九十九
「自在に武器を作ることができる」
と、ジャッキーは言った。
「言い替えれば、それは、様々な武器を使いこなすことができる、ということね」
「なるほど」と、オイゲンはうなずいた。
ダガーとラウンドシールドを渡された女子(顔と戦闘服が同じなので、外見による判別はできないが、ここでは筆者の神的権限を行使して、ルチルと特定)は、剣先をオイゲンの鼻先に向け、すばやく突き刺す攻撃を繰り出した。
オイゲンは後退しながら、ソツのない動作で攻撃を交わした。
すぐに、ルチルの反復攻撃がオイゲンを襲うが、かすり傷一つ着くことなく、すべての攻撃を完璧に交わし、最後は大きく後ろに跳躍して、間合いを確保し、『牙獣』の先端を、ダガーナイフの剣先に当て、相手の動きを封じた。
「俊敏な初動攻撃と評価したいが、キミたちのねらいは読んであげてたよ」
オイゲンは笑みと共に、ルチルの背後に視線を向けた。
そのタイミングに合わせるように、ドーンと大きな爆発音が轟き、強烈な爆風がルチルの背中から襲ってきた。
この爆発を予測できていた者たちは、冷静に爆圧によるダメージを回避でき、そうでない者は、容赦なく吹き飛ばされた。
前衛に位置していたルチルともう一人(神的権限をもってジェダイトと特定)は、足の底が浮き上がろうとするのを何とか踏み止まることができたが、爆心に近い位置にいた武器の製造担当2人は、大きく吹き飛ばされ、一人(ラズライトと特定。蓄積型)は、5メートル先の堀に着水。
もう一人(クリソと特定。加工担当)は、誰が見ても明らかで、ごまかしのしようのない尻もちをついていた。
長めのホイッスル。
審査員がドーム内に入場し、敗退した選手の救助を始めた。
しばしの試合停止。
「今まで、一番早い成果を出してあげられたね。
試合開始10秒以内に、2人を討伐できた」
オイゲンの挑発的な発言に対して、ルチルは、フンと鼻を鳴らした。
「あなた方は計画的と言いたいのでしょうが、こちらも想定済み。
あの二人は、攻撃能力がゼロに等しいから、最初の武器供給しかできないだろう、と思ってたわ」
ルチルの隣にジェダイトが並んで立ち、ラズライトから受け取ったMEの塊を、器用にマシンガンのような形に作り上げていた。
「加工は自分たちでもできるのよ。
役割を分けていたのは、供給速度を上げるため」
「それは、つまり」と、オイゲンが続いた。
「キミたち2人だけで、我々4人を相手にしてあげるのも、想定内だと言ってあげたいわけだね」
「それは、まあ……」
ルチルの目が、あちこちに落ち着きなく動き回り始めた。
ジェダイトも、同じ状況に。
同じ顔と同じ戦闘服、扱い武器が異なっているからかろうじて区別が付くが、武器まで同じだったら、全く区別が付かなさそうだ。
「今までは、それでうまく行ってたのよ」
ルチルは、何となく自信なさげに言った。
「でも、どうなんだろうね……今の状況って……」
「そうそう……『強天使』は強いから……」
二人は、そわそわし始めた。
オイゲンは、あきれ顔で、それを眺めている。
「侮れないわ、あの娘たち……」
ジャッキーのつぶやきだが、耳に入った真樹が近づいてきた。
「ジャッキーさん、あの子たちが、どうかしたんですか?」
「あの娘たち、感情が見えないのよ。
気弱な素振りを見せてるけど、恐怖とか、怯えとか、全く感じられないわ。
オイゲンに、油断大敵だと伝えた方が良いかも」
「それなら大丈夫」と、真樹は言った。
その自信に、ジャッキーは、きょとんとした顔を見せた。
「いもうとが、だんなのそばにいます。
あれは、正確な『予測』ができます。
あれに、奇襲攻撃は通用しません。
それに、だんなも、奇襲攻撃には用心しています」
はっきりと言い切った真樹に対して、ジャッキーは笑顔を見せる。
「信頼できる家族か……
私の杞憂ね。
私は、私の役割を、きちんと果たすことに専念するわ」
長めのホイッスル。
試合再開を告げた。
待ってましたと言わんばかりに、ジェダイトがマシンガンの引き金状の発射スイッチに指をかけ、わずかな躊躇も見せずに、連発をし始めた。
前方にルチルがいるにも関わらず、むしろ彼女の背中を撃ち抜くように、大量の『光弾』の幕が、場内にいるすべての者に襲いかかった。
まさに、無差別の奇襲攻撃だった。
攻撃の『意志』は、当然にルチルを透過し、『強天使』のメンバーに向けられていた。
ルチルは、何事もなかったような様子を見せる。
むしろ、ルチルの正面に位置していたことで、その背後にいたジェダイトからの攻撃行動に対する認識が遅れたオイゲンをフォローする体制が『強天使』側に求められていた。
対して、『強天使』側のフォローは二つ。
その一つは、ジャッキーの『魔界』による視覚情報の操作である。
ルチルとジェダイトが意識する位置情報は、実際より50センチほど左にずらされていた。
この幻惑操作によって、ジェダイトが発射した『光弾』の大半は、見当違いの方向へ飛んでいった。
そして、ミキミキの『回転球』による防御があった。
『永久凍土』との対戦で見せた『回転球』を扇状に、同時に8発投擲する『魚雷撃沈』が発射されていた。
カチカチに凍った『回転球』は、魔球のように曲線を描きながら変化し、オイゲンの前方に回りこむように流れ、その内の4球は、ルチルを透過してオイゲンに迫っていた弾幕を最良のタイミングで全てを阻止した。
残りの4球は、ルチルの背後に回り、ジェダイトへの遠隔攻撃となっていた。
ジェダイトは、第2局の周期を、『回転球』に対する防御と切り替えざるをえなかった。
ジェダイトの防御行動は、主に『光弾』の弾幕による攻撃物への撃ち返しだが、強意志によって固く凍結した『回転球』を阻止するのは困難と思えた。
だか、ジェダイトには、その行動を取る以外の選択肢が思い当たらなかった。
幾何学的にきれいなカーブを描きながら、4つの『回転球』は、正確にジェダイトを交点としていた。
ジェダイトは、ありったけの弾幕で、『回転球』を食い止めた。
その達成感も束の間、真樹の接近を許していた。
真樹は、左手のククリナイフを頭上まで挙げ、その落下力を活かした斬撃をジェダイトの右腕に試みた。
その早さは、回避の機会をもすでに奪っており、ジェダイトは、率直に「休むヒマも無い」と思った。
ジェダイトの右腕は、新鮮な切り口を作り、鮮血と共に、ドサリと床に落ちた。




