15.予想外の脅威
同時刻に、もう一作投稿しています。
良ければそちらも読んでくださいね。
下記リンクからとべます。
その男を、人々は認めなかった。
勇者と共に立ち上がった四人。
彼もそのうちの一人。
天に告げられ、世界から選ばれた存在だった。
だが、人々は彼を認めない。
圧倒的な力を持ち、悪魔とも対等に渡り合えても。
相応しくないと、不釣り合いだと罵り、認めようとしなかった。
それでも彼は、人々を守るために戦った。
街を襲った悪魔を討ち滅ぼし、魔物の大群すら一人で退けた。
彼は何千、何万という人々を救った。
そうして彼は、英雄と呼ばれるようになった。
彼に助けられ、守られて、ようやく彼を認めたのだ。
同時に理解した。
なぜ最初、彼を認めなかったのか。
人々は彼を認めなかったのではなく、認めたくなかったのだ。
彼のジョブが、世間では不遇と呼ばれていたから。
彼の持つ才能が、あまりにも異端で、恐ろしいものだったから。
それでも彼は英雄となった。
否――英雄と呼ばせたのだ。
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最終日。
彼女たち三人でサザーク森林に足を踏み入れた。
そこにシオンの姿はない。
彼は一人、街に残っている。
「何か最終試験って感じだな」
「そうだね! 頑張らなくっちゃ!」
「うん」
ステラの言った通り、これは最終試験で間違いない。
指定されたクエスト三つを、自分たちの力だけで達成できるかどうか。
この二週間の指導、特訓の成果を見せるため、彼女たちは森を進む。
「トラップ見っけ!」
「よし! これで三か所目だね」
「さすがに場所は覚えたもんな~ フィー、薬草のほうは?」
ソフィーがエイド草の入ったカゴを見せる。
トラップを回りながら、エイド草を見つけては彼女が回収していた。
それと同時に、彼女はウルフの痕跡も探している。
「ウルフは?」
「たぶん、この辺にはいない」
ソフィーはぶんぶんと首を振って答えた。
その後もトラップをめぐり、最後の一つにたどり着く。
「これで五つ目だね」
「だな。薬草もバッチリだろ?」
「うん」
ソフィアはかごにたくさん入ったエイド草を見せる。
トラップの回収も終わり、残るクエストは一つ。
「ウルフだな!」
「うん。まず痕跡を探さないと」
「あっち」
ソフィアが指をさす。
二人の視線が一本の木に集まる。
よく見ると、木の一部が剥がれているのがわかった。
「この爪痕……ウルフだよな?」
「間違いないね。ウルフは縄張りを主張するために、こうやって目印を残す……ってシオンさんも前に言ってたから」
痕跡を見つけ、他にもないか探っていく。
足跡、毛、爪痕がないか見回す。
見つけたら次、さらに次と探っていき、群れの場所を突き止める。
「この先にいそうだね」
「うん」
「なんか楽勝だったな~」
「ちょっとステラ、気を抜いちゃ駄目だよ」
「わかってるって。シオンに怒られるのは嫌だしな」
そう言って、ステラは苦笑いした。
この二週間で、おそらく彼女が一番シオンに怒られている。
彼女は二週間を頭の中で振り返る。
「シオンってすごいよな~ 強化!とか言うだけで味方を強くできちゃうんだもん」
「そうだね。敵の動きを遅くしたりも出来るし」
「何でもあり」
「だよな~」
唐突に始まった会話が、ここで一旦会話が止まる。
三人の頭には、同じ言葉が浮かんでいた。
「でもさ? 付与術師ってあんま強くないって言われてるんだろ?」
「そうなんだよねぇ……何でなのかな?」
「さぁ? 終わったら直接聞いてみようぜ」
「……そうだね。今はこっちに集中しよう!」
「おう!」
その時、近くの茂みから音が聞こえる。
三人は瞬時に警戒を強め、音のした方向を見る。
すると――
「ぐっ……うぅ……」
現れたのは、血だらけの男性だった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「何があったんだよ!」
急いで三人が駆け寄る。
人を見て多少安心したのか、男性は木にもたれ掛かって足を止めた。
「君たちも……冒険者か?」
「はい!」
「ら、ランクは?」
「Fです」
ミルアの返答を聞いて、男性は絶望したような表情を見せる。
「F……駄目だ。君たちも早く逃げろ」
「な、どういうことだよ! 何があったんだ!?」
「奥から……と……」
「お、おい!」
ステラが叫ぶように問いかけると、男性は力なく倒れてしまう。
ギリギリの状態だったらしく、気力だけで立っていた。
慌てずミルアが脈を確認する。
「大丈夫、まだ生きてる」
「よ、良かった……応急手当だ!」
「準備した」
「さすがフィー、サンキュー!」
止血し、傷口には薬草から作った薬を塗る。
応急処置の仕方も、シオンから伝授されていた。
簡易的な処置だが、やるのとやらないのでは全然違ってくる。
処置が終わり、ステラが汗をぬぐう。
「一先ずこれで良いね」
「おう。後は――」
「キャアアアアアアアアアアア!」
これからどうするか。
話し出そうとした声を、遠くの叫び声がかき消した。
「何だよ今の!」
「悲鳴……女の人の声だったよ!」
「もしかしてこの人の仲間か? 何かに襲われてるとか……何なんだよもう!」
「冷静」
「わかってるよ。これでもあたしは冷静だ」
そう言って、ステラは深呼吸をした。
ソフィアには冷静と言いながら、落ち着いていなかったのが丸わかりだ。
一呼吸おいて、どうするかを考える。
「エイド草が生えてるし、ここって安全だよな?」
「たぶん、そうだと思う」
「だったら助けに――いや、あたしたちじゃ無理だ」
途中まで言いかけた言葉を、ステラは自分で否定した。
悲鳴を聞いて、助けたいと思ったのは彼女だけではない。
だが、同時にこうも思った。
こんなとき、シオンなら何て言うのか。
「シオンならきっと、自分の身を守れって言うと思う」
「私もそう思う」
「うん」
シオンの言葉を頭に浮かべる。
現実ではなく、彼女たちの頭で連想した言葉でしかない。
それでもやるべきことは定まった。
「街に戻ろう! まずこの人を助けなきゃ!」
「おう! あたしとミルアで担ぐから、フィーは先導して!」
「うん!」
そうして、彼女たちは動き出した。
彼女たちの判断は正しかったと、後にシオンも言うだろう。
だが、同時に運も悪かった。
なぜなら――
脅威はもう、すぐそこに迫っていたのだから。
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