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15/18

15.予想外の脅威

同時刻に、もう一作投稿しています。

良ければそちらも読んでくださいね。

下記リンクからとべます。

 その男を、人々は認めなかった。

 勇者と共に立ち上がった四人。

 彼もそのうちの一人。

 天に告げられ、世界から選ばれた存在だった。


 だが、人々は彼を認めない。

 圧倒的な力を持ち、悪魔とも対等に渡り合えても。

 相応しくないと、不釣り合いだと罵り、認めようとしなかった。

 それでも彼は、人々を守るために戦った。

 街を襲った悪魔を討ち滅ぼし、魔物の大群すら一人で退けた。

 彼は何千、何万という人々を救った。

 

 そうして彼は、英雄と呼ばれるようになった。

 彼に助けられ、守られて、ようやく彼を認めたのだ。

 同時に理解した。

 なぜ最初、彼を認めなかったのか。

 人々は彼を認めなかったのではなく、認めたくなかったのだ。

 彼のジョブが、世間では不遇と呼ばれていたから。

 彼の持つ才能が、あまりにも異端で、恐ろしいものだったから。

 それでも彼は英雄となった。


 否――英雄と呼ばせたのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 最終日。

 彼女たち三人でサザーク森林に足を踏み入れた。

 そこにシオンの姿はない。

 彼は一人、街に残っている。


「何か最終試験って感じだな」

「そうだね! 頑張らなくっちゃ!」

「うん」


 ステラの言った通り、これは最終試験で間違いない。

 指定されたクエスト三つを、自分たちの力だけで達成できるかどうか。

 この二週間の指導、特訓の成果を見せるため、彼女たちは森を進む。


「トラップ見っけ!」

「よし! これで三か所目だね」

「さすがに場所は覚えたもんな~ フィー、薬草のほうは?」


 ソフィーがエイド草の入ったカゴを見せる。

 トラップを回りながら、エイド草を見つけては彼女が回収していた。

 それと同時に、彼女はウルフの痕跡も探している。


「ウルフは?」

「たぶん、この辺にはいない」


 ソフィーはぶんぶんと首を振って答えた。

 その後もトラップをめぐり、最後の一つにたどり着く。


「これで五つ目だね」

「だな。薬草もバッチリだろ?」

「うん」


 ソフィアはかごにたくさん入ったエイド草を見せる。

 トラップの回収も終わり、残るクエストは一つ。


「ウルフだな!」

「うん。まず痕跡を探さないと」

「あっち」


 ソフィアが指をさす。

 二人の視線が一本の木に集まる。

 よく見ると、木の一部が剥がれているのがわかった。


「この爪痕……ウルフだよな?」

「間違いないね。ウルフは縄張りを主張するために、こうやって目印を残す……ってシオンさんも前に言ってたから」


 痕跡を見つけ、他にもないか探っていく。

 足跡、毛、爪痕がないか見回す。

 見つけたら次、さらに次と探っていき、群れの場所を突き止める。


「この先にいそうだね」

「うん」

「なんか楽勝だったな~」

「ちょっとステラ、気を抜いちゃ駄目だよ」

「わかってるって。シオンに怒られるのは嫌だしな」


 そう言って、ステラは苦笑いした。

 この二週間で、おそらく彼女が一番シオンに怒られている。

 彼女は二週間を頭の中で振り返る。


「シオンってすごいよな~ 強化!とか言うだけで味方を強くできちゃうんだもん」

「そうだね。敵の動きを遅くしたりも出来るし」

「何でもあり」

「だよな~」


 唐突に始まった会話が、ここで一旦会話が止まる。

 三人の頭には、同じ言葉が浮かんでいた。


「でもさ? 付与術師ってあんま強くないって言われてるんだろ?」

「そうなんだよねぇ……何でなのかな?」

「さぁ? 終わったら直接聞いてみようぜ」

「……そうだね。今はこっちに集中しよう!」

「おう!」


 その時、近くの茂みから音が聞こえる。

 三人は瞬時に警戒を強め、音のした方向を見る。

 すると――


「ぐっ……うぅ……」


 現れたのは、血だらけの男性だった。


「だ、大丈夫ですか!?」

「何があったんだよ!」


 急いで三人が駆け寄る。

 人を見て多少安心したのか、男性は木にもたれ掛かって足を止めた。


「君たちも……冒険者か?」

「はい!」

「ら、ランクは?」

「Fです」

 

 ミルアの返答を聞いて、男性は絶望したような表情を見せる。


「F……駄目だ。君たちも早く逃げろ」

「な、どういうことだよ! 何があったんだ!?」

「奥から……と……」

「お、おい!」


 ステラが叫ぶように問いかけると、男性は力なく倒れてしまう。

 ギリギリの状態だったらしく、気力だけで立っていた。

 慌てずミルアが脈を確認する。


「大丈夫、まだ生きてる」

「よ、良かった……応急手当だ!」

「準備した」

「さすがフィー、サンキュー!」


 止血し、傷口には薬草から作った薬を塗る。

 応急処置の仕方も、シオンから伝授されていた。

 簡易的な処置だが、やるのとやらないのでは全然違ってくる。


 処置が終わり、ステラが汗をぬぐう。


「一先ずこれで良いね」

「おう。後は――」


「キャアアアアアアアアアアア!」


 これからどうするか。

 話し出そうとした声を、遠くの叫び声がかき消した。


「何だよ今の!」

「悲鳴……女の人の声だったよ!」

「もしかしてこの人の仲間か? 何かに襲われてるとか……何なんだよもう!」

「冷静」

「わかってるよ。これでもあたしは冷静だ」


 そう言って、ステラは深呼吸をした。

 ソフィアには冷静と言いながら、落ち着いていなかったのが丸わかりだ。

 一呼吸おいて、どうするかを考える。


「エイド草が生えてるし、ここって安全だよな?」

「たぶん、そうだと思う」

「だったら助けに――いや、あたしたちじゃ無理だ」


 途中まで言いかけた言葉を、ステラは自分で否定した。

 悲鳴を聞いて、助けたいと思ったのは彼女だけではない。

 だが、同時にこうも思った。

 こんなとき、シオンなら何て言うのか。


「シオンならきっと、自分の身を守れって言うと思う」

「私もそう思う」

「うん」


 シオンの言葉を頭に浮かべる。

 現実ではなく、彼女たちの頭で連想した言葉でしかない。

 それでもやるべきことは定まった。


「街に戻ろう! まずこの人を助けなきゃ!」

「おう! あたしとミルアで担ぐから、フィーは先導して!」

「うん!」


 そうして、彼女たちは動き出した。

 彼女たちの判断は正しかったと、後にシオンも言うだろう。

 だが、同時に運も悪かった。


 なぜなら――


 脅威はもう、すぐそこに迫っていたのだから。

 

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


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