25 フレア王国(ジークside 2)
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~フレア王国・ジーク~
「――で?自分の実力見せつける為だからって、猫が王国内であんな魔法ぶっ放したら“こう”なるに決まってんだろ。」
「……悪い。」
ジーク達は木の上にいた―。
「――おい!いたか?」
「いえ!こちらにはいません!」
「よし!そう遠くへは言っていないはずだ。あっちを探せ!」
「はい!」
王国の中でもまだ人通りの少ない所ではあったが、ジークがぶっ放した魔力に、フレア王国の警備魔導士達が一気に集まってきてしまった。
ギリギリ姿を確認されてしまったジーク達は、なんとか逃げ切り木の上にいるのであった―。
「バカなのかお前。しかも絶対警備の奴ら“俺”が犯人だと思ってるぞ!」
「まぁ俺ただの“猫”だからな。」
「全く…。お前はすぐ面倒起こすのぉ…。」
「しょうがないだろ。コイツに信じてもらうには力を証明しないと。」
「やり方は合ってると思わねぇが、お前が強いって事は分かった。冗談で出来る魔力じゃねぇからな。」
「ほら。分かってくれたじゃん。」
ジークは創造神にドヤ顔で言った。
「そっちのジイさんもとりあえず“人”じゃねぇって事は分かった。」
紅正は神様の様にフワフワ浮いている創造神を見て、色々納得し始めている―。
「ホッホッホッ。説明が省けて良かったわぃ。」
「ジイさん本当にあの創造神なのか??」
「そうじゃよ。神魔法も使えるよ。」
疑ったらキリがない創造神の態度に紅正も疑うのを辞めた。
「へぇ…。本当にいるんだ。じゃあマスタークエストクリアしたら何でも願い叶えてくれるってのも本当か⁉」
「本当じゃ。」
「マジか⁉スゲーな!」
「じゃーあれか?ジーク。お前はマスタークエストクリアして猫になるのが夢だったのか?」
「―ッんな訳ねぇだろッ!!!誰が好き好んで猫なんかなるかぁ!!」
ジークはプンスカ怒り始めた。
「…聞いちゃいけない事だったか?」
「そこらへんはデリケートな問題でのぉ…。」
紅正と創造神のヒソヒソ話が聞こえたジークはすかさず突っ込みを入れる。
「お前のせいだろジジイ!!!!!」
「…バカ。そんな大声出したらッ―「「いたぞ!!」」
ジーク達は警備に見つかった。
「ほらみろ。」
「ホントに災難ばかり起こすのぉ。」
「俺のせいじゃねぇだろがよ元々!!」
「いいから……とっとと逃げるぞ!」
紅正は軽い身のこなしで木々を渡り、警備がいない所を見計らい木から降りた。
ジークもそれに続くー。そして二人は走って逃げていく。
「動けるなぁお前!」
「あ?あんなの別に普通だろ。話が全く進まねぇからゆっくり聞きたいとこだが……“何か”いるな……王都に。」
紅正は“何か”を感じ取ったのか意味深な事を言い出した―。
「ーなんだよ何かって?」
「分からない…。でも王都の中心。城に近い。多分“魔導士”だけど、“いくつか”不審な動きしてる魔力があるな…。」
「―⁉……お前そんな事分かるのか?」
「ああ。“魔感知”が人より得なだけだけどな。」
“魔感知”とは、人や生物、モンスター等の魔力を感知できる能力。
一般的に魔力が通っていれば誰にでも出来るのだが、紅正はこの魔感知の精度がスバ抜けて高い。
魔導士は通常、一番下のEランク~一番上のSランクの六段階に分かれている。
ランクが高ければ高いほど魔感知の優れる魔導士がいるのは当然だが、この魔感知に関しては得意不得意が分かれる。
Sランクの魔導士で且つ、感知が得意な者でさえ、感知出来る範囲はおよそ半径数百メートル程度。
ジークも魔感知に優れているが、紅正はそれを大きく上回る―。
「王都の中心って…フレア王国の城ってここから“五キロ”以上あるだろ!」
そう。フレア王国の入り口付近にいたジーク達だが、人の多い王都へ逃げるより、外の森へ逃げた方が混乱も少なく身を隠せると考え外へ逃げたのだが、思った以上の警備の数に、当初いた場所よりもはるか遠くまで逃げていたのだ。
「だから言ったろ?人よりちょっと得意なだけだよ。」
(なるほど…。ジイさんが候補の一人にしただけあるな…。こんな距離を、しかも複数魔感知出来る魔導士なんて俺も会った事ないな…。)
図らずも、ジークは紅正の力量を垣間見た。
「森に逃げたの失敗だったかな?」
「お前が声出さなきゃ成功だっただろ。」
「あれはジイさんのせいだろ…って、またいつの間にかいねぇ!」
「まぁ浮いてれば逃げる必要ねぇからな(笑」
ジークと紅正が懸命に走って逃げている中、創造神は都合よく消えていたー。
紅正の“浮いてれば逃げる必要ない”という言葉で、ジークはハッと思い出す。
「―そっか!飛べばいいのか!」
「―は…?今なんて…ッうわ⁉」
走っていた紅正の体が突如浮き始めた―。
「初めからこうしておけば良かった!」
…ブワ~~ンッ!
