11.グレーウルフ
同時刻に、もう一作準備してある新作を投稿予定です。
良ければそちらも読んでくださいね。
下記リンクからとべます。
タイトルは――
元剣帝、再び異世界に剣を向ける ~千年後の世界で貴族に転生したので、好き勝手やってたら家を追い出されました~
トラップ回収と薬草採取。
二つのクエストを順調にクリアした俺たちは、最後のクエストを達成するため移動していた。
「グレーウルフとは戦ったことあるかな?」
「あるぜ! 村にきた奴を皆で追い払ったんだ!」
ステラが元気よく答えた。
「皆って言うのは村の大人たち?」
「いえ、私たちだけです」
「へぇ~ それはすごいな」
「べっつにすごくないよ。あんなの一匹くらいあたしらなら余裕だったしな!」
ステラが自慢げにそう語った。
そうか、一匹だったのか。
おそらく群れから逸れた個体だったのだろう。
本来のウルフは、数匹で群れをつくり行動している。
単独で行動するのは、ブラックウルフという上位種だけだ。
「これから戦うのはウルフの群れだ。油断しないようにな」
「はい」
「というか全然いないけど……ホントにいるのか?」
「ちゃんといるよ。足元を見てみると良い」
「足元?」
ステラが視線を下げる。
すると、そこには足跡があった。
人間のものではなく、ウルフの足跡だ。
それも見てすぐわかるほどくっきりとついている。
「それとあっちの木には、ウルフの毛がついてるだろ?」
「本当だ」
めくれかけの木の皮についた毛に、ミルアも気づいて近づく。
「足跡からしてまだ新しい。この付近にウルフがいるのは確実だ」
そして足跡の数からして、この付近にいる群れは四匹くらいだろう。
ミルアは木についた毛を取り、じっと見つめている。
ステラが足跡を見つめて呟く。
「全然気づかなかった……」
「モンスターを探すなら、痕跡も追えるようにならないとな。中には頭の良いモンスターもいるし、テキトーに歩いてると、罠にかかったりするから」
「罠? そんなのあるのか?」
「つくるモンスターもいるぞ? 冒険者を続けていれば、いずれ出くわすだろうな」
さて、そろそろ警戒を強めるとしよう。
この足跡の主が近くにいるのか。
今のうちに確認しておいた方が安全だ。
「【空間知覚強化】、【索敵範囲強化】」
俺は自分に二つの効果を付与した。
これで俺は、周囲の地形や生き物の接近を感じ取ることが出来る。
範囲内にウルフの群れは感知できない。
「もう少し進んでみようか」
そう言って俺が先頭に立ち彼女たちが後に続く。
普段ならありえないことだ。
付与術師の俺が、パーティーを先導するなんてな。
ある意味新鮮な感じで、悪くはないけど。
しばらく進み、ピタリと立ち止まる。
俺たちが進んでいる先に、複数の気配が蠢いている。
ゆっくりと茂みに隠れながら近づいて……
「いたぞ」
「四匹ですね」
「ああ」
グレーウルフの群れが一本の木の下で休憩していた。
数は予想通り四匹。
「じゃあ作戦だけど、ウルフの習性は――」
「そんなのいらないって! ウルフくらい余裕で倒せるし」
「いや、今回は群れだぞ?」
「関係ないね。何匹だろうとちょっと凶暴な犬に負けるわけないもん。なっ?」
「え、で、でも……」
自信たっぷりのステラに対して、ミルアは困った表情を見せる。
ここはリーダーとしてビシッと判断してほしい所だが、どうやら難しそうだ。
仕方ない、ここは俺が折れるとしよう。
彼女たちの腕前を見る良い機会だ。
「わかった。君たちに任せよう」
「よっしゃ! じゃあフィー、最初に一発かましてよ」
「うん」
ステラに言われ、ソフィアが杖を構える。
彼女は魔法使いだ。
杖に魔力を込め、魔法陣を展開させる。
青白い魔法陣はウルフへ照準を合わせ、彼女の詠唱と共に放たれる。
「ライトニングボルト」
雷撃がウルフを襲う。
敵意を感知したウルフは、一瞬早く回避行動をとっていた。
それでも一匹には直撃し、倒すことが出来たようだ。
「いくぜ!」
「私も!」
ステラが槍を構えて飛び出し、少し遅れてミルアが出ていく。
さてさて、お手並み拝見だが……
彼女たちは、ちゃんと周りに気付いているのだろうか。
ウルフの習性を知っていれば、警戒するはずなんだけど。
「あたしがこっちの二匹やるから! ミルアはそっち頼むよ!」
「うん、わかった!」
役割分担は悪くない。
剣より槍のほうが、複数を相手にするには向いている。
それから、ステラの動きも良い感じだ。
槍さばきは我流でめちゃくちゃだけど、足さばきとスピードは才能を感じる。
剣士のミルアも、ウルフと上手く立ち回っている。
二人とも個人の動きとしては良い。
だからこそ、勿体ない。
「……」
隣でステラが杖をもって動かない。
いや、動けないというのが正しいだろう。
前衛で戦う二人を援護したいと思いながら、敵との距離が近すぎて手出しできない。
若干前のめりになっている姿勢が物語っている。
本当にもったいない。
上手く連携すれば、四匹程度なら一分もかからないだろうに。
そして、懸念した通りだ。
彼女たちは気付いていない。
「まず一匹!」
ステラがウルフの一匹を倒した。
それとほぼ同じタイミングで、ミルアがもう一匹を倒す。
残るは一匹、ステラは余裕の表情で槍を構える。
すぐに追撃しない慢心。
ウルフは吠える。
高々と、森へ響き渡るほど大きな声で。
「うるさいなー! 泣いてもこれで終わりだぜ!」
ステラが最後のウルフへ突っ込んでいく。
いや、この場合……最後という表現は間違いだ。
なぜなら――
「ステラ! 横!」
ウルフの遠吠えは、群れを呼ぶ合図なのだから。
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