公爵家
かなり期間を開けてしまいました!
第18話です!
エミリアside
「エミリア、時間からしてもうすぐアリス嬢は到着するはずだ。エミリアもヴァレンシュタイン公爵家の家紋を背負っている以上、マナーと礼儀はきちんと守れよ。」
「はい。もちろんですアル兄様。」
屋敷の大きな扉を前にして、使用人は私が初めてこの屋敷に来た時のように綺麗に並び、私とアル兄様も使用人に囲まれるようにしてならんだ。
「アリス・レティ・ドミナ様の御成です!」
「「ヴァレンシュタイン公爵家邸宅へようこそ
アリス・レティ・ドミナ様」」
アリス様をここまで案内したであろう使用人のひとりが凛とした声で言うと、綺麗に並んでいた使用人達が一斉に挨拶をし、綺麗にお辞儀をした。
「ヴァレンシュタイン公爵家の皆様、ご機嫌麗しゅうございます。私はドミナ公爵家の次女アリス・レティ・ドミナです。以後お見知りおきを」
使用人が頭をあげるのを見計らったようにアリス様の使用人に連れられながらアリス様が静かに扉を潜り屋敷内に入ってきて、いかにも模範的な挨拶をこなした。
けど、、、
(なんだか、、、元気がないような、、、?)
初対面の時の勢いの良さは何処へやら。
今私の目の前にいるアリス様は顔色も悪く、目の下にはクマができていた。
「アリス嬢、大丈夫か?勘違いなのならば申し訳ないのだが、体調が優れていないのではないか?」
「あ、いえ、、お気になさらず、、」
「アリス様、、、」
アル兄様が心配そうに声をかけるがアリス様は空返事だ。
私と目が合うと下を見るようにしてそらされてしまった。
やはりあれはアリス様がした事だったのだろうか。信じたくはないがそんな不穏な考えが脳裏を過った。
「応接室はこちらです。どうぞ」
メイド長のシルビアさんに案内してもらい応接室へと向かう。
(き、気まずい、、、)
この場にいる誰もが何も発しないため3人のあいだにはとても重苦しい雰囲気が流れていた。
「失礼致します」
アル兄様、私、アリス様の順に部屋に入った。
何度見てもアリス様の顔色は悪い。オマケに歩く際の重心移動がままならず、今にも倒れてしまいそうだ。しかし、礼儀作法は忘れないあたり、アリス様らしいと言えばらしいのか。
「では早速本題に入ろうか、、、。
手紙に書いていたように今回アリス嬢が仲良くしている令嬢らからアリス嬢が帰宅したあと我が妹エミリアは危害を加えられた。なにか心当たりはないか?」
アル兄様が本題である茶会のことを切り出した。するとアリス様は今まで悪かった顔色をさらに悪くさせ、肩をフルフルと震わせた。そして、私の前に跪いた。
「エミリアさん、本当にごめんなさい!全部…私が悪かったの…」
「…へ?」
アリス様の突然の告白に私もアル兄様も驚いた
「アリス嬢どういうことか…説明して貰えないか?」
「…はい。我がドミナ家はヴァレンシュタイン公爵閣下のヴァレンシュタイン家と同じく国に存在する4つの公爵家の中の一つでございます。
公爵家の娘が学園に入学する際には専属の従者、もしくは付き人を1人付ける必要がございます。エミリアさんに危害を加えた彼女たちは私の付き人候補の方々でした。」
「でしたって…アリス様、エルザ様達は今はもう候補では無いのですか?」
私が確かめるようにそう聞くとアリス様は顔を俯かせながら小さく頷いた。
「他のご令嬢、ましてや同じ立場のヴァレンシュタイン公爵家のご令嬢に危害を加えたんです。公爵令嬢の付き人なんか任せられるわけがありませんわ。」
「エルザ嬢達がアリス嬢の付き人候補だったと言うことはわかった。だか、なぜ彼女たちはエミリアに危害を加えた?アリス嬢が指示したのではないのか?」
「いいえ!そのようなことは断じてございません…。
先程もご説明した通り彼女たちは私の付き人候補でございました。今回の茶会で大方付き人が誰なのか、決まるはずでした。
しかし、私が彼女達の前でエミリアさんのことを褒めてしまったため、彼女たちは次の付き人は同じ公爵令嬢のエミリアさんになったのではと勘違いしたようです。