ジークの魔法で二人は宙に浮き、そのまま王都目掛けてスーパーマンのように飛んで行く―。
「うっはー!!空飛んでる!!スゲーッ!!」
紅正は大空を自由に飛び回る―。
「前に“日ノ本”って国で読んだ漫画にこんなのが出てきてたぜ!」
「お!紅正も読んだことあるのか!ドラ〇ンボール!」
「知ってるのか!フレア王国は日ノ本と交友関係になってるからな!結構日ノ本の文化や物があるんだよ!勿論漫画も!」
「マジか!俺も漫画好きなんだよ!前に日ノ本行った時にハマってよ(笑。じゃあ、ナ〇トとかワ〇ピースは?」
「勿論知ってるに決まってんだろ!」
「よし。帰りに漫画爆買いしていこう♪」
思わぬ所で意気投合した二人は、王都に着くまでずっと漫画の話をし続けていた―。
と言っても、そこそこのスピードで空を飛んで行ったジークと紅正はものの一分程度で城の近くまで来た。
「――確かにいるな。」
「ああ。それに“もう始まってる”。」
ある建物を上空から見ている二人。
魔力が強ければ強いほど、魔感知はしやすい。大勢集まっている場所やランクの高い魔導士は、魔力の密度が濃い為感知がしやすくなる。
ジーク達が見ている建物の中にも、どうやら魔導士がいるようだ―。
「…こんな王都の近くで魔導士が戦ってんのか?」
「さぁな。内輪揉めかもしれないし酔っぱらいの喧嘩かも。」
「面倒から逃げてきてまた面倒の前にいるぞ俺ら。」
「そうだな(笑。なんとなく来たけど、目の前の面倒は俺らには関係ないだろ。」
紅正はそう言ったが、何故かジークは嫌な予感がしている―。
「確かに関係ないんだけどよぉ…。“まさか”が頭を過ってんだよなぁ…。」
「――?」
「建物の中に全部で“六人”。魔力密度からいってそのうちの一人は間違いなく“魔導士じゃない”一般だ。」
魔感知は魔力の強さや濃さを感知出来るが、“人の識別”までは出来ない。サーモグラフィの様な感覚だ―。
人の識別どころか男か女かの区別さえ、感じ取るのは至難の業だ。
“この男を除いて”――。
「…そうだな。魔力が低い“女の子が一人”。残りは全員“男”の魔導士だな。しかも一人殺気こもってる奴いるし…。女関係のトラブルか?」
「――⁉⁉」
紅正の感知能力に再び驚かされるジーク。
「お前男か女の区別まで出来るのかよ!」
「ああ。大体の年齢ぐらいまでなら分かるぜ。」
サラッと言ったが、ここまでの事が出来る魔導士はイリーガル中探しても紅正だけじゃないだろうかと思うジーク。
「ちなみにさ……その“女”って、どれぐらいの年齢か分かる…?」
そう。ジークが“まさか”と思っているのはレベッカだ。考えたくないが、こういう時に限ってもしかしてが頭にチラついているジーク。
「ああ。俺と同じぐらいかな…?そういやジークいくつ?」
「二十一(21)。紅正は?」
「やっぱ歳近かったか!年下なのに猫なんて苦労してんなぁ~。俺は二十三(23)。」
「マジか…。消去していく度にレベッカに近づいていくぜ…全く。」
「レベッカ…?なんだ?この建物の中にいる女知り合いか?」
「いや。まだソイツかどうか分からない。」
「歳は?」
「俺と一緒。」
「もしかして彼女か(笑?」
紅正が冗談で聞いたが、ムキになるジーク。
「―バッカ!ちげぇよ!!彼女の訳ないだろ!俺は年上のお姉さんしか興味ねぇ!!」
「へぇ~…。その割になんか必死だな(笑。」
紅正の感知は鋭い―。紅正はニヤニヤしながらジークに言った。
「なんだよその顔!彼女なんかじゃないっつうの!!」
「はいはい…分かったよ。(コイツ好きなんだ…レベッカって子が(笑。分かりやすくて面白ぇ~。)それより、どうするんだ?さすがに俺もこの女の子がレベッカって子かどうかまでは分からない。ホントに知らない他人かも。」
「そりゃその可能性もあるけど…。」
「…ったく。気になるなら見るしかないだろ。」
そう言って紅正は建物の裏側の方へと降りて行った。それにジークも続く。
二人は隠れながら窓から中を覗いた―。
「――レベッカ⁉⁉」
そこには拘束されたレベッカの姿がー。
「お前の感が当たったな。しかもなにやら物騒な感じだ。」
「アイツはなんで毎回こうなんだ…。」
「あの子何で捕まってんの?」
「知らねぇ。王女だからまた売り飛ばされそうなんだろ。」
「――王女⁉⁉あの子王女なの⁉」
「それも話せば長いんだよ…。」
「本当に色々面倒くせぇなお前ら。とりあえず助けた後で話聞かせろよ。飯と酒も出せよな。」
「かたじけない。ジイさんに全部出させるよ。」
「よっしゃ。じゃあ王女様の救出といくか。」
ジークと紅正が動き出す――。