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馴染みの狐。

作者: 大垣さん。
掲載日:2020/08/07

思いつくままに書いてみました。

ご感想頂けましたら、嬉しいです。

今年の春は、足を運ぶと言う事が禁じられた日々だったなあ。

 そんな事を思いながら、僕は今、人気ひとけのない山道を登っている。

 梅雨の時期に訪れたわずかな晴れの日。久しぶりの朝日に照らされた木々にはまだ水滴が残っていた。舗装などされていない土の道もまだ所々柔らかく、窪んでいる所には少々の水が溜まっている。

 天気予報では早朝4時ごろまで、この辺は雨だと言っていた。

 今は9時。乾燥させる頼りである太陽がまだ本調子でないこの時間では、まだまだ水気は消えていなかった。

 そんな泥濘ぬかるみのある山道に時折足をとられながらも、僕は登っていく。

 会いたい人に、世話をしてもらう為に。


 傾斜十五度程の山道を登って数分、行く先に木々の間から鳥居と瓦屋根が見えた。

「久々だなぁ」

 僕は足取り軽く、残りの距離を歩いていった。

 やがて、僕は目的地としていた、古い神社の境内に入った。

 小さな本殿に、賽銭箱が置かれていて、その手前には狐を模した一対の狛犬が鎮座している。

 雨のおかげか、その表面はとても綺麗だ。

 僕は、その狛犬の内の一つに、首に巻いていたタオルを掛けてあげた。

 そして、手水舎に行って、手と口と柄杓の柄を清め、本殿に向かった。

 二礼、二拍手、一礼。正式な作法に従じてお参りをする。

「日頃から、こんな田舎町を守って下さりありがとうございます。あと……久しぶりに、遊びに来ましたよ!……出て来て下さい、コン様!」

 僕は、笑顔で祈った。

 すると、背後から何かが高いところから飛び降りる音がした。その何かは、コンコンと下駄を鳴らして僕に近づいてくる。

「名前を呼ばすとも、お主が来たのならば出て来るに決まっておろうが!たわけ者!」

 時代遅れの喋り方が聞こえたと思うと、背中を強めにパンと叩かれた。

 僕は嬉しくなりながら、そちらを見た。

 そこには、僕のタオルを首にかけた巫女装束姿の少女が、口を尖らせ、むすっとした目を向けて立っていた。

 目を、上の方に向ける。

 本来、人間は頭の横に耳がある。

 しかしその少女は、頭の上に耳があった。

 それも、狐のようなもふもふの毛に覆われた耳が。

 そして袴からは、尻尾が伸びている。

 これが、僕の会いたかった存在。

 狐巫女の、コン様だ。


 今はまだ、人と人とが触れ合う事は制限しなければいけない時期だ。

 けれども、コン様は人間ではない。神様だ。

 会いに行っても、大丈夫なのだ。

「台座の上に座っているなんて珍しいですねコン様、いつもは本殿の中でダラダラしてるのに」

「ふんっ!よく、そんな口が聞けるのぉ、アレを干す為に、外に出ておったのじゃ!」

 コン様は手水舎の向こうを指差した。

 指の先には、木々の間に結ばれた紐に、古びた着物の柄が入った布が干されていた。それはかなりの枚数だった。ざっと数えても、20枚はある。

「久々の晴れ間じゃったからのう、お主が来ても良いように、襁褓布を干していたのじゃ!そしたら、案の定お主が現れおったっ……ふふっ!嬉しいのう!」

「僕も嬉しいです!」

「今日は、紙襁褓にするかの?それとも、布襁褓が良いかの?」

「布襁褓が良いです!今日は、こちらで一晩過ごすつもりなので!」

「そうか!ならば、布襁褓を支度しなくてはいかんのう!用意するからな!」

「わざわざ、ありがとうございます!」

「礼などいらぬ!むしろ、わしが礼を言うべきじゃ!童の頃からずっと来ておるのは、もうお主だけになってしもうた。他の者は、都へと出ていってしまったからのう……」

