ行っちゃったのかしら?」
キャンディスが不思議そうに地面を眺めている。
「関係ない…。今度こそ帰るぞ。」
グリムがキャンディスに向かって言った。
この場に相当強い魔導士達が偶然にも集まった―。
自然とピリピリした空気が場に流れている。
敵意こそないが、全員が互いに相手の強さを感じ取り、警戒している模様―。
睨み合うような鋭い視線が交差する。
そんな緊迫を彼女が破った。
「ン“ン“ン“ン“!!!」
レベッカだ。
ジークは「あ、忘れてた。」とレベッカが拘束されたままであった事を思い出し、魔法を解いてあげた。
「…ちょっと!!もっと早く解放してくれもいいんじゃない⁉」
「第一声がそれかよ。助けてやったのに。」
「それはありがと!!助かったわよ!!でもずっとあのままにしなくても良かったじゃない!!」
「礼を言う態度じゃないぞそれ…。」
お礼を言いつつも、早く解放してくれなかったジークへの怒りの方が勝るレベッカだった。
そんな穏やかな光景を見た紅正も肩の力を抜いた。
「良かったよお嬢ちゃん無事で。」
紅正がレベッカに話しかけた。すると―。
「アンタもアンタよ!!」
「――え…⁉」
レベッカが初対面の紅正にも怒鳴り出す―。
「どこの誰だか知らないけど目の前でこんなか弱そうな女の子が捕まってるんだから助けなさいよ!!」
「………。」
とばっちりを食らう紅正。自然とジークの方を見ると、「どんまい。」とでも言いたそうな何とも言えない表情で紅正を見ていた。
可笑しな王女と猫に思わず笑ってしまう紅正。
「ハハハハッ!威勢のいい王女様だな(笑。悪かった!早く助けるべきだったな。」
「そうよ!分かればいいの!…で、どなた?」
冷静さが戻ってきたレベッカがジークに聞いた。
「さっき言っただろ。ジイさんの候補の一人。紅正。」
「ああ…そういえばさっきそんな事言っていたような…。」
「改めて…俺は卍山下紅正。よろしくな。レベッカ王女。」
「一緒に助けに来てくれたのにお前逆ギレって…。さすが王室育ちの王女様だな。」
「なッ⁉そ、それは…⁉アンタ達が早く助けてくれなかったからでしょ!!人が捕まってるときに自己紹介してパンツまで見て!!怒りたくもなるわよ!」
ジーク達の温和なやり取りに拍子抜けしたのか、グリムとキャンディス、そしてもう一人の男もそれぞれその場を後にしようとするー。
「…さぁ~て。帰ってゆっくりしましょ。あなた魔道機関までお願いね!」
「ふざけんな。お前も行け。報酬俺が全部貰ってもいいんなら話は別だけどな。」
「ちょ、ちょっと!それは不公平すぎるわよ!」
グリムとキャンディスは話をしながら、壊れた扉のない出入口へと向かって行った。
その数メートル後ろを、もう一人の男も続くように向かうー。
だが、グリム達がスタジオを出ようとした瞬間、二人の目の前に“老人”が現れた――。
―ボワンッッ!!
「集まっとるようじゃのぉ!!」
「「―⁉⁉⁉⁉⁉」」
そこに現れたのは創造神。
急に目の前に現れた事に、心臓が止まりそうなほど驚くグリムとキャンディス。
「創造神様!」
「また急に…。いっつも“事が済んだ”後に出てくるなぁ。タイミングが良いのか悪いのか。」
「ホッホッホッ。ジークと紅正も無事なようじゃの。良かったわぃ。」
「どの口が言ってんだ。途中で自分だけ逃たくせに。」
「逃げたとは人聞きがわるいのぉ!ワシは色々忙しいんじゃ!」
創造神が弁明していると、グリムが会話に割って入る。
「…なぁお爺さん。誰だか知らないけど、とりあえずそこどいてくれないか?帰りたいんだ。」
グリムは創造神に向かって言う。
「まぁまぁまぁ。そう焦るでない…のぉ?“グリム”よ。」
「―⁉⁉…なんで俺の名前を…。」
創造神が名前を出すと、当然のようにグリムは驚いていた。
そして続けざまにキャンディスの名前も出す。
「ん?お前さんだけじゃないぞ。…“キャンディス”。」
「…え⁉…私の名前も…⁉なんで…?」
目の前の見覚えのない老人にただただ驚く二人。そして創造神の次の一言で更に驚く者が一人追加された。
「ホッホッホッ。勿論知っておるよ。グリムにキャンディス。そして……“シド”ものぉ。」
「―⁉⁉」
創造神は、グリムとキャンディスの少し後ろにいた男を見ながら言った。
そう。さっき大きな黒い手を発動させていた男の名。
冷静そうに見えたシドも、少しばかりの困惑が見える―。
無理もないだろう。いきなりお爺さんが現れ、自分たちの名前を言い当てられた。
グリム、キャンディス、シドの三人は全く同じことを思う―。
(((何者だ…このお爺さん…)))
「一…二…三、四…。」
ジークは何やら指折り数えている。
そして、何かを理解したようだー。
「なるほどなぁ。」