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レモンティーン  作者: 守山みかん


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八十七

アド・ブルは小さな体を大きく震わせて、遠ざかってしまったパーシャ・ミシュレに対して敵対心を表現した。

「全体を見てあげなくてはいけないよ」と、オイゲンは助言する。

「一人に集中し過ぎてあげると、死角を生んであげてしまうからね」

オイゲンの助言は適切だった。

事実として、アドにはパーシャの動きしか見えていなかった。

バリアでパーシャへの攻撃を防いだアルトゥール以外の二人がおとなしく戦闘場面を眺めていただけではない。

パーシャに続いて、全員でアドに対して集中攻撃を仕掛けていたのだ。

それを、キーラ・セリューニナは段 深緑が、リディア・クラノヴァはミキミキが進行を塞ぎ、攻撃を阻止していた。

「一斉に私をやっつける作戦だったのね」

アドは、幾分か冷静さを取り戻した。

「みんなに守られてたんだ……」

「敵陣は、なぜ最初の攻撃対象にキミを選んだのか、それはわかってあげてるかな?」

オイゲンが尋ねる。

「私は小さいから……弱そうに見えたのよ」

アドは、少し投げやりに言った。

「どこからでも、一瞬にして致死レベルの攻撃をしてあげられるキミを真っ先に倒したかったのさ」

オイゲンは、優しげな笑みを載せて、さらりと言った。

「作戦としては良かったんだけど、しくじってくれたからね。つまり、敵陣は作戦の立て直しを迫られてる。残念な状況を、ボクたちが作ってあげたのさ」

「相手が立て直すのを待ってあげるほど、こちらはお人好しやないで」

段は、二発目の攻撃を仕掛けるため、ピンクボールの加熱を始めた。

ミキミキは、すでに臨界済みのスピンボールをアルトゥールに向けて投げつけていた。

アルトゥールはタイミング良くバリアを張り、爆発から免れた。

「攻撃回避のタイミングがうまいね。アルトゥールは、おそらく『予測(プレディク)』の使い手だ」

オイゲンが感心する。

「『予測』の使い手なら、こちらにも二人いるで。な、ミキミキ」

「きゃはあ」

ミキミキは、にっこりと微笑んで、さらにアルトゥールに向けて二発のスピンボールを投げつけた。

アルトゥールは、やはりタイミング良くバリアを張って、攻撃を避けた。

「性質が見えたで。無敵のバリアを出せるのは一瞬や。断続的な攻撃で、あいつは倒せる」

「私たちの守護神よ。簡単にさせると思う?」

段のそばにいたキーラが、顔を見上げていた。

彼女の身長は147センチくらいで、アドよりは少し高い。

右手には、MEをたっぷり含んで、まぶしいくらいの輝きを見せている鋼鉄製のボクシンググローブのような武器を着け、段に向かって飛び上がり、下から突き上げるようなアッパーを繰り出した。

段は、ほんの少し仰け反り、顎への直撃を避けた。

「そんなんまともに食らったら、せっかく美少女に生まれたんが台無しになるやんか」

段の両手はピンクボールを持ったままで、仰け反りをさらに深めた背筋の戻りを利用し、キーラに向けて振り下ろした。

キーラは、後ろに飛び退いて、そのカウンター攻撃を避けた。

「それで良いわ。相手の攻撃を受け止めてはダメよ」と、パーシャがキーラに向かって言った。

「『意志』では、絶対にこちらがかなう相手じゃない。第一ピリオドのラスカーの判断は正しいわ。私たちは挑戦者の立場。油断したら、あっという間に『横取り(シーブ)』されるわよ」

「はい、お姉様」

キーラは聞き分けの良い子供のように、素直にうなずいた。

段は、キーラとの距離が離れないように前に歩み出た。

「これも覚えときや。ウチを相手にしてる時に、よそ見は厳禁やと」

言い終えた直後に、段の持っていたピンクボールが爆発を起こした。

「段さん、ボールを持ったままで……めちゃくちゃ過ぎます……」

驚いたのは、控室で観戦していたレナだった。

無謀とも思える攻撃だが、段が自分が起こした爆発でダメージを受けるようなドジはしていなかった。

段には、爆熱や爆風の向き、威力をコントロールでき、自分に向かって攻撃が行かないようにしていた。

つまり、段の真後ろに立てば、彼女の派手な攻撃から回避できるのだ。

もちろん、そのような弱点(ウイークポイント)が存在していることなど、段には承知の上だった。

その位置に、アドを立たせ、死角への敵の侵入を阻止する編成(フォーメーション)としている。

爆心が自分の位置とイコールならば、自分に近づいた者は、爆発に巻きこまれ、吹き飛ばされるはずが、キーラは相変わらず段のすぐそばで、戦闘姿勢をくずしていなかった。

「ミキミキ、ちゃんとヤれたか?」

段は、目前のキーラを警戒しながら、左横に並んで立つ、ミキミキに尋ねた。

「きゃはあ」と、ミキミキは笑顔をくずさず、頭を左右に振った。

「段ちゃんの爆発をバリアで防がれた直後に、スピンボールをアルトゥールさんに投げたのですわん。でも、それも防がれました。おわり。とほほう」

「何でや? ウチの見立てがスカやったんか?」

「それは、つまり、こういうことだわ」

アドが説明するより早く、リディアに向けて落雷を仕かけた。

一瞬の行動だったが、リディアは自らの頭上にバリアを張り、アドの攻撃から免れていた。

アルトゥールは防ぎ切れずに、一部の落雷攻撃を許してしまっていたが、リディアは、攻撃を完璧に防いでいた。

「勘違いしないでね」と、リディアは落ち着き払った口調で言った。

「アルトゥール兄さんは守れる範囲が広いの。私は、狭い範囲に集中して守りを強固にしたから、アドさんの落雷攻撃を防げたの。アルトゥール兄さんが弱いわけじゃないのよ」

「守護神が二人か……」

オイゲンは、息をのんだ。

「シンプルだが、手強いチーム編成だ……こちらの自慢の攻撃力が半減されてあげてる……永久凍土(パーマフロスト)……やはり、一筋縄ではいかないね……」

段も、弱気になったわけではないが、オイゲンと同様、対戦相手に手強さを感じずにはいられなかった。


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