「そうですねえ、もう、僕だけですね!」

「あっ……お主、手ぬぐいを借りたままじゃったな!干している時に通り雨を食らってしまったから、助かったぞ!」

 コン様は笑顔でタオルを僕の首に掛けた。

「それに、お主の汗の匂いを堪能出来た」

 コン様はタオルの端を鼻に当て、クンクン嗅いだ。

「この匂い、ちとお主の父上に似て来たの!身体が大きくなった証じゃ!」

「さっ、中に入るがよい!もう、襁褓の中は泣き虫になっているじゃろ?替えてやるわい!」

 そう言って、コン様は僕のお尻を触ると、下駄を鳴らして本殿へと入っていった。

 コン様の言う通り、僕は今おむつを当てている。

 そして、お漏らししたおしっこでグショグショになっていた。

「あっ……」

 おむつを意識すると、ふと、おしっこがしたくなった。僕は躊躇する事なく、おむつへおしっこをお漏らしした。

 山登りで蒸れたおむつの中が、更に暑苦しくなっていく。

 けれども嫌では無い。だって、コン様が替えてくれるのだから。

「お世話になりますね!」

 僕はコン様の後を、ゆっくりとした足取りで追っていった。



 コン様と僕が初めて出会ったのは、僕が10歳になった時だった。

 その年になってもおむつが取れず、僕は学校の行き帰りにこの神社に来てはこっそりおむつを交換していた。

 狭い田舎町、鍵を掛ける文化も乏しいこの町では、年齢に似つかわしく無いおむつのパッケージを置いておける所は無かったし、もしおむつがバレたら、二日も経たずに知れ渡りそうだった。

 そんな中、狐の幽霊が出ると噂が経っていて、ろくに人も近寄らないこの神社だけが、安心しておむつを替えられる所だった。

 そして、おむつ替えの役を担っていたのが、コン様だったのだ。

 時が経ち、僕はおむつが外れた。でも、ずっと可愛がるようにおむつを替えてくれたコン様にまたおむつを替えて欲しくて、僕は逆トイレトレーニングを始めた。

 確か、高校生の時だ。

 お陰様で僕のおシモは緩くなり、未だにおむつにお世話になっている。そして、たまにコン様に替えてもらいたくなっては、山道を登り、ここへ来るのだ。



 本殿に入ると、コン様は僕のお尻の方へ周り、また鼻を鳴らした。

 スンスンスン、スンスンスン、静かな本殿の中に、鼻の音が響く。

「うん、糞はしていないようじゃの、垂れたのは小便だけのようじゃな!」

 嬉しそうに言って、コン様はズボンを下ろすように言った。僕は言う通りにした。

「お主、紙襁褓が盛大に膨らんでおるぞ?何回も垂れたのかの?」

「四回、してしまいました」

「た〜わ〜けぇ〜、童の頃から全く治っておらぬではないか!そろそろお主も身を固めねばならぬ年頃であろう?このままでは、独り身で天に召されるかもしれぬぞ?」

「召されたら、コン様と一緒に居たいです!好きなので!」

「なっ!!?」

 コン様の顔が、赤くなった。あぁ、可愛い。

「なっ!何を言うておるのだ!そっ!そんなのはダメじゃ!輪廻転生と言って、人の魂は死して蘇るものなのじゃ!わしと所帯を持つなど!ならぬ!なっ!ならぬわ!」

 両手を胸に持って来て、首をブンブン振りながらコン様は僕に説教した。

 けれども、その様がやっぱり可愛くて、説教はただ両耳を通り過ぎていくだけだった。

「ほい、たわけた事を抜かしておる暇があるなら、横になって足を広げぬか!替えてやらぬぞ?」

 コン様は頬を膨らませた。

 僕は微笑みながら、言う通りにしていく。

「なぁ〜にを笑っておるのじゃ?……ったく……」

 僕の顔を見るコン様の口元は、どこか笑っているように見える。

 案外、まんざらでもないのかも知れない。

「襁褓開くぞ?いつも言っておるが、はしたない事を考えておったら、バチが当たるからな?無心で、わしのおむつ替えを受け入れるんじゃぞ?」

 僕は頷いた。

 

