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コロナワクチン、詐欺の手口

作者: 音天響子 ONTEM KYOKO

皆様の自治体のコロナワクチン接種はどこで、どのように?

桜山区では......


2月25日木曜日15:40

 家内がスーパーの4時からの夕方のセールに合わせて

出かけている時にオフホワイトの電話が鳴った。

「詐欺電話が多いから、留守番電話にしておけよ」と息子に言われているので、電話機が勝手に応答してくれている。足腰が固まって、すぐには立ち上がれないから、丁度良い。エアコン付けてホットカーペット敷いて、リビングの食卓に座れば立ち上がるのが楽なのに、と息子は言うが、眠くなったらそのまま横になって昼寝できるこたつがいいに決まっている。

録音されている音声が聞こえてくる。


「こちら、桜山区健康増進課新型コロナウイルス対策部ワクチン接種推進担当の渡辺と申します。半月ほど前にお手元に届いております、区役所から発送いたしました、ワクチン接種希望日予約表をまだご返送いただいておりませんので、ご連絡いたしております。来週の月曜日、3月1日必着ですので、お早めのご返送をお願いいたします。なお、お送りした書類に記してありますように、ご夫婦それぞれの国民健康保険証とマイナンバーが必要ですので」


 ここで、俺は受話器を取った。

「あっ、はい、おります。留守電ではないです」

区役所からの電話だし、中年女性の声だし、詐欺電話ということはあり得まい。何よりも、電話で言っている発送された書類が、届いていないのが気がかりだった。


「山口修さまのお電話でお間違いないでしょうか」

「はい、山口修本人です」

女性が、途中まで録音された内容を繰り返すのを聴きながら、電話の横に重ねてある、未処理案件の封筒を順に見た。やはり、届いていない。

「はいはい、で、そういう書類、届いていないんですが」

「あっ、申し訳ございません。え〜と、あっ、一度切らせてください。少々お待ちください、折り返しお電話いたします」

「はっ、はい」

電話が切られた。立ち上がったのを機に、こたつの上の煎餅の包装紙をゴミ箱に捨て、湯飲みに茶を注いだらぬるかったのでレンジで温め、トイレに行き、電話の子機と湯呑みを手にこたつに向かった時に、また電話が鳴った。


 先ほどと同じ声で、区役所の健康なんとかかんとかの渡辺さんの声だったので、こたつに潜り込みながら子機で電話に出た。

「はい、はい、山口です」

「先ほど、こちらからお送りした書類が届いていないとのことでしたが、大変申し訳ございません。こちらは確かにお送りいたしましたが、何か手違いが生じたようで。で、来週月曜日にはこちらにご返送して頂かなければなりませんので、書類だけでしたら速達で今日お送りしてご記入いただいて速達でご返信いただければギリギリ間に合うとは思うのですが、どうでしょう」

「あっ、はい、はい、わかりました。そうします。いやぁ、区役所の方のせいじゃないですから、謝らなくて結構ですよ。明日、書類が届いたらすぐに記入してすぐ速達で返送しますからご心配なく」

「重ね重ね申し訳ございませんでした」で電話は終わった。

手を伸ばしてテレビのコントローラーを取り、今日はどのチャンネルのニュースにしようかザッピングしていたら、こたつの台の上の子機がまた鳴った。よく鳴る日だなぁ、子機を置きっぱなしにしてよかったと思った。留守電の声が流れ、また先ほどから二度もかかっている同じ声がしたので途中で通話ボタンを押した。

