洗礼
だいぶん期間が開きました。
シリーズ第11作目です!
「エミリア様、こちらですわ。」
私はアリス様の後をついて行き、大きな噴水がある中庭にいた。
中庭には色とりどりのドレスを着た令嬢らしき人物がアリス様を除いて4人いた。
(なんだか目がチカチカする、、、)
黒、青、黄、緑と見事に全員が違う色のドレスを着ているので見ているだけでも色の情報量が多すぎてめがいたくなりそうだった。
「初めまして。私はエミリア・ラ・ヴァレンシュタインと申します。お初にお目にかかれましたこと、大変嬉しく思います。」
私は4人の令嬢とアリス様の前に立つとなるべく丁寧に挨拶をした。
さっきのアリス様みたいに舐められたくないし。
「エミリア様。この4人は私が紹介致しますわ。
一番右の黒いドレスを着ているこの方はエルザ・ピュルテ、
その隣のダークブルーのドレスを着ている方がミラ・ケトラ、
次の黄色のドレスを着ている方はエリーゼ・フォンタンス、
最後に一番左のグリーンのドレスを着ているのは
シェリア・カータリオス。
この4人は家柄は侯爵家と伯爵家だけど、私の幼なじみよ。
4人がどうしてもエミリア様を、一目見たいと仰るものだから
来てもらったの。」
アリス様が並んでいた4人の令嬢の紹介を私にすると令嬢達は一人一人私に向かって優雅に礼をしてくれた。
互いの挨拶を終えるとそれから付近のティーテーブルに移動してたわいない会話を楽しんだ。
その会話の内容はヴァレンシュタイン公爵家のことから巷のファッションの流行までと幅広い内容だった。
「アリスお嬢様。旦那様から急用のご連絡でございます。
直ちに御屋敷にお戻りください。」
私たち6人がたわいない会話を楽しんでいるとアリス様の使用人らしき人物がアリス様にそう言った。
「あら、、、分かりました。貴方達、申し訳ないのですが私事の用事が出来てしまったようですので、失礼させてもらいますわね」
アリス様はそう言って私達5人に微笑むとくるりと踵を返して使用人と共にお茶会の会場の正門まで歩いて行ってしまった。
(歩くだけでも綺麗なんだ、、、)
本来貴族の令嬢はああるべきなのだ。特に私みたいな公爵家の貴族は。
(ほんとに私、何もかも出来てないんだ、、、。)
今日の自分とアリス様の立ち振る舞いを比べるとどうしてもため息が出てしまう。
「あの、、エミリア様。聞いていらっしゃいますか?」
「え?えぇ!はい!」
私が慌てて振り向くと少し呆れた顔をした4人の令嬢がいた。
「まったく、、、これで公爵家のご令嬢が務まるのかしら?」
「というか、、本当にエミリア様はヴァレンシュタイン公爵家の御息女なのかしら?ヴァレンシュタイン公爵家の特徴である輝かしい金髪では無いようだけど?」
「え、、あの?」
何やら嫌な雰囲気が醸し出された。先程アリス様がいた時はこんなにいやらしい笑みを浮かべる令嬢ではなかったはずだ。
「そもそも、、少しばかり顔がいいからってらアレン様のエスコートを受けるだけでなく王太子殿下に直接ご挨拶をしてもらうだなんて、、、」
「な、何が言いたいのでしょうか?」
私が慌てて口にすると4人の令嬢達は顔を見合わせてニコリと不敵に微笑んだ。
その笑みを見た瞬間ゾクリと来た。
悪寒が走るとはこのことだろう。
「貴方、、、公爵家の令嬢には相応しくないんじゃなくて?」
「なっ、、!」
黒いドレスを身にまとったエルザ様はそう私に言い放つと
ドンッと私の胸を押した。
おかげで私は近くにあった噴水におしりからダイブしてしまった。
「公爵令嬢もどきのあなたはそうして水を被っているのがお似合いですわ」
「そうよ!それにあなたみたいな貧相な人がアリス様に馴れ馴れしくしてるんじゃないわよ」
エルザ様が噴水に落ちた私を見てほくそ笑んでいると続けて
ミラ様とエリーゼ様が口々に私に罵詈雑言を浴びせた。
令嬢たちの言い方からしてどうやら私がアリス様と一緒にいることが頭にきたようだ。