 もう、10年近くご贔屓の、コン様によるおむつ替えが始まった。

 お尻拭きに、温めた手ぬぐい。天花粉やバケツ。

 それらを僕の横に持ってきて座ると、手際よくテープを外していった。

「色が濃いのうぅ、相変わらず、ジュースなどと言う童の飲み物を飲んでおるのか?」

「沢山飲んでます」

「ったく、お主は舌も童のままじゃのう、茶の渋みが分かるようになるのは、いつぞやになるのかのぅ」

「お茶だって好きですよコン様!いつもごくごく飲んでます!」

「ほう、ごくごくと飲んでおるのか……って、それでは味わっておらぬではないか!……はぁぁ……お主?襁褓を替えたら茶を入れてやる、わしがお茶の味わい方を教授してやるからの?逃げるな、よ!」

 コン様は言い終わると、ゆっくりと笑った。

 それからも茶の話をしながら、コン様は僕の秘部を清めてくれた。温かい手ぬぐいで拭いてから、お尻拭きで菌を滅する、完璧な清拭だった。天花粉をされている時、僕はもしかしたらと思った。

 はしたない興奮をしない様に、コン様はわざと話してくれたのかと。

 そういえば、いつも、コン様はおむつ替えの時にこうやって話をしてくれた。

 おかげで、毎回さっきの訓戒を受けてたけれど、一度も、自分のアレが大きくなった事は無かった。

 コン様は、そやって小さい頃から、躾けてくれていたんだ……。

 なんて、優しい神様なのだろう。

「コン様、ありがとうございます」

 顔を上げて、言う。

 コン様は、今から当てる布襁褓を丁の字に重ねている所だった。

「何がじゃ?まだ襁褓当てておらぬぞ?言うのが早いのではないか?」

「理由は、ご想像に任せます」

「なんじゃ、そんな穏やかな目で礼を言うて……よく分からぬが、胸がくすぐったいのうぅ……ほい、尻に襁褓を敷くぞ?腰をあげよ」

 僕は腰を上げた。そこに、重ねられた布襁褓がするすると敷き込まれていく。

「腰の辺りまで敷かねば、布団がびっちゃになってしまうからのぉ……股もしっかり当てねば、これまた濡れる由縁となってしまうから、しっかりと、しっかりとぉ……」

 呟きながら、コン様は丁寧に襁褓を敷き、当てていった。そして、おむつカバーに手をかけた。

 お揚げの柄が散りばめられた、紐で縛るタイプのおむつカバー。

 何時ぞやに、コン様が手縫いで作ってくれたお手製のカバーだ。

腰と、足部分の紐を縛って、襁褓替えは終わった。

「はい、これで終いじゃ!」

 お股をポンポンと叩いて、コン様はそれを知らせてくれた。

 でも、僕は起きなかった。

「なんじゃ?起きぬのか?」

「コン様……耳かき、して欲しいです」

「耳かき……か?……ふふっ!仕方ないのう!……待っておれ!耳かきと手ぬぐい、持ってくるからの!」

 コン様は、立ち上がり、奥の方へと歩いていった。

 ファサッ。

 不意に、もふもふの尻尾が顔を撫でる。

 気持ち良いなぁ。

 今日は、この気持ちよさを、一晩中堪能出来る。

 甘えよう。


 僕は、耳かきを探すコン様の声を聞きながら、この先の幸せを思い浮かべて、笑った。

 おむつの中のアレは、少しだけ、膨らんでいた。


 終わり。




 


 

 

お読み頂き、誠に有難うございます。

また、いつか、何処かの話の終わりでお会いしましょう。

それでは。

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