27 お姉さんを追って
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~建物内~
「「「「―――せぇ~のぉッッ~!!!」」」」
――ズドンッ!!
男達が大きい丸太で扉を打ち続けて早数分ー。
強固に守られていた扉もどんどんへこみ、後一発で空きそうなほど崩されていた。
「おしッ!!次でいけるぞ!!」
「後一発だ!」
丸太を持つ男達の士気が更に上がっている―。
「――クソがッ…!私の獲物を横取りなど図々しいわ…!」
セルジオは必死にガードしてきたがもう持たない―。
扉を守っている後方では、レベッカが変わらず拘束されたままだ。
(―ジークッ…!早く助けに来て…!)
そして、男達が遂に扉をぶち破る―。
――――ドンッッ!!ガラガラッ…!
丸太の衝撃で、破壊された扉が地面を滑るように飛んでいったー。
「やっと空いたぜぇ!」
「無駄に手こずらせやがって!」
二度目は無いと、男達はすぐさま戦闘態勢に入る。
対峙するセルジオ―。
「…面倒だ。まとめて片付けよう。」
「お前一人で勝てると思ってんのか(笑?」
「俺達も舐められたもんだ。」
「片づけられんのはテメーだッ!早く王女よこしな!!」
――ブォォォォォンッッ……!!!
「「「―――⁉⁉⁉」」」」
突如男達を猛烈な突風が襲う―。
「なんだッ⁉…“風”…⁉」
「建物の中だぞッ⁉」
驚きと共に、男達とセルジオ、レベッカは突風が吹いた方を見た―。
「―――片づけられんのは“テメーら”だよ…!」
ブォォォォォッッ!!!
建物内で縦横無尽に風が吹く。
その風圧は今にも部屋を…いや、建物を簡単に吹き飛ばせそうなほど威力が増していく―!
物凄い突風…だが、不思議な事にその風は、男達四人を囲う様に吹き荒れていた―。
「なんだコレッ…⁉」
「クッソ…!一体…どうなってるんだッ…!」
男達は身を屈め、飛ばされないように堪えるので精一杯。
何もされていないセルジオとレベッカの視線の先には、建物前でジーク達が会った“グリム”と呼ばれる男だった。
「…これ以上騒いだら殺すわよアンタ達。」
そのグリムの後ろから女が現れる。“キャンディス”だ。
キャンディスは風圧で動けない男達に釘をさすように言い放つ―。
「これで俺らの“任務”は終わりだな。後はコイツ等を魔道機関に受け渡すだけだ。」
「これでお終い?私何もしてないんだけど。二人で来る意味あった?」
「しょうがないだろ。最低でも二人組で動くのがウチのギルドの決まりなんだから。今更だぞ。」
「はいはい分かってますよ。じゃ早く帰りましょうよ。」
グリムとキャンディスは男達を拘束する。
男達は風圧でいつの間にか気を失っていた。セルジオとレベッカに目もくれず、二人は帰ろうと体の向き変えた―。
その瞬間―――。
…シュバッ――!!
「――そこの綺麗なお姉さ~んっ♪」
「「――⁉⁉」」
キャンディスの足元に、毛並みがフワフワの猫が現れた。
(……ジーク……)
こんな時にまでアホなジークの行動に、レベッカはただただ呆れるばかりだった。
「お姉さん!こんなつまらない事よりも、俺と一緒にお茶でもしません?」
流れるようにナンパをするジーク。
キャンディスの足に顔をスリスリさせている。
「あら♪フワフワで気持ちい~……って!…ゲッ⁉さっきの猫!!」
「自慢の毛並みなんです!」
「そんな事聞いてないわよ!あっち行けッ!!」
シッ!シッ!っと、キャンディスはジーク猫を追い払う。
「チッ。なんだよ…。フワフワで気持ちいいとか言ってたくせによ。」
追い払われたジークはブツブツ文句を言いながら仕方なくレベッカの元へ向かう。
「……おい。お前“反応”出来たか…?」
「…いいえ。気付いたら“足元”にいたわ…。」
「…やっぱ只者じゃないぞ“あの猫”…。」
グリムとキャンディスはそんな会話をしていた。ジークを見ながら―。
「――で?お前は何やってんのここで。」
「ン“ン“ン“ン“ー!!」
ジークの目の前にはレベッカが。
「パンツ見えてるぞ。」
「ン“ン“ン“ン“!!!!!!」
下から見上げるジークからはちょうどレベッカの下着が見えている様だ。
困惑や怒りで言葉にならない声で怒鳴るレベッカ。
「――ったく。とんでもねぇ速さだな。」
そこへ紅正もやって来た。
「おう。紅正。」
「この子がレベッカ…?無事みたいだな。」
「…?」
紅正を初めて見たレベッカは「誰?」と言いたそうな顔をしながら首を傾げている。
「ああ。コイツは紅正!俺らが探していたジイさんの候補の一人の魔導士だ。」
「よろしくな!」
「ン“ン“ン“ン“!!!(どこまでバカなのコイツ等ッ…!先に私を解放してよ!!順序違うでしょ!!)」
「なんかすげぇ怒ってるな。」
「そりゃそうだろ。先にコレ解いてやれよ。俺もつられてよろしく!とか言っちゃったけど…。」
「そういうことか。でも、何があったか知らねぇけど危機管理が出来なさす過ぎなんだよなコイツ。」
――グサッ!!
痛いところを突かれたレベッカ。確かにコレは自業自得だと思わずにはいられない。
「何言ってんだ。心配だったんだろ?彼じょッ…「だから違うって言ってんだろ!!」
紅正が言い終える前にジークが速攻で口を塞いだ。
「――おい…。人のテリトリーで何してんだお前等。」
ジークと紅正がワチャワチャしていると、今まで静観していたセルジオが口を開いた。
出るタイミングを逃したグリムとキャンディスもセルジオを見た。
「悪かったな邪魔して。用済んだから俺らは帰る。行こうキャンディス。」
「人の物こんだけ壊してタダで帰すわけないだろうが!」
「部屋壊したのはコイツ等だろ。俺等じゃない。」
グリムが気絶している男達を指差す。
正論だが、今のセルジオには火に油を注ぐ形となった。
「グダグダ屁理屈……うるせぇなッッ!!!」
セルジオの魔法攻撃が発動されようとした瞬間――。
「――“影魔法”……。」
ギュワァァァァ――ン…!!
「――ぐッッ…⁉⁉⁉」
黒い大きな手の形をしたものが急に現れたかと思いきや、その黒い手はセルジオを鷲掴みにした―。
“誰かの魔法攻撃”…。
その場にいた誰もが瞬時に理解した―。レベッカを除いて。。
「―今度は誰…⁉」
キャンディスがこの魔法を発動させた魔導士の方へ視線をやる―。
グリムと紅正、セルジオも同じく視線を移す―。
そして、ジークは“誰よりも早く”その魔導士を視界に捉えていた―。
「――なんだか物騒なのが集まってるなぁ。安心しろ。俺が今掴んでる奴以外に興味はないから。」
皆の視線の先には、黒い大きな手を発動したであろう一人の魔導士が扉の所に立っていた―。