「さ、寒いです、、、」
私はあまりに急なことが起きたため、まともに頭が回らず的外れたことを口にした。
私の言葉を聞いたエルザ様はティーテーブルから私が飲みかけた紅茶を手に取ると私を見下しながら鼻で笑った。
(なんか、、嫌な予感がする、、、)
「そんなに寒いなら、、温めてあげるわよっ!」
私が思った通り、エルザ様は私が火傷することもお構い無しに熱々の紅茶を私に容赦なくかけてきた。
「あぁぁぁ」
柄にもなく大きな声が出る。紅茶をもろに受けた右腕が焼けるように熱い。そしてとにかく苦しい。
(やっぱり、、私に公爵家の令嬢なんて、、無理なのかな、、)
「まだ寒いかしら?安心して、お代わりはまだまだあるわよ」
エルザ様は今度はティーカップではなくティーポットに入った熱湯を私に注いだ。
エルザ様は私の顔を狙って熱湯を注いだが顔は貴族の娘にとっては命よりも大事なもの。私は自分の顔を自分の右腕でかばいながら必死に耐えた。
立とうとしても顔をかばった右腕が痛すぎて体に力が入らなかった。
「エミリア様。今度はもっと熱い紅茶を用意しましたわ。
先程沸かしたばかりですわよ、、」
「、、、っ!」
エルザ様はまた私に熱湯を注いだ。
私は咄嗟に右腕を顔の前にやって熱湯を受けようとした。
しかし、何故か私は全く暑さを感じなかった。
(あれ、、熱くない、、、?)
必死につぶっていた目を開けると目の前には黒いタキシードを着た男性の背中があった。
「ご令嬢方、、、私の妹に何をなされているのですか?」
「アル兄様?!」
目の前にある男性の背中はアル兄様のものだった。
アル兄様は私を庇ってもろに熱湯をくらったのか熱湯が当たったらしいところから湯気が出ていた。
「エミリア、、すまない。王太子殿下との話が長引いて、、、辛かっただろう、、、」
アル兄様は私の方を振り向くと何故か悲しそうに微笑んだ。
(アル兄様、、、?)
「こ、、、これはアレン様!ご機嫌麗しゅうございます。」
エルザ様は手に持っていたティーポットを慌てて使用人に押し付けると何もしていないと言いたげな表情でアル兄様に礼をした。
「エルザ嬢、しらばっくれるな。この妹の火傷はエルザ嬢達が作ったものとみて、、間違いないな?」
私からは見えなかったがアル兄様の口調は家にいた時と違ってあからさまな殺気を含んでいた。
「ひっ、、」
対するエルザ様はさっきの威勢はどこへやら。すっかりアル兄様の殺気に当てられて腰を抜かしていた。
アル兄様は「立てるか?」と私を助け起こし、私の腰に腕を回すと座り込んでいるエルザ様とその他の3人の令嬢を冷ややかな目線で見下し深いため息をついた。
「エルザ・ピュルテ、ミラ・ケトラ、エリーゼ・フォンタンス、
シェリア・カータリオス。お前たち4人は我らヴァレンシュタイン公爵家の長女、エミリア・ラ・ヴァレンシュタインを噴水に突き落とすだけでは飽きたらず、あろうことか熱湯をかけるという愚行をした。その行いはヴァレンシュタイン公爵家を愚弄するものだ。」
「な、何を、、、」
アル兄様は私の腰に腕を回したままつらつらと口にした。
エルザ様は何をするのかと立ち上がるアル兄様を見て怯えている
「ヴァレンシュタイン公爵家はお前たちの一族を貴族として不適切な教育を娘に施したとして爵位を繰り下げるように王に進言する。」
「なっ、、、、!そんなこと、たとえ公爵家でもできるはずがございませんわ!我らピュルテ侯爵家は侯爵の中でも最も力が強く、財政力は下っ端の公爵家と同等、、いえ、それ以上ですのよ!」
エルザ様はアル兄様に思い切り食ってかかった。
そりゃそうだろう。自分がした行動によって自分の家の爵位が下がるなんてそんなの自分の一族が自分を許してくれるわけがない。
勘当だけでは済まされないだろう。
「やはり、、、これだから政に興味を示さない令嬢は困る、、
阿呆ばかりで頭が痛くなりそうだ、、」
アル兄様はそういうと私の腰に回していない方の手を額に当てやれやれといったジェスチャーをした。
