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第1話 国立第三魔法学院

 今から百五十年前、かなり大きな隕石が地球に衝突した。

 これだけでも大事件だ。だが、その隕石は何の因果か地球にめり込み、地球の一部となってしまった。おかげで、奇妙なことが起こり始める。

 それまでの物理法則は破壊され、いわゆる魔法というものが使えるようになってしまったのである。

 もちろん、最初は誰も魔法とは言っていなかった。しかし、運良く隕石の衝突を免れて残った日本が、これまた全世界に知れ渡っていたサブカルの力を借りて、新たな物理法則を魔法と呼び始め普及させてしまった。

 ともかく、人間や動物、植物、ありとあらゆる地球にあったものは隕石の影響を受け、この魔法が少なからず使えるようになってしまったのだ。

 そこでこの魔法なる新たな物理法則を研究する機関が設立された。

 日本の場合は魔法学院。

 シンプルにもほどがある。まったく捻っていない。せっかく魔法という言葉を全世界共通語に出来たというのに、残念な話だ。

 さて、このシンプルな名前の魔法学院だが、国立で関東に第一、東海に第二、関西に第三、四国に第四(これはギャグな気がする)、中国に第五、九州に第六、東北に第七、北海道に第八とい具合に、四国を第四にしたいがために割り振ったとしか思えない数字で割り振られた(俺は確信している)、八つの国立学校が出来ている。



「ふう」

 経緯の振り返りは大事だが、改めて考えると恐ろしいうえに適当な空気が漂っているよね、この世界。

 それはともかく、今日、この俺、藤城真央ふじしろまおは無事に関西圏の第三魔法学院に合格し、無事にこの学院の学院生となった。元は大阪にあった国立大学がそのまま魔法学院になったというだけあって、馬鹿でかいキャンパスに圧倒される。

 受験資格は十五才以上で、筆記試験と実技試験をクリアしなければならない。筆記試験も大変だが、何より実技試験が大変だ。魔法の能力が一定以上でないと、この学院の学生になることは認められていない。

 いわく、最先端の魔法学を扱うからだというが、実態は解っていない。しかし、俺の実感はともかく大変だった、だ。おかげで俺は第一志望の魔法科(唯一研究科と言われない、純粋な魔法使い養成学科だ)を落ち、第二志望の魔法薬学研究科(昔でいうところの薬学部だな)に辛うじて受かったのである。

「魔法薬学って何だろうな。名前がカッコイイからこれにしちゃったけど」

 しかも、俺はこの魔法薬学の実態を解っていないという、困った状況にある。入学までにあれこれ調べてみたが、解らん。

 ちなみに第三魔法学院には魔法科と魔法薬学研究科の他に、魔法動物研究科(体育会系の巣窟と呼ばれている)、魔法医学研究科(変人ばかりとの噂あり)、魔法工学研究科(就職先は沢山あることが売り)の五つの学科で構成されている。

 噂さえ掴めないのが魔法薬学研究科だ。ちなみに他の科について教えてくれた幼馴染み曰く

「ううん。地味で自由って先輩が言ってたよ」

 とのこと。

 もう少し早く教えてよ。

 地味なんだ。名前はカッコイイけど地味なんか。複雑だ。そしてやっぱり実態不明。怖い。

「一年浪人すべきだったかなあ」

 合格して浮かれていたけど、選択を間違っただろうか。そう思いながら春休みを過ごし、今日の入学式を迎えてしまった俺である。

「あっ、真央。よかった、会えた~」

「うごっ」

 キャンパスの入り口付近でぼんやりしていたら、後ろから誰かに突撃された。が、振り向くまでもなく、あれこれ噂を教えてくれた幼馴染みの有村友葉ありむらともはだ。小柄な体型ながら、立派な胸を持つこの幼馴染みは、今も昔も俺の背中に激突してくる。そして毎回、影響でツインテールが激しく上下に揺れている。

「お前な。学院生になったんだから、いい加減落ち着けよ。そして下の名前で呼ぶな」

 俺は振り向いて友葉の頭を捕まえながら注意する。

「ええっ、真央の背中、お気に入りなのに。それにいいじゃん。ずっと真央って呼んでるのにさ」

 友葉は年頃の男子が抱える悩みなんてガン無視でそう言ってくれる。頭を押えられるのに抗議するように、両手をバタバタと振り回して抗議するが、身長差があるので当たらない。

 ここ数ヶ月で身長がまた伸びたからな!

「俺はこの女みたいな名前が嫌いなの!」

 って、今は身長より名前だ。しっかり主張しておかねば。

「男の子の名前じゃん」

「いいや、女子率が高い!」

 俺はきっぱり言い切り、呼ぶなよと睨む。が、友葉はべえっと舌を出し、聞き入れる気は一切無い。くそっ。

「いいよな、お前は。魔法科に入学できて」

 しかも、友葉は俺が落ちた魔法科に入学したのだ。劣等感を煽られる。

「たまたまだよ~」

「たまたまで合格できねえよ。はあ、まあいいや」

 俺は諦めて、入学式の会場へと向う。入学式から学科別なので、友葉とじゃれ合うのもここで終わりだ。

「また後で遊ぼうね」

 しかし、友葉はそんな気はないようで、ぶんぶん手を振ってそんなことを言ってくれる。

 まったくもう。俺は複雑な気分だ。優秀な幼馴染みは、そのうち俺のことなんて忘れてキャンパスライフを謳歌することだろう。しかし、ちょっとは頼ってくれるかもという期待もある。

「複雑」

 俺は口に出して呟くと、今度こそ魔法薬学研究科の入学式会場へと向ったのだった。

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