表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/18

9.失って初めて【追放側】

 ルンの祈りはアンデッドを浄化できる。

 死霊も、ゾンビも例外なく光に包まれれば天に還る。

 元ドラゴンとは言え、リンドブルムもアンデッドモンスターの一体。

 彼女の祈りからは逃れならない。


 ――はずだった。


「あ、あれ?」

「おいルン……効いてないぞ」

「何で? え、どうして効かないの?」


 祈りの光に包まれても、リンドブルムは浄化されない。

 アンデッドであれば有効な攻撃手段だったにも関わらず、一切のダメージを感じさせない。

 リンドブルムは朽ちた翼を広げ、彼らを威嚇する。


「冗談だろ? ちゃんと祈ったのかよ!」

「祈ったわ! ワタシが出せる最高の祈りを捧げたわよ。それなのに……」


 リンドブルムには効いていない。

 否、効いてはいる。

 彼女たちは気付いていない様子だが、リンドブルムにも浄化の力は有効だった。

 しかし、彼女たちは知らない。

 リンドブルムがただのアンデッドではないことを。


 多重魂アンデッド。

 それがリンドブルムの正確な分類。

 簡単に言うと、リンドブルムには複数の魂が宿っている。

 主となるのは朽ちたドラゴン。

 そこに複数の魂、つまり屍が集まって誕生したのが、地を這う竜の成れの果て。

 ルンの祈りは有効だったが、表面の屍を浄化するばかりで、本体であるドラゴンまでは届いていなかった。

 加えてこの地は屍の山。

 浄化されようと、次から次へと補充できてしまう。

 主であるドラゴンの屍に攻撃を届かせない限り、リンドブルムは無敵だ。


「くそっ、だったら魔法だ! ローラ!」

「あたしの出番ね」


 魔法使いのローラが前に出る。

 アンデッドに有効な攻撃は、祈りだけではない。

 炎魔法による攻撃なら、腐った肉体ごと焼き尽くしてしまえる。


「ヘルフレア!」


 魔法陣が展開され、燃え盛る業火の渦が放たれる。

 ヘルフレアは炎魔法の中でも高威力かつ広範囲。

 ローラは優れた魔法使いだったから、平然と高度な魔法が使える。

 彼女の存在が、ロイたちにとってピンチを覆してくれる希望だったし、ローラ自身もそれを理解していた。

 だが、今回ばかりはそう簡単にいかない。


 放たれた炎はリンドブルムに届かない。

 地中から伸びた触手によって阻まれてしまった。


「何よあの気持ち悪いの!」

「あれもリンドブルムの一部なのか? 炎が効いていないぞ」


 地中から伸びる触手は、リンドブルムの腹から伸びていた。

 見た目はドラゴンのままだが、ドラゴンだと思って戦うと理解が追いつかない。

 さらに触手が地面から湧き出て、ロイたちに襲い掛かる。


「ゴルドフ!」

「任せてくれ」


 ゴルドフが盾を構えて応戦する。

 彼の盾は、かつて十メートルを超える巨人の一撃をも防いだことがある。

 守りにおいて絶対の自信を持つ彼は、ロイたちを守るために立ちふさがる。


「ローラ、もう一回燃やせないのか?」

「無理よ。触手が邪魔で当てられない」

「だったらルン! 触手を浄化して退かしてくれ!」

「もうやってる。やってるけど……」


 触手もリンドブルムの一部。

 彼女の祈りでは、表面の屍を削るばかり。

 完全に浄化させるまでには足りていなかった。

 悔しそうな表情を浮かべるルンに、ロイはきつく当たる。


「何やってんだよ! お前が浄化できないんじゃ話にならないだろーが!」

「さっきから何よ! ワタシに文句を言う前に自分が戦ったどうなのかしら?」

「無理に決まってるだろ? こっちは剣士なんだ。アンデッドに有効な攻撃が出来るのは、お前とローラだけなんだよ!」

「なら文句言わないでもらえるかしら?」

「ちょっと二人ともうるさい」


 モンスターを目の前にしてギスギスし出すロイたち。

 その間もゴルドフが必死に攻撃から三人を守っていたが、徐々に限界が近づいていた。


「すまないがそろそろ限界だ。ロイ、何かいい案はないのか?」

「は? もうって早すぎるだろ。いつものお前なら……」

 

 ここでロイは思い出す。

 かつてゴルドフが巨人の一撃を防いだ時、シオンが防御強化を付与していたことを。

 彼の不在が、小さな綻びを生んでいる事実に、わずかな焦りを感じ始める。

 そして、同じことをゴルドフも感じていた。

 彼の場合は特に、自分が持ちこたえられないことを実感している。


「いや、そんなはずない。あんなおっさんいなくても俺たちは戦える」

「だがこのままでは……」


 もしも……もしもの話をする。

 この場にシオンがいたのなら、状況は変わっていたかもしれない。

 彼の付与でロイの剣にアンデッド特攻を付与すれば、触手を切り裂くことが出来る。

 ルンの祈りと、ローラの魔法も強化出来ていたら。

 ゴルドフも前線を維持し続けられたはずだ。


 しかし、彼はこの場にいない。

 全員が意見を一致させ、もう必要ないと切り捨てたからだ。


「まだだ……まだ負けてない!」 


 ロイが叫んだ。

 自分は間違っていないと証明するため、彼は剣を抜く。

 だが、彼の剣には何も付与されていない。

 付与されていたとしても、術者が一定の距離にいなければその効果は発揮されない。

 ただの剣では、アンデッドを倒せない。


「くそっ、くそ!」


 がむしゃらに切りつけても、触手の壁は破れない。

 ルンの祈りは届かず、ローラの魔法も防がれる。

 ゴルドフの盾はボロボロになり、彼自身も膝をついていた。

 もはや勝敗は決したのだ。


 そうして、彼らは逃げ帰る。

 無様にも敵に背を向け、こんなはずじゃなかったと愚痴を漏らしながら。

 失って初めて気づくことがある。

 自分たちがどうして強くなれたのか。

 その理由を知った時には……もう手遅れだ。


ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