「何をおっしゃりたいの?!」
アル兄様はエルザ様を一瞥すると私を方を見てニコリとほほえんだ。
「え、、、アル兄様、何か?」
「エミリア。何故我々ヴァレンシュタイン公爵家が公爵家の中でも名門公爵家と言われているか、分かるか?」
「そ、それは我が公爵家が国で1番大規模な騎士団を所有しているからです」
有名な話だ。政は王家、財はアリス様のドミナ家、そして軍事はヴァレンシュタイン家。昔からの決まりのようなものだった。貴族ならば誰でも知っていると思っていたけど、、どうやらエルザ様らはその事をあまり熟知していなかったらしい。
私が答えるとアル兄様は「正解だ」と言いわたしににこりと微笑みかけた。
アル兄様のような美形に微笑まれるとついドキリとしてしまう。
「エルザ嬢、、これでもう分かるだろう?国にとって我々ヴァレンシュタイン公爵家を敵に回すことはとてつもない痛手なんだ。なんせ国の軍事力の3分の1以上を我が公爵家が担っているからね。だから、、ある程度の我々の"お願い"は王はなんでも聞いてくれるんだ、、、」
アル兄様がそう言うとエルザ様を含む4人の令嬢たちの顔がサッと青白くなっていく。
「あ、アレン様、、、どうかお許しを、、、」
アル兄様には叶わないと悟ったのか先程まで私に熱湯をかけていた令嬢達はアル兄様の近くに行くとまるで縋り付くように涙を流して懇願していた。
「アル兄様、もういいです。元々は私が公爵家の令嬢として
力不足だったのが原因なんですから」
「エミリア、、、いいのか?やろうと思えばこの令嬢達の爵位を奪うことも可能なんだぞ?」
確かに私は彼女たちのせいで痛い思いをした。
本当はとっても憎い。けど、、
ここで家の力に頼っていては私はいつまでもヴァレンシュタイン公爵家という肩書きに守られるだけの存在からは抜け出せない。それだけは絶対に嫌だった。
「アル兄様、これは私の問題です。助けてくださったのはありがたいですが、そこまでして欲しいとは思っておりません。」
「、、、、、、、わかった。ご令嬢方、先程の愚行はエミリアに免じて不問とする。しかし、次また何か妹にした時は、、、分かってるな?」
「ひっ!わ、、かり、、ました。エルザ・ピュルテ。この家名に誓って二度とエミリア様には近づき、、ませ、、ん。
し、失礼いたしましたぁ!」
エルザ様とそのほかの令嬢達4人は次々とアル兄様と私にお辞儀をすると足早にお茶会の会場をあとにした。
「あ、アル兄様、助けてくださりありがとうございました、、。」
「いや、さっきのはエミリアを1人にさせた俺の失態だ。エミリア、すまない。君を守ることが出来なくて、、、」
アル兄様はすまなさそうに目を伏せると私の右腕の方に手をやった。
「エミリア、、その火傷、、、大丈夫か?」
「あ、、はい。まだ多少ヒリヒリとしますが初めよりは痛くはないです。後で医者に見てもらうのでもう大丈夫です」
「、、、そうか。エミリア。今日はもう帰ろう。
怪我が悪化してしまったら後々困る。」
「分かりました、、。キース様にお別れのご挨拶が出来なくて残念ですが、、」
私がキース様の、名前を出すとアル兄様はギョッとした顔になり、すごい剣幕で私の両肩を掴んだ。
「えと、、アル兄様?」
「エミリア、、王太子殿下には、、、キースには気を許すな。」
「へ?」
アル兄様は私の肩を話すと私の腕をむんずと掴みエスコートとは言い難いような荒っぽい歩き方で私を馬車へと引っ張っていく。
「ちょ!アル兄様!急になんなんですか!」
「いいから!ほらもう我が家の馬車が正門の前で待機しているからさっさと行くぞ!」
アル兄様と私はそうして私たちを横目に見ている令嬢や使用人を避けながら真っ直ぐに私たちが乗る馬車へと向かった。
最後まで見ていただきありがとうございました!
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