「はい、本人です。まだ何か」

「はい、桜山区役所の健康増進課新型・・・」

「あっ、はい、お世話になってます」

「あっ、いえ、こちらこそ度々申し訳ございません。先ほどご確認させていただくのを忘れたものですから」

「はい?」

「ご夫婦それぞれの国民健康保険証とマイナンバーが必要なのですが、お持ちであることをご確認させてください」

「健康保険証は、それぞれ財布に入れて持ち歩いております。マイナンバーは、カードは作っておりませんが、どこかを探せば出てくるはずです」

「あ〜」渡辺さんが絶句しているのがわかった。

「速達でお送りして、もし、マイナンバーがおわかりにならないと、速達でご返信していただくとしても、月曜日必着に間に合わない可能性がございますねぇ」

「そうですねぇ。早速探しにかかりますが。申し訳ございません。あのぉ、そちらで私共夫婦のマイナンバーを把握してはいらっしゃらないのでしょうか」

「いえ、はい、把握はしておりますが、山口様のお届けとの照合用でして、それをこちらからお伝えするのは本末転倒ですから」

「ああ、そうですねぇ」

「困りましたね」

「いえ、すぐに探し始めますから」


 玄関の鍵が開く音で家内が帰宅したのが分かったから、早速探さねばと、こたつから立ち上がりながら話を聞いた。

「明日、こちらからの書類がお手元に届いた段階でお電話いただけますか、いえ、こちらからお電話差し上げます。正午前後に。もしそれまでにマイナンバーが見つからない場合には明日、お伝え願います」

電話を終えた。家内がエコバッグを2つ両手に重そうにぶら下げて入ってきた。台所にエコバッグを下ろし、手を洗いに洗面所に向かった家内の背に話しかけた。

「マイナンバーの書いてある紙ってどこにしまった?」

「えっ? 書棚の、ファイルのどれか」

「どれかって?」

「どれか。健康保険のファイルか、介護保険のか、年金のか、税金のか、町内会のか、医療費の領収書とか光熱費のとか、その辺りのどれか」



2月26日(金曜日)11:30

 区役所の渡辺さんから電話があった。「速達は届きましたでしょうか」

「いえ、まだなんですよ。で、マイナンバーはわかるんですが。少し前に送られて来てましたよね。健康保険証と一緒にできるとかいうの。あれはそちらの役所が出しているんですか。あれだったら昨日開けてみたんで、で、中に番号書いてあったからわかりますよ」

「それはよろしかったですね。その封書は担当違いで当方でないないんですよ。で、ワクチン接種希望日予約表は昨日最終便で速達で出したのですが、書類がまだお手元に届いてないということになりますと、え〜と・・・・・・」

「区役所に行けばよろしいでしょうか」

「あっ、はい、いえ、この件で多忙を極めておりまして、窓口業務を減らしておりますし、ご高齢の方にいらしていただくのは、コロナ感染の観点から申しましても望ましくはございませんし。そちらからですと、駅前乗り換えで、バス2本お使いいただくことになりますし、お車はお持ちでしょうか」

「いえ、免許返納して。あっ、週末でしたら息子が」

「週末は、申し訳ございません」

「あっ、窓口、閉まってますよね。じゃあ、タクシーで今すぐ、いや、昼食後にでも、お伺いいたしますよ。健康保険証持って、あと、マイナンバーがあればいいんですよね」

「あっ、はい、ただ、私、午後からは連絡会議で」

「窓口のどなたかにお伝えしておいてくだされば」

「え〜、山口さまの場合、書類が届いていなかったと言うことで、2回目のをお送りいたしてる希なケースでして、あっ、ちょっとすみません、一度切らせていただきます」


 家内が、ゴミ置き場会議から戻って来た。この辺りだって、教育施設も福祉施設も飲食店もクラスターが発生したというのに。「マスクして離れておしゃべりならいいでしょ」と週に4日、清掃当番でなくとも集まっているらしい。月替りなのでお隣から回って来た掃除当番札を玄関の棚に置く音がした。ダウンジャケットを脱ぎ、手袋を脱ぎ、洗面所に入って、手を念入りに洗いながら、私に話しかけてくる。

