憂鬱
憂鬱でたまらなくて遠くに逃げ出したくなるとき、僕は本当がどこにも逃げ出せないと言うことを知っている。ーーーいくら遠くに行っても、僕は僕から逃げ出すことはできないということを。雨、雨の土曜日の夕刻、空はただ薄暗い。あぁ、憂鬱よ!お前は天への畏怖も、大地への敬意も、死への恐怖も、生への渇望も薄らいだ現代、人間に残された唯一の、人間を人間たらしめるものだというのか!この身体の中から滲み澱む、僕を自己嫌悪へ落とし入れるものが!古来、幾人もの偉人が憂鬱から、或いは自分自身から逃げ出すために自ら命を絶ったがーーー僕にはそれさえ憂鬱から逃げ出す手段に思えない。不具合を起こした機械の電源を切ることで安心することなどとうていできまい。
結局僕にはどうすることもできないのだ。まだ雨は止まず、僕の憂鬱も消えない。ならば僕は、身体を失ったかわりに何もかもを手に入れ、延長されたわずかな快楽を舐めることしかできないこの現代で燻る、この憂鬱を、そう、この憂鬱という素晴らしいやつを甘んじて受け入れようじゃないか!
ーーーきっとその思想さえ、この憂鬱の中に飲み込まれるとしても。




