兄妹の誓い
エミリアside
「本当にすまなかった。エミリア」
アル兄様は私が応接室の椅子に座ったのを確認した途端経ったまま私に頭を下げた。
もう大丈夫だと言ったのに、責任感が強すぎるのではないだろうか。
「もう大丈夫です!
それにアルお兄様が駆けつけてくださらなければ私は今頃さらに大きな火傷をおっていたに違いありません。
むしろ感謝したいくらいです」
私はそう言ってアル兄様に頭をあげるように促した。しかし、アル兄様は一向に頭をあげようとせずにさらに畳みかけた。
「いや。エミリアが俺を許そうと、俺が俺自身を許せない。
自分の妹1人守れずに何が時期公爵家当主だ。」
「アル兄様、、、。」
なんとか頭を上げたあともアル兄様は私の前に突っ立ったまま、ブツブツと何かを呟いている。
「あの、アル兄様とりあえず今回の件に関して私が細かく話しますから、この件の処理をしましょう?
アル兄様、ご自分を責められるのは、、、」
「よし。決めた」
「え?」
私がアル兄様に話しかけていると急に話をさえぎってアル兄様が声を出した。
「決めたって、、何を決めたのですか?」
私がアル兄様にそう聞くとアル兄様は私の目をじっと見て、
急に目の前で跪いた。
「な、何をしているのですか?!
公爵家の次期当主であるアル兄様が私に跪くなんて!辞めて下さい!アル兄様!」
私はそう言って私が座っている椅子から立ち上がり逃げようとした。この状況が事情を知らない使用人の皆さんに見られたらなんと誤解されるか分からなかったからだ。
しかし、逃げようとする私の手をアル兄様は跪いたまま掴んだ。
「なっ、、、」
「エミリア、俺はこれからエミリアが一人前の貴族令嬢になるまでお前の剣となり盾となる。もう誰もエミリアには触れさせない。俺がお前を守ってみせる。」
「え、、、と、、、?」
私が何も言えずに呆気に取られているとアル兄様は私の手を取り手の甲にそっと口付けをした。
「っ?!」
動揺している私にはお構い無しにアル兄様は私の手を離し、立ち上がると真っ直ぐに私の目を見つめてきた。
「よし。確かに誓ったからな。エミリアが1人前の貴族令嬢となり、誰からも危害を加えられなくなるまで、俺がエミリアを守る。」
そう言ってアル兄様は静かに微笑んだ。
「守るって、、、。アル兄様、私はそんなに何度も襲われたりしませんよ。それにその言葉はアル兄様の未来の奥様に取っておくべきです。」
私が慌ててそう言うとアル兄様も自分がしでかしたことの恥ずかしさを自覚したのだろう。一気に顔を赤らめてサッと私から顔を逸らしてしまった。
「っ!とにかくだ。誓ったんだからエミリアもオレの誓いを受け入れろ!」
「ふふっ。恥ずかしがるなら初めからしなければいいのに、、。」
「うるさいっ!」
アル兄様は未だに頬を赤らめている。さすがにこのままからかうのは可哀想なので、諦めて誓を受け入れることにした。
「エミリア・ラ・ヴァレンシュタインはアレン・ラ・ヴァレンシュタインの誓いを受けいれます。」
私はそう言ってアル兄様に軽くお辞儀をした。
「この誓いは本で読んだ王家の騎士の誓いのようですね。もしかして公爵家の跡取りであるアル兄様は実際にご覧になられたことがあるのですか?」
「ん?あぁ、、俺みたいな高位貴族の跡取りは一年に一度ある騎士の誓いの儀式には参列する義務があるんだ。
まあ今のは騎士の誓いじゃないな。強いて言うなら俺とエミリアの兄妹の誓いだな。」
「兄妹の誓いですか、、なんだか格好いいですね。」
「エミリアが気に入ったのならそれでいいさ。あぁ、、それよりも、、」
アル兄様は急に微笑んでいた顔を曇らせ、私を睨みつけてきた。
「えと、、あのわたしの顔になにかついていますか?」
「その誰にでもほほ笑みかけるのをやめろ。
誰にでも優しくするのはいい事だが、公爵家の地位を狙うものにとってはお前は格好の餌だ。そのヘラヘラとした態度では俺がお前を守っても周りのお前に対する扱いはいつまで経っても舐められたままだ。」
「そんな、、、ではどうすればいいのですか?」
私がそう聞くとアル兄様は待っていたと言わんばかりにビシッと私の顔をさして不敵に笑った。
「簡単だ。公では一切無表情を貫くんだ。お前は顔立ちだけはいいから無表情でいれば本当に怖く見える。怖く見えるってことはそれだけ威厳もでるし迫力も増す。」
「それ貶してますよね?!私怖く見られたくないです!」
「とやかく言うな。守ってやる俺の気持ちも考えてくれ。
お前がヘラヘラしてそれに寄ってくるふしだらな男共や悪どい貴族共を追い払うのは俺なんだからな。」
「うぅ、、わ、分かりました、、、。」
アル兄様にそこまで言われては私は何も言えなくなってしまった。
諦めて了承した私にアル兄様は満足気なようだった。
しかし、この公では無表情を貫く。というよく分からない決まりのせいで後に私は「氷の令嬢」と呼ばれてしまうようになるのだった。