「ねぇねぇ、あれ、昨日の電話、詐欺じゃない?」

「昨日の電話って、だって、あれ、女だったし、区役所からだろう」

「本当に区役所だった?」

「何度もかかって来たし」

「でもね、小林さん家にも、中川さん家にも、鈴木さん家にも、安藤さん家にも斎藤さん家にもかかってきてないって」

「そりゃ、ちゃんとワクチン希望日書いて出したんだろう」

「だからぁ、そんな封筒、届いていないって。そんなの初めて聞いたって」

マスク2枚を外して外の物干し竿に引っ掛けてから室内に戻り、再び洗面所に向かう家内に言った。

「でも、あちこちのニュースで言っているじゃないか。医療従事者はもう接種が始まっていて。次は高齢者だからって、遅くても4月には始まるんだろう」

「だけど」

「自治体によって、接種方法や予約や場所が異なるって、スマホでとかLINEでとかって自治体もあるらしいけれど。ワクチン接種にマイナンバーを使うって、総務大臣? いや違う、デジタル大臣が言ってたし。

で、桜山区は、昨日、え〜と、渡辺さんが言ってた、予約システムってことなんだろう」

「あっ、渡辺さんって、名前わかってんの?」

「当たり前だよ」

「じゃあ、お昼食べたら、電話しましょうよ。みんなが言ってたもの。そんなの詐欺に決まってるからって。区役所に電話すればわかるって」

「ああ」


 昨日の夕食の残りをレンジで温め直し、インスタント味噌汁は塩分がきついから薄めにして、スーパーで買って来た千切りキャベツを皿に盛って、昼食は終わった。若い頃は量も種類も金額も大きかったのに。年をとると、鳥の餌並。


 朝の連ドラの2度目を見終えて、市役所の代表番号に電話し、スピーカーホーンにして、こたつの上に置いた。オペレーターにつながった。

「コロナワクチンの担当部署にお願いします」

「健康増進課新型コロナウイルス対策部でよろしいですか」

「はい、お願いします」

家内に言った。

「なっ、あるだろう」

電話がつながった。

「私、山口と申しますが、ワクチン接種の件でお尋ねしたいのですが」

「はい、どう言ったご用件でしょうか」

「ワクチン接種推進とかいう部署、ございますか」

「あっ、はい、少々お待ちください」

「ほら、あるだろう」家内を見た。家内も肯く。

「渡辺さんとお話し通じているのですが、あっ、私、山口と申します」

「山口さんですね。で、渡辺ですが、ただいま席を外しておりまして」

「いるんだ」家内が小声で言った。

「ほら」と、俺、自慢することでもないのに、なんとなくドヤ顔になった。

電話の向こうから声がした。

「あっ、ちょっとおまちください。渡辺、戻って参りました」

「ほら、家だけじゃなくて、みんなの所に届いていないなら、この辺り、なんか事故ったんじゃないか、みんなに知らせなきゃ」と家内に言った時、

電話から声がした。

「お待たせいたしました。ワクチン接種推進担当の渡辺と申します」

家内がにやりとした。俺、愕然とした。

渡辺さんは、男性だった。


 俺、めげずに男性の渡辺さんに尋ねた。

「女性の渡辺さんをお願いします」って。

「桜山区健康増進課に、渡辺は私一人しかおりませんが」

家内が再びにやり。さっきより口角が上がっている。

俺、男性の渡辺さんに、昨日夕方からの事情を説明した。男性の渡辺さんは、桜山区では、個別接種の方向で医師会と調整しているということで、まだ何らの書類も発送していないとのことだった。「詐欺の可能性が高いので、ホームページ等で注意を呼びかけますが、山口様も警察にご連絡いただければ幸いです」と。


 中川さん家のご夫婦が日頃言ってる

「年とると、二人で一人前」を実感した。


敵の手口を色々想像すれば、詐欺に引っかからないようになるかもしれませんね。くれぐれもご慎重に。


なお私の楽天ブログ「ペット喜怒哀楽」にも同文を掲載します。


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