同じ公爵令嬢が付き人になることなんてありえないのに…。」
アリス様は肩を震わせ涙ぐみながらそういった。
自分のせいだと嘆き、噛み合わせられた唇からは血が滲んでいる。
「どうやらその言葉に嘘偽りはないようだな、、、
アリス嬢、貴方はもう少し自身の言動の重みを自覚するべきだ。ヴァレンシュタイン公爵家を敵に回したくないのであれば、もう少し公爵令嬢としての自覚を持て。」
「…はい。申し訳ありませんでした…。今後はこのようなことがないように致します。」
アリス様は涙を流しながら跪いた。
「アリス様、もう十分です!どうかお立ち下さい!アリス様が意図したことではないようですし、何より私はもう平気なので」
「で、でも…私は同じ公爵令嬢の貴方に傷を与える原因となってしまったわ…。
仲良くなりたかったのに…。色々教えたかったのに…。」
あのアリス様が私にそんなことを思っていてくれたなんて思いもしなかった。今思えば初対面の時の叱責は私が今後恥をかかないためにと私のことを思い怒ってくれたのだろう。
アリス様の気持ちを聞き、私の心はじんわりと温かくなった。
「アリス様。お友達なら今からでもなれますわ。こんな所におすわりにならないで、私に色々と教えて頂けますか?」
アリス様は私の顔を見てまた泣き出した。
「本当にいいのですか?私みたいな人とお友達になってくれますか?」
「ええ、もちろん!」
「っ…ありがとうエミリア様!」
「うわっ!」
アリス様は目に涙を貯めると込み上げてくるものがあったのか私にひしと抱きついてきた。
こうしてみるとアリス様が妹のように思えてなんだか可愛く感じた。
「これからよろしくお願いしますね!エミリア様!」
「お友達なのに敬語はやめてよ。それに私のことはエミィって呼んでもらえる?昔からお友達にはそう言われてたの!」
「ええ!もちろんよエミィ!ありがとう…」
「うん。よろしくねアリス…」
「あー…感傷にひたってる所悪いが少しいいか?」
私とアリスの友情物語に押されて完全に蚊帳の外だったアル兄様が気まずそうに話しかけてきた
「アリス嬢には本当に悪意はなさそうだから、和解したのなら今回は不問にしよう。
アリス嬢、これからエミリアと仲良くしてやってくれ。
こいつはまだ上級貴族社会に入ったばかりだからろくに友人もいないんだ。アリス嬢が近くにいてくれると非常に助かる。」
「もちろんですアレン様。その寛大なお心に感謝致します。
エミィ、よろしくね!」
アリス様はアル兄様に深々とお辞儀をしたあと私の方に向き直りニコリと微笑んだ。アリスの微笑みは薔薇のような気品と可愛らしさを兼ね備えた笑みで思わず見とれてしまうほどだった。
「要件はこれで終わりだ。アリス嬢長い間引き止めてしまってすまなかったな。もう日が暮れそうだ。直ぐに屋敷に帰らないと、ドミナ公爵が心配されるだろう。」
「そうですわね。ここにもあまり長居してしまうとここの使用人の方々の迷惑になってしまいますし、今日はこの辺でおいとまさせてもらいますわね。」
「アリス!またね!!」
「ええ!エミィ、今度は是非私の屋敷にいらっしゃってね」
アリスはニコニコと笑いながら私に手を振り帰っていった。
この屋敷に来た当初と比べると嘘みたいな変わりようだ。
元気になって本当に良かった。
「エミリア、俺達ももうじき夕食だ。直接食堂まで向かうか」
「はい!」
私はアル兄様が差し出した手をしっかりと握った。
(初めて友達が出来た…!しかもアリスみたいな可愛い子とお友達になれた!嬉しすぎる…!)
「ん?なんだエミリアあからさまに頬を緩めて、俺と手を繋ぐのがそんなに嬉しかったのか?」
「なっ!違います!なんでもありません!」
嬉しすぎてつい顔に出てしまっていたようだ。次からは気をつけないと…
アル兄様はそんな私を見て何を思ったのか頭をポンポンとした。
「あ、アル兄様!髪が崩れてしまいます!」
「ん?あぁ…ごめん。とにかく食堂だ食堂!」
なんで急に私の頭を撫でたのかは分からないがアル兄様はなんだか嬉しそうだった。
(まあ、いっか…)
私はアル兄様と食堂へと向